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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第38話 幼女、女を奪う

『よくもブルーメをったなぁッ!』


 マリーアの絶叫が戦場に木霊する。恋人の死に激昂し、怒りを露わにする。


 戦場での仲間の死。恋人の死。


 戦いの場においては死とは常に間近にある存在だ。その覚悟を持たぬ者に戦場に立ち入る資格はなく、ましてやそこに男女の関係を持ち込み、感情をむき出しにして怒り狂う者など下の下である……などと罵る者もいるだろう。

 しかし、現実に人が人を殺す最たる理由は飯を食うためだ。つまりは金のため、生きるために人を殺すのだ。同時に人は感情によって人を殺す。娯楽代わりに頭をかち割り、怒りに任せてその腸を引きずりだし、子供に玩具を与えるために誰かの親に刃を突き刺して殺す。それがベラたちの生きる世界の常であり、日常であり、現実だった。

 故にその有り様をベラは否定しないし、恋人と共に戦場を渡っていたとしても笑って肯定するだろう。


 だが、それだけだ。


 目の前で叫ぶマリーアがブルーメをどう想い、どのように結ばれ、ここまでにどのようなドラマがあったとしてもベラにはなんら関係のない話だ。ベラが動く肉を動かぬ肉に変えるために刃を振るうことに違いはない。

 しかし、目の前の肉を動かなくするのは少々骨が折れそうだとベラは次の瞬間には悟っていた。


『な……に?』


 その変化をもっとも間近で目撃したバルが驚愕していた。マリーアが恋人の死に怒り、叫び声をあげたのと同時にマリーアの鉄機兵マキーニが魔力光を放出し輝き出し、相対しているバルの鉄機兵マキーニ『ムサシ』に今までにない圧力がかかってきていたのだ。それを見てベラはバルに叫んだ。


『バル、下れ。片腕じゃあ無理だッ』

『ぐっ、これは!?』


 しかし、ベラの言葉は少々遅かった。マリーアの鉄機兵マキーニは銀霧蒸気を猛烈に噴かしながらバルの鉄機兵マキーニを弾き飛ばし、そのままベラの鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』へと突撃する。その様子に目を細めながらベラは口を開く。


『そりゃ、帝国式の強心器だね。鉄機兵マキーニを殺す気かい?』

『うるさい。お前のせいだっ』

『ハッ、まるで駄々っ子だ』


 ベラは地面に落ちているウォーハンマーを蹴り上げ、右腕に握った。同時にマリーアの鉄機兵マキーニの槍が飛び込んでくる。それをベラは左手の盾で受けようとするが、


『チッ、重いか』


 しかし、受けきれない。槍はその盾を一文字に切り裂いた。


『主様の盾がッ!?』


 地面に倒れた『ムサシ』の中でバルが目を見開いて、その光景を見る。それはバルが見る、初めてベラが鉄機兵マキーニを守りきれなかった姿だった。ベラの装備している盾が、槍の一撃で真っ二つに切り裂かれて宙を舞っていた。


(思ったよりもキツイね)


 目の前の状況にベラは眉間にしわを寄せながら思考する。

 もっともその出力はベラの想定以上ではない。盾ひとつを犠牲に今の一撃から身を守れたのなら安いものだとベラは判断していた。そして、ベラは回転歯剣チェーンソーをその場で手放し、ウォーハンマーを両手で握る。

 目の前の敵には回転歯剣チェーンソーよりも攻撃範囲の広いウォーハンマーの方が適していると考え、ベラはウォーハンマーを短く持ってマリーアの機体に振り下ろした。


『くっ!?』


 マリーアはその攻撃を左腕のガントレットでガードすると、そのまま跳んで後ろへと下がる。鉄機兵マキーニとは思えぬほどに俊敏な動きである。それはまるで生き物のようであった。


『バルッ、残りの鉄機兵マキーニを仕留めろ。ジャダンは生身の連中をやれ』

『了解した』

『ヒヒヒッ』

『させると思うかッ』


 ベラの急ぎ飛ばす指示にバルとジャダンが短く返事をしながら動きだし、マリーアは叫びながら再びベラへと攻撃を仕掛ける。


『ヒャッヒャ、あったり前だろう。アンタじゃあたしを止められないしね』


 ベラは両腕のグリップを強く握ってウォーハンマーを構え、マリーアの槍と相打った。マリーアの機体からは凄まじい速度の突きが放たれ、それをベラがウォーハンマーを器用に操作して火花を散らしながら弾き返す。


『はっ、そんな小細工に頼る割には良い腕だね』

『うるさいっ!黙れ!!死ね!!!』


 振り回すウォーハンマーでは突く槍の攻撃は捌き辛いはずだが、ベラはそれを可能としている。しかし、相手の出力は高い。ベラの『アイアンディーナ』の二倍はあるだろう膂力で以てマリーアは突き続ける。


(ふんっ、悪くない腕だね。本当に)


 ベラが心の中で悪態付くほどに、マリーアの槍使いは見事なものだった。打ち合う度に鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』の装甲にいくつもの切り傷が生まれていくのだ。捌ききれない槍がベラの『アイアンディーナ』の傷を増やしていく。

 とはいえ未だに『アイアンディーナ』の動きを阻害するほどのダメージはない。それどころか、時折届くベラの攻撃はマリーアの騎士型鉄機兵マキーニに致命傷にこそ至っていないが、確実にダメージを蓄積させていた。


