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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団
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第03話 幼女、皮算用をする

 鉄機兵マキーニ。それはイシュタリア大陸に昔から存在している、人が乗り込むことで動く鉄の巨人の名称である。

 この鉄機兵マキーニは、空に流れる魔力の川ナーガラインから魔力マナを吸収して動くゴーレムに近い存在なのだが、金属で出来ているにも関わらず成長し、長く生きた鉄機兵マキーニは子を成すこともある。

 現在のベラが操る鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』は、3メートルほどの、小型でまだ若い鉄機兵マキーニだ。未だパワーもスピードも大したものではないが操縦には癖がなく、このまま成長していけばベラにとっての最良の鉄機兵マキーニとなる筈であった。

 もっとも鉄機兵マキーニが成長するためには他の鉄機兵マキーニや巨獣を倒し、魂力プラーナを奪わなければならない。戦場か巨獣狩りか、いずれにせよ戦うことが鉄の巨人の成長には必要だった。


 ベラはその若い鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』で街道を進み、数刻と経たずにヤルケの街までたどり着いた。チンピラが追ってこれたぐらいだ。元々、河原と街の距離は大してなかったのである。

 そしてベラが鉄機兵マキーニに乗ったまま、街の入り口に近付いていくと、門番であろう鉄機兵マキーニがズイッと『アイアンディーナ』の前に立って道を塞いだ。


『またお前か。そのまま街中には入れんと言っておるだろうが』

『ヒャッヒャッヒャ、すまないね。思ったよりも外にい過ぎたんでね。急いで帰ってきたんだよ』


 門番の鉄機兵マキーニからの増幅された声にベラもまた笑って返す。


『いいから降りて停留所に鉄機兵マキーニを置いてこい。とっ捕まえるぞクソガキ』


 その威勢の良い門番に急かされて、ベラは門番の指示するスペースへと『アイアンディーナ』を向かわせた。街中に鉄機兵マキーニで乗り込むのは基本御法度であるのだ。

 そのまま停留所へと鉄機兵マキーニを止めて地上に降りたベラは門の中の詰め所に入っていって、入門料を支払ってから自分の名前をリストに記帳した。


「なんだい、嬢ちゃん。さっきよりは綺麗になったんじゃないか」

「美人さんになったかい?」

「ああ、後10年したら口説かせてくれ」

「ヒャッヒャ、そんときゃ朝まで一緒に付き合ってやるよ」


 外の鉄機兵マキーニ乗りの門番とは違い、詰め所にいた若い警備兵のノリは良く、ベラもそんな軽いやり取りをしてから街の中へと入っていった。


 そうしてベラが門を抜け、街の中に入るともう日もほとんど沈んでいるようである。

 この世界は日が昇ってしばらくすると店が開き、日が暮れるとともに店が閉まるのが基本だ。酒場ならいざ知らず、傭兵組合もそろそろ閉まりかねない時間に近付いたわけで、ベラもすぐさま走って傭兵組合所へと向かうこととなったのである。



  **********



 傭兵組合所の扉がバンッと開かれた。


 ゲートキーパーの男はそろそろ来ると思っていたので、特に驚きもしなかったが、組合所の中にいた男たちは奇妙な眼差しでこの建物の中に入ってきた少女を見る。

 小さな子供がここに慌てて入ってくるようなことなど、彼らは目撃したことがない。もっとも鎧を着こなし、背にはウォーハンマーを背負っているところを見れば、同業者のような装いであることは分かる。その有り様は子供のままごとには見えず、何人かは小人コロボ族かとも思ったようだが、だが見れば見るほどにただの子供にしか見えなかった。

 男たちが見間違えた小人コロボ族とは背の低い種族ではあるが、やはり子供と大人とでは一目瞭然ではあるのだ。つまりは傭兵たちの目にはこのベラという少女はまったくもって意味の分からない存在として映っていた。


 そしてベラはそんな視線など気にも留めずに、ズカズカと組合所の中を歩いていく。物怖じしない性格である。絡んできたなら頭を潰してやればよいというぐらいにしか思ってもいないのだろう。


「金出しな」

「開口一番がそれですか」


 受付のミランがため息をつく。さきほどの問題児が再度やってきたと思えば開口一番にその言葉であった。

 無論、ベラはミランの心情などを気にしてやることもなく、目の前で「早く出しなぁ」と言いながら手をニギニギとしていた。それだけ見れば(微笑ましいかどうかは兎も角として)、目の前の少女が見た目通りの年齢の子供にも見えたかもしれないが、それはミランにとってはどうでもよいことである。


「ま、いいですけどね」


 ベラの様子にミランは肩を落としながら、用意していた銭袋を取り出して、受付のテーブルの上に置いた。ギッシリと詰まったソレを見て、何事かと様子を見ていた周囲の男たちの眼がさらに丸くなった。明らかにその金額は子供のお小遣いで収まるものではない。まるで盗賊団をひとりで平らげたかのような額のようだった。

