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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第79話 幼女、足止めさせる

『恐ろしいものだな』


 目の前の惨状を見ながらデュナンが呟いた。それは、かつての自分が如何に愚かな選択をしたのかを知らしめるかのようなそんな光景でもあった。

 同時にデュナンは自分が『殺せる』側にいることに安堵していた。


退けえぇええええッッ!!』


 その感慨深く浸っているデュナンの前に、もはや恥も外聞もなく逃げ去ろうとする鉄機兵マキーニが迫ってきている。

 ドラゴンと竜殺しの鉄機兵マキーニ、双方に襲われたのだ。その慌てぶりになるのも仕方がないとデュナンは苦笑しながら、ギミックウェポン捻れ角の槍ドリルランスを構える。


『かといって俺相手ならば恐れずに剣を振るえるか? 舐められたものだな。これでも五百を超える軍勢を率いたこともあるんだが。まあッ』


 そして『ザッハナイン』が投げ放った捻れ角の槍ドリルランスが敵鉄機兵マキーニへと突き刺さり、


『なんだ。あ、ぎゃあああっ!?』


 機体へと回転しながら吸い込まれた槍によって、叫び声とともに中の人間が挽き潰されていった。


『そんな俺が霞むほどに周りが化け物ばかりではあるんだが』


 デュナンが苦笑しながらそう呟いた。


『こいつら!』

『くそっ、殺せッ!!』


 さらにデュナンの機体『ザッハナイン』に向かって三機の鉄機兵マキーニが走ってくるが、その彼らにはデュナンではなく、『ザッハナイン』の横にいた黒い機体が突撃していった。


『ツェエエエエエイイッ!!』


 一閃。

 黒い鉄機兵マキーニ、つまりはバルの『ムサシ』は一機目の鉄機兵マキーニへと踏みだし胸部ハッチへとカタナを突き入れた。


『まずは一機』


 内部の乗り手の血を吸うことで黒き刃が赤に染まり灼熱ヒート化する。


『ぉおりゃっ』


 そのままバルはカタナを振り上げて胸部から頭部までを一気に切り裂いた。


鉄機兵マキーニを切り裂いただと? こいつも化け物か!?』


 そう叫ぶ二機めに赤くなったバルのカタナ『オニキリ』が直線上に振り下ろされる。盾を構える間もなく、叫び声すらあげられずに二機めの鉄機兵マキーニが沈み、


『おおらぁあッ!』


 バルの気勢に怯んだ三機めには『ザッハナイン』の蛇腹大剣スネーククレイモアが振り下ろされ、頭部が陥没し操者の座コクピットを潰されたのだった。


『私の獲物だぞ』

『いや、二二で公平だろうに』


 ギロッと睨むバルの『ムサシ』に、デュナンがあきれたように言葉を返す。


『ヒヒヒ、露払いご苦労様です』


 その二人の後ろからジャダンの火精機ザラマス『エクスプレシフ』がのっしりと歩いてきた。


『あまりゆったり構えてるなよ。さっさと駆逐しろ』


 そのデュナンの言葉に『へいへい。あっしの方が先輩なんですけどねえ』と言いながらも爆炎球をその手に生み出して投げていく。増槽タンクがないために、いつものようにポイポイと連続で放てはしないが、集団の中心へと的確に投げられ、その爆発によって逃げ出す生身の兵たちが次々と吹き飛ばされていく。


『ヒヒヒ、良いですねえ。良い具合に恐怖が満ちている。ほらほら、足がもつれて転んでますよ。ああ、潰されてる。死んだかな。可哀想に。仇はとってあげましょう』


 ジャダンが嬉しそうに無駄口を叩きながら、死をまき散らす。

 現在の彼らの主な役割は逃げ出す兵たちの始末であった。堂々と戦争をしているわけでもないのだ。捕虜をとる必要はないし、今は手の内を晒さぬためにもその場の全員を逃がさぬように始末する必要があった。 

 もっとも如何に有能な彼らとはいえ、すでに『逃げ出した』者までは手が回らない。現時点で戦場からすでに逃れ、ヘールの街へと走っていく者がいたことまで気付けなかったのは仕方のないことではあった。




  **********




「ドルディアがやられた?」


 ラハール領中心街ヘールにある警護詰め所の中、ブラゴの叫びがその部屋に轟いた。


「はい。雇いの獣人が報告に戻ってまいりました」


 それはベラドンナ傭兵団を偵察していた獣人だった。軍としての規律を必要としないこの獣人はドラゴンが来たことを悟った段階ですぐさまその場から離脱していた。それからマドル鳥の眼で一部始終を確認し、まんまとその場から離脱することに成功していたのである。


