第344話 少女、払う
シャガの乗る鉄機兵『ディザイン』の双肩。そこに収められている竜の心臓が赤く輝き出すと、まるで猛る炎の如きオーラが湧き上がり始めた。可視化されるほどの力の奔流は周囲の空間を歪め、その様子にベラが眉をひそめる。
『おいおい、かなりの魔力が出ているのは分かるんだけどねえ。ずいぶんとお漏らししてるじゃあないか。もしかしてアンタ、結構な歳なのかい? 溜まったもんを垂れ流さないだけの自重はできていると思ったんだがねぇ』
『ははは、恥ずかしながら我にはお前のような小器用な真似はできぬ。しかし、だからこそ数で補うことにしたのだ。双竜玉本格起動。竜の成れの果てよ、その力を示せ!』
そしてシャガの意思に従って湧き立つオーラが機体全体を覆うと『ディザイン』が背部のパイプからのみならず全身から銀霧蒸気を吐き出しながら一気に駆け出した。
『おお、速い。こいつは厄介だね』
ベラがそう口にしながら腰に差していた炎の蛇腹小剣『デュナン』を抜いて超重鉈を受け止めた。
『ぬ、なんだ?』
強烈な違和感を感じたシャガが眉をひそめると、ベラが『ヒャハッ』と笑った。
『刃が歪んで、弾けない?』
『あたしのデュナンは特別製でね』
剣と剣とが重なり合う直前に超重鉈が放った衝撃波を炎の蛇腹小剣は自ら刃の結合を解いて鞭のようにしならせることで受け流し、直後に再び結合させて刃を直接受けたのだ。
起きた現象を説明すればただそれだけではあるのだが、そのタイミングの合わせ方は神業に近い。まるで刃自身が意志をもってベラに従って動いたようにすらシャガには感じられた。
『なるほど、多芸なだけではないようだベラ・ヘイロー。ジェネラル・ベラドンナと戦ったという話は騙りではないようだな』
『はっ、戦った? あのババアだけなら片手でひねってやったさ』
『その言葉が確かか否かはともかく、お前に力があることは我も認めよう。しかし、今この場においてお前と我には大きな差がある』
『あん? 差だって?』
ベラが訝しがりながらも『アイアンディーナ』を後方へと跳び下がらせて距離をとるが、シャガの『ディザイン』はそれを追うことはなく、その場で止まって構えた。
『現在、ローウェン帝国では鋼機兵と呼ばれる機体が造られているのは知っているか?』
『鋼機兵だって……ああ、あのババアが乗っていた機体かい?』
ベラがジェネラル・ベラドンナと戦った際に、確かにあの老婆は自分の機体を指して鋼機兵という言葉を口にしていた。それが何を意味しているのかまでは確認が取れてはいなかったが、ジェネラル・ベラドンナの乗っていた『ゴールデンディアナ』は見た目は鉄機兵であるにもかかわらず、明らかに通常の鉄機兵を凌駕する性能を有していたのである。
『そうだ。ジェネラルの乗っているのは実戦投入の第1号。そして我の『ディザイン』は鉄機兵ではあるがフレーム構造だけはプロトタイプの鋼機兵と同じものを使用している』
『だからそんな無茶をしても機体が保つってわけかい』
『理解が早くて結構だ。時間切れなどという萎える終わりを迎えることはないと先に宣言しておこう』
そう言いながらシャガの『ディザイン』が踏み込み超重鉈を振るい続け、それらをかわしながらベラが舌打ちをする。つまりは機体自体が双竜玉の出力に耐え切れるよう強化されているために、時間経過による負荷での自滅は期待できないということだった。
(それにしても、思ったよりもこいつはやるねえ)
想像以上に『ディザイン』は強敵であった。元より厄介な超重鉈を持つ『ディザイン』が双竜玉の力で高出力を得てさらに強化されている。
その動きからしてシャガの実力でもわずかに振り回されている感はあるが、それも暴れ馬を操るが如き勢いで、むしろ機体の暴力性を際立たせているようでもあった。
(さすが八機将というべきか。いやはや)
けれども……と、ベラが舌舐めずりをしながら笑みを浮かべて思う。
(『運がない』ね、こいつも)
『ぬぅっ』
シャガが唸る。先ほどから防戦一方であったはずの『アイアンディーナ』から攻撃の手が増え始めたのだ。それは明らかにシャガの攻撃に慣れ始めている動きであった。
『学習している? しかし』
シャガが不可解という顔をしてそう呟いた。未熟な戦士でもあるまいし、シャガもベラも技量はすでに円熟した手練れのもの。戦いの最中に急激な成長を見せることなどそうあるものではない。
『速いねえ。力もある。技量も相当なものだ。まあ、うちじゃあ勝負できるのはガイガンかアイゼンかってところかね。使えるのがロートルしかいないってのがウチの弱みだが』
ベラがそううそぶく。
竜撃隊の隊長として隊を率いているガイガンはベラやリンローに比べて派手さはないが、その技巧はヘイロー軍でも随一であり、息子のカールも未だガイガンには及ばない。そしてベラの祖父で大戦帰りの、現在はドーマ兵団を率いているアイゼンもヘイロー軍ではベラに次いでの実力を持っている。どちらも高齢ではあるがラーサ族特有の身体能力の高さにより未だほとんど衰えはなかった。
また条件次第ではそこにリンローとザッハナイン、ロックギーガも加わるのだが、それは技量の差というよりはスペック差によるゴリ押しが噛み合わされば……という前提であった。
『けど、あたしとアンタは特別相性がいいらしい』
『なんだと?』
次の瞬間に超重鉈が弾かれる。
『クッ、発動前に!?』
『ヒャッヒャッヒャ、出がかりを潰しゃぁそいつもただの鉈だね』
『まさか見計らったというのか?』
シャガが驚愕の声を上げる。
『そういうことさね。あたしにゃ視えてるんだよねえ。いやいや。普通なら問題はなかったと思うよ。あたしももっと苦戦しただろう』
そう言って笑うベラの瞳は黄金色に