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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第73話 幼女、合流する

「すみません。外に出たのをひとり逃しました」


 宿屋の一階。入り口のカウンターの前では、返り血で真っ赤に染まったバルに対してパラが申し訳なさそうに謝っていた。

 モーガンたちの宿屋への奇襲は、もはや完全なる失敗に終わっていた。ボスであるモーガンは逃げ去り、他の奇襲メンバーで生き残っているのはバルの前にいる男ひとりのみ。残りは宿屋の三階から一階のカウンターに至るまでの通路に撒き散らかされているかのように転がっていた。


「まあ、仕方ないな」


 バルはパラに対してさして気にしていないという顔をした後に、生き残りの男に声をかけた。


「おい、お前。お前たちのリーダーはどこだ?」

「ひ、ぃい……腕、腕が……いや、モーガンならたぶん詰め所にある……鉄機兵マキーニを取りに行ったんじゃ……あ、痛い。イテェヨ……」


 男の両腕は、今は男の目の前に転がっていた。戦意などあるはずもない。もうくっつくこともないだろう己の腕を見ながら、そして背後にいる死神に怯えながら、痛みと恐怖で男は震えていた。


「どうします?」

鉄機兵マキーニ相手ではやむを得ないな。数がいれば逃げるが、一機程度なら仕留めてみせるさ」

「え、生身で鉄機兵マキーニとやるんですか?」


 その言葉にパラが目を見開いてバルを見た。しかしバルは頷いた。巨人ダイナ族とも生身で渡り合えるバルである。相手の技量次第では抗せないわけではないようだった。

 それからバルは、カウンターの台の下で嗚咽している宿屋の店主に声をかけた。


「店主、主様が帰る前にそこいらのゴミを片付けておいてくれ。それが無理なら別のところを紹介してくれ。頼むぞ」

「は、はい……お、お任せを……」


 宿屋の店主はボロボロと涙を流しながら顔を出して返事をした。その言葉にバルは頷くと、そのままパラを連れて急ぎ宿から飛び出していったのだ。

 そして、宿の中にはふたりの男たちの嗚咽だけが木霊していた。

 他の部屋に何人もの客がいたはずだが、彼らは決して出てこようとはしなかった。ただ嵐が通り過ぎるのを怯えて待つしかなかったのである。




  **********




「ふーむ。こりゃあ、遅れたような」


 真っ暗闇の森の中で猫型獣人の男が呟いた。それはベラの奴隷のひとりであるヴォルフであった。狩りに出掛けて帰ってきたヴォルフは予定の帰還時間を大幅に超えていたこともあり完全に襲撃のタイミングに出遅れていた。

 そんな主を乗せているローアダンウルフのゼファーが「ァオンッ」と小さく鳴く。そのゼファーの視線の先にヴォルフが目を向けるとそこには小さな馬に乗った幼女が森に沿って走っている姿があった。


「ゼファー、近付くぞ」


 ヴォルフはそう言って、ゼファーを走らせる。


「おお、やはりご主人様か」

「おんや。ヴォルフじゃないか。なんでここにいるんだい?」


 ヴォルフが近付いた馬に乗っている幼女とは、やはりヴォルフの主人であるベラであった。ベラドンナ傭兵団の野営地にある鉄機兵用輸送車キャリアに近付くために、ベラは戦場を回避し、森の入り口近くを迂回して移動していたようだった。


「出遅れたようだ」


 マイペースなヴォルフの言葉にベラが苦い顔をするが、すぐに気を取り直して口を開く。


「ともかく行くよ。ちーとピンチみたいだしね」

「了解した」


 ベラはこの場で咎めることはせずに、そのまま盗んだ馬で走り出し、ヴォルフもそれに続いた。そしてゼファーに走らせながらヴォルフは野営地での戦闘に視線を向けた。


(ふむ、なるほどな)


