第66話 幼女、後始末をお願いする
バルの鉄機兵『ムサシ』が駆けていく。
どこぞで起きている爆発のことなど頭の中から切り離して己を囲む鉄機兵たちの一角へと切り込んでいった。
『戦って良いというのだ。殺せっ』
『たかだが一機の鉄機兵など造作もない』
相手の鉄機兵たちから漏れる言葉にバルが苦笑する。相手は騎士型鉄機兵だ。その性能は並の傭兵の鉄機兵などよりもよほど高く、性能だけでいえばバルの『ムサシ』との差違はそれほどないはずだった。しかし、バルには相手の鉄機兵を怖くは思えない。その動きに血の匂いを感じない。実戦を経験した凄みがない。
(いや、経験者も何機かはいるが……しかし)
そう考えながらバルは操者の座内でグリップを握り、鉄機兵の腕に握られたカタナを振り上げる。
『試し斬りというのは少々物足りない相手かもしれんな』
バルは急加速し、目の前の二機の鉄機兵の間へと入るとそのままオニキリとヒゲキリの二刀をそれぞれの胸部ハッチへと吸い込ませるように突き立てた。
瞬間、内部から絶叫が響いたがそれもすぐさま止まる。もっともバルはフィードバックによって肉を斬った感触を確かに感じていた。そのままバルは笑みを浮かべながら、すぐさま両のカタナを引き抜いた。そして、何故かその刀身は赤く輝いていた。
「なんだい、ありゃあ?」
その様子をベラが見ていた。二機の鉄機兵からまったく引っかかることなく『ムサシ』はカタナを引き抜いていたのだ。ベラもよく胸部ハッチに向けて刃物を突き立てるが、深く突き刺すと抜くのに時間がかかるため放置してしまうことも多い。しかし、バルのカタナは違った。その刀身は赤く輝き、熱で周囲を溶かしながら抜けたのである。
「ありゃあ、あたしの仕込み杭打機と同じ熱を持ってるね」
ベラが目を細めてそれを見る。カタナが灼熱化しているのがベラにはすぐに分かった。それはベラの『アイアンディーナ』に装備されている仕込み杭打機の鉄芯が突き出たときと同じ現象である。
『なんだ? そのカタナは一体なんなんだ?』
ベラと同じ疑問を鉄機兵乗りの騎士も思ったのか、そう叫んで尋ねたがバルは答えずそのまま敵鉄機兵に近付いた。
『おのれぇえッ!?』
鉄機兵に乗っていた騎士が叫ぶが、バルは気にせず灼熱化したカタナで両腕を斬り飛ばした。そして口にしたのだ。
『これは妖刀だ。人の血に飢え、喰らえば猛って燃え盛る。そうした類の刃なのだ』
バルがそう言っている間にカタナの灼熱化が収まったのかまた刀身はまた元の黒色に戻っていたが、バルは気にせず目の前の鉄機兵の胸部を蹴り飛ばしてその場に倒した。
『何体かは残しておけと言われているしな』
バルの言葉にベラは己の指示を護って動いていることに頷きつつも、考える。
(コーザはあれをギミックウェポンだとは言っていなかったんだけどね)
ベラとしても鉄機兵用のカタナとしては用意できる中でもっとも良いものを……というオーダーは付けておいた。しかし、ギミックウェポンであったのならば、金額はさらに高いものとなるはずなのだ。
「それにバルはアレを知っているようだし、よく分からないね。アンタはどう思う?」
「し、知らん。知らんから、そのナイフをどけろ。いや、どけて……お願い」
涙を流し懇願するヴァモーザに対してベラはニッコリと微笑んでから無視した。元より生かしておく気もないが、それを口にしてわざわざ騒がれる必要もなかった。
「まあ、後で聞けばいいことかね。そんで、あっちも順調かい」
ベラの視線がバルの鉄機兵から、今度はジャダンの爆破型火精機へと移される。
すでに三機の鉄機兵が『ムサシ』を囲った組から離れジャダンの元へと向かっていたのである。仲間たちが攻撃を受けているのだからそれも当然の判断ではあろうが、その三機がジャダンに近付くことは困難なようだった。
増槽を積んだジャダンの火精機『エクスプレシフ』は爆炎球をその手に産み出し続け、正面に投げ続けているのだ。それは盾を構えた鉄機兵相手に通るほどの威力ではないが、周囲に展開している生身の兵士たちにとっては致命的で、次々と吹き飛んで死んでいた。また、それを超えて攻撃を仕掛けようとしてもボルドが地精機に乗って防御に回っていてジャダンには届かない。大盾にプレスハンマーによる防衛姿勢には鉄機兵といえど迂闊には踏み込めない。
もっともジャダンにはそれも不本意な状況のようで『ちょっと、バルの旦那。鉄機兵は全部引き受けて下さいよー。使えないなー』とわめいていた。
また、その状況に背を向け逃げ出そうとした兵は、ヴォルフとローアダンウルフ『ゼファー』が飛びかかり仕留めていた。
