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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第51話 幼女、頑張る

「ああ、ブルーメ。分かるよ。貴方は愛してくれている。私のミルアの門がふやけちゃうくらいに」


 まだ少女を抜けたばかりの年頃、しかし今や女ですらない異形。

 マリーアと呼ばれていた存在は、もはや己の意識すらもソレと融合し始めていた。

 マリーアの口にするミルアの門など既に存在してはいない。貫いた肉腫はマリーアと接合しただけではなく肉質を溶け合わせ、今やマリーアの下腹部から下半身までは操者の座コクピットと融合している。


「ブルーメ。あなたの熱を感じる。ああ、良いわ」


 マリーアの恍惚な表情にソレは喜びを感じる。

 ソレはマリーアの心を受け、ただ望むままに実行しているだけだった。マリーアがブルーメを望むからブルーメとなり、マリーアが繋がりたいから繋がり、マリーアがひとつになりたいからひとつになった。

 目覚めた幼き魂は呼び起こした親に言われるがままに願いを実行し続ける。魂力プラーナという創世の土を用いて実行し続ける。


「さあ、ブルーメ。私と一緒にあなたを殺した女を殺そう。あなたの痛みをアレに与えよう。あなたを殺したようにあの女を殺してやろう」


 マリーアが笑う。口元が裂ける。ソレはマリーアの望みを実行する。裂けるほどに笑いたいマリーアの望みを叶え、実際に裂けさせて笑わせる。


 この事態をコージンは恐らくはまったく予想していなかっただろう。

 異形の鉄機兵マキーニが近くにいなければマリーアの命が危うかった。だから離さなかった。望むから鉄機兵マキーニに乗せ、戦いへの参加も許したのだ。

 確かにコージンが異形の鉄機兵マキーニの性能を知り利用しようと考えたことも事実だ。そのためにマリーアが壊れてしまう可能性も考慮しながらも、なお了承した。

 だがコージンは予想していなかった。マリーアがそこまで狂っているとは予想していなかったのだ。生まれたばかりのソレがマリーアの願いを叶えていくことで餓え、魂力プラーナを欲して『自分たち』をも喰らい尽くしてしまうとは思ってもいなかったのだ。

 故にコージンは己の命を取りこぼすこととなる。そのまま中央に返り咲くことなくその場で指揮に入ったモード隊共々、ソレに喰われて死んだのだ。

 そして、もはや頭のいない戦場は混乱の限りを尽くしていた。

 それ故にパロマ軍はベラドンナ傭兵団への対応が遅れていた。辛うじて生き残った司令部が立て直し、指揮を再開して赤牙族が送り込まれた。そんな中、マリーアとソレはパロマの通信を拾い敵の場所を探りながら戦場を駆けていく。


 そう敵がいるのだ。願望装置たるソレはマリーアの意志を汲み取り敵に向かって駆けていく。叫び声をあげて一直線に──




  **********




『まったく、おかしいのばかり来るねえ』


 赤い鉄機兵マキーニからはそんな声が漏れた。空より何かが降ってくる。まるで巨獣のような、鉄機兵マキーニのような何かが槍を握って赤い鉄機兵マキーニに向かって特攻する。


(なんという速度かッ!?)


 その様子を見ていたヴォルフがうなり声をあげる。

 もっとも、勢いに任せただけの一撃は赤い鉄機兵マキーニにとっては驚異ではなかったのだろう。とっさにその場を下がって避け、空から来た鉄機兵マキーニの槍は赤い鉄機兵マキーニへは届かず地面へ突き刺さった。


『おやまあ、随分と姿形が変わったみたいだね槍使い』


 そして赤い鉄機兵マキーニは降りてきた何かへと声をかける。どうやら初対面ではないようだった。


(どういうことだ? アレと赤い鉄機兵マキーニは出会ったことがあるのか?)


 ヴォルフが見る限り、目の前のソレを鉄機兵マキーニと呼んで良いのかは判断が付かなかった。『狂戦士バーサーカー』と同じように巨人が鉄機兵マキーニの鎧を着込んでいるようにも見えるが『狂戦士バーサーカー』と違うのはソレは鉄機兵マキーニとしての形状も保っているところである。

 背のパイプからは銀霧蒸気が噴き出し、顔はトカゲに似た形になっているがその目は水晶眼で、可動部位も鉄機兵マキーニと同じ構造である。背に翼らしきものと尾がついているが、それも機械マキノ的な造形であった。


『避けるなぁあああッ』


 異形鉄機兵マキーニから声が発せられて、赤い鉄機兵マキーニに向かって走り出す。


『忙しいことだね』


 赤い鉄機兵マキーニからは呆れたような声が漏れ、やってくる槍使いの異形鉄機兵マキーニにウォーハンマーを振るった。槍とウォーハンマーが激突し赤い鉄機兵マキーニの方が衝撃により一歩下がる。


