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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第36話 幼女、相対する

 爆発が起こった。


 ジリアード山脈の麓にあるババール砦の前でパロマとルーインの軍勢が激突した瞬間、パロマの騎士団の列からそれは発生した。そして、その原因はルーイン側から投擲された丸い球のようなものが爆破したものにあるようだった。


『ヒィ、ヒヒイッヒヒヒイ』


 それを見ながら、興奮するトカゲ顔の男が一人いる。己の目の前で吹き飛ぶ鉄機兵マキーニと騎士たちを興奮して笑い続ける男がいる。


『ヒヒッヒイ、ヒアハハハハッハア』

『ジャダン。前に出すぎだ』


 そのバルの言葉にジャダンは『馬鹿ですか、あなたは』と叫んだ。


『離れてたら、聞こえないでしょう。爆発音がっ!悲鳴がッ!!』


 そう言いながらジャダンは、爆発によって開いた隊列にその小さな精霊機エレメントで突っ込んでいく。


『ヒヒヒヒッ、楽しいですねえ。まったく。どいつもこいつも私の獲物ですか』


 そして、常軌を逸している雰囲気のジャダンの精霊機エレメント『エクスプレシフ』をバルは鉄機兵マキーニ『ムサシ』で追いながら、ベラに通信をかける。


『まったく、主様。すみませんが』


 その声は明らかに喜色に満ちたものだがベラもそれを咎めたりはせずに『行けっ』と返した。問題なのはジャダンだが、危険な状況になったことを喜び勇んでいるバルもバルである。爆弾魔と戦闘狂のコンビの思わぬ暴走にベラは苦い顔をして、突き進む奴隷達を見る。


『あのアホウどもが』


 ベラのそうした顔は珍しいが今は鉄機兵マキーニの中なので、それを見た者はいなかった。もっとも音声は通信機を通して仲間の鉄機兵マキーニたちとも共有されているのだから、ベラが不機嫌であることはゴリアスやマイアーにも共有は出来ていた。


『ベラ団長。ヤツァ、前の貴族様んときもあんな調子だったんで後ろに下げられてたんでさぁ』


 ゴリアスが通信でそう口にする。ジャダンは彼が以前に雇われていたロウアという貴族の元にいた戦奴隷である。つまりは付き合いはゴリアスの方が長い。


『あいつ、貴族が自分かわいさに護衛用に後ろに下げられてたなんて言ってたんだけどね』

『まあ、間違いではないですがね。貴重な爆破型ボマーですし、簡単に死なれてもってことで重要なところでしか使わなかったんですよ』


 その言葉にベラが舌打ちする。だが機を乗がすつもりもベラにはない。


『まあいい。あのトカゲのお仕置きは後だ。死んだらバルをお仕置きか。まったく奴隷に暴力を振るうことになるのは心が痛むね』


 そういうベラの言葉に、ゴリアスもマイアーも(本当かよ)と思わなくもなかったが、当然言葉には出さなかった。そして、ベラが減速しながら指示を飛ばす。


『仕方ないね。あんたらはこのままぶつかって鉄機兵マキーニをここで押さえておきな。止まったところをあたしが横から潰していく』


 そのベラの言葉に、ローゼン傭兵団とジャカン傭兵団の鉄機兵マキーニ精霊機エレメントから了解との声が返された。


 そうして、ババール砦を巡るルーインとパロマの戦闘の中でベラドンナ傭兵団のファーストアタックはジャダンの爆破魔術から開始された。

 爆破型ボマーは希少種である。鉄機兵マキーニも胸部に直撃を受けたりすればダメージも大きいし、歩兵にとっては天敵といっても良い存在だ。その攻撃を受ける機会も少なく、故に食らった兵はパニックに陥りやすい。

 その突然の爆発とバルの特攻により隊列を乱されたパロマの騎士団だったが、それでもジャダンの爆破とバルの攻撃にも被らなかった騎士型鉄機兵マキーニはそのまま突き進み傭兵団へと突撃を掛けることには成功していた。

