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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第45話 幼女、街を侵攻する

 鉱山街モルドに近い山の中腹。

 ルーイン王国軍の軍勢が集結しつつあるその場所にベラドンナ傭兵団とジャカン傭兵団も既に到着していた。

 しかし、疲れきった彼らではあったが、その場ですぐさま休憩というわけには行かなかった。戦闘後の鉄機兵マキーニ調整メンテナンスが待っていたのである。


『くっそ。随分と濃い化粧にしてくれやがったなご主人様』


 指定されたベラドンナ傭兵団の陣地で、ボルドやジャカン傭兵団の整備部隊が忙しなく動き回り鉄機兵マキーニのチェックを行っている。中でもボルドは『アイアンディーナ』を見て頭をかきむしりながら荒げた声で叫んでいた。


「ヒャッヒャッ、しゃーないだろ。女の嗜みってヤツだ。男ならそのでっけえ胸板叩いて任せろって言えないのかい?」

『ジジイなんだよ、おりゃあよ』


 ベラの笑い声に苛立たしげに返事を返しながらボルドはベラの鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』の整備を行うべく地精機ノームを動かしていく。

 この『アイアンディーナ』には戦闘による損傷はないのだが、鉄機兵マキーニというのは元来あまり丈夫なものではないのだ。いつだって巨大な鉄の塊を振り回す関節部は悲鳴を上げているし、魂力プラーナの使用の多くは磨耗部分の修復に充てられる。

 ベラは負担をかけない操縦も上手くはあるのだが、本来であれば鉄機兵マキーニ一機で対応するようなものではない数の敵といつも闘っているため、当然負担も大きくなるのである。故に戦闘後の調整メンテナンスは非常に重要なのだ。

 とはいえ、今回の問題は関節部位の磨耗ではなかった。


『血塗れすぎんだよ。こりゃ、戦い終わったら全部バラして磨かねえと駄目だわ。重労働だぞ』


 巨獣戦においてベラのアイアンディーナは、自然魔力マナの薄い場所で魔力を吸収するための手段として、魔力濃度の高い巨獣の血を全身に被っていたのである。

 一緒にこびりついていた臓物などはすでに機体から落としてあるが、血に関しては装甲などをバラして内部洗浄しないとどうにもならなさそうであった。


『聞けば聞くほど無茶だとは思うし、そうするしかなかったのも分かるがな』


 精霊機エレメントの中でボルドはさきほどの戦闘を思い出す。

 鉄機兵用輸送車キャリアを運んでいたボルドは戦闘に参加していなかった。なので、もっとも全体の状況を把握している人物でもあったが、そのボルドの認識する限り、ここに来るまでに遭遇した戦いはベラがいなければまず間違いなく全滅していたと理解していた。


 ウルグスカ傭兵団だけならばなんとかなるだろう。というよりも実際にベラがいなくとも倒せてはいるのだ。もっとも大した被害なく壊滅に追い込めたのは、増槽タンクによる魔力をフルに使ったバルとジャダンのごり押しによるところが大きく、続いての巨獣との戦いはもう詰んだとしか言えなかった。

 問題なのはやはり場所なのだ。自然魔力マナの薄い地域では鉄機兵マキーニの戦闘力は著しく落ちる上に、魔力切れの問題もあるので鉄機兵マキーニ同士の接近も迂闊に出来ない。

 その中を巨獣たちはいつも通りの性能で戦い続けていられる。勿論、巨獣たちもその巨体を維持するには自然魔力マナが必要だが、短期間だけならば体内にため込んだ魔力だけで活動が出来る。それは戦闘時間としては十分なものだ。

 一方で抗せるのは増槽タンクを積んでいたバルの鉄機兵マキーニとジャダンの火精機ザラマスだけだったろうが、それもウルグスカ傭兵団との戦闘でほとんどの魔力を使い果たしていたのだから、続いての戦闘に耐えられたとは思えなかった。

 故にボルドもどう考えてもベラの選択こそが正解だったとは分かっている。しかし……


『生臭ぇぜ? こればっかりはどうにもならねえ』

「うっ、分かってるさ。クソッタレが」


 珍しく言い負かされたベラが悪態をついた。すでに時間が経過したことで尚更全身の血の臭いがキツくなり始めていたのだ。しかし、この場所では満足に洗浄することも出来ない。さすがのベラも諦めるしかなかった。

