表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

363/390

第362話 少女、親子喧嘩の報告を受ける

 防衛都市ナタルの攻略とディアナの門の確保を終えて、ベラ周囲の状況はひとまず落ち着きを見せていた。

 現時点でのベラのベラドンナ自治領内における立場だが、ヘイローに帰参する者以外のヘイロー軍はそのまま自治領軍に編入し、ベラは千鬼将軍ゾーン・ドゥモローと同列の地位が与えられていた。もっともローウェン帝国との協力関係を断たれた自治領内においてモーリアン王国の後ろ盾を持つベラに逆らえる人間はもはやいない。

 当然自治領内でベラを快く思わぬものは多い。いくさで苦杯を舐めさせられた者が恨みを持つのは当たり前だし、ナタルに至るまでの遠征で道中の村や町から物資補給のための強奪を繰り返してきたことも悪印象を与えている。

 とはいえ宰相であるリガルはベラの存在を是とし、ナタル防衛戦で直接敗北した兵たちは何も言えず、一方で反ローウェン派閥はこの状況を歓迎しており、さらにはベラがモーリアン王国のベリル王と結ばれることを条件に分かたれたモーリアンをひとつに戻すとリガルが宣告したことでいくつもの否定的な声も払拭された。

 そもそもベラドンナ自治領はクィーン・ベラドンナの意志を継ぐために生まれた国であり、ローウェン帝国と組んだことでその大義は薄れていたのだ。それを繋ぎとめていたのはジェネラル・ベラドンナの存在であったが、ジェネラルもクィーンを知らぬ人間からすれば帝国の造ったプロパガンダの案山子にしか見えなかったし、実際に会えば本人だと理解できた面識がある人間も帝国から戻ってこない現状には不満を溜め続けていた。

 またベラの行動はかつてベラドンナ王国を武力で奪い、自らの国に仕立て上げたクィーンの所業と重なっているようにも見え、それが免罪符の役割を果たしている面もあった。

 そうした背景もあって、ローウェン帝国と通じている者からの暗殺未遂などは幾度かあったものの現在のベラの立場は安泰となっていた。


「ローウェンの皇子が死んだ?」


 ともあれ、現在は防衛都市ナタルに居を構えて傭兵国家ヘイローの引継ぎなどの件を処理していたベラの元に、従者パラの口からローウェン帝国内での内乱とその鎮圧の報が届いたのは今日のことであった。


「はいベラ様。二十日ほど前に皇都内で第一皇子ナレイン・アージェント・サーバッハによる内乱が発生したとのことです。ナレイン一派は皇城を占拠し、皇帝ジーンの玉座まで追い詰めるも返り討ちにあい、鎮圧されたとも」

「はーん? ジーンなんぞもうジジイじゃないかい。そろそろおっんでもおかしかない年だし、ほっときゃ自分が皇帝になれたってのにあの皇子様は何をトチ狂ったんだろうね?」


 第一皇子であるナレインのことは当然ベラも知っていた。ジーンがすでに天寿をまっとうしていてもおかしくない高齢ということもあり、次代の皇帝に一番近い男の情報を得ていないわけがなかったのである。


「未確認情報ですが国剣ネア・オーグ・サディアスも反乱側に回り、自身が囮となってナレインを皇帝の元に送り込んだという噂も流れています。その後に捕縛されたそうですが」

「国剣……八機将のひとりかい」


 国剣ネア・オーグ・サディアス

 霊機ゾーン・タオラ

 竜牙キリル・デン

 銀光ウォート・ゼクロム

 圧殺シャガ・ジャイロ

 刀神バル・マスカー

 獣神アルマ・ゼダン

 獣魔ドルガ・ゼダン


 現在、帝国の八機将と呼ばれている者はこの八名だ。

 すでにベラが仕留めたシャガ、アルマ、ドルガの三人の代わりが未だ出ていないのは彼らを倒したベラをローウェン帝国軍が討っていないからである。

 ベラは以前に八機将と名乗るデイドンも討っているが、デイドンは帝国側から見ればベラと実際に戦ったのかも定かではなく生死も不明な上に、デイドン自身がまだ正式に八機将としてあったわけではなかった。もっと言えばアレは実験が成功して興が乗ったロイ博士のゴリ押しだったこともあり、今では存在そのものが闇に葬られている。

 けれどもシャガたちは違う。言い訳のしようもない、隠し立てできぬ戦場の只中でベラに討たれていた。それ故にローウェン帝国はベラ・ヘイローへの報復をみそぎとし、その後に新たなる将を着任させると宣言している。なお、バル・マスカーも前任である八閃ソーマ・カイオーの仇討ちをもって八機将と認められていた。


「そんじゃあもう八機将の半分が終わってるじゃあないか。それで補充しないとか。阿保なのかね、帝国は?」


 そう指摘するベラの言葉は実のところ正確なものではない。八機将のひとりである銀光ウォート・ゼクロムは実質的にはロイの私兵に近い状況であるために帝国が動かせる八機将はさらに少なくゾーン、キリル、バルの三人のみだ。無論、自身の武力を必須とする八機将になれぬだけで帝国は有能な将を多く擁してはいるのだが。


