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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第68話 幼女、準備を整える

「ヒャッヒャッヒャ。これだよ、これ」


 ベラが白いコートに袖を通す。それはフワフワとした白毛のコートで、ベラがコーザにオーダーをしていたものであった。それが今日ようやく届いたとのことで、ベラは連絡を受けてコーザの屋敷へと招かれていたのである。

 そこで受け取ったコートを身に着け、その纏った自分を見てからベラはコーザにニィッと笑った。


「どうだい? 相当な別嬪さんになったのじゃあないかい?」

「ええ、大変お綺麗です。お似合いですよ」


 そう答えるコーザの言葉に偽りはない。

 カノンラビットから僅かに取れる首裏の産毛で造り上げた白のコートはベラの褐色肌を引き立て、確かに人の目を引く姿となっていたし、事実としてベラの容姿は整っている。

 ラーサ族特有のエキゾチックな雰囲気を彼女も持っているし、加えて唇に引かれたルージュも艶めかしく、全身煌びやかに装飾をちりばめた姿は確かに美しいともいえた。

 また、一見下品にも見えていた両手の指にはめられたゴロゴロとした宝石たちも白のコートから出た姿には気品が宿っているように見えなくもなかった。

 背負っているウォーハンマーと、コートの中に身に着けている巨獣の革とアダマンチウムが使われている紅の革鎧がどうにも異質さを放ってはいたが、もっともそれこそが目の前の人物の本質であり、似合っていないわけがないのだ。

 ともあれ、ベラはまだ『六歳の幼女』である。それだけのものを身につけていながら背伸びをしているようにも見えず、貫禄すら帯びているように見えることが異常であるといっても良かった。

 そして、戦奴都市コロサスのベンマーク商会の屋敷の一室でコーザが若干の戸惑いを持ってベラに尋ねる。


「しかし、その格好で出歩くとやっぱり問題があるのではないですか?」


 ベラの身に着けているものの価値を、少し目利きのある者ならば気付かぬはずがないのだ。庶民であれば一生遊んで暮らせるほどの価値があるものを目の前の幼女は身に着けている。だが、コーザの言葉にベラはバルの方に視線を向けながら答えを返す。


「それはあれだね。バルが十人ぐらいブッたぎった辺りで一度揉めてね。それからはまあ、この町で絡まれることはなくなったよ」


 ベラの視線にバルが少しだけ頷いた。共に護衛についているパラは顔をひきつらせていたが、今ベラの口にした『一度揉めて』の言葉は、パラからしてみればそんな軽いものではなかった。

 その中身はといえば殴り込みにきた街の荒くれ者の組織アウターファミリーのひとつを逆に半壊させた……というものであった。それもベラは鉄機兵マキーニにも乗らず、バルとヴォルフを連れて連中の事務所へと殴り込みにいったのである。襲いかかる者すべてを返り討ちにして、その場にいた人間が半分消えた後にファミリーのボスが泣きながら不干渉を宣言したのが他のファミリーにも広がり、今や新参者以外はベラにちょっかいをかけるものはいなくなっていた。衛兵にしても爵位を得た貴族に何か物を言うほど命知らずではない。

 権力と暴力の双方の面でベラに逆らえる者はもうこの街にはほとんどいなかった。


「なるほど」


 コーザが苦笑して頷いた。アウターファミリーとの揉め事についてはコーザにも多少耳に入ってはいたが、アウターファミリーも口外禁止にしていたようで、詳しい話までは聞けていなかったのだ。

 それはベラの身内であると認識されているコーザに対しての警戒や配慮があったのだろうとも思われたが、それはそれで詳しく話を聞いておく必要もあるなとコーザは考えざるを得なかった。


「ま、良い仕事をしてくれたよ。一張羅としては十分なものさ」

「はい。代えの一着も用意させてあります。お帰りの時にお渡しいたしますよ」


 その言葉にベラも満足そうに頷き、コーザもホッと胸をなで下ろす。

 このベラに差し出したカノンラビットの毛皮。王都に持って行けば王侯貴族がこぞって購入を希望するほどの品である。その純白の美しさと肌触りの良さと単純に巨獣のものであるということ自体がステータスになるのだ。

 また巨獣特有の強靱さは貴族たちにはそれほど興味があるものではないのだが、自ら仕留めた傭兵などがベラのように己のためにオーダーすることもしばしばあった。

 

(しかし、貫禄は確かにつきましたね)


 コーザはベラを見る。全身煌びやかな格好にオリハルコンのウォーハンマー。人生を何度も遊んで暮らせるほどの財を纏い、護衛も二人つけての行動。これを見て堅気と判断する者はいないだろうし、当の本人は仕掛けてくるのを待っている様子のようでもある。

 要は餌を巻き付けて己のテリトリーによる害虫を駆逐しようとしているのだ。結果としてコロサスでは彼女を暴力で従えようと言う輩は消滅しているのだから、すべては上手くいっているようである。


(まあ、商人の私としてはありがたい存在ではありますがね)


 コーザは戦地よりこうしてホームグラウンドである戦奴都市コロサスへと戻ってきたわけだが、現在もベラとの付き合いは続いている。なにしろ、この幼女についていけばコーザの金が増えていく。

