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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第349話 少女、都市を手に入れる

『馬鹿な……何が起きたんだ!?』


 ゾーンは己の目の前で起きた状況に目を丸くしていた。

 彼が見たのは砕けた鉄の扉だった。それは奴隷巨人や精霊機エレメントたちを使って生み出されたもので、例え鉄機兵マキーニや巨獣相手でも破壊できぬ強固なものだと聞いていた。ゾーンも破壊できるかを試したわけではないが扉の分厚さを見れば、それが事実であることは明白であった。

 そんな、どのような攻撃すらもものともしないはずの巨大な鉄の扉がたった一撃で破壊されたのだ。それはゾーンにとってはあまりにも想定から離れたことだった。それだけに、彼の心にはほんのわずかな動揺が生まれた。


『戦いの最中によそ見とはな』

『しまっ』


 そして歴戦の戦士たるガルドにとって、その隙を狙うことは難しくはない。

 ゾーンの意識の外より飛んできた右の鉄拳が容赦なく『アルハンドラ』の右肩に激突して衝撃を走らせ、同時に揺れる機体の胴部を左の鉄拳から伸びた鎖が高速で絡まって行く。

 このガルドの鉄機兵マキーニ『トールハンマー』の主武装『鉄拳飛弾ロケットパンチ』は本来対巨獣用、それも捕縛を目的としたものであった。巨獣すらも捕らえられるのであれば、鉄機兵マキーニでは逃げ出すことなど不可能。だからゾーンもここまで絶対に捕まらぬようにと立ち回っていたのだが、後の祭りである。


『クッ、ゾーン将軍をお守りしろ!』

『ハッ、ここは通さぬよ。モーディアス騎士団はガルド将軍のみの軍にあらずだ』


 ドゥモロー騎士団の機体が捕縛されたゾーンの機体『アルハンドラ』を助けようと近づくが、モーディアス騎士団はそれを許さない。また『人食い』で知られる獣機兵ビーストの軍団が次々と防衛都市ナタルへと進軍していく様も彼らの士気に影響し、ゾーンと都市内双方に対してどう動くべきかという迷いが生じ、防衛都市ナタル西門前の戦いは、モーディアス騎士団に軍配が上がっていった。


『くっ、まさか……このようなことが……クィーンの意志をここで、こんなところで』


 その様子を完全に捕縛されて動けぬ『アルハンドラ』の中にいるゾーンがギリギリと歯を食いしばりながら眺めていた。胸部ハッチも鎖によって押さえられているために、逃げ出すこともできない。


 呆気なかった。それはあまりにも呆気ない敗北だった。


 鷲獅子大戦からここまでに築き上げてきたすべてが崩れ去っていくのをゾーンは感じていた。

 クィーン・ベラドンナという支柱を失って迷走した祖国を見限り、かつての敵とまで手を組み、生きていた己が主人が戻ってくるのを待ちながらゾーンたちはここまで来た。

 ゾーンたちにとってモーリアン王国という存在は許せるものではなかった。

 ローウェン帝国に敗戦したモーリアンにとって国を維持するためには安定した治世が必要だったのは確かだ。そもそもモーリアンは元は王政で、それをクィーン・ベラドンナが奪いとって傭兵国家へと名を変えた国であった。

 そして現在のベリス王はクィーンの子ではあるが、同時にモーリアン王家の血も引いている。ベリス王はクィーン存命時に王家の血を取り込むことで国内の王政派を抑え込むために用意された子であり、さらに言えばクィーンの戦狂いが祟ったせいか、彼女の子供は戦と暗殺でことごとく死んだために唯一のクィーンの血筋でもあった。王政の復活はクィーン亡き後にモーリアンが生き残るために必要なものであり、クィーンの子が王となったことはクィーンの信奉者たちとの妥協点であるはずだった。けれどもベリス王は賢しくはあったが戦士ではなく、ゾーンたちにとってクィーンの意志とは血ではない。


 強者こそが頂点に立つべき。


 それを許容できぬ国などは認められぬと彼らは新しい国を興したのがベラドンナ自治領の始まりだ。それが今、ゾーンの目の前で崩壊していく。


『しかし……あのような巨獣兵装ビグスウェポンまで存在するとはな。もはや戦争の形が変わったのか。古い戦が駆逐される。私もそうして……』


 ゾーンが力なくそう呟く。

 獣機兵ビースト竜機兵ドラグーンだけでも新しい脅威ではあったが、ここに来てドラゴンや巨獣機兵ビグスビースト、それに巨獣兵装ビグスウェポンという恐るべき兵器が次々と現れてきた。

