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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第363話 少女、婿候補を待つ

 ベラドンナ自治領内の防衛都市ナタルへと続く街道を精霊機エレメント鉄機兵用輸送車キャリアが進んでいた。

 周囲には鉄機兵マキーニ二十機が並び、彼らの機体からはモーリアン王国の王冠を冠る鷲を描いた紋章旗がたなびいていた。さらにそれを護るように、かつての傭兵国家モーリアンの紋章でもある、王冠を啄む鷲の紋章旗を掲げたベラドンナ自治領軍の鉄機兵マキーニが列の前後に追従している。


「またこの地に足を踏み入れる日が来ようとはな。それも自治領軍と並んで」


 そして鉄機兵用輸送車キャリアの中にある豪奢な部屋の中で疲れた顔をした男が窓の外を見ながらそうこぼした。

 男の外見上の年頃は四十から五十の境といったところだろうか。かつては頑強な戦士であっただろう面影が多少残ってはいるが、今では贅沢がその身を肉の鎧で覆わせており、ともすれば品の良い豚のような印象を持つ人物だった。その恰幅の良さは見ようによっては彼の母親を想起させたが、肥え太った養殖の豚と暴力を体現した巨猪ではその違いは明らかだ。かつては生えていた豚の牙も幼ガーメ程度に細くなっていることだろう。

 理想は高く、情に厚く、されど周囲に流されて現状を維持するだけの能力しかない。平時であれば賢王と讃えられた可能性はあるが、今という戦乱の時代では輝けぬ凡庸なる王。無意味に愚策に走らぬ姿勢だけは評価されているが、そもそも現在の自治領を認め国を分けるような判断をしたのもこの男であり、この戦乱の先の未来がどうなるにせよ、歴史の中では愚王として名を残すことが確定していた。

 男の名はべリス・ゼルフ・モーリアン。モーリアン王国の現国王はつまりそうした人物だった。


「は、国王陛下。すべてはあの方のお力により、我らにとって良き方へと進んでおります」

「我ら……か。そこに私は含まれているのだろうかね?」


 皮肉げに笑うベリスに、彼の前に立つ金剛将軍ニオーは「お戯れを」と言って笑い返した。

 それがベリスの問いに是と返したものなのか否か。或いは決めるのはお前だと暗に言っているのかもしれなかった。

 銀光将軍ゼックほど露骨ではないにせよ、ニオーもすでに心の上ではベラ・ヘイローの軍門に下っている。お飾りの自分ではない本物。その登場が彼の立場を一気に変えた。変えてしまった。


(所詮は血筋だけしか価値がない。私の人生はただソレを証明しただけだったな)


 ベリスが深いため息をつく。

 かつて起きた鷲獅子大戦にクィーン・ベラドンナは自らの子や孫をも率いて挑み、そのことごとくが死んでしまった。

 そもそもクィーンは良い戦士ではあったが良い母ではなかった。クィーンは性に対しても奔放で気に入った相手ならば誰でも抱いたし、できた子供は生みこそしたが育てるのは部下に任せていた。

 その中でもベリスはベラが侵略し奪い取ったモーリアン王国の王族の血を引いていることが確認できた子であり、鷲獅子大戦には負傷により参戦できなかったが故に唯一生き残ったクィーンの子でもあった。

 結果として大戦の結末を経てクィーン最後の子としてベリスは担ぎ上げられ、王政派によってモーリアンは傭兵国家から王国へと回帰した……が、王政派の最盛期はそこまでだ。ベリス王がベラドンナ自治領を認めたことで国が割れ、さらには自治領をローウェン帝国が支援したことで戦争に突入することになった。その対処をするのは軍であり、非難を受けたのはベリス王を持ち上げた王政派であったのだ。

 また戦争が継続し続けたことでも国内の軍部の力は増し、ジェネラルの台頭によってベリス王の立ち位置は王政派の御輿からクィーンの代わりの御輿となっていた。ベリスに求められたものはソレであり、王政派は立場を失いつつあり、ニオーたち軍部との力関係は完全に逆転していた。

 とはいえ、ベリスと軍部との関係は悪いものではなかった。日和見主義のベリスは政治的判断を王政派に寄せすぎることはなかったし、この内乱の中で軍部の判断に口を出すこともなかった。扱いやすく、人当たりの良いベリスはどちらにとっても悪い王ではなかったのである。けれども状況はすでに変わった。


(私の価値はなくなった……のだな)


 クィーン・ベラドンナの生まれ変わりベラ・ヘイロー。

 自治領軍を下し、ローウェン帝国軍を退け、ディアナの門を塞いだ。ジェネラルをも退かせ、幾人もの八機将を葬った。それは当初予定していたクィーンの代わりの御輿として十分どころではない戦果だ。飾りではなく真にクィーンの再来であり、ただの御輿であるベリスはその時点で存在意義を失いつつあった。同時にニオーたちの忠義もまた薄れていくのをベリスは感じていた。


(ニオー、ゼック。大戦以降、彼らのこれほどの笑みを見たことがあっただろうか。ああ、私は知っているぞ。その顔を。それは母上の背を追い、走り続けていた頃の顔だ)


 ベラ・ヘイローと出会ったモーリアンの戦士たちは皆かつての頃に戻っていく。それは自治領の戦士すらも同様なのだろう。ベラという炎に当てられて、皆がかつての心を取り戻していく。狂騒に駆られていく。


(そして私は……そうだな。さながら竜に捧げられる生贄というわけか)


「いかがされました国王陛下?」

「いや、なんでもないさ」


 願うことならば、その少女と出会うことで自分もその仲間に入れればとベリスは思うが、それは恐らく叶わないと知っていた。与えられた火に焚べるだけの薪が己の中にまだ残っているとは思えなかった。何よりも……


(我が子が生きることを認めてもらえると嬉しいのだがな)


 彼の心を占めていたのは己の子供の未来だ。

 ベラという炎に焼かれてモーリアンはこれから傭兵国家として再誕するのだろう。そうなったときに王族の血を引く者を果たして彼らが残そうとするのだろうかとベリスは思う。再び王政派が台頭し、息子を担ぎ出す可能性を考えれば生かしておく理由はない。息子は死に、或いは己も生きることを許されるかも分からない。

 けれどもベリスは受け入れざるを得ない。モーリアンが生き残る道がベラ・ヘイローと共に歩むしかないと理解しているのだから。

 そして、その翌日にベリス王一行はベラのいる防衛都市ナタルへと到着し、ついにベラと対面したベリスは……


「……ママ?」


 一言、そう呟いたのであった。

次回予告:『第364話 少女、婿候補と会う』


 バブみを感じてオギャる……なるほど、そういうことですか。 


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― 新着の感想 ―
[一言] ママ? ママなの? ママーッ!
[一言] >「……ママ?」 オレのお茶返せ!www シリアスな空気が全部吹っ飛んだw
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