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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第80話 幼女、予定を決める

 時間はブラゴが獣人からの報告を受けるよりも若干遡る。

 獣人の男が這々の体で逃げている時、ドルディアの隊を殲滅させたベラドンナ傭兵団は鉄機兵マキーニ鉄機兵用輸送車キャリアへと収納し、今は戦闘後の処理へと入っていた。


「なるほどね。逃がしたってぇわけかい?」


 そして鉄機兵用輸送車キャリアの上では、周辺を探索してきたヴォルフがベラの元へと赴いて報告を行っているところであった。

 また、その内容はこの戦闘で脱走した者がいるとのことだったのだ。


「周辺を探ってみたが、獣人の臭いが森の中に続いている。途中で臭いは消されていて、追うこともできない。逃げられたと見るべきだろう」

「そりゃあ、あのアホ鳥を操ってたヤツかい?」


 ベラの言葉にヴォルフは「恐らくは」と言いながら頷く。その顔には少しばかりの悔しさがにじみ出ていた。


「どうやら未熟だったのはマドル鳥の操作だけだったらしい。森の中にローアダンウルフを待機させてそのまま去っていったようだ。匂いをうまく消しているし時間も経ちすぎている。さすがにもう追えん」


 ムッとした声でヴォルフがそう告げる。猫科の顔が不機嫌そのものといった風であるのに気付いたベラが少しだけ笑いながら口を開く。


「ということは街には知られただろうね」


 ベラの言葉に後ろに控えているパラが眉をひそめる。

 パラは叱責が飛ぶかとも思ったようだが、特にベラからはそのような様子はなかった。

 元より獣人が逃げた件に関してベラはヴォルフや他の誰かを責めるつもりもなかった。数の上では相手よりもずいぶんと不利な状況ではあるのだから、取りこぼしがある可能性は最初から考慮に入れていた。

 故に逃げて情報を届けた者がいるらしいと分かっただけでも僥倖であるとベラは考えていた。


「であれば、ヘールの街への対応はどうしますか?」


 パラの言葉にベラは考える。

 基本的にベラたちがやろうとしていることはバルの元の装備を取り返すという動機があったところで、簒奪以外の何物でもない。当然ヘールの街へも襲撃をかける形で侵攻する予定ではあったが、待ち構えられているとなると街の中に入るのにもかなり苦労をするだろうことは間違いない話であった。

 ベラは再度ヘールの街の見取り図を見ようとパラに声をかけようとしたところで、悲鳴が響き渡った。


「ァアアッ……グプッ」

「あ」

「バカが。あじゃないだろ。あじゃッ」


 鉄機兵用輸送車キャリアの下に設置してあった簡易天幕の中から断末魔の悲鳴が上がったのだ。

 恐らくはドルディアのものであろう悲鳴とジャダンとバルの言葉にやり取り。その声を聞きながらベラは何が起きたのかを理解してため息をつきながら口を開く。


「『ギルガム』」


 そのベラの拘束呪文により、天幕の中からジャダンの悲鳴が鳴り響いた。そして中からジャダンが飛び出して地面に転げ回ったのだ。


「カッ、は……な、急に何をするんすか?」


 ようやく痛みがとれて顔をあげたジャダンは涙目になっていたが、鉄機兵用輸送車キャリアの上から見下ろすベラの目は冷ややかだった。


「あんたぁ、殺ったね?」

「ヒヒヒ、すみません。あれがつい良い反応をするんで嬉しくて」


 ジャダンの言い訳が終わる前にベラは再び拘束呪文を唱え、ギャダンがその場でさらにのたうち回る。


「あんたの遊び相手は用意してはやってるだろう? おふざけが過ぎるならあんたも一緒にっちまうよ」


 そのベラの言葉にジャダンがヒーヒーと呻きながらも、頷いた。天幕から出てきたバルも処置なしという顔でその様子に肩をすくめるが、そのバルにもベラの叱責が飛ぶ。


「あんたもだよバル。このアホゥにあんたを付けた意味を理解しな。貴重な情報源なんだ。ちゃんと搾り取れはしたんだろうね?」

「……すまない。ヘールの戦力については大体……というところだ」


 そのバルの言葉に目を細めながらベラが続けて尋ねる。


「それでブラゴという男、どう出るんだい?」


 ヘールの街を任されているのはバルの先代『ムサシ』の装備を奪ったラーサ族の男である。少なくともこの中でブラゴを知っているのはバルだけであった。

 そのベラの問いにバルは少しだけ考えると、口を開いた。


「良くも悪くも凡庸な男だ。セオリー通りに数で押してくるだろう。まあ周囲に兵を控えておくくらいの頭はあるだろうが」


 数の上ではベラドンナ傭兵団は鉄機兵マキーニ三機、精霊機エレメント三機に巨獣のみの構成だ。その内、精霊機エレメントの二機は整備と通信の役割があり本来は戦闘メンバーではない。そう考えてみればベラドンナ傭兵団は傭兵団としての規模はそれほど大きいものではなかった。