 時代が変わったのだろうと、己が負けた原因は時代の潮目を見抜けなかった故であろうと、そうゾーンが思うことは……しかし、できなかった。


『おや、もう終わっちまったのかい?』


 なぜならば、ゾーンの前に光り輝く赤い鉄機兵マキーニが現れたからだ。ただ一機で敵陣を突っ切り、この場まで来た存在がそこにいた。


『……ベラ・ヘイローか?』


 ボソリと呟くゾーンの目に魂力プラーナの光を漂わせる『アイアンディーナ』の姿が映っていた。

 骨のようなフレームによって支えられてはいるが、各部位が異様に膨れあがって内部のパーツが飛び出ており、その姿はまるでジャンクの塊だ。

 そんなものがなぜ動いているのかがゾーンには理解できなかったが、それでも『アイアンディーナ』の足取りはしっかりとしており、戦闘に支障はないようだった。


『ベラ総団長、たったひとりで戦場を横断してくるのは軍の将としては少々軽率であるように思えるが?』


 そんな中でガルドが真面目にベラへと苦言を呈した。

 その言葉はもっともなもの。ヘイロー軍はベラ・ヘイローという一本の巨大な柱があって成立している軍隊であり、ベラが落ちた段階で終わる組織だ。けれどもベラはそんなことは気にも留めないし、何よりもこのような蛮勇を成せてしまうからこそ彼女は彼女であるとも言えた。


『ヒャッヒャ、悪いねガルド将軍。けどディーナが魔力を吸われる感覚を嫌がってるんだよ。うちの子は繊細でね。首裏を舐めまわされるような感触は我慢ならないんだとさ』


 そう返しながら、ベラが自身が来た方角へと視線を向ける。そこには無数の倒れた鉄機兵マキーニたちで道ができていて、その先には魔喰茸の巨獣機兵ビグスビーストの姿が見えた。


『ま、巨獣兵装ビグスウェポン持ちは仕留めたし、ローウェンは逃げていったんだ。あたしがやれることはやったし、あとはガイガンがしっかりやるだろうさ』

『ふむ、確かにガイガン殿は優秀であるからな』


 ガルドの言葉にベラが『そうだろう』と口にしながらヒャッヒャと笑い、その様子にゾーンが驚きの顔をしながら口を開く。


『ベラ・ヘイロー。まさかお前は……単機でここまで来たというのか? 敵をすべて薙ぎ払って?』

『おやおや、あんたはゾーンだったね。とりあえずは久しぶりとでも言っておくかね』


 まるで久しさを感じさせぬ言葉だが、ゾーンには何故だか久方ぶりに聞いたような感覚に陥った。それが如何なる所以で起きたものであるかゾーンが思い当たる前にベラは話を続けていく。


『で、あたしがここにいる理由はアンタの想像通りだよ。ちょいとあたしの調子が良くて、ちょいと相手の調子が悪い……そういうのが噛み合っちまってね。憐れなローウェンの腰抜けどもを追い立ててたらここまで来ちまったわけだが、こっちにはもういないみたいだねぇ』


 ベラが辺りを見回すがローウェン帝国軍の兵は確かにこちらには来ていなかった。すでに彼らはこの都市を切り捨て、この西門にも向かわず、別の門からナタルに入ろうとするのでもなく、自治領軍との合流は考慮せずに祖国へと向かって逃走していた。


『それに戦いも早々に決着がつきそうだ』


 また、ほかのベラドンナ自治領軍にしても現在一進一退の状況だった。

 元々が長年戦い続けていた相手であるのだから戦力が拮抗するのは止むなしというところだが、だからこそ新しい力ベラとシャガの勝敗は戦争の結果へと直結する。

 すでに防衛都市ナタルは門が破られて籠城は不可能となった。

 ベラドンナ自治領の首都ベラドールの応援も当然間に合わない。

 後退して軍を再編しようにも主力であるドゥモロー騎士団とビヨング騎士団の頭は押さえられ、ローウェン帝国軍の金剛軍団ももはや当てにならない。

 天秤は今やモーリアンの側に傾き、そしてそれを成した人物がゾーンの目の前にいる。新たなる力を使い、その上に自らは己の武を示して他を圧倒する。

 その有り様はかつての誰かを思い起こさせるようであり、故にゾーンは負けた原因を己以外のものに委ねようとした自身を恥じ、


『ま、この街も『あたしのもの』になるんだ。少々気が逸るのも仕方がないことだろうさ』


 そして、ベラの放った言葉にゾーンの思考が止まった。

次回予告:『第350話 少女、都市を手に入れた』


 今回はちょっと欲張りさんなベラちゃんの一面が垣間見えました。

 けれども、年頃の少女のかわいい我儘は私たちにとってはご褒美のようなものです。

 だからもっと身近な大人たちを頼ってもいいんですよ、ベラちゃん?


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