 そして、再びボルドが作業に戻ろうとしたところに見たことのない鉄機兵マキーニが近付いてきた。


『ベラさん、ご苦労だったようですね』


 その声にボルドの顔が思わず強ばり、乗っている地精機ノームもビクッと震えた。対してベラはいつもの笑顔でその声に返事をした。


「おや、デイドン様かい。ご自慢の『エルダーグレイ』に乗ってとは随分と気の早いことだね」


 ベラの返し言葉に騎士型鉄機兵マキーニ『エルダーグレイ』の中から笑い声が響いた。


『各団に挨拶に回ってるのでこの方が速くて良いのですよ。それよりも裏切り者の始末と巨獣の討伐、大変だったでしょう』

「まったくだよ。おかげでうちのディーナが生ゴミみたいな臭いになっちまった。大打撃だ」


 大袈裟……とも言えない顔でベラは『アイアンディーナ』に視線を向ける。


『ふむ、なるほど』


 デイドンの『エルダーグレイ』の視線が『アイアンディーナ』に向けられる。閉じられた胸部ハッチの中にも僅かに臭いが漂ってきているようだった。


『ならば、私のところのマーマンたちを貸しましょうか。水精機ウンディならばある程度の表面も洗い流せますが』

「おおー、さすが領主様だね。なら、お言葉に甘えようかね」

『そうしてください。何しろ……』


 デイドンも胸部ハッチの中で顔こそ見えないが、その声が若干上擦っていた。


『戦の英雄が乗るには……その、少々臭いですし』




  **********




『はは、『ディーナ』も綺麗になったねえ』


 最後のルーイン王国の軍が到着して1時間が経過した山の中腹。

 調整メンテナンスと洗浄も終わり、整列した兵たちの前に立つ鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』の中ではベラが上機嫌で笑っていた。

 既に各団の準備も整い、号令ひとつで出陣できる状態だ。


『取れたのは表面だけだ。そりゃ臭いは軽減されたが、ちゃんとメンテしねえと内部から腐るからな』

『分かってるよ。終わったらきっちりメンテを頼むよ』


 ボルドの言葉に、ベラが声を返す。


『ヒヒヒ、いいですねえ。これは』


 その横では火精機ザラマス『エクスプレシフ』の中でジャダンが笑っていた。

 ジャダンの火精機ザラマスの背には、先ほど活躍した増槽タンクが二機積まれてた。バルの『ムサシ』の分まで火精機ザラマスに積んだのである。


『落ち着けトカゲ』

『へーへー、バルの旦那。分かっておりやすよ』


 バルの苦々しい言葉にヒヒヒと笑うジャダンは上機嫌であった。増槽タンクがふたつも接続された分、爆炎球の弾数制限がほとんどなくなっていた。

 もっともその分重量が増したが、動きが鈍くなったので以前のように勝手に飛び出されることがなくなった点はプラスだろうと思われた。


『主様。巨獣に襲われて全滅した団がいくつかあるようですね』


 バルがベラに通信で尋ねてくる。先ほどの自分たちと同じように仕掛けられた団があることはベラも聞かされていた。


『ああ、傭兵団がみっつほど巨獣に潰されたらしいね。デイドン様からはあたしらに巨獣使いを優先して潰して欲しいって要請が出てる』


 ベラはそう言いながら後ろにいる精霊機エレメントを見た。


『なにせ虎の子の広域通信型リエゾンを寄越すくらいだ。思ったよりも切羽詰まってる感じだね』


 ベラたちの後ろに待機しているのは爆破型ボマー火精機ザラマスと同様に風精機シルフィの特殊型である。乗っているのはデイドンの配下のエルフで、長距離通信も可能な稀少機体であった。


『デイドン様より、何かあればすぐさまベラ団長に報告するように言われています』


 風精機シルフィからエルフから通信が寄せられる。


『へいへい。分かってるさ。ワンちゃんたちはあたしらが仕留める。まあ、上手く遭遇できればだけどね』


 エルフの通信にベラがにんまりと笑う。前回の巨獣との戦いの中では、理由は分からぬが本命の相手は出てこなかった。しかし、この戦ならば出し惜しみはしないだろうとベラは考えていた。


(後はあれが出るかだけど……)


 ババール砦で遭遇した槍使いの鉄機兵マキーニ。生きているかも不明だが、出てきたのならば面白いことになるかもしれないとベラは予想する。


 そんなことをベラが考えていると、本隊から進軍の指示の旗が揚がる。それを確認したベラは周囲を見回してから声を張り上げた。進軍である。


『そんじゃあ、行くよ野郎ども!!』


 ベラのかけ声に『オォオオオオオオオオ』と声があがり、鉄機兵マキーニたちが進み出す。他の隊も徐々に動き出し始めた。


 そして、戦いが始まる。モルド鉱山街を奪い合う戦争がここに開始されたのである。

次回更新は6月2日(月)0:00予定。


次回予告:『第46話 幼女、街を蹂躙する』


さて、いよいよベラちゃんも街にお出かけです。

ベラちゃんは迷子にならずに無事お使いを果たせるのでしょうか?

そしてワンちゃんと再会することはできるのでしょうか?

頑張れ、ベラちゃん!

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