「それで本人はどうした?」

「それが簡単な報告だけをすると、そのまま姿を消しまして」

「どういうことだ?」

「分かりませんが、一族に関わることだということで我々が制止する間もなくいなくなりました」

「チッ、獣人どもの一族か。使える以上は使うが相変わらず何を考えているのかは分からん連中だな。それで敵方の戦力などについても不明ということか?」

「いえ。鉄機兵マキーニは三機。それとドラゴンらしき巨獣が一体。精霊機エレメントは恐らく三機だろうと」

「ドラゴン? 恐らく?」


 ブラゴの問いに部下の兵が少し顔を強ばらせながら答える。


「はい。ドラゴンというのはその獣人の言葉です。どうやらかなり大型となるトカゲタイプの巨獣を使役しているようです」


 ブラゴはその言葉に少し考え込む。どうやら相手はバルだけを頼りとした集まりではないようだった。そんなブラゴの思惑など気付かず、兵はそのまま言葉を続ける。


精霊機エレメントに関してはすべてを召喚したところは見ていないようです。まあ種族的には三人なので……あのメンバーで精霊機エレメントを出せないということもないだろうということですが」

「なるほどな。しかしあの間抜けがガキの奴隷とはな」


 ブラゴの言葉に、背後にいるエナ・マスカーの眉が動いた。その様子を見てブラゴが眼を細めて笑う。


「ああ、言ってなかったのか。エナ、てめえの兄貴はよ。今はこんな小せえメスガキの奴隷になってるそうだ。まあ、どこの偉いさんだかの娘かもしれねえが、それの手足になってるそうだぜ? もしかするとそんなガキの夜伽なんかも手伝ってるのかもしれねえな。ガキのミルアの門を舐めて差し上げるのが敬愛していたお兄さまのお仕事ってわけだ。笑えるぜ」

「あの男が……」


 ブラゴの言葉にエナの顔がひきつっている。その様子をブラゴが小気味良さそうに笑う。


「まあ、どうせ連中はあのバルとその巨大トカゲがメインなんだろうが……お前が何かを期待しているようなら無駄だぞ」

「何をですか?」


 キッと睨むエナにブラゴの口元がつり上がる。


「奴が助けに来るなんて夢にも思わないことだ……ということだ」

「今更、そんなこと。アレはもう兄ではない。私の兄はとうに死んだ」


 憎々しげに吐かれるエナの言葉に、ブラゴをさらに笑う。


「ははははは、そうだ。そういうことにしておこう。ま、次に戻るときにはその兄ではないヤツの首でも持って帰ってやろうじゃあないか。ベッドの横にでも置いて、あれにお前の悶える姿を、女になったお前の身体を見せてやろうじゃあないか。ほら、兄貴。立派にくわえ込んでる私を見て。滅茶苦茶にされてとっても幸せなのって報告してやれ。そうすりゃあれのガキのミルアくせえ口で、てめえのミルアも啜らせてやるよ」

「あんたはっ」

「『フォール』」


 今にも飛び出し掛かりそうになったエナを見て、ブラゴが拘束呪文を唱える。


「ぁあああああっ!?」


 そしてエナがその場で崩れ落ちて、床を七転八倒しながら悶え苦しむ。術式としては極めて効果の高い奴隷印がエナには刻まれている。


「もうひとつ欲しそうだな。『フォール』」

「ぐっ、ぁあああああああッ!?」


 さらに受けた痛みにエナはのたうち回り、やがて動きが止まるとわずかに弛緩しながらアンモニア臭ただよう液体を床にこぼしだした。


「ははは、まったく躾がなってないぞぉ。それじゃあお兄ちゃんに顔向けができないだろうが?」


 ニヤニヤと笑うブラゴに、涙を流してうめきながらエナはなおも睨みつけた。


「いいぞ。情熱的な顔だエナ。そういうお前をひっぱたきながら組み伏せるのが俺は好きだ。最近は大人しくなっちまったからな。今夜は楽しめそうだ」

「死ねッ」

「ははは、『フォール』」


 再度の拘束呪文にエナが叫び声をあげる中、ブラゴはその悲鳴を心地よさそうに聞き惚れると、満足したのか部下を連れてその部屋を出ていった。そして、部屋にひとり残されたエナは仰向けに倒れながら、光の宿らぬ瞳で天井を見ながら呟く。


「ブラゴ……バル……どちらも死ね。のたうち回って死ね。クソを喰らいながら死んでしまえばいい。いっそあたしを」


 その表情には怒りも悲しみもない。あるのは虚無。ただ絶望だけ。


「……殺せ」


 そして嗚咽が部屋の中から聞こえ始めた。


次回更新は10月02日(木)0:00予定。


次回予告:『第80話 幼女、突き進む(仮)』


この時のブラゴお兄ちゃんはまだ元気でした。

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