 戦場に近付くに連れて、ヴォルフにも状況が見え始めていた。状況はボルドたちがやや有利という形で展開されているようだった。


『ぎゃああああああ』


 拡声器から悲鳴が木霊しながら鉄機兵マキーニの一機が崩れ落ちる。外傷はないようだが、その胸部ハッチには切り傷があった。

 崩れ落ちた鉄機兵マキーニの手前にはデュナンの鉄機兵マキーニ『ザッハナイン』があり、そして剣の破片のようなものがヒモを通してガチャガチャと繋がり、剣の形へと変わっていった。


「へぇ、思ったよりも使いこなせてるじゃないか」


 ベラがそう口にする。デュナンの新しい装備である蛇腹大剣スネーククレイモアが伸びて、敵の鉄機兵マキーニの胸部ハッチを切り裂いたのだ。

 それはベラがコーザに頼んだモノの中でも一番高額であったギミックウェポンであった。普段はただのクレイモアの形を取るが、実際には十二枚の刃が魔鋼線によって繋がれていて、分裂後の攻撃時には雷撃ボルトを発する。

 要は使い手の意思に反応し、剣が分裂し鞭のように伸びるギミックウェポンで、例え剣で防御をしようとも曲がって相手にまで届くし単純に剣が伸びるために敵も攻撃の間合いが取り辛い。間接的なダメージを与える雷撃ボルトは、仕込み杭打機スティンガーのような装甲を溶解し破壊する灼熱ヒート効果に比べて有用性は低いとされるが、それでも目の前で鉄機兵マキーニが倒れている通りに、効果はあるものだった。


「数は残り八、まあ、減らせてはいる方かい」

「手を出さずとも、相手の戦意はこのまま奪えそうではあるが」


 そうヴォルフは言う。自分たちが参戦せずとも、戦いはボルドたちの勝利で終わりそうではあった。だが、ベラはヴォルフの言葉を鼻で笑う。


「降参なんぞされてもね。あんたは自分のペットに動かない獲物を喰わせる気かい?」


 そのベラの言葉にはヴォルフが笑い返した。


 そしてふたりとは戦場へと到達する。腐り竜ドラゴンゾンビが動き出し、続いて騒ぎに便乗してベラが乗り込んだ『アイアンディーナ』も立ち上がったのだ。


 すでに戦闘の均衡が傾きつつあったところに追加の戦力である。ここでモーガン配下の鉄機兵マキーニ乗りたちは自らの運命を理解せざるを得なかった。もはや、自分たちに生き残る道などないことを知ったのであった。




  **********




「ひぃ、ひぃい」


 モーガンは顔をひきつらせながら、ようやく詰め所へと到着していた。町の外での爆発音の回数も減ってきている。それが意味するところはひとつだろうとモーガンにも分かっていた。


「畜生。あいつらを……俺が……いや、もうこりゃ、逃げるしかねえ。ジェド様にことの次第を報告して」

「あ、見ーーつけたーー」

「あん?」


 背後からの言葉にモーガンは全身がザワッとした。そして背中に熱い何かが刻まれたのを感じたのだ。


(斬られた? 追いつかれたかッ!?)


 モーガンが恐怖に駆られながら一歩前に出て後ろを向いた。そこには……


「てめえは……あの商人の娘の?」


 驚愕の顔を張り付けたままモーガンが口を開いた。まったくの不意打ちだった。その人物の出現をモーガンはまったく想定していなかった。


「はーい。私でーす?」


 疑問系で口にする女がそこにいた。


「お父さんの仇ー? とか取りに来たわけかな?」


 その顔にはモーガンには覚えがある。昼に抱いた女だ。また殺した商人の娘であったはずだ。あれから部下に任せて娼館に売り払ったはずだった。その女が今目の前にいた。


「なんで、てめぇが。ヒッ、ぐ」


 続けてモーガンは己の身体が動かなくなってきていることに気付いた。そして膝から崩れ落ちた。


「ほらほら、興奮しちゃーだめーよ? だって、この刃にはアンタらが奪おうとしたモヘーロ草から抽出した魔薬の原液が塗ってあるんだもの。ふふ、興奮しすぎて死んじゃうかも?」

