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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第59話 幼女、未だ絶望を知らず

 騎士型鉄機兵マキーニ『エルダーグレイ』がゆっくりと進んでいく。周辺に配置されている生身の兵たちと共にデイドンの鉄機兵マキーニは進軍していく。


 ベラドンナ傭兵団が去った翌日、デイドン率いるルーイン王国軍はジリアード山脈を越えたパロマ王国側へと侵攻を開始した。目的は山脈麓にあるモロバ砦の占拠、或いはパロマの領主マルコフとの停戦協定であった。


(しかし、妙ですね)


『マンチェス、まだ斥候は戻りませんか?』


 デイドンは共に進軍している己の護衛騎士に通信で尋ねるが『はい。戻ってきていません』との答えが返ってきた。


『定時連絡も未だ届きません。放った者、すべてがです』


 少しだけ困ったような護衛騎士の声を乗せた通信に、デイドンは少し考え込む。


(見つかりましたかね?)


 パロマの側へ放った斥候のすべてが戻ってこない。捕まったのか、或いは警戒網が広く、戻ってくるのに時間がかかっているだけかもしれないが、あまりよろしい状況とは言えなかった。


『いかがなさいますか?』


 護衛騎士がデイドンに尋ねる。このまま放置するか、対応をとるか。その言葉にデイドンは首を振って口を開いた。


『進みましょう。戦力も士気もこちらの方が高い。捕らえられたのならば、相手も斥候を通してこちらの意図も察しているはず。むしろ、手紙でも送ったと思って気楽に考えましょう』

『はっ』

 そして、デイドン指揮の元、彼らは進軍していく。もう一時間ほどでモロバ砦へと彼らは辿り着くだろう。多少のイレギュラーが発生していようとすでに鉱山を支配下においているデイドンにもはや恐れるものはなかったのである。


 この時点においては……であったが。




  **********




「とんでもないモノに運ばせてるね」


 デイドンたちが進軍しているのと同時刻。

 ババール砦でジョン・モーディアスの護衛を引き受けていたマイアーがベラたちを出迎えていた。もっとも、連結した鉄機兵用輸送車キャリアを運んでいるドラゴンゾンビの姿を見てその顔はひきつっていた。

 砦外にドラゴンゾンビが待機させられた後も兵たちは興味半分恐怖半分でひっきりなしに見に来ているようだった。

 モルド鉱山街でのドラゴン騒動はすでにババール砦にも知られている。故にここで暴れられたらと思うと彼らも気が気ではなかったのであろう。

 ともあれベラも他のメンツもさして気にしている様子はない。ドラゴンゾンビのそばにはヴォルフが常にいるので、特に問題も起きないだろうとベラも考え、砦の案内された部屋でくつろいでいる。