(『狂戦士バーサーカー』に匹敵するパワーだな。ふむ)


 ヴォルフは考える。『狂戦士バーサーカー』は怯え固まっていた。配下のヴィルガンテウルフも同様らしく、動きが鈍り敵の傭兵団に一方的になぶられ始めている。


(赤い鉄機兵マキーニを倒すにしても……あれは味方なのか敵なのかが分からぬ内は……)


 ドラゴン。かつて、蒼竜王アオによって新天地へと旅立っていった幻の巨獣。目の前の鉄機兵マキーニはドラゴンそのものではないだろうが、ドラゴンに連なる存在ではあるのだろうと巨獣から発せられる畏れを感じながらヴォルフは理解している。

 ソレが赤い鉄機兵マキーニと敵対しているのは見て取れるが、敵の敵は味方といえるほどにヴォルフの頭は呆けてはいないし、目の前の異形鉄機兵マキーニから発せられるのは強い憎悪だ。


『シャァアアアアッ!!』


 異形鉄機兵マキーニから奇声が発せられ、背の翼らしきものが広がって飛び上がる。


(飛ぶ?)


 ヴォルフの表情には驚きがあった。そして、異形鉄機兵マキーニは、宙に浮かびながら周囲の建物を蹴って赤い鉄機兵マキーニに向かって特攻する。


『チッ、速いか』


 赤い鉄機兵マキーニがわずかに声を漏らし、突き出された槍を弾く。しかし、異形鉄機兵マキーニは弾かれたまま大地に降り立つと再び飛んでタンッタンッとまるで猿のように身軽に地面を蹴り、周囲の建物を蹴り、赤い鉄機兵マキーニの周囲を縦横無尽に駆けめぐる。


鉄機兵マキーニの重量で出来ることじゃない。飛翔種と同じ理屈で動いているのか?)


 巨獣の中には空を飛ぶ種もあるが、それらは空を飛ぶのに翼も用いる。その推進力は主に魔法によってである。

 ただの翼では巨体を浮かすことは出来ない。魔法による補助なしでは彼らは空にいられない。そして、目の前の異形鉄機兵マキーニも同様の存在であるらしい。


『チョロチョロと鬱陶しいねぇ』


 そう声を出す赤い鉄機兵マキーニからは若干のいらえが感じられた。

 それも無理もないとヴォルフは考える。ここまでの戦闘に狂戦士バーサーカーに異形鉄機兵マキーニと立て続けに戦っているのだ。どれだけ屈強の戦士であっても体力精神力ともに限界に近付いているはずである。


『死ねェエッ!』 

『うるさいね。まったく』


 ギャリギャリと叫び声のような音が響き渡り、宙に何かが舞った。


『グギャアァアッ!?』


 異形鉄機兵マキーニが、うめき声を上げて飛び下がる。ヴォルフが瞬きをした後にはもう異形鉄機兵マキーニの右腕はなかった。赤い鉄機兵マキーニが腰より取り出した回転歯剣チェーンソーに切り裂かれたのだ。そして右腕は『狂戦士バーサーカー』の頭上を越え、背後の建物の二階に突き刺さった。


『速かろうと無駄に動けばカウンターを乗せるのはワケないのさ。弱くなってないかい、槍使いの女?』


 皮肉げな言葉が赤い鉄機兵マキーニから発せられ、異形鉄機兵マキーニがうめいて睨みつける。


『ブルーメをまたお前は傷つけるか!!』


(ブルーメ?)


 ヴォルフが眉をひそめる。聞いたことのない名だった。しかし、因縁の源はなんとなしに理解はできた。異形鉄機兵マキーニは赤い鉄機兵マキーニにブルーメと呼ばれる者を奪われたのだ。

 戦場において復讐を掲げるのは甘い考え……とはヴォルフは思わない。それを言えるのも成せるのも、本当に一握りの選ばれし者の特権だからだ。力在りし者だけが己の欲望を叶える。それがどういうものであれ。


 そしてヴォルフは、目の前の戦いをジッと見て機を窺う。どうであれ、ヴォルフに課せられたのは赤い鉄機兵マキーニの破壊と乗り手の始末。異形鉄機兵マキーニが仕留めるなら良し。赤い鉄機兵マキーニが勝利するならばその時は……と、神経を集中し始めた。

次回更新は6月26日(木)0:00予定。


次回予告:『第52話 幼女、もっと頑張る』


お姉さんは新しいお兄さんと熱々のようです。

愛する人と一つになりたい気持ちが止まりません。

とはいえ上司を食い物にするのはいかがなものかと思います。

肉食系女子って怖い。

あとベラちゃんは頑張りました。そして次はもっと頑張ります。

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