「随分と多いね」

「まあ急だったんでアダマス硬貨もなかったんですよ。組合所の金をかき集めて、とりあえずは揃ってますんで、そこらへんは見逃してください」

 そのミランの言葉に「まあ、いいけどね」といいながらベラは銭勘定に入る。

「それと鉄機兵マキーニの買い取りも受け付けてますが、いかがします?」

「売らないよ」

 これからの相棒を売るバカはいないとベラは即答する。

「でしょうね」

 ミランもミランでそう答えるのは承知で、お約束として取りあえず聞いただけだ。そして事務的な話も済んだところで、ミランは渡された収穫物について気になった点を質問する。

「ところでひとつお聞きしたいんですが」

「なんだい。今、気分がいいからね。答えられることなら答えてやるよ」

 ヒャヒャヒャヒャと笑いながら錢袋の中身を確認しているベラが言う。

「渡された賞金首、全部後頭部が割られてたんですが、何か意味があるんですか?」

「なんだい。ツラは綺麗なんだから問題はないだろう?」

 首判定には問題ないが、臭いがキツいし掃除も大変である。あまりやってほしいことではない。

「ええ、まあ気になっただけなんですが」

 そのミランの問いにはベラは真顔で答える。

「人の頭を見たらかち割りたくなるのが人情ってもんだろう。野暮なこと、言うんじゃないよ」

 そのベラの言葉にミランが(ああ、やっぱりオカシいんだな)と頭の中だけで呟いたが当然ベラには届かなかった。

「ま、なんかスッキリさせたかったんだろうね。あいにく全員ハズレだったみたいだけどさ」

「アタリってのもあるんですか?」

 ミランも話の流れでつい聞いてしまう。

「アタリねえ。なんかね。昔から何かを割れなくて惜しかったって思うことがあってね。ドタマ割るとスッキリするんじゃないかと思ったのさ」

「私の頭は割らないでくださいよ」

 その言葉には「少し割ったぐらいの方がスッキリするんじゃないかい」と返されたがミランは無視した。スッキリあの世に行きたくはないのだ。

「それではサインを」

「あいよっ」

 そしてベラが書いたサインをミランが確認し、正式に銭袋がベラに引き渡されることとなる。

 ズッシリと重いソレは、890万ゴルディンが入っている。傭兵団がそれなりに大きな仕事をしたときでもなければお目にかかれない額であり、そもそもそうした仕事は単独で成し遂げるような筋のものではない。

「これだけありゃあ、予定のもん買うのにも不足はないかね」

「おや、何かご購入予定ですか?」

 ミランのその言葉にベラはヒャッと笑い「奴隷をちょっとね」と口にした。

「奴隷? まあ、今回の賞金額なら奴隷でも購入は出来るでしょうが」

「すぐに壊れないようなのが欲しいんだけどね。足りるかね?」

 ベラの言葉にミランが「ふむ」と考えた。

「やはり戦奴隷ですか。並の戦士ならば5~6人は問題ないでしょうが一級品となると難しいですね。最低でも1000万。場合によっては2~3000万。ここ最近でも貴族が競り合って億に届いた者もいたと聞きます」

「そうなのかい? まあ、ガタイがよくて面構えもそこそこならいいんだけどね。こんなナリだと思ったよりも絡まれることも多いみたいだし、そのたんびに頭を潰すのも面倒だろ?」

「まあ、どちらにとっても不幸なことでしょうね」

 ミランが肩をすくめてそう答える。

「あたしも小銭が増えるのは構わないけど、小銭稼ぎをしたいわけでもないのさ。そんなわけで威嚇できそうなのが欲しいんだよ」

 なるほど……とミランがうなずいたところで、少し考えてから言葉を返した。

「でしたら少し待ってから、戦奴都市に赴いてはいかがでしょうか?」

「戦奴都市?」

 ベラは聞いたことのないその名称に首を傾げる。

「ここから北にある戦奴隷を集めて競りにかけている都市です」

「それはもしかしてコロセスの事かい?」

 ベラが、自分が売りに出されるはずだった都市の名を出すと、ミランが頷いた。どうやら間違いないようである。

「ええ、隣国のパロマ王国との戦にケリが付きそうなので、そろそろまとめて入荷があるのではとの話でして」

 戦争が終われば捕らえられた兵などは戦奴隷として売りに出される。交渉次第では相手の国に高値で引き渡すこともあるが、そうでない者は戦奴隷として売りに出されることが多い。

「なるほどねえ。けど、その戦ってのはまだやってるのかい?」

 ベラもその辺りの事情は理解しているが、だがベラとしてはもっと大物を狙っていきたいという欲もあった。

「ええ」

「だったら現地調達ってのもアリかもしれないね」

 ベラの笑みにミランは「好きにして下さい」と答える。

 敵味方入り乱れる戦いの最中に殺さずに捕らえるというのは難しい。戦奴隷の大概は降伏後の投降した兵である。

鉄機兵マキーニとセット品で現地調達。まあそれが妥当かねえ」


 ミランはそんな少女の戯言を聞き流して、仕事に戻る。そして少女の少女らしくない笑い声が組合所の中に響き渡った後、ベラは早々に傭兵組合所を立ち去った。


 もはや、この街に用はない。ベラの心は戦奴都市コロサスに向けられていたのであった。

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