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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第57話 幼女、珍しいものを見る

「ふむ。これは……」


 その物体を前にヴォルフの口からうなり声が漏れた。


 現在ヴォルフはベラの陣地内のドラゴンの死骸の置かれた場所にいた。その場には他にベラと従者のパラ、護衛のボルド、さらにはデイドンの兵士と、運び込まれたブラッドスライムの入っている檻をバルとゴリアスの鉄機兵マキーニが挟む形で立っていた。

 そんな中でヴォルフはドラゴンの死骸の状態を驚きの顔で見ていた。


「さすがに最強種と呼ばれるだけはあるということか」


 ヴォルフの想像以上に死骸となったドラゴンの肉の鮮度が落ちていない。それがヴォルフには分かった。


「この気温の低い気候だからということもあるのだろうが……肉質そのものに魔力が込められていて今も『生きている』。恐ろしい生命力を持っているようだな」


 ヴォルフの口から出た言葉に、ボルドや兵たちがビクッとなってドラゴンを見る。今も生きていると聞いてはまた目覚めるのではないかと疑ってしまうのも仕方がないが、現状ではそんな様子はなさそうではあった。


「オタオタするんじゃない。動き出す気配なんてないよ」


 そう口にするベラにボルドがおっかなびっくりといった顔をしながらドラゴンを改めて見る。確かにベラの言う通り、ドラゴンの死骸はピクリとも動く様子はない。


「ベラだ……ご主人様の言う通り、現状において問題はない。生きているというのもあくまで肉の質のことだ」


 ヴォルフはそう口にする。そして、全体を見渡した後に胸部より上、首元にある、竜心石に似ているが一回り以上大きい水晶球を見た。


「そいつが何なのか分かるのかい?」


 ドラゴンが再生したときにその水晶球が光を放つのをベラは見ていた。そして、ヴォルフはその問いに頷いた。


「ああ、『竜の心臓』というものだろう。俺も実物は初めて見るが伝え聞いている通りのものであれば、魔力を発生させる石だと聞いている」


 その言葉にベラが「へぇ」と呟いた。


「竜心石も今でこそ長い年月を生きた鉄機兵マキーニが生み出しているものだが、元は『竜の心臓』の核部分を加工して鉄機兵マキーニの心臓部にしたのだと聞いている」

「つまり……鉄機兵マキーニはドラゴンの心臓を使って動いていると?」

「かもしれん。三百年前に鉄機兵マキーニを生み出した賢人会が隠れてしまい、もう真相を知っている者はおらんがな」


 ベラの問いにヴォルフがそう答えた。そしてヴォルフは「これならば問題はないだろう」と言いながらブラッドスライムを、続けてベラを見た。


「……頼む」

「おや、もういいのかい? それじゃあバル、出してやりな」


 ベラの声にバルの鉄機兵マキーニ『ムサシ』が頷き檻の扉を開けていく。するとブラッドスライムがズルリと檻から出てきて、ゆっくりとヴォルフの前へと進んでいく。


「おいおい、大丈夫かよ」


 ボルドが強ばった顔で動くブラッドスライムを見る。巨獣のタイプとしては小さいのだが、人間相手には十分すぎるほどの驚異には変わりない。パラもいつでも風精機シルフィを出せるように構えているが、そんな周囲の状況を無視してヴォルフはブラッドスライムへと声をかける。


「待たせたなロックギーガ。新しい宿がそれだ。入れ」


 ヴォルフの言葉にブラッドスライムがプルプルと震えると、ドラゴンの死骸に向かって動き出した。


「ロックギーガ?」


 ベラがヴォルフの言葉に訝しげな顔をすると、ヴォルフが口を開いた。


「元々はゴーレムの中にいたのだ。その頃からそう呼んでいる」

「あー、なるほどね」


 ベラが頷いたのを見ると、ヴォルフは視線をドラゴンの死骸へと向ける。そして、斬られた首の断面からドラゴンの胴体へとブラッドスライムは侵入していく。ズルズルと音を立てながら、その身を細くしながら入っていく。


「なんと醜い……」


 エルフであるパラには刺激の強すぎる光景だったのだろう。眉をひそめてその様子を見ている。

 そして、体内に異物が入り込んでいくドラゴンの死骸がブルルと震えると傷口から赤い血が噴き出し、さらにはブラッドスライムのであろう赤い粘体が出てきてその傷口をも塞いでいく。

 続いては切り離されて分離されていたドラゴンの頭部に繋がる首の中へもブラッドスライムは入り込み、やがては首と胴をブラッドスライムが引っ張り上げて繋がっていった。その間にもドラゴンの口や鼻、目などから赤黒い体液が飛び出し、見るに耐えない形相をしながら痙攣をしている。


