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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第47話 幼女、今度こそ街を蹂躙する

 ─ギャアアアアアッ──爆発が起きやがった──腕がっ、腕がぁああ──シャナイが潰された。誰か、手を貸してくれ──ここは安全じゃなかったのかよ──もう……腹が潰れて──殺されるッ!?──


 鉱山街モルド。その街の中の壁際の一角は今や阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡る地獄となっていた。


 彼らは油断していた。戦いの音の響き渡っていたものの、その場所は安全圏の筈だったのだ。だからパロマの兵たちはそこで待機していた。彼らの仕事は街の中にルーインの軍勢を引き込んでからとなる筈だった。それまでは彼らの仕事はひたすら待つこと……のはずだった。それが、


「畜生。なんだ。なんなんだよ、これはッ!?」


 今や彼らは強制的に戦場に引き摺り落とされた。それどころか、戦いの気配を感じる間もなく、あの世に直行した者も少なくはなかった。崩れた瓦礫の下から流れ出る赤黒い液体がそのことを言外に告げていた。


「逃げろっ。煙の中に何かいるぞッ!?」


 兵士の一人は叫ぶ。彼は見たのだ。唐突な爆発音と同時に壁が内側に崩れたのを。崩れた壁に仲間たちが潰されていくのを。その直後に割れた壁から爆風が発生し、飛ばされた石の欠片がその場の兵たちに突き刺さったのを。そして煙の先にいる巨人の影を。


「ちくしょう。なんだってんだ。うっ」


 さらに兵士は見た。黒煙の中から飛んで来た球体を。

 兵士の目には黒いボールのように見えたが、それは爆破型ボマーと呼ばれる特殊な火精機ザラマスの放った球状の積載型魔法陣の一種である。


「ぁ、あああ」


 目撃した兵士にとって最悪だったのは、その球体がなんなのかを知っていたということだった。パロマにもいる数少ない爆破型ボマーの技を兵士は知っていたのだ。


 そして、兵士は知っていた。目の前の球体が『爆炎球』という、魔術で生み出した爆弾であることを。それは爆発の衝撃と共に炎をまき散らす。爆破の衝撃で死ぬか、同時に発生する炎に焼かれて死ぬか。兵士はその後の自分の未来を予測できたが、それは避けようのない己の死を早くに教えてくれただけだった。


「ァアアアアアアアッ!!!」


 爆発とともに叫び声が響き渡る。衝撃の後に周囲を炎が覆い、その中で人は踊るように狂い転げ、痛みにわめきながら死に絶えていく。


 それを見て恍惚な顔をしている者がいた。


『ああ、良い……』


 ジャダンは火精機ザラマスに乗ったまま、その光景を見ていた。涙を流し、感動していた。炎の中で踊る影たちを見てジャダンのガーメの頭は糸を吐いていた。達していたのだ。


『貴様ぁあ』


 そして、壁の穴の前に立っているジャダンの火精機ザラマスに槍を構えた鉄機兵マキーニが特攻する。火精機ザラマスを見て、自分の団の人間を焼き殺した当人であることをすぐに鉄機兵マキーニ乗りには理解できたのだ。故に当然の怒りを込めて討ち取らんとして、


『避ける努力ぐらいはしたらどうだ?』


 そう苦い声を上げて後からやってきた黒い鉄機兵マキーニに頭から切り捨てられた。


『は、ああ……バルの旦那ですか。もう少しで絶頂のまま逝けたのに……』


 心底残念そうな声にバルが声を荒げる。


『お前の自殺願望は主様との契約が切れてからにしろ。お前の命はお前のモノじゃあない』


 ムスッとした声のバルにジャダンが『ヒヒヒヒ』と笑う。


『ここで死なないとパンツを洗わないといけないんですよね。やれやれ』


 残念そうにいうジャダンにバルの顔がますます歪む。バルにとって目の前の蜥蜴男はどうしようもないほどに価値観が違う存在だ。なにひとつ理解できる要素がないと改めてバルは考えるが、


『クソみたいな話をしてんじゃないよバカどもッ!』


 通信装置からの響き渡る罵声にすぐさまバルの思考は元に戻された。


『ジャダン、獲物はまだまだいるんだ。それでガーメが糸噴いたってのかい? 早漏すぎるんじゃないかい?』

『ヒヒヒ、すいません。まあ、賢者の一時も越えたところですしまたお仕事に戻りますよ』


 さきほどよりもはっきりしたジャダンの声が響き、バルも舌打ちをしながら視線を周囲に向ける。そして、頭も冷えたようなら当分は大丈夫だろうと考える。


(コントロールしろか)