「鉱山街を落としたのは聞いていたけどね。最終戦でそっちが外されるとは思っても見なかったよ」


 マイアーの言葉にベラが笑う。その分の報酬は得ているのでベラにはわだかまりはないが、マイアーはそうは思っていないようだった。


「それでそっちはどうなんだい?」


 ベラがマイアーに尋ねる。ベラたちがジョン・モーディアスの配下に入ったことでマイアー率いるローゼン傭兵団はジョンの護衛としてこの砦に待機していたのである。


「そうだね。坊ちゃんはお変わりなく。あたしの方はこのままモーディアス家まで護衛につこうと思ってる」

「坊ちゃんね。はー、ほだされたかい。年甲斐もなく」

「わ、悪いかい?」


 そう言って顔を赤くするマイアーにベラは肩をすくめてヒャッヒャッヒャと笑う。


「いんや、別に。けどね。アレのオヤジさんは死ぬほど怖いってえ話だよ。精々殺されないようにね」


 ベラの言葉にマイアーはあはははは…と苦笑いをする。その問題はジョンからも話は聞いているようだった。そして父親以外にもジョンにはヴァーラという腹違いの弟がいる。

 ジョンの父親で大戦帰りの猛者ガルド・モーディアス。そして跡継ぎを狙う弟のヴァーラ・モーディアス。どちらもマイアーにとっては厳しい相手であるはずだった。


「デュナンの方はどうだい?」


 続けてのベラの問いにマイアーは淀みなく答える。そちらも特に問題はないようだった。


「あの騎士様ならおとなしいもんさ。代理主であるあたしにも従順だしね」


 そういうマイアーに「ならいい」とベラが頷く。


「あたしはアレを連れてとっとと出なきゃならないからね」

「急ぐのか?」


 マイアーの問いにベラが頷きながら笑う。


「あの領主様はあたしにさっさといなくなって欲しいらしいからね。十分な報酬はもらったし、爵位なんかも与えられてるからね。顔を立てて居座らずに出て行ってやるのさ」


 ベラの言葉にマイアーの目が丸くなる。ベラのような傭兵団の団長で爵位を与えられる者がいないわけではない。大戦後の困窮した状況下では、地位すらも報酬として用意せざるを得なかった。だが、それでも名が売れ始めた直後の傭兵団長にというのは異例なことであった。


「なるほどねえ。貴族様になっちまったのかい。となるとベラ卿とでもお呼びすればいいかい?」


 マイアーの言葉にベラが肩をすくめる。


「好きにしなよ。もうじき戦争も終いだしね。どのみち、あたしらはもういらない存在だ。さっさと流れるに限るのさ」


 傭兵たちはひとつの戦争が終わればまた次の戦場へと出向くことになる。そうして、戦場を転々と生きて、やがてどこかで根を下ろすか、途中で朽ちていくのが彼らの生き方だ。

 そして、ベラは窓の外を見た。


「もうじき昼かい。もう戦端が開かれてる可能性もあるが、はたしてデイドンの望み通りに戦いも起こさず、停戦協定を結ぶことは出来るかね?」


 そうは口にするものの、ベラもデイドンの勝利を疑ってはいなかった。どう始末をつけるか。問題はそれぐらいだろうと考えていた。




  **********




 そして、ジャカン傭兵団の列が止まったのは昼を過ぎた頃だった。


『団長。前が止まっていますね』

『ああ、どうしたんだ?』


 エルフのラクリアの言葉にゴリアスが眉をひそめる。前方の団が止まっているようで、しかも、なにやら騒がしい音が聞こえてきていた。


『わかりませんが……』

『奇襲か。連中も必死だってことか。まあ、しゃーねえな。ここで迎え撃つぞ』


 ゴリアスの鉄機兵マキーニ『ヘッジホッグ』が鉄球メイスを構えて立ち止まり、仲間たちもその場で隊列を組み直し始める。


『あん? なんだ、ありゃ』


 しかし、ゴリアスはすぐさま状況の異常さに気付いた。周囲の気配が濃くなっていることを肌で感じ取っていた。


(仲間が、次々と殺られて……いる?)


 敵の侵攻速度がおかしい。共に進んでいるはずの傭兵団や騎士団の悲鳴が轟き続け、獣臭のようなものが満ちてきている。

 そして、ソレはついにゴリアスたちの前までやってきた。


『ギャアアアアアッ!?』


 逃げ出してきたのだろう。しかし、捕まって金属の装甲がかみ砕かれ、鉄機兵マキーニ乗りがつまみ出されてソレに喰われたのをゴリアスたちは目撃する。


『あれは鉄機兵マキーニなのか?』


 ゴリアスが呻く。その場にいる誰も彼もが目を見開いてその姿を見ていた。それは、見た目は鉄機兵マキーニのようだが、狼型の巨獣に無理矢理鉄機兵マキーニの装甲を着せたような奇妙な姿だった。その口はたった今人間を喰らい、血が垂れ落ちていた。


『団長。か……囲まれてます』


 部下からの声が届くが、ゴリアスは返事が出来ない。その巨獣鉄機兵マキーニは、目の前の一機だけではなかった。気がつけば周囲を異形たちに囲まれていた。それはつまり、他の傭兵団は壊滅していたということ。