『ォオッ』


 そのダメージを圧して、マリーアはさらなる攻撃を繰り出す。


『遅いッ』


 ベラの口元がつり上がる。今までのものに比べれば……ではあるが、この突きは遅かった。マリーアの機体の蓄積ダメージによる性能低下が、ようやく現状のベラの技量とアイアンディーナの性能で抗せるところにまで届いたのだ。


 そして、砕け散る金属音が響き渡る。


 『アイアンディーナ』のウォーハンマーがマリーアの槍に振り下ろされ、打ち付けられた槍が砕けたのだ。ここまで打ち合い、限界に達していた槍へのウォーハンマーの直撃である。破壊出来ぬわけがない。

 そして、砕け散る槍の金属片が飛び交う中、ベラがマリーアの機体を見て、マリーアがベラの機体を睨みつけた。


『それじゃあ、男の元に逝かせてやるよッ』

『アンタが死ねぇええっ!!』


 次の瞬間には、赤い鉄芯がマリーアの傭兵型鉄機兵マキーニに突き刺さった。ベラの左腕の仕込み杭打機スティンガーがマリーアの機体を貫いたのだ。銀霧蒸気がそこから激しく噴き出した。


『やはり、なかなか良い腕だね』

『ァアアアアアアッ』


 叫ぶマリーアにベラが笑う。

 マリーアは鉄機兵マキーニの右腕を伸ばして『アイアンディーナ』の胸部ハッチへと手刀を叩きつけていた。もっともハッチを破壊するには至っていない。そこに届く前に右腕は活動を停止していたのだから。


『あたしの突きを僅かながらでも避けたかい。まったく、呆れるほどに良い女だ。殺すには惜しいね』


 そう口にするベラの仕込み杭打機スティンガーはマリーアの機体の胸部から肩部の間を貫いていた。アイアンディーナに攻撃が通りきる前にその右腕は活動を停止されていた。それはまさにギリギリの攻防であった。わずかでもベラの動きが遅ければ両者の勝敗は逆転していたハズだ。しかし、そのわずかな差を見極められることこそが真の鉄機兵マキーニ乗りというものだ。ベラはこの結果を運に任せてはいない。すべてを読み切って手にいれていた。


『ギャアアアア』


 マリーアが叫び声が激しさを増す。肉の焼ける臭いがする。

 マリーアは確かにベラの仕込み杭打機スティンガーの直撃は避けた。しかし、避けきることは出来なかったのである。その身体を貫くはずだった高熱の鉄の杭はマリーアの機体を貫き、内部に膨大な熱を放出した。

 それは操者の座コクピットの中までも襲い、マリーアの髪を焦がし、その顔の半分以上を焼けただれさせ、鎧も熱されて服が燃えて一部が皮膚に張り付いて地獄の痛みを与えていた。しかし、その激痛の中でもマリーアは『アイアンディーナ』から視線を逸らさなかった。


『ああぁあ、ごるずぅ』


 そして、そこから先はベラの予想の外の出来事だった。


『再生している……だって?』


 ベラの表情にわずかばかりの動揺が走る。魔力光がマリーアの機体をさらに包み、仕込み杭打機スティンガーの突き刺さった腕を修復し始めているのだ。


『ごろぉずぅぅうう』


 ベラは目を丸くしてマリーアの鉄機兵マキーニを見る。それは魂力プラーナによる物質生成そのものだったが、しかし速度が異常であった。


(どういう無茶をしてるんだい?)


 ベラはその現象に驚きながらも、仕込み杭打機スティンガーを抜いてマリーアの鉄機兵マキーニから『アイアンディーナ』を下がらせる。


『ぎざまは絶対にゴロズッ』


 そしてベラから離れたマリーアの機体は一瞬だけベラを睨んでそう告げると、そのまま踵を返して砦へと走り出したのだ。


『主様ッ!?』

『追うんじゃないよバル』


 思わず駆け出しかけたバルにベラがそう指示をする。あの速度には追いつけないし、追う必要もない。


(魔力のメーターが低下している。随分と魔力を吸収したらしいね)


 魔力の濃度を示す計器のメーターの数字が下がっている。先ほどの再生に随分と周辺の魔力を喰われたようである。無茶をして鉄機兵マキーニを動かせば内在魔力も消費され尽くし動けなくなる可能性もあった。


『あたしらはここを押さえればいいのさ』


 そして、そのベラの言葉と同時に、目の前で戦っていた雷竜騎士団ブルーメ隊から降伏の白旗が揚げられた。隊長は死に、副長は逃げたのだ。残された鉄機兵マキーニも一機のみとなった以上、もはや勝敗は決していた。

 同時に自らを捕虜として差し出すことで、目の前の化け物共をここにつなぎ止めることも出来ると踏んでもいた。


『ヒヒ、もう終わりですかい』


 その様子をジャダンが残念そうに見ながら、火精機ザラマスの手に出来た爆炎球を握り潰して、そのまま消滅させた。投げつけたいという欲求もあったが、それを察知したベラの視線に気圧されたのだ。

 恐らくこの後のことを考えれば、これ以上の勝手は己の死でもって代価を支払う必要があるかもしれないというくらいにはジャダンも己の状況を理解していた。


 そして、ベラたちの後ろではローゼン傭兵団とジャカン傭兵団も騎士たちを包囲しているようだった。つまりはこの場における戦闘はベラたちの完全なる勝利に終わったのであった。

次回更新は5月7日(水)0:00。


次回予告:『第39話 幼女、憂慮する』

お姉さんもベラちゃんにかかれば、タジタジです。

そして、お姉さんの姿はもはや……


さて、次回は今回の戦いの中でベラちゃんが気付いた問題についてです。

ベラちゃんは一体何に気がついたのでしょうか?

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