「国剣は先代の皇帝より仕えし帝国の懐刀です。それが反逆に加担するというのは帝国にとって面白くないでしょうし、場合によってはこのまま隠し通して地位の剥奪はもされないかもしれませんが……まあ、皇都内で大立ち回りをしては流石に漏れ出る声は防げませんでしょうね」

「そりゃあそうだ」


 だから、こうしてベラの耳にも入ってきている。


「そして問題の第一皇子が反逆した理由ですが……」

「自分の立場が危ぶまれるようなことでもあったのかね?」

「表向きはイシュタリアの賢人の非道とそれに加担した皇帝の罪を問うものだと主張していたようですが」

「またあのジジィかい」


 ベラが眉をひそめる。イシュタリアの賢人ロイ。それがこの戦争の元凶だ。


「はい。元々イシュタリアの賢人ロイは皇帝ジーンの不老不死研究のために呼ばれたとの噂があります」

「なるほど。イシュタリアの賢人……あの古代文明の生き残りというのが確かなら不老……今も生きてるなら少なくとも死んだこともないんだろうが」


 イシュタリア文明は1000年から2000年以上は昔に栄えた今よりもはるかに進んだ技術を持っていたとされる文明だ。この世界で影響を受けておらぬ地はなく、そんな文明がなぜ滅びたのか、その理由は未だに判明してはいない。


「生きていれば1000歳以上か。御伽噺の蒼竜王様や竜種の類であればそんぐらいは生きているかもしれないがね」


 イシュタリア大陸に竜種はいない……というのが、この大陸に生きる者の常識だった。ローウェン帝国とベラの双方の偶然の巡り合いが再びこの大陸にドラゴンの姿を取り戻させはしたが、当然産まれたばかりの彼らが1000年生きられるかは1000年経たねば分からない。ベラの口にした蒼竜王も暗黒大陸に帰っているし、今は生きているのかも、1000歳を超えているのかも不明であった。


「古代文明の生き残りだってのが騙りだとしても、あのクソジジィがイシュタリアの技術を持っているのは事実なんだろうさ。イシュタリアの文明を受け継いだ一族の生き残りなのかもしれないね。それに不老不死ってのに心当たりもある」


 そう言ってベラが金色に光る己の竜眼を指差した。


「皇帝ジーンは竜人になったと?」


 ベラの竜人化は不死ではないし、年々歳は取っているから不老でもないようだが、その成長速度は緩やかで12になった今でも一桁の幼女の如き姿をしている。


「それかもっとおぞましいものかもしれないがね。あっちにゃ混機兵キメラなんぞもいるんだ。不老不死。それに近い存在になりゃ、後継ぎなんざ自分の地位を脅かすだけのものだろうし、竜の因子を取り込んだ己の子種で新しく世継ぎを作ろうなんて考えていてもおかしくはない」


 そうしたことを感じ取ったナレインが今回の反乱を企てたのかもしれないとベラは考えた。


「ま、お家騒動でなら一大事なことなんだろうが、別に不老不死になったところでこっちにゃ特に問題はないさ。死なないなら取り囲んでボコって縛りつけりゃぁいいだけだし、首をもいでも喋れるんなら鳥籠にでも入れてお喋りの相手にだってできそうだ」


 死なずは無敵には程遠い。それは戦場で決定的なものにはなり得ないとベラは考える。どうあれ対処できるのであればするだけだと、己の中の合理性をもってベラはそう断定した。


「それよりも世代交代がされなかったことを吉報と考えようかい」


 ナレインはローウェン帝国内では慎重派の人間だ。無論、次期皇帝として大陸に覇を唱えようという野心は彼にもあるようだが、この十年ほどの帝国の急速な動きを歓迎しているわけではなく、彼が皇帝になれば帝国の動きは鈍るのでは……とも予想されていた。

 それは平和の訪れではなく、次の戦争に勝つための万全の準備をするということであり、攻めの姿勢を弛めぬ今の帝国よりもベラにとってはやり辛いものになるはずだった。


「内ゲバで勝手に力を削いでくれるんなら恩の字だ。こっちはこっちで準備をするだけ。で、パラ。アレはそろそろ来るんだったよね?」

「ハッ、明後日には到着するかと。しかし、ベリス王もよく動きましたね」


 ふたりの言葉の通り、この都市にモーリアン王国のベリス王が来ることになっていた。多くの戦力を留めつつディアナの門にもすぐに駆けつけやすいというこの防衛都市ナタルの特性上、ここからベラが離れる気はないとはいえ、一国の王が先日まで敵地であった場所に向かうなど無謀に近い話である。


「クソ度胸があるのか、ただの考えなしか。まあ、今の流れに乗ろうって考えは嫌いじゃあないがね」


 ベラが笑いながらそううそぶく。

 もっともその笑みは未来の旦那様を出迎える淑女のモノではなく、獲物を狙う肉食獣のソレであるようにパラには見えていた。

次回予告:『第363話 少女、婿候補と会う』


 ついにベラちゃんに春が訪れるのでしょうか?

 お相手はベリスおじさん。結婚もしていて子沢山のダンディです。可憐な淑女に略奪愛は少々難易度が高いかもしれませんが頑張ってベラちゃん! 恋愛は戦争ですよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >>隠し立てできぬ戦場の只中でベラは討たれていた ベラちゃん討ち死に!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