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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第34話 幼女、目撃される

 国境としての分け目ともなっているジリアード山脈のルーイン王国領側に属する山の麓にあるババール砦。しかし、現在そこに陣を構えているのはルーインではなく、隣国であるパロマ王国に属する戦士たちであった。もっとも、そこは今やパロマの側からすれば、パロマ王国領と言うことになるのだろう。


 そして、このババール砦はかつては山を超えた所にある砦とトンネルで通じていた建造物であった。現在では内部のトンネルが崩れて塞がってはいるが、古イシュタリア文明の多くのものに見られるように建物自体は未だ頑強でそのままの形で残っており、砦としての機能も失われてはいない。

 そのババール砦の内部の一室では、パロマ側のモナ地方の領主であるマルコフと、『パロマの戦刃』と呼ばれているコージン将軍が向かいあっていた。


「奇襲は失敗。子飼いの傭兵も戻らずですか。あなたにしてはずいぶんと手痛い目にあったようですね将軍」


 そう口にするマルコフに、コージンは特に表情も変えずに頷いた。


「頭の痛い話ですな。まあ、最低限の作戦目標はクリアできてはおります故、良しとしておきましょう」


 その言葉にマルコフが眉をひそめるが、コージンは微動だにしない。敵戦力を減らすことが第一の目標なのは確かではある。それが、すでに資金的な体力のないデイドンにとって痛手なのも事実であった。

 コージンにしてみれば不利になれば即時撤退も計画に織り込み済みのことだ。砦からの進軍はそのための牽制でもあった。

 勿論、奇襲組が敵を翻弄し続け、砦からの部隊がルーインの前線基地に到達できる状況だったならば殲滅は可能であった。

 また、コージンは予めルーインの傭兵の部隊の中に仕込みもしてあった。貴族の騎士団は殲滅され、勝ち目のない傭兵たちはその場から離脱するという流れを造るように動くはずだった。

 しかし、コージンは元々そこまでの戦果を期待してはいなかった。デュナンはルーイン軍殲滅という大戦果を第一にと考えていたようだが、そこまで虫の良い事態に及ぶ可能性は2割程度だろうと想定していた。予想外だったのは、もっとも期待していたデュナンが戻らなかったこと、そして撤退のタイミングが予想以上に早かったことだろう。

 それを話としては聞いて理解はしているマルコフは、あまりにも堂々としたコージンの態度に肩をすくめながら言葉を続ける。


「殲滅できるならそれに越したことはなかったのですが。まあ、戦闘に門外漢の私が口を挟むことではないですし、あなたがいなければ当の昔にデイドンにこの地を奪われていたのですから、偉そうなことは言えません……が」


 そう言いながらもマルコフは再度コージンを見た。


「逃げ帰った鉄機兵マキーニ乗り達によれば、非常に強力な赤い鉄機兵マキーニがいたと聞きます」

「ええ、まだ若い鉄機兵マキーニだと私も報告を受けています」


 赤い鉄機兵マキーニの話が出た途端にコージンの眉がつり上がった。赤い鉄機兵マキーニはマルコフがコージンの子飼いと呼んだデュナンのオルドソード傭兵団と戦ったらしいとの報告があった機体である。コージンとしてもその事実には心穏やかとはいかないようだった。


「未だ成長過程にある未成熟な鉄機兵マキーニが、我が方の鉄機兵マキーニを圧倒していたと聞きます。奇襲は傭兵型が多数だったとは云え、騎士型鉄機兵マキーニに劣らぬ者ばかりを選別して送り出したのでしょう?」


 そのマルコフの言葉にはコージンも素直に頷いた。

 コージンが行ったのは、ルーインの増員部隊に見せかけた傭兵型鉄機兵マキーニによる奇襲である。傭兵を無視して貴族たち狙いにしていた以上、コージンが奇襲部隊に彼らに対抗できる能力を求めたのは当然であった。

 そして、古くから国を護る使命を帯びた騎士団と、近年台頭してきた成り上がりの傭兵がその歩調を合わせて共闘できるかと言えばそれは難しい。

 基本的なこの世界の戦場での確執を利用したコージンの作戦は初期段階においては完全に目論見通りの結果を示していたと、逃げ帰った鉄機兵マキーニ乗りたちも口をそろえて言っていた。


「それが機体性能に劣る鉄機兵マキーニで打破される。その事実の理由を私は知りたい」

「『大戦帰り』ということでしょうかな?」


 マルコフが言葉の中に畏れが含まれているのを察し、コージンはそう尋ねる。

 6年前に発生したローウェン帝国と、周辺国の集合体であるドーバー同盟による大きな戦争。全滅戦争とも、またベラドンナ獅子ジーンの一騎打ちにて幕を閉じたことから鷲獅子大戦とも呼ばれているそれは、各国が己の戦力を消費した結果、市井への鉄機兵マキーニの流出拡大と、予備戦力としての傭兵たちの台頭のキッカケとなってしまった戦争でもあった。

