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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第五部 十三歳児の初めての決戦

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第373話 少女、追いかけられる

『あの老婆はまだ動かない……か』


 両軍がぶつかり始めた戦場の中で鉄機兵マキーニ『ムサシ』に乗ったバル・マスカーがボソリと呟いた。

 現時点でも戦況報告が操者の座コクピット内の通信機越しに次々と届けられている。その内容を簡潔にまとめればローウェン帝国軍とベラドンナ同盟軍は現在両翼からぶつかり合い、ベラドンナ同盟軍優勢で展開されている……というものだった。

 もっともローウェン帝国軍の前衛は獣機兵ビーストたちで構成されており、それは相打ち狙いで敵の戦力を疲弊させることが目的で用意されたものだった。故にその状況はローウェン帝国軍としても織り込み済みで、当人たち以外に動揺は起きていない。それは獣機兵ビーストが運用されてから半獣人たちが各地で行った目に余る横暴、人食いへの嫌悪が同情を上回った結果であった。

 そんなことよりも……とバルは後方へと視線を向ける。


(ふん。アレも主様を狙っているだろうが……今の状況からすればすぐには動けないはずだ)


 ジェネラル・ベラドンナ。現在のバル・マスカーの主人であるはずの老婆の様子を見れば、彼女がベラ・ヘイローに興味を抱いていることは間違いなかった。だが彼女は今や大将軍という立場にあり、自ら進んでベラに会いにいくような真似はできない。


(だからジェネラルが主様と戦えるのはこの戦争の終盤となる。対して八機将であるとはいえ、今の俺は一部隊を率いる遊撃でしかない。俺は地位によって身動きの取れないジェネラルとは違う)


 そんなことを考えながらバルが『ムサシ』を一歩前に進ませる。またバル・マスカーに追従している彼の部隊は不気味なほどに静かで、よく見れば兵たちの顔には生気がなく、その目に意思が感じられぬようだった。そう、彼らは半年前にディアナの門を襲った兵たちと同じ意志なき傀儡兵たちであった。

 必要なのはただ露払い。彼は己が望みのために捨て駒である兵を欲し、手に入れていた。


(それにだ。俺には主様の位置が分かる)


 バルが己の意識を首裏の奴隷紋に集中させると、後方と前方の二方向からの反応を感じた。


(片方がヤツからというのが気に食わんが)


 奴隷紋は主人と繋がっている。感覚を研ぎ澄ましたバルにはそれが分かる。けれども背後から感じるものは紛い物だ。奴隷紋は本来主人あるじがひとりに設定されているはずなのだが、なぜだかジェネラル・ベラドンナは出会ったときからベラ・ヘイローと契約した奴隷紋を用いてバル・マスカーを支配していた。


(クィーンの肉体がそこにあり、クィーンの魂がベラ・ヘイローであればあり得るとはあの老人ロイの言葉ではあったが)


 その奇妙な状況こそが、ベラ・ヘイローがクィーン・ベラドンナの転生体である根拠のひとつとなっていた。


(だからどうしたというものか)


 けれども、バル・マスカーにとってベラの正体などどうでもいいことだった。生まれ変わりであろうが、そうでなかろうが関係がない。そんなことに価値を見出してはいない。


(主様はただ主様であるというだけで価値があるというのに)


 ベラドンナ傭兵団が終わってからも彼は戦い続けた。けれどもローウェン帝国にも、ベラドンナ同盟軍にも、各国の猛者にも、八機将の中にも彼が望むような相手はいなかった。またジェネラル・ベラドンナは何故だかそういう相手として映らなかった。敢えていうならば紛い物の臭いがする故に。

 だから彼にとっての全てはベラ・ヘイローに集約する。己が闘争本能の赴くままに命を出し切って戦う相手として求めている。その後にある勝利も、敗北も、生や死への執着すらも彼は捨てていた。ただベラ・ヘイローと一度刃を交えるために、刹那の瞬間のために生きていた。

 そのために彼は奴隷紋のギアスにすらも抵抗し切った。現時点で彼の奴隷紋の効力はジェネラル・ベラドンナによって距離の制こそ外されたが、まだ存在はしている。それを絆とバルは考えた。もっともその認識はあながち間違ったものではない。そもそも奴隷紋は竜種の眷属化を参考に造られ、歪んだ形で今に伝わったものだ。だからバル・マスカーには感じ取れていた。奴隷紋を通して己の主人の位置を。


(どうあれ、あの老婆ジェネラルよりも、老人ロイよりも、皇帝ジーンよりも俺は先んじることができる。主様の行動も俺にとっては都合が良い。ああ、そうだ。間違いなく今の俺は流れに乗っている。その瞬間を迎えるために運命すらも俺に従っている)


 バルの感覚が正しければ、ベラは当初はベラドンナ同盟軍の先頭にいたが、今では『左翼に移動してローウェン帝国軍の横腹を突こうと動いている』ようだった。そこから考えられるのはベラ・ヘイローお得意の圧倒的武力を用いた奇襲戦法。らしいな……とバルは呟く。けれども、それこそがベラの悪癖だ。強者故の傲慢。それを押し通し続けたからベラ・ヘイローはここまでのし上がった。しかし、今この場にはバル・マスカーがいる。横に伸びた陣形は薄く、狙いをつければ敵陣を抜けてベラに近づくことは難しくない。彼にとって絶好のチャンスが転がってきたというわけだ。


『さあ主様。あなたを裏切った下僕が今向かいます。裏切り者には死を。願わくばその死をあなた自身の戦槌で与えようと考えていて欲しいものだ』


 そして八機将、刀神バル・マスカーの軍勢が動き出した。

次回予告:『第374話 少女、戦場を観察する』


 ベラちゃんが後ろで不貞腐れている頃、道を誤り続けたバルお兄さんは最後も選ぶ道を誤りました。何も成せず、何も残せず、ただ朽ちゆく終わりもまた戦場の常。さようならバルお兄さん。あなたが誰かを想っているように誰かもあなたを想っている。それに気付けていれば、或いは違った未来があったのかもしれませんね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次回「バル=マスカー死す」デュエルスタンバイ!
[一言] どう考えていてもバルは○リコンの誹りを避けられぬ運命の下にいた…………そういうことなんですねorz
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