「おみゃ……ふぁ……?」


 モーガンの顔が恐怖に歪んでいく。明らかに昼に見た顔と同じはずなのに、残虐性を孕んだ、まったく違う雰囲気の面がそこにはあった。


うふぇ?」


 またモーガンは女の左腕にも視線を向けた。たった今モーガンを突き差した刃は女の左腕から生えていたもののようだった。また肩部までの腕全体が明らかに人間のものではないようだった。


「はははは。腕ー? とか、そんなのどうでもいいじゃない。まあ、お父さんは残念だったわ。元々はあんなオドオドした間抜けを寄越した上の連中が行けなかったんだけどさー。まっさかこんな田舎で躓くとはねー」


 笑いながら女がゆっくりとモーガンへと近付いていく。


「きゅ、きゅるな」


 モーガンは倒れ込んだまま、わずかに力を振り絞ってズルリと後ずさるが、もちろん女から逃げられるわけがない。


「なーによ。昼はあんなに激しく愛し合った仲じゃない。ま、ガーメの首がデッケエわりにはド下手くそだったけどねえ」


 ギャハハハハと笑いながら女がモーガンの上に立つ。そして、左腕から生えている刃でモーガンの下半身のガーメの首辺りをゆっくりと突き刺した。


「ブッグゥゥウ」


 モーガンが嗚咽する。己の体内に突き刺さっている感覚に恐れている。叫ぶ力もないが涙はあふれて止まらなかった。


「なーに? ほらほら、昼の続きをしようじゃない? ま、今度はあたしが入れる番? って感じでさー」

「や、やめひぇ……」


 満足に口も動かなくなったモーガンが恐怖に染まった瞳で女を見ているが、どうしようもないくらいの笑い顔がそこにはあった。それはモーガンが一切の希望を捨てざるを得ないほどに、痛烈なまでに悦に染まった笑顔だった。


「いやーよ、だってアンタ。私の歯と鼻をさー。やってくれちゃったしさー。ねー、痛かったよーあれはさー」


 ザクザクと切り裂く音がする。ダクダクと赤き命の水がこぼれる音がする。女の左腕が激しく動き、血しぶきが飛び散り続けるが、それでも止まらない。


「まったく、帰りの途中にこんなタリー仕事が来たと思ったら田舎モンに刺された挙げ句、歯ぁ折られるとかありえねーだろーが、くそがっ、死ね。死んで詫びろや。クソ砂ネズミやろうがぁあああああああああああーーー!!?」


 叫び声と左腕の過剰な前後運動の中、モーガンの目からは力が消え、どさっと持ち上げていた首も落ちた。完全に事切れたようだった。


「あんだよ、くそっ。もう死んだか。ばーか。私を突いた回数分ぐらいは生きてろっつーの」


 そう悪態付く女はその死体に唾を吐くと、髪をかき揚げながらまだ爆発音が続く町の外の方に視線を向けた。


「しっかし、ベラドンナ傭兵団か。噂の連中の闘いも見てみてーけどなぁ。ま、勘が鋭いのも多そうだしあんま近付かない方が無難よね」


 そう女は言うとモーガンの首に下げられていた竜心石を左腕で握りしめて、鎖を引きちぎってから、そのまま潰したのだ。すると破壊された竜心石から魂力プラーナの光が放たれ、機械マキノ製らしき左腕へと吸収させていった。


「それじゃあね。クソガーメ野郎。私がそっちに行くくらいにはもっと腕を磨きなよ。喘いだふりすんのも大変なんだからさー」


 そこまで言うと、女はそのまま闇に包まれた町の中へと消えていった。そして、その後すぐにバルとパラが駆けつけたときには下半身が見るも無惨な姿になって事切れたモーガンの姿だけがその場に残されていたのである。


次回更新は9月11日(木)0:00予定。


次回予告:『第74話 幼女、整理をする(仮)』


つんでれのお姉さんはちょっと照れ屋さん。

ベラちゃんたちとは会わずに立ち去るみたいです。

そしてベラちゃんの方もそろそろオネムの時間です。

さっさと後かたづけをすませてしまいましょう。

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