『グググ、傭兵か。我ら獣機兵ビーストに対してもはや旧型となった鉄機兵マキーニで挑むか?』


 目の前の、もっとも巨大で明らかに格の違う異形から声が響いた。


獣機兵ビーストだと?』

『団長、これは?』


 響いたラクリアの言葉に周囲の異形たちの気配が震えた。それは歓喜、欲情にまみれたケダモノたちの喜びの気配だ。


 女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。女だ。


 ゲビた笑いが漏れる。獣たちの猛り笑いがその場に響き渡る。もはやジャカン傭兵団の戦士たちはその場で顔を青くして立ち尽くすしかなかった。違うのだ。明らかに、それらは異質すぎて自分たちとは別の世界の存在だと理解せざるを得なかった。


『いいぞ。どうせ、この戦は遊びのようなものだ。壊れるまでは遊んでやれ』


 獣機兵ビーストの長らしき者の声とそれに歓喜する男たちの笑いに、ラクリアの顔が恐怖に歪む。


『てめえらッ』


 ゴリアスは叫ぶ。

 そしてまったく迷いなく鉄球メイスを向けて、そして撃ち出した。ギミックウェポンの不意の一撃。例え、どれだけ強そうな存在だろうともその一撃ならば……と、ゴリアスは笑った。


『ほぉ』


 しかし、それを獣機兵ビースト長は右腕だけで受け止め、ゴリアスの顔が驚愕に歪んだ。


『な……!?』

『面白いな。これは俺が貰おう』


 獣機兵ビースト長はニタリと笑う。その顔は本当に生きているかのように笑ったのだ。


『さあ、虐殺せよ』


 そして、獣機兵ビースト長が手を挙げると獣と機械の軍団はゴリアスたち、ジャカン傭兵団に一斉に襲いかかった。そこから先はもう、ただの地獄であった。




  **********




『何が、何が起きているのです?』


 デイドンは叫んでいた。戦いが開始されている。声が響き渡っている。それは徐々にデイドンの元へと迫っている。つまりは、デイドンの軍勢は圧され、負けているということだった。

 そして、待機しているデイドンの鉄機兵マキーニ『エルダーグレイ』の元に護衛騎士の鉄機兵マキーニが戻ってくる。


『デイドン様、大変です。敵は数千の鉄機兵マキーニを率いています』


 その言葉にデイドンを含めた周囲がざわめく。それはもはや絶望的な数字だ。しかも、続く騎士の言葉はさらに驚くべきものだった。


『それにあれは、あの旗印は』


『ローウェン帝国です!!』


 悲鳴のような声が響いた。デイドンは聞いた言葉に思わず『は?』と間抜けな声で聞き返した。あり得ない名前が聞こえた気がしたのだ。


「ろー……うぇん……だと?」


 そして、絶望が落ちてくる。

 ドサッ……と彼らの前に、翼の生えた異形な、そう、ベラの報告にあった竜の姿を模したような異形鉄機兵マキーニが降り立った。それも……


『1、2……4、5……いや、もっと……』


 デイドンたちはすでに取り囲まれていた。天より現れた九機の異形鉄機兵マキーニたちがその場を囲ったのだ。もはや逃げ場はなかった。


『なんだ、お前たちは?』


 デイドンが声を張り上げて叫んだ。しかし、答えはない。


『虐殺せよ』


 ただ機械的な声がその場に響き渡り、異形鉄機兵マキーニたちは一斉にデイドンたちを襲い始める。

 そこはもう戦場ではなかった。竜を模した竜機兵ドラグーン、獣を模した獣機兵ビースト、二種類の異形の鉄巨人たちが人間という脆弱な存在を喰らうためだけの狩り場となっていた。




 そしてデイドン率いるルーイン王国軍はその日、壊滅したのである。ローウェン帝国の旗の元で。


次回更新は7月24日(木)0:00予定。


次回予告:『第60話 幼女、新入りを見る(仮)』


たとえ、どこで誰がどうなっていてもベラちゃんたちはベラちゃんたちで出来ることをするしかありません。

ベラちゃんは新しくお友達になったお兄さんたちと早く仲良くなりたくて仕方ないようですよ。

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