 鉄機兵の残骸ジャンクもかつてないほどに入ってきたし、貴族の使用した鉄機兵マキーニもコーザが直接購入していた。さらには、それを所有者であった貴族の家に高額で売りつけることで更なる利益も生じている。無論、その一部はベラに渡す結果となっているが、コーザの儲けとしては上々だ。

 少なくともデイドンの勝利見込みで動いていた状況の損失分を取り戻す程度には確実に潤っていたし、ベンマーク商会内でのコーザの面目も保たれることとなっていた。ベラ様々であると言えた。


「それで、事前に連絡を受けましたがギミックかギミックウェポンですか。この街に置いてあるものについてはこちらにリストアップしてあります。ご覧ください」


 コートの受け渡しも終えて、続けての仕事とコーザは後ろの部下から手渡された書類をベラに差し出した。


「ふーむ。思ったよりも多いね」


 書類を受け取って眺めたベラの第一声がそれであった。ギミックウェポンやギミックは常であれば、ひとつの街にそう置いてあるものではない。数そのものが限られているために買い手がすぐに決まるのだ。

 しかし、今このコロサスにはそれらが選べるほどに置いてあった。それを訝しがったベラの言葉にコーザが苦笑しながら答える。


「それらはモルド鉱山街などの勝利で流れてきたものなのですが、まあ買い手が戻ってきませんでして」

「ああ、なるほどねえ」


 つまり、購入しようとしていた者はみなパロマの軍勢に殺されたのだろうということだった。しかし死んだ確証もないために今まで取り置かれていたようである。

 当然ギミックやギミックウェポン購入者は相当な財を持っている者たちではあるし、捕虜として確保されて身代金と交換で返されることも常の戦争であればよくあることだ。実際、今はベラの奴隷であるデュナンにしても、そうした交渉はあったはずである。ベラがもらうと決めてしまったためにパロマには完全に突っぱねる形となっていただろうが。

 なので、万が一にそうした相手が戻ってきた場合に勝手に売り払った商人は最悪殺されることもあるのだが、しかし戦の終わりからもう一ヶ月半は経っている。

 それで生存を諦めた商人たちが放出し始めているのだとコーザは説明をしたのである。


「ま、モノがあるんならアタシャなんでもいいんだけどね」


 ベラはそのリストをチェックしながらバルを呼ぶ。そしてそのベラの指定したものにいくつかの言葉を返すと元の配置に戻った。


「そんじゃあ、これだけもらうように手配してもらえるかい? 後、新たに放出されたものでめぼしいの出てきたら取り置いておいておくれよ。ちゃんと買うからさ」


 ベラがそういってリストを返すとコーザが唸る。


「よろしいので? これもそうですが、めぼしいものというと結構値が張りますよ?」

「こっちは命を買ってるようなもんなんだ。高いぐらいでちょうどいいさ」


 ベラの言葉にコーザが頷き、そして部下へとチェックの終えたリストの書類を渡すと再度ベラと向き合った。


「それでは、お買い上げありがとうございます。ベラ様には本当に良い商売をさせていただけております」

「ま、それなりに融通もしてもらってるからね。今後ともよろしく頼むよ」


 そう言いながらベラは、続けての用件を尋ねる。


「それで最初にアレを手渡してギミックのリストももらったわけだが、やっぱり戦奴隷の方は難しかったのかい?」


 ベラがコーザの元へと訪れた理由のひとつにめぼしい戦奴隷を調べてもらっていたということがあった。しかし、そのベラの問いにはコーザも渋い顔で頷く。


「難しいところですね。そちらの奴隷のデュナン。あれと同程度かそれ以上となると正直出回る可能性は低いでしょうし、バル・マスカーほどの人材が出てくることはないと考えていただいた方がよいでしょう」


 その返しにベラも「まあ、だろうね」と口にする。実際にベラドンナ傭兵団の中でベラを除けばもっとも戦力として優れているのはバルである。戦果としては実はジャダンの方が大きいのだが、さしものベラにもアレを戦力の要としておくような自殺行為はできない。剛胆と無謀はまた別のものだ。

 さりとて、それ以外の戦力の増強もおろそかにはできない。奴隷といえども、いや奴隷だからこそ金がかかっている。

 雇いであれば死んでも給料を払わなければ良いだけだが、奴隷というのはベラの所有物であった。

 特にベラの奴隷たちはいずれも一芸に秀でており、その金銭的価値も大きい。必然的に無駄に殺すようなことはできない存在で、それは褒賞として与えられたデュナンにしても同じであった。


「持てる戦力を底上げしながら使えるのを探す……しかないもんだからね。まあ、いいさ。それじゃあ本題だ」


 気を取り直してベラが続けての用件を尋ねる。巨獣カノンラビットの討伐を終えてからもう二週間は経つ。準備が整えばそろそろ出向こうという頃合いである。

 そして、ベラの期待の視線を受けてコーザが頷いた。


「ラハール領。ジェド・ラハールの支配する地の情報ですね」


次回更新は8月25日(月)0:00予定。


次回予告:『第69話 幼女、狙いを定める(仮)』


まあ、ベラちゃんたらオシャレ。

六歳児だってちゃんと女の子なのですね。

さあ、そろそろ旅行に出発する日が近付いてきたみたいです。

お出かけの前の下調べは大事ですよベラちゃん。


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