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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第54話 幼女、食事中にお邪魔する

『パロマが撤退していく?』


 ルーイン王国ロッセル騎士団に所属するゼルジ・テイラーは目の前の状況に目を丸くしていた。鉱山街モルド奪還戦はすでに街内での戦闘に入っていた。正門を突破したルーインと中で待ち受けていたパロマの勢力の壮絶なつぶし合いが行われていたのだ。しかし、未だどちらが優勢かも見えない状況の中でパロマの兵が突如として退き始めたのである。


『どういうことだ?』


 ゼルジは起きている状況を飲み込めず、そう口にした。罠なのではないのかとも考えた。しかし、敵が退いて周囲の状況を見る余裕ができたことでゼルジは目撃してしまう。


 戦場の中心に『全長10メートル』はあろう『翼の生えた』『炎を吐く』巨大な『トカゲ』がいたのだ。その姿を見て、ゼルジの頭の中に浮かんだ単語はひとつだけだった。


(……ドラ……ゴン? いや……)


 己の中でその言葉を反芻させたゼルジは、すぐさま心の中で否定する。


『馬鹿な。物語の中だけの存在だぞッ』


 ゼルジが叫ぶのも無理はない。最強種としてイシュタリア大陸全土を君臨していたとも言われるドラゴンは当の昔にこの大陸から姿を消していた。今では残された亡骸だけが存在を証明するただひとつのものとなり、それすらもただの巨獣のものとして見る者も多い。竜史学に詳しくなければ、おとぎ話の中だけの生き物だと考えていてもおかしくはない。

 しかし、ゼルジは確信する。あまりにも圧倒的な威圧を放ち、その動きは速く、異常なまでに強力な力を持った怪物はやはりドラゴンと呼ぶべきものなのだろうと。

 さらにゼルジは目撃してしまう。ドラゴンは人を喰らっていたのだ。胸部ハッチを破壊して、中にいる人間を取り出し、裂けた口の中へと放り込んで咀嚼しているのをゼルジは見てしまった。

 ゼルジは呆気にとられながらその光景を何度となく見ているうちにドラゴンが食べているのは人間ではないのでは? という疑問に思い当たった。


(今度は首だけ? いや、狙いは竜心石なのか?)


 ゼルジは己の胸にかけてある竜心石を見る。淡く輝き、脅えているようだった。


『ええい、取り囲め』

『巨獣相手に何を手間取っておるかー』


 さらにはゼルジの見ている前でルーイン王国軍の精鋭であるマードック騎士団がドラゴンを取り囲み、一斉に槍を突き立てた。刃は鱗らしき部分には通らなかったが、部位によっては突き刺さったようである。


『ようし、続けて攻撃をッ…オォォオ!?』

「ガァアアアアアアアア」


 しかし、次の瞬間には囲んだ鉄機兵マキーニたちがドラゴンの放つ炎に焼かれて、崩れ落ちていった。至近距離でドラゴンの炎を喰らったのだ。鉄機兵マキーニの中にいる人間も当然生きているはずがなかった。


(あれだけ槍を受けて死なない。だけど、ダメージがないわけではない)


 ゼルジは自身がやりたいとは思わないが、相手も無敵ではないのだと理解する。それは周囲の兵たちも同様だった。相手も生き物なのだ。攻撃し続ければいつかは殺せるだろう。そんな光明を得た兵たちの期待は、しかし次の瞬間には脆く崩れ落ちた。


『傷が治っていく……』

『嘘だろ。なんなんだ、あいつはッ!?』


 絶句する声や絶叫が戦場を駆けめぐる。その中でゼルジは絶句する方だった。声などでない。いや、出せない。

 なぜならば、ドラゴンの視線はゼルジの鉄機兵マキーニを見ていたのだ。その目を見れば分かる。獲物を見つけた瞳だとゼルジは理解する。

 そして走り出すドラゴンを見て、ゼルジはフットペダルを踏んで己の鉄機兵マキーニをUターンさせて脱兎のごとく逃げ出した。しかし、間に合わない。ドラゴンと鉄機兵マキーニでは移動速度がまるで違うのだ。


『いやだ。ちょっと、待っ』


 ゼルジが叫ぶが当然ソレが待つことはなかった。ドラゴンに飛びかかられ、ゼルジの機体はその場で倒されて仰向けにさせられる。


『ひっ、ヒッィイイイイ』


 そしてドラゴンは胸部ハッチを力任せに外すとそのまま器用に鋭い爪の生えた指でゼルジを取り出した。


「が、脇が刺さって、いや、違う。俺じゃないよな。欲しいのはこれだろ?」


 ギョロリと見るドラゴンにゼルジは胸のある竜心石を見せる。ゼルジは見ていた。そして気付いたのだ。ドラゴンが食べているのは人間ではなく、鉄機兵マキーニ乗りが例外なく首にかけている竜心石であろうことを。だから、竜心石を渡せば、自分は助かるはずだと……


