第381話 少女、老婆と舞う
『来いデイドン!』
『来いヴァルドル!』
衝突する直前、空より飛来した機械竜『デイドン』が変形して『アイアンディーナ』を覆い、その姿を変えていく。対してジェネラル・ベラドンナの言葉に呼応した鉄機馬バイコン『ヴァルドル』も変形して『ゴールデンディアナ』の鎧へと変わっていった。
そうなった状態のそれぞれの機体名を『アイアンディーナ・ドラグーンコート』と『ゴールデンディアナ・スペリオル』といい、全長は共に6メートルを超えている。
そして、双方の機体の背部のパイプも増設され、共に勢いよく銀霧蒸気を噴き上げながら共に一撃を繰り出した。
『ォォォオオオ!』
『ケェエエエイ!』
爆発したかのような金属音が響き渡り、それは幾度となく繰り返される。その激しさはまさしく暴力の渦であり、近づいた機体は瞬時に破壊されるほどであった。
そんな中でジェネラル・ベラドンナは笑っていた。かつてバル・マスカーに止められた闘争の先へと向かわんと咆哮し、猛っていた。
対してベラ・ヘイローにとってもそれは同じ思いであった。己と比肩する技量と機体を持つ相手との戦いは久しく、繰り出す一撃一撃の重さは歓喜により全身が震えるほどであった。
けれども、だからこそ至福の時は長く続かない。互いの全身全霊の一撃を出し合い、防ぎ合う。そんなことを繰り返していれば当然機体は保たぬ。
『クッ』
『チィ』
轟音と共に装甲が吹き飛び、軋む機体をどうにか制御しながら両者は次の攻撃に繋げていく。その様子に周囲の兵たちは互いに殺し合いながらもその戦いに視線を向けざるを得ない。
『ここまで……ここまでやるのか。やれるのか』
『アレは間違いなくクィーン・ベラドンナ。しかしうちの大将とて』
『ああ、負けてねえ。俺たちだって負けねえ!』
戦場の熱が上がっていく。ふたりのクィーンの激突は戦士たちの心に炎を灯していく。轟々と焚き付けていく。それは業火となって戦場を駆け抜けていき、殺し合いはさらに激化する。
『ひゃっひゃっひゃ、楽しいねえベラ・ヘイロー』
『遺憾ながら同意はするさ。あたしとやりあえるヤツなんざ、早々いないからねえ!』
再び激突して木霊する金属音と、削れていく機体のパーツに目もくれず、激突は繰り返される。そんな中でジェネラル・ベラドンナが口を開く。
『強いねベラ・ヘイロー』
『ハァン? そりゃ泣き言かい?』
『違うさ。ただ知りたいんだよ。その力の源泉がどこにあるのかを?』
そう返すジェネラル・ベラドンナの声にはどこか切実なものがあった。
『なぁ、アンタならこの黄金の機体に見覚えがあるんじゃないかい?』
同時に何かを期待する声でもあった。
その問いにベラは目を細めて苦く笑う。
『ハッ、アンタもかい? まったく何を望んでるんだか分かんないねぇ』
その言葉は嘘だ。気付いていないわけがない。クィーンの生まれ変わりを詐称した時から、或いはベラドンナの名を傭兵団に付けた時から、そのもっと前からベラ・ヘイローは誰もが知っている『その存在』を意識されてきた。探るような言葉を受け続けた。お前こそがそうなのではないかと問われ続けてきた。けれどもベラにとっての答えはいつだってひとつだ。
『あたしはベラ・ヘイローだ。ルーイン王国の田舎で生まれ、奴隷として売られ、傭兵となって自分の力でここまで来た』
『やはりそう言うかいベラ・ヘイロー。だがね。それでもあたしは望まざるを得ないのさ。あたしはそのためだけに生き永らえてきたんだ!』
それは魂の奥底からの慟哭だった。ずっと、ずっと彼女は待っていたのだ。
彼女が生まれた時、目の前には彼女の主人となるべき少女がいた。
帝国の娼館で生まれたその少女は、白髪の白い肌をした北の出の人種であり、母親と同じ女を売る仕事につかず、暴力で金を稼ぐ道を選んだ。
いつしか少女は女となり、彼女に乗って戦場を駆け、戦場では負け知らずの猛者となっていった。仲間も増えた。敵も増えた。酒を浴びるように飲み、毎日のように男を取っ替え引っ替え抱いて、産んだ子の数は20を越える。
母親としての自覚はなく、子育てにはほとんど手をつけなかったが、女の跡を追うように子供たちは皆戦士となり、そのほとんどが戦場で散っていった。
その度に女は夜通し泣きながら酒を浴びるように飲み、翌日には笑って戦場に向かっていった。
そんな女と共に彼女は生き続けてきたのだ。
ローウェン帝国側についたのも大した理由ではない。ロイに首根っこを押さえられていたというのもあるが、クィーンを守れなかったモーリアンに愛着はなかった。むしろ戦争後に内部で争いあって分裂したことに失望していた。
それに肉体に宿っているはずのクィーンの部分は己の終わりを認めたのか、表にも出なかった。だから彼女はひとりきりでもクィーンとしてあろうと決めた。自分にとってのクィーンを自ら生み出そうとして、ローウェンでそれは成った。ジェネラル・ベラドンナは帝国の英雄。クィーン・ベラドンナは此処にあり。それがただの虚しい自己満足であると自覚したのはいつの頃だったか。
『強い意志を持つ者なら生まれ変わる可能性もあるねえ』
けれどもロイの一言で彼女は転生を知った。本能で感じていたものに確信が生まれた。
あるいは再び会えるかも知れぬと夢想し、また女の生まれ変わりと会える場所があるとすればそこは戦場であろうと考え、そうして戦場で彼女は本物を見た。だから止まらない。止まる理由はない。
『すまないねヴァルドル』
『今までご苦労だったよデイドン』
もはやガラクタでしか無くなった強化装甲形態が解かれ、内より飛び出た『アイアンディーナ』と『ゴールデンディアナ』が尚も戦い合う。繰り返される闘争は、けれども確実に終わりに近づき、あと一撃、それで全てが終わると両者が感じた瞬間……
ゾワリと全身が震えた。獰猛な意志がこの場に迫っていることを彼女は感じた。自身と同じように渇望し続けていた魂を知っていた。だからこそジェネラル・ベラドンナは叫ぶ。
『待てジーン。まだあたしが』
そして地中から出てきた巨大な顎門が赤と黄金の機体を飲み込んだのであった。