「うげえぇええ」


 ついにベラの後ろでボルドが吐いた。パラはすでに視線をドラゴンから背けており、兵の片方もボルドに触発されて嘔吐していた。

 大のオトナ二人が吐かざるを得ないほどに、生物の中に粘体が潜り込んでグリグリと蠢いている様は生理的嫌悪を呼び起こさせる光景であったがベラは気にせずにその様子を興味深そうに眺めていた。

 ドラゴン全体がビクンビクンと痙攣しながら、見た目だけならばもう元通りと言っていいほどに姿を整えていくのだ。グロテスクな光景に耐性があるならば、一見の価値はあったのだろう。


「これで終いかい?」


 そして、ひとまずはドラゴンが形になったのを確認したベラがヴォルフに問いかける。


「いや、実際にこの巨体を掌握するのはここからだ。ブラッドスライムは神経に偽装しその生物の乗っ取りを行う。内部に入り込んで少しずつ延ばし、全身に行き渡らせて使えるようにする。まあ、実際にまともに動かすには一日か二日はかかるだろう」


 ヴォルフの説明に「結構かかるもんだね」と言いながらベラが頷く。それからベラは後ろに控えているエルフに対して「パラ、ひとまずは任せる」と声をかけた。ベラもそこまで付き合いたいと思うほど熱心ではなかったようである。

 ベラの指示にあからさまにパラは嫌そうな顔をしたが、それを声にあげることまではさすがにしない。パラはベラの配下では唯一奴隷ではないが扱いとしてそう違いがあるわけでもない。絶対服従の従者の立場だ。そして「了解です」とのパラの言葉にベラは頷き、ボルドを連れてその場を離れた。




  **********




「ふー、助かったぜ」


 場を離れたボルドが開口一番にそう声をあげた。それにベラがヒャッヒャと笑う。ボルドの心底救われたという感じの顔がおかしかったのである。


「さすがに二日も見てるには退屈な見せ物だからね。まあ新人には気張ってもらうしかないね」


 新人とはもちろんエルフのパラ・ノーマであった。奴隷の身分ではない自由な身である以上は、ベラの副官に近い立場であり、今後は色々と動いてもらうことも多い。つまりはボルドの受けていた雑用係がシフトしたということでもあった。

 もっともボルドとしては残してきたパラの身を案じざるを得ない。


「俺だってゲーゲーいっちまったんだ。あのエルフの兄ちゃんも相当キてると思うけどな」

「後でゴリアスのところの連中と交代して見張らせるでもするさ。しかし、完了に二日となるとここを出るのは四日後ぐらいにするかねえ」


 ベラの言葉にボルドが口元に当てて考え込む。


「そうだな。パロマ方面の砦への侵攻が五日後という話だったか?」


 その言葉にベラが「そうだよ」と答える。

 すでに街は取り戻し、パロマも退いた。デイドンはパロマ側の山の麓の砦へと攻め入り、そこで停戦勧告を行う予定だと言っていた。或いは攻め込めそうなら砦も取ろうという考えのようではあったが、そこにベラドンナ傭兵団はいない予定となっている。

 勝ち過ぎたベラドンナ傭兵団は最後の舞台の主役をデイドンに譲るためにここで退場し、山を下りてルーイン王国内に戻ることがすでに決まっているのだ。そのための報酬が着々とベラに届けられているわけであった。


「あのドラゴンはともかく『アイアンディーナ』は仕上げておかないといけないからね。あんたにゃ、そっちを気張ってもらうよ」

「わーってるよ」


 ボルドが肩をすくめながら頷いた。それからベラへと視線を向ける。


「けど、ありゃ相当に難物だぜ?」


 ボルドの言葉にベラがヒャッと笑った。


「使いこなしてやるから、あんたはそういうのは気にするんじゃないよ」


 ベラの言葉にボルドが少し唸るが、そうこうと話している間に目的の場所へと辿り着いた。


「おんや。ご主人様にボルドの旦那、終わったんですかい?」


 そこにはジャダンがジャカン傭兵団の面々といて、二人が来たのに気付いて声をかけてきた。


「まあね。こっちはこっちで重要だしね」


 そう言いながらベラは、鉄機兵用輸送車キャリアに鎮座する右腕のない『アイアンディーナ』と、その横に置かれた奇妙な鉄機兵マキーニの腕を見た。


 その腕はまだドラゴンになる前に斬り飛ばされた異形鉄機兵マキーニの腕。それは、これから『アイアンディーナ』に移植されるはずのものだった。


次回更新は7月17日(木)0:00予定。


次回予告:『第58話 幼女、パワーアップする(仮)』


子供らしくベラちゃんがはしゃぎます。

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