 対して、ゴリアスとマイアー、それにガウロの鉄機兵マキーニにゴリアスの部下の地精機ノーム風精機シルフィが迫る鉄機兵マキーニの突撃を武器や盾で受け止め、その動きを留める。そして双方の歩兵たちが駆け寄り、対鉄機兵マキーニ用の鎖や糸、色水などを用いて、或いは剣や槍で戦闘を開始していく。

 もっとも騎士と傭兵とでは練度も装備も違う。同等以上の戦力での激突は死を招く結果に繋がるのは火を見るよりも明らかではあるのだが、そこにワンテンポ遅れてベラが攻撃を仕掛けていく。

 両勢がぶつかり合った状況を見ながらベラは強襲する狙いを見定め動き出した。


『そこから潰すかいッ!』


 ベラがそう言いながら、ウォーハンマーを振るって地面すれすれに薙払う。そして悲鳴をあげながら4名の騎士が吹き飛んでいく。鉄機兵マキーニの力を持ってすれば、この程度は当然。だが、敵も鉄機兵マキーニ戦は慣れたもの。ましてや、相手は3メートルちょいの若い鉄機兵マキーニだ。いつも通りの戦法で当たれば恐れることはないと騎士たちは判断し展開していく。


「小さいぞ」

「弱っちいヒヨッコが」

「足を狙え。転ばさせろッ」


 騎士たちは口々に声を張り上げながら、鎖を仕掛け、糸を絡めようと『アイアンディーナ』へと進んでいく。

 彼らの使うのは鉄機兵マキーニの動きを止める拘束兵器だ。

 鉄機兵マキーニは確かに人を超える性能を誇るが、所詮は3~4メートルの鉄の巨人だ。特に操者の座コクピットのある胴体部はそのほとんどが空洞で脆く、胸部ハッチを破壊すれば乗り手を殺すことも不可能ではない。

 戦いを知らぬ者は鉄機兵マキーニこそは戦場の絶対強者と考える者も多いが、見かけの強靱さとは裏腹に視界の悪さ、胴体部の脆さ、関節部の消耗の早さ、または機械マキノの故障率の高さ等といういくつかの欠点もかかえている。故に巨獣狩りなどで確立された戦いを用いれば鉄機兵マキーニ1機程度ならば生身の兵5人で倒すことも不可能ではないし、ましてや同数の鉄機兵マキーニ同士の戦いであれば、歩兵の存在が勝敗を分けると言っても過言ではない。


 ただ、それはあくまで通常の相手の戦闘においての話である。


「避けるだと」

「見えているのか。あれはっ?」


 回避を繰り返しながら、ウォーハンマーを右手に小剣を左手にまるで竜巻のように切り進んでいくベラに、騎士たちの悲鳴が木霊する。


『……すげぇ』


 ゴリアスが思わず、そうつぶやいてしまうほどに、ベラの騎士を殺していく様は際立っていた。ベラが鉄機兵マキーニの腕を振るう度に鮮血が舞い、赤黒い物体がまき散らされ、戦場に着実に血の海を造り上げていく。

 それもベラはただ闇雲に殺しているだけではなかった。一切立ち止まることなく、的確に鉄機兵マキーニ用兵装の騎士を重点的に潰していっているのである。そうなると足止めも出来ない通常兵装の騎士たちは為すすべもなく殺されるしかない。


 切り裂かれ、潰され、泣き叫ぶ声が戦場に響き渡り、それを防ぐべく、そして仲間を助けるべく3機の騎士型鉄機兵マキーニがベラの『アイアンディーナ』へと突撃する。


『ヒャッヒャ、甘いんだよ騎士様よぉ』


 それを見てベラの笑いが響きわたる。先ほどのジャダンに対する怒りは既に吹き飛んでいた。ベラは戦意を高揚させ、笑いながら、鉄機兵マキーニを操るグリップに力を入れる。

 そして、敵はすでに混戦となった戦場でまともに隊列も組めず、各自でベラへと攻撃を仕掛けてくる。


『間抜けがッ』


 ベラはそう叫びながら近付いた鉄機兵マキーニの攻撃をかいくぐり、小剣でその胸部を串刺して乗り手を殺し、そのまま刺さった小剣を抜くこともなく手放して、続く相手をウォーハンマーのピックを使って足をかけて転ばせ、最後の一機に対してベラはウォーハンマーを振り下ろした。そして火花が散った。