 参列した多くの手練れ達は次々と地獄へと堕ちたが、武名を上げながら生き残った僅かな者たちは『大戦帰り』と称され、讃えられ、恐れられ、いつしか化け物として扱われるようにすらなっていた。


「そうですな」


 コージンが僅かに苦みを含んだ声で口を開いた。

 大戦への参戦をしていなかった武人たちにとっての多くがそうであるように、コージンにとっても『大戦帰り』はコンプレックスの対象でもあった。それ故にコージンは努めて『大戦帰り』を意識せぬようにもしていた。


「可能性はありますが、まぁ、問題はないでしょう。所詮は名も知られていない個人です。現状の優勢を覆すものではありませんな」


 コージンは僅か一機の鉄機兵マキーニの戦闘力により戦果が変わるほど、戦場を甘くは見ていない。少なくともコージンはその認識でいた。


「ただ、上手いとは感じました」

「上手い?」


 マルコフの問いにコージンが首肯する。


「煽り方が……ですが。分断した騎士の陣地へと傭兵を連れ込む速度が、そして、貴族達を奮起させ、けしかけた速度が。まだ若い鉄機兵マキーニだといいますが、乗り手の力量がそれを凌駕している。確かに『大戦帰り』やもしれませんが」


 続けてコージンは言葉を続ける。


「粗野ですな」


 コージンのその言葉にはマルコフは首を傾げた。


「戦い方が騎士のソレではない。おそらくは『大戦帰り』だとしても在野に落ちた者なのでしょう。名も知られていないのであれば、どこぞで盗賊にでも身を費やしていたのかもしれません」

「なるほどな」

「もっとも単体での戦力としては厄介ではあるでしょうし、敢えて無視をするつもりもありません。発見次第、私の手勢にて早急に排除いたしましょう」


 その言葉にはマルコフも満足そうに頷いた。所詮は指揮官ではなくただの領主である。マルコフとしては、さきほど耳に入った不安要因の排除の約束があれば満足ではあったのだ。それほどに『大戦帰り』という存在そのものが、マルコフに限らずではあるが、大きいものであるということでもある。


「頼みましたよ」


 そのマルコフの言葉にコージンが頷いた。

 コージンとて、その赤い鉄機兵マキーニを侮る気持ちはなかったが先ほどまでは、特別気に留めるほどとは感じていなかった。しかし領主のオーダーである上に強敵を警戒せよという話であるだけだ。特に抗う理由もない。故にコージンは自らの精鋭を差し向ける準備を考える。


 そして、今この場においてマルコフの指摘は実のところ大凡おおよそ正しかった。不本意ではあるが従ったコージンもまた、結果的にはその選択は間違ってはいなかったと言えるだろう。しかし『足りなかった』。赤い鉄機兵マキーニへの対処は彼らの想定の中にあるだけの対応だけでは全く不十分だった。


 もしも……ではあるが、己の見込んでいたデュナンを直接倒したのが、その赤い鉄機兵マキーニであると知っていればコージンも対応を変えていたのかもしれない。デュナン率いるオルドソード傭兵団の鉄機兵マキーニのすべてが赤と黒の鉄機兵マキーニに駆逐されたと知っていれば或いは違ったかもしれない。

 だがコージンはその事実を知らない。コージンは、デュナンたちは途中参戦してきたその赤い鉄機兵マキーニたちの傭兵団によって潰されたということしか知らなかった。

 対峙した者たちはすべて撃破され、赤い鉄機兵マキーニの詳細な情報がコージンたちの元に届かなかったという事実もコージンの瞳を曇らせていた。

 だが、コージンも知らぬ以上は、それを前提にした対策など立てられるはずもない。ただ増援の傭兵団が手強いだろうということしか認識できていなかったのである。


 その彼らが赤い鉄機兵マキーニの現実を知ることになるのは、今よりもわずかに未来のことである。そして、話し合う彼らに、慌ただしくやってきた兵より報告が入る。それは、ルーイン王国の進軍だ。


 届けられた報告にコージンは僅かに笑って、マルコフの部屋から出ていった。

 それはコージンにとっては『すでに想定通り』のことだったのだ。準備は万端。なにひとつとしてコージンにとって不安要素はなかった。


 また、伝令によれば、例の赤い鉄機兵マキーニも出ているらしいとコージンは聞いた。そして、自分の行動が猛獣に餌を与えているだけだとも知らずに、コージンは部下たちを赤い鉄機兵マキーニにぶつけることを思案するのであった。

次回更新は4月23日(水)0:00。


次回予告:『第35話 幼女、狙われる』

お隣さんはどうやら優しい人のようで、ベラちゃんのためにお菓子を用意してくれるみたいです。ベラちゃんもきちんと挨拶をしないといけませんね。

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