 バルは以前にベラより聞かされた言葉を心の中で繰り返す。ジャダンという男は有用だ。だが、ここまでにあの男をまともに扱えた者はいない。性格が壊滅的なのだ。それをコントロールしろとバルはベラに言われている。


『本当に主様は難しいことを言う』


 剣を振るっているだけの方がよほど楽だと苦笑しながら、バルは逃げまどう兵たちを刀で斬り裂き続ける。ベラもウォーハンマーで周囲を掃除していく。


『しかし、あれだね。こう戦いばかりだとクサクサしていけないねぇ。これが終わったらでっかい街にでも行って豪遊でもしたいもんだよ』

『へぇ、ご主人様もそう考えるんですねえ』

『どういう意味だい?』


 ドスの利いた声にジャダンが慌てて言い繕う。


『いや、悪い意味じゃあありませんて。ここまで戦上手だと戦いのことを常に考えてる感じがあったんで、そういうのに興味があるとは思ってなかったんでさあ』


 ジャダンはヒヒヒと笑うが、その声には若干の焦りがあった。


『煽てるでないよ。あたしだって着飾りたいし、指にゴロゴロ宝石をつけたい年頃さね』

『宝石とか興味がおありなんですか?』


 ジャダンは今度こそ、本当に意外そうな声で返す。


『女だからね。当然だろ。今まではまずは戦をする体を整えるために金ぇ使ってたが、今回の戦で余裕が出来たからね』


 声が響いている。この戦場で、さも当然のように笑い声が響く。


『紅塗って着飾って街に繰り出したいねえ』


「殺し合いをしてるんだぞ。なんで笑ってられるんだッ!!」


 兵士の一人が叫ぶが、そんな声はベラたちの耳には入らない。

 ヒャヒャヒャと笑う声とともに、石畳の上が真っ赤な血で染まっていく。兵たちは目の前のノンキな会話を聞き、絶望しながら己の命を散らしていった。


 そして、その場の兵たちの掃討が完了した頃合いには周囲には騎士型鉄機兵マキーニが列をなして取り囲んでいた。建物に隠れながら対鉄機兵マキーニ兵装装備の兵たちも様子を伺っているようである。


『ルーインの傭兵かッ。貴様等、壁を破壊してくるとはなッ』

『何という連中だ。まともに戦争も出来んとは。そうして奇襲に頼らねば我らに抗せぬか』


 パロマの鉄機兵マキーニ乗りたちが口々にベラたちを罵倒する。もっともベラにしてみればそんな言葉はどこ吹く風である。相手の嫌がることをして、嫌がられたのだ。やったことが間違ってはいなかったのを彼らは自ら証明しているようなものだった。


『おーや、ようやくのお出ましかい』


 周りを見回して舌なめずりをしながらベラがニタリと笑う。

 まるで村の葡萄酒造りのための足踏みを思い出すかのように兵たちを潰していたベラだが、対鉄機兵マキーニ兵装も用意していない兵隊などそもそも彼女の敵にすらならない。だからいい加減、手応えが欲しいところだったのだ。そして構えて前に出るベラの『アイアンディーナ』に、バルの『ムサシ』が続き、鉄機兵マキーニ戦では不利な火精機ザラマスに乗ったジャダンは後ろへと下がっていく。さらに後ろに待機していたボルドがそのジャダンの前に立ち、大盾を前に出して、プレスハンマーを握っている。


『てめえら、配置に付け。鉄機兵マキーニの隊が来たぞーー!』


 そしてベラたちの背後ではゴリアスがわめき立てながら、ジャカン傭兵団を配置につかせていく。

 ベラたちよりもずいぶんと遅れての登場だが、ゴリアスたちは団員やその後に来るであろうルーイン軍も通れるように壁の穴の瓦礫を撤去し中に入れるように動いていたのである。


『連中の鉄機兵マキーニの数は少ない。対鉄機兵マキーニ兵装部隊は前に出ろ。鎖を放てぇえっ』


 叫ぶ騎士型鉄機兵マキーニの声が響き渡り、周囲に隠れていた兵たちが一斉に姿を現す。


『ヒャッ、行くよッ』

『承知したッ』


 そして、騎士型鉄機兵マキーニの指示により対鉄機兵マキーニ兵装が射出されたのを合図として、蹂躙された証の赤い絨毯を踏みしめながらベラとバルはパロマの軍勢への突撃を開始したのである。

次回更新は6月12日(木)0:00予定。


次回予告:『第48話 幼女、再び遭遇する』


蹂躙した。ちゃんと出来た。

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