「ほら、今取るから。ああ、鎖が取れな……あと少」




  **********




『おお、喰われたね』


 離れた位置で状況を観察しているベラが、またひとり鉄機兵マキーニ乗りがドラゴンに喰われているのを見ながら口にした。


『ベラさん、そろそろ出てもらえませんかねえ』


 通信からはデイドンの声が響く。デイドンの要請で仲間たちと離れたベラはすでに正門前に来ていた。しかし、ベラはまだドラゴンへは挑んではいなかった。


『落ち着きなよ。どうせパロマとの戦闘も終了したんだろ。なら、多少減っても問題ないさ。数が減りゃあその分、金ぇ出さなくていいんだからむしろ御の字じゃあないかね領主様』

『この後にパロマ側の砦にも向かうんですから、数は多い方がいいんですよ』


 デイドンの答えにベラは『そうかい』と返す。とはいえ、観察も勝利を収めるには重要な要素だ。また別の問題をベラは口にする。


『まあ、アレは良いとして、パロマはどうなんだい?』

『良くはないのですがね。パロマは完全に街から兵を退きましたよ。ドラゴンの介入が決定的だったのは確かでしょうが、原因は不明です』


 その言葉を聞いてベラは再度ドラゴンを見る。当初、目の前で暴れているドラゴンはパロマを狙っていたらしい。しかし、パロマの兵が一斉に退いたことで狙いはルーインの兵に移されていたのだ。


『そのまま、あっちに付いてってくれりゃあ良かったんだけどね』

『ドラゴンに聞いてください。で、やれますか?』


 デイドンの問いにベラは『ヒャッヒャ』と笑う。


『周りを下がらせておくれ。相手に餌をあげてるだけだよ、ありゃあ』

『分かりました。ドラゴン殺し、期待してます』


 そう言ってデイドンが通信を切ると、ベラは『アイアンディーナ』のグリップを握って、ドラゴンを見る。


『ま、殺すだけならそこまで手間取る気はしないねえ』


 生け捕りなんて言われた日にはベラも考えざるを得なかったが、しかし目の前のソレは速いだけ、力があるだけ、再生するだけだ。ならば他愛ないと、ベラは鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』を建物の影から出してフットペダルを踏んで走り出させた。

 また、デイドンの指示が行われたのだろう。周囲の鉄機兵マキーニがドラゴンから退いていく。


 そしてドラゴンは自分へと向かってくる鉄機兵マキーニを見る。それがかつて■■■■だったときに執着していた何かであったことをドラゴンは思い出す。すでに腹も膨れた。もはや、■■■■だった頃のこだわりなどないが、心の片隅にのこるシミを消そうとドラゴンも『アイアンディーナ』に向かって走り出した。


『ヒャッヒャッヒャ』


 ベラが笑いながら、ドラゴンを睨みつける。

 ドラゴンはもう以前のように槍は持っていないようだった。攻撃手段は牙だ。ドラゴンは伸びた首を前に出してあぎとを広げてベラに噛みつこうとしていた。


『トロいねえ』


 ベラはその攻撃をワンステップで避けながらショートソードを抜いて、すれ違いざまに右目に突き刺した。


「ガァアアッ」


 叫び声があがる。

 しかし『アイアンディーナ』は止まらない。ドラゴンを通り過ぎながら身体を回転させ、そのまま遠心力で勢いのついたウォーハンマーを背の翼の付け根に叩きつけた。


「ギャアアアアアッ!?」


 バキバキと骨が折れる音がしてドラゴンが悲鳴を上げ、そのまま前のめりに倒れる。


『一瞬でドラゴンを倒しただと?』

『なんなんだ、あの赤い鉄機兵マキーニは?』

『あれが赤い魔女ベラか』


 アイアンディーナを知る者も知らぬ者もあまりの一瞬でドラゴンが崩れ落ちたのを見て目を丸くしている。

 ここまでルーイン王国軍が苦戦していたドラゴンを相手に、たった一機の鉄機兵マキーニが一撃どころか二撃も喰らわせて、そのまま倒したのだ。


『ま、こんなもんかね』


 そう言いながらベラはトドメを刺さず、一度距離をとってウォーハンマーを構えた。

 ドラゴンも倒れはしたが死んだわけではない。そもそもドラゴンは四足歩行なのだ。腹這いになったからといって不利になったわけでもない。


「グルォ」


 そして、ドラゴンはその獰猛な視線をベラに向けて牙を剥く。ドラゴンの瞳はまだ死んではいない。暴力の色をさらに深め、ベラを睨みつけていた。


次回更新は7月7日(月)0:00予定。


次回予告:『第55話 幼女、釣りをする(仮)』


悪い見本を見て、そうならないように学ぶのも

お勉強としては正しい方法ですね。

次回はベラちゃんが初めての釣りをします。

大きい獲物がかかるといいですね。

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