そこまでくるともう腐り竜を動かすまでもないし、ベラの乗り込んでいるヴァモーザの鉄機兵『ザクロオー』の周囲にはパラの風精機『フィール』とデュナンの鉄機兵『ザッハナイン』が囲んで護りにも入っていた。
それ故に、もはや戦場が覆ることはない。わずか一刻にも満たない時間の間に、戦場では英雄とまで呼ばれた傭兵団は圧倒的な実力を見せつけながら、事態を収束させていったのであった。
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「その後始末……ですか」
モルソンの街の外に突っ立っているコーザがため息をついた。
すでに死去しているという話である領主デイドン・ロブナールの従者アーモリーより依頼された仕事のためにコーザはこの場にいた。とはいえ、元を辿ればその依頼はベラ・ヘイローからのものでもあった。
『コーザ様、それでは私たちは作業に取りかかります』
精霊機に乗っている商会の部下からの声にコーザは「頼んだ」とだけ答えて、目の前の状況を見回した。
「それにしても……」
コーザは疲れた顔でその惨状を見ている。
コーザとベンマーク商会の人間が現在いるのはモルソンの街より若干離れた空き地のひとつである。
そこは街に駐留する鉄機兵乗りの傭兵団が野宿をしていることも多いエリアの一角で、つい先ほどまでベラドンナ傭兵団が駐留していた場所でもあった。
そこが今や焼け焦げた大地と、焼けた肉の臭いや血臭、さらには無数の鉄機兵の残骸が転がっている、まさしく死屍累々といった異様な姿を晒していた。
さらには、その中央には首が曝されて並べられている。真ん中にあるのはコーザも見たことのあるヴァモーザという貴族の首であった。
その前に積まれた石の下に『決闘法により処する』と書かれた紙が置いてある。そこには現在ベラの竜心石の装飾としてある貴族印を捺した印もあった。
(爆発の跡は、あのジャダンとか言うドラゴニュートのものでしょうね。離れた位置の血痕は逃げた者を殺した……か?)
纏めて積み上げられた死骸の中には魔物に噛まれたか、或いは喰われている者もいた。聞かされた人数との食い違いもあり、餌にされて食い尽くされた者もいるようであった。
(巨獣使いの仕業か。しかし、残りの鉄機兵に関して言えば……)
コーザの目が細まる。鉄機兵の残骸にウォーハンマーや回転歯剣の跡がないのである。あるのは突き傷か切り傷のみ。それ故にこの戦闘にはベラは参加しておらず、それを成したのが誰であるかはコーザにはすぐに理解できたのだが、別の疑問点もあった。
「問題なのは焼けていることですか。なんですかね、これは?」
コーザが首を傾げながら、焼け焦げた切り口のある鉄機兵の残骸を見た。現在の鉄機兵『ムサシ』が装備しているのはコーザが取り寄せた『オニキリ』と『ヒゲキリ』というふた振りのカタナであるはずだった。他にコーザが把握している『ムサシ』の武器は、かつてベンマーク商会の倉庫に眠っていたナマクラぐらいであろうか。どちらにせよ、目の前の傷が付けられる武器ではないはずである。或いは隠していたギミックかギミックウェポンがあったのかもしれないが、少なくともコーザはその存在を知らなかった。
「まあ、コロサスに戻ってから聞いてみましょうかね。答えていただけるかは別ですが」
そして当のベラたちだが、コーザがアーモリーから聞いた話ではすでにモルソンの街を出て、戦奴都市コロサスへと向かっているらしいとのことであった。
この街にはまだ貴族が何人もいて、ヴァモーザのような行動を起こされる可能性もある。それを防ぐためにもベラたちは早々に出ていったのだということであった。
そして、コーザにしてもこの回収が終わったらモルソンの街を引き上げる予定であった。戦争はルーインの敗北で終結した。もうこの場にコーザも用はなかった。
そして、これより一ヶ月の時間をかけながら、鉱山街を巡る戦争はパロマ王国の勝利に終わったのだという知らせがルーイン王国中を駆けめぐることとなる。
もっとも、それはたかだか一地方の奪い合いに負けただけのこと……と、この時は誰しもが思っていた。誰一人生きて帰った者がなかったためにデイドン卿らを葬った軍勢については一切伝えられることがなかったのだ。
それ故に裏にいるローウェン帝国のことを知る者はルーイン王国内には誰一人としておらず、時代の波がルーイン王国をも次第に飲み込み始めていたことに気付く者もまた、現時点においては誰もいなかったのである。
次回更新は8月18日(月)0:00予定。
次回予告:『第67話 幼女、準備を整える(仮)』
ひとまずは懐かしきコロサスの街に戻ったベラちゃんたち。
次なる目的地はラハール領。どんなドキドキワクワクな冒険が待っているのか。ベラちゃんも今から楽しみで仕方がないようです。