『クッ』

『おや、やるねえ。まあ……』


 ベラのウォーハンマーを騎士型鉄機兵マキーニは己の盾で受け止めたのである。技量やその装備から見て、それが騎士団長だろうと当たりをつけたが、しかしベラは笑う。


『死ぬ時間が延びただけさね』


 そして、次の瞬間にはガシュンッと音がして、盾で受け止めた鉄機兵マキーニがそのまま崩れ落ちた。ベラの左手から真っ赤な鉄芯が伸び、盾を貫いて操者の座コクピットまで到達していたのである。


『ヒャッヒャ、薄っぺらいライトシールドじゃあ、あたしのぶっといガーメの首は防げないんだよ!』

『貴様ァアアアアッ!』


 ベラの背後から、叫び声が発せられた。それはウォーハンマーで転ばされた鉄機兵マキーニからの声だったが、ベラはその叫びに反応すらせずに、振り向きざまにウォーハンマーを振るって鉄機兵マキーニの頭部へと叩き込み、胴体へと陥没させた。


果実粉砕機ジューサーかい、こりゃあ』


 胸部ハッチから吹き出る赤い液体を見ながら、ベラはそう口にして、そのままババール砦の方へと視線を移した。

 すでにベラの周囲に近付こうという騎士たちはいなかった。今やパロマの騎士たちにとってベラの赤い機体は仲間の鮮血に染まったものにしか見えなかった。そして、士気の落ちたパロマの騎士団をゴリアス達も押し返し始めて1機に戦力を集中出来る場合でもなくなっていた。


(こっちは良いとしてあっちかい)


 ベラの視線の先では今はバルとジャダンが別の騎士団と相対しているようである。ジャダンが出過ぎた結果、今戦っている騎士団を抜けて奥の敵へと接敵してしまったようだがまだ死んではいないようであった。

 ジャダンの爆弾の牽制とバルの剣技が思いの外、噛み合っているのだ。もっとも、それもとりあえず今は押さえられているといった様子である。


(練度はこっちの騎士共よりあちらのが上か。ゴリアスたちとかち合っていたら危なかったね)


 ジャダンの独断専行が良い結果に転んだようだが、それもこれからの動き次第では最終的にどちらに転ぶかはわからない。

 そもそも、ゴリアスやマイアーの傭兵団の人間がいくら死んでもベラの懐は痛まないが、自ら所有の奴隷たちはそうではないのだ。ここで失うわけにもいかなかった。


『ゴリアス、ここは任せていいかい?』

『ここまで減らしてもらえりゃ、問題ないです』

『つーか、十分すぎだよっと』


 ゴリアスの返事と、たった今、敵の鉄機兵マキーニを倒して剣で突き刺したマイアーも声を上げた。

 ベラが大暴れしたことで、すでに戦力比は逆転している。特に対鉄機兵マキーニ兵装の兵たちをベラが軒並み潰したことは大きく、戦いは優勢に進んでいるようであった。


『そんじゃあ、行ってくるよッ』


 そして、ベラはゴリアスたちにそう告げて、走り出す。

 狙うのは砦の前で陣取る騎士団だ。ベラの知らぬ話ではあるがそこにいるのはコージン将軍率いる雷竜騎士団のブルーメ隊であった。それはベラの赤い鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』を仕留めるべくやってきた精鋭部隊であったのだ。

次回更新は4月30日(水)0:00。


次回予告:『第37話 幼女、男を奪う』

愛し合うお兄さんとお姉さんがそこにいました。

けれども二人の前にベラちゃんという愛らしい幼女が現れてしまったからさあ大変です。何故ならお兄さんの視線は幼女に釘付けだったからです。幼女に釘付けだったからです。大事なことなので二回言いました。

果たしてお姉さんはお兄さんを幼女の魔の手から救えるのでしょうか?

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