「ま、数が減りゃあ街中に籠もるだろうし、油断しているうちに門は壊しておきたいね」


 そう言いながらベラはパラに声をかけて手渡された地図を広げてみる。

 今回攻め込むのはルーイン王国の領地であり、そしてルーイン王国自体がそれを暗に認めているため、こうした軍事機密の街の見取り図までが手に入っていた。

 対鉄機兵マキーニ用の投石機なども設置されているが、周囲に掘られた水堀が鉄機兵マキーニの侵入を拒んでいる。

 鉄機兵用輸送車キャリアの上に上がってきたバルが、ベラの見ている地図を眺めてから口を開く。


「以前にこの場に来たことはある。仮に兵を潜ませるのであれば、ここと、この場所辺りだろうが」

「なるほどね。まあ、であればこっちもちょいと工夫をしてみようかね」


 バルの言葉にベラがニタリと笑う。それから鉄機兵マキーニの整備をしていて蚊帳の外にいたボルドに声をかける。


「ボルドォォオ」

『なんだぁ?』


 地精機ノームに乗って整備をしているボルドが、またそれを手伝っているデュナンが振り向いた。


「それをまた使うよ」

『ああん? それってこれかよ』


 ボルドが今現在地精機ノームに乗りながら磨いているものを持ち上げて、それにベラが頷いた。

 それは先ほどボルドが戦場から回収してきた静音拘束具サイレンサーだった。そのギミックウェポンは鉄機兵マキーニの駆動音を抑え、右腕と最低限の脚部可動域を残して機体を固定する機能があった。

 鉄機兵マキーニという兵器を忍ばせて動かすには適した装備ではあるのだが、問題は一機分しかこの場にはないということだった。


「ええ、また増槽タンクを持って行くんすか?」


 地面に大の字になっているジャダンからそんな不満の声が飛ぶ。つい先ほど痛い目を見てなお出る軽口にベラが忌々しそうな顔をしながら再度拘束呪文を唱え、トカゲ男をまたその場で転げさせた。


「あたしの言葉に対して不満げに返すんじゃないよ。馬鹿なのかい?」

「ヒッ、ひひ、すみません。けど結構切実なんです。これ、マジなんで」


 そういうジャダンの言葉もそれなりに理があるものではあった。爆破型ボマーと呼ばれる対人特化型の火精機ザラマスに乗るジャダンにとって、自然魔力マナを余分に供給してくれる増槽タンクの存在は非常に頼りになるものだった。

 爆炎球の生成スピードが速まるため、ジャダンの火力が軽く二倍程度には変わるのだ。そして、それはベラも理解している。


「今回は増槽タンクを使う必要はないよ。元々の場所が特定されてないんなら別に魔力の川ナーガラインと繋げてても問題はないし、潜んでるのが確かなら、それこそ場所が探査魔術なんかでバレるような真似もしないだろしね」


 そのベラの言葉にはジャダンもホッと胸をなで下ろした。先の戦いで増槽タンクを使用したのは、すでに獣人によってベラドンナ傭兵団のある程度の位置が把握されている前提で行動していたためであった。


「大まかな指揮はパラに任す。あたしは雑魚を掃除しておくさ。通信は適時送っておくれ」

「承りましたベラ様」


 パラが従者としてこうべを垂れる。その様子にベラが頷きながらバルを見る。


「というわけだ。露払いはしてやる。だから、分かってるねバル?」

「ああ、承知している」


 ベラの言葉にバルが頷く。狙うはブラゴの鉄機兵マキーニ『イゾー』。そして、それが装備しているであろうギミックウェポン『抜刀加速鞘クイックスラッシャー』とギミックアーム怪力乱神マシラオ』である。


「チャンスは生かす。己のモノは己で取り返す。必ずだ」


 そう言ったバルの意識の先はブラゴを越して、ジェド・ラハールへも向けられていた。


次回更新は10月06日(月)0:00予定。


次回予告:『第81話 幼女、突き進む(仮)』


ベラちゃんの簡単クッキングレシピ。

かくれんぼをしているお兄ちゃんたちを料理します。

それから、たくさんいるお兄ちゃんたちをかき回しながら潰します。

入り口に蓋をされると美味しい料理を味わえませんのでそれも潰します。

中に入って美味しそうなお兄ちゃんたちを潰します。

最後にジェドお兄ちゃんを美味しくいただけたら、ごちそうさま。

一般的なご家庭でもできる簡単な料理だからみんなも試してみてくださいね。

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