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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第五部 十三歳児の初めての決戦

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第384話 少女、輪切りにする

『これはもはや人同士の戦いでは……ない』


 ガイガンが苦い顔をしながらそう口にする。もはや戦場は一変していた。何もかもが変わり過ぎた。自軍の兵たちだけではなく、敵であったローウェン帝国軍の兵たちまでもが地中より現れた竜の首たちに襲われ、逃げ惑っているのだ。


『どうするガイガン? これはもう帝国との戦争ですらないぞ』

『分かっておるよアイゼン。しかし、それでもワシらは総団長を救わねばならぬ』


 ガイガンとアイゼン。ベラの配下の老兵たちは自身らの部隊を指揮しながら地中より現れた竜の首、ドラゴンヘッドと仮称されたそれらと戦い続けている。その頭部は鉄機兵マキーニと同程度の大きさがあり、首の太さは蛇霊樹の大木を思わせる。機体を噛み切るほどの力を持つ牙と顎門で襲い、囲まれれば炎のブレスを吐いて焼き尽くし、損傷が大きくなると地中に潜る臆病さをも備え持つ。


『ローウェンの新兵器かと思いきや、あちらの方がやられておるのだからな。一体何が何やら』


 アイゼンがボヤく通り、ドラゴンヘッドの出現数はローウェン帝国軍側の陣地の方が多く、当然被害もあちら側の方が多かった。一体何が起きているのか、それを把握しているものはこの場にはいない。ただ、彼らは今も正体不明の怪物たちに攻撃され続けている。


『機械竜やドラゴンの気配が消えた……そうロックギーガが言っていると竜の巫女から連絡があった。それがあのドラゴンヘッドたちに変わっていったのかもしれないとも』

『とてもローウェン帝国軍が意図的に起こしているものとは思い難いが。連中、何をしくじった?』


 何かが起きている。それも恐らくはローウェン帝国軍側に起因される何かが発生しているのだと思われるのだが、その予想はこの状況を覆すきっかけにはなり得ない。


『む、おい。また地面が揺れているぞ』

『この大きさは『ヤツ』だ。来るぞ!』

『下がれ。巻き込まれるなよ!』


 ガイガンとアイゼンが叫び、周囲に退避を指示しながら自身らも下がると兵たちが下がった地面から爆発したように土塊が吹き飛び、中から鉄機兵マキーニをも飲み込むほどの巨大なドラゴンヘッドが出現した。


『総団長を飲み込んだヤツだな。まだ怪我を治しきれたわけではないようだが?』


 巨大な竜頭、ビッグドラゴンヘッドは全身が血まみれであった。

 ベラの乗る『アイアンディーナ』とジェネラル・ベラドンナの乗る『ゴールデンディアナ』を飲み込んだその怪物は、直後に両軍の決死の攻撃と、そこに参戦したロックギーガ、リンロー、ザッハナインといったベラの眷属たちの力によってかなりの傷を負い、地中に潜って逃げていた。

 そして、現れたビッグドラゴンヘッドへと人外の(しもべ)たちが咆哮するが、彼らは即座に飛び掛かろうとはしない。


『リンローたちが動かない。どういうことだ?』

『アイゼン、何かがおかしい。ビッグドラゴンヘッドが、何か』


 そうガイガンが言いかけたのと同時にビッグドラゴンヘッドが叫び出した。


「ギュァァアアアアアアア」

『なんだ? 暴れてる?』

『おい、コイツはまさか!?』


 それは苦痛から発せられた悲鳴であった。そしてビッグドラゴンヘッドに痛みを与えている存在の高笑いが木霊する。


『ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ、暴れんじゃあないよ、このクソ肉塊がァ!?』


 通信機から響いてくる少女の声。それを聞いて周囲の兵からは歓声が上がった。ガイガンやアイゼンが生きていると、戻ってくると言っていたが、普通に考えれば生存は絶望的だったのだ。けれども、その笑いは彼らの心に炎を灯した。


『まったく、いつまで食いついてるんだい。いい加減出るからね』


 その言葉とともに暴れ狂うビッグドラゴンヘッドの喉元が避けて血が噴き出し、そこから唸り声を上げる回転歯剣チェーンソーの刃が飛び出すと、輪切りにするように周囲を切り裂いた。そして、メキメキと折れて落ちた首の中から輝く機体が飛び出した。


『ゴールデンディアナ……いやアイアンディーナか?』

『ああ、総団長のお帰りだ!』


 出て来たのは、赤と金色の装甲が混ざり合った機体だった。

 その外見は『アイアンディーナ』そのものであったが、金色の装甲の表面には、鋼機兵ハイマキーニの特徴である光のラインが走っていた。また背には竜の翼が生えており、両腕にはウォーハンマーと棘鉄球メイスをそれぞれ持ち、竜尾ドラゴンテイル回転歯剣チェーンソーが絡まっていた。


『ひゃっひゃ、危うく糞蜥蜴の糞になるところだったよ。ガイガン、アイゼン。アンタらも無事だったようだね。ロックギーガ、リンロー、ザッハナインも元気で何よりだ』

『はい、総団長!』


 変わらぬベラの様子にガイガンも感極まった顔で頷く。そして機械竜であるリンローと混合魔獣キマイラのザッハナイン、さらにはロックギーガ率いるドラゴン軍団もこの戦場に勢揃いしていた。


『戦況はどうなってる?』

『はい。戦場のあらゆる場所で地中から竜の首、ドラゴンヘッドが飛び出し、各部隊で戦闘が行われています。特にローウェン帝国軍が大きく被害を受けておりますが、我が軍も状況は芳しくはありません』

『まあ、あっちから来たからそうなるかい』


 ベラの竜眼には地中を潜って広がっているドラゴンヘッドの力の流れが見えている。その中心はローウェン帝国軍の方にあった。


『総団長、アレはなんなのでしょうか。ローウェンの新兵器にしてはあちらに被害が出過ぎておりますが』


 ガイガンとて、解答をベラから得られるとは思ってはいなかった。けれどもベラが少しだけ考えてからその答えを口にする。


『そうさね。恐らくだが、ありゃぁ我らが宿敵、皇帝ジーン陛下であらせられるようだよ』

『なッ』

『あいつが竜人になったっていう予測はあった。けど、ロイはそれ以上のことをジーンに仕出かしたようだね。まあ、竜の力か不老不死か。権力者の成れを唆すには十分な餌だったんだろう』


 竜人と化したベラにはその力のほどが分かる。皇帝ジーンは老齢。すでに天に召される日が近づいている状況であれば、喰らいつくには美味し過ぎる餌だったのだろうと。


『如何します? 撤退するのであればすぐさま号令をかけますが』

『ああ、そりゃあ駄目だね』


 ガイガンの問いは先ほどのジェネラル・ベラドンナとの戦いの前とは違い、本音の言葉であった。けれどもそれにベラは否と返す。


『総団長、何故ですか?』

『あいつは喰らってやがるのさ。生者も死者も、流れ出た血と負の想念すらも喰らってブクブクと膨れ上がって来てやがる』


 それがベラには視えている。だから今ならばまだ『手に負える』と分かっている。また、この時を越えられてしまえばあの怪物を殺せる機会ははるかに遠くなるだろうとも。


『放置すればローウェンかモーリアンか、アレが進んだ方角にある国が滅びる。そして遅かれ早かれ近隣諸国へも災厄としてアレの赴くままに蹂躙されるだろうさ。ヘイローとて例外じゃあないよ』

『であれば』

『今、殺すしかない。あたしはそう判断している』


 そう返すベラの言葉には有無を言わせない迫力があった。ベラの本能が戦わなければならないと警鐘を発していた。そんな彼女らの元に鋼機兵ハイマキーニが近づいてくる。


『ベラ・ヘイロー総団長殿とお見受けした。お聞かせ願いたい』

『あん、アンタは?』

『ジェネラル・ベラドンナの副官ノイエン・マッカーニです』


 その返しにベラがガイガンを見ると、ガイガンが頷いた。

 ビッグドラゴンヘッドがふたりを飲み込んだのち、両軍は闘うことを止め、ビッグドラゴンヘッドを、その後に襲ってきたドラゴンヘッドたちに対して共闘していた。現時点においてもその状態は解かれておらず、両軍の戦闘はもう行われていない。


『なるほど。それでなんだいノイエン殿?』

『ジェネラル・ベラドンナ閣下はどういたしました?』

『ああ、あのババアなら死んだよ』

『!? ……あなたに敗れた?』

『いいや、決着は付けられなかった』


 ベラはそう返しながら、転がっているビッグドラゴンヘッドへと視線を向けた。


『仇というならそこに転がってるデカ頭がそうさね』


 そう言って首だけの巨大ドラゴンヘッドをウォーハンマーで指し示した。


『……なるほど』

『それで答えは得たが、ここからどうする? やりあうかい?』

『いいえ。あなたにはゴールデンディアナが付き従っているようです。そうする必要は感じません。それに帝国軍は後退しろとナレイン皇帝陛下から命じられております。ですので我らはここより撤退します』


 その言葉にベラが眉をひそめた。後退するか否かはローウェン帝国軍の判断ではあるが、問題はナレインを皇帝と口にしたことだ。


『皇帝はジーンじゃないのかい?』

『先ほどナレイン陛下が皇帝の座につきました。我らとて、人喰いの怪物を皇帝と崇められるほど盲目的ではありませんよ』


 そう言ってからノイエンは己の機体を操作して背を向けた。


『ですので我々は尻をまくって逃げさせていただきます。あの邪魔なモノを薙ぎ倒しながらではありますがね』


 逃げると言いながらもその眼には闘志が宿っていた。

 退去する帝国軍を守るために戦おうという意志を感じた。


『それとベラ・ヘイロー総団長殿。あなた方には感謝を』

『なんに対してだい?』

『我らにとってあのお方がクィーンであろうとジェネラルであろうと関係はなかった。ただ閣下に惹かれて我らは戦っていた。故にあのお方があるべきところに収まったのであれば我らもそれには祝福を贈らせていただくのです。それではこれにて御免』


 そう返して去る前、ベラはノイエンが『アイアンディーナ』の金色の装甲部分を見たと感じた。そしてノイエンがその場を離脱した後、ベラは小さく「知ってたのかもねえ」と呟いた。


『黄金の。アンタもまんざらでもなかったんじゃあないかい?』


 揶揄うように口にしたベラに対して、黄金の装甲がわずかに脈動し、そして熱を帯びたように感じられた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 首から生まれたベラ太郎! 天に代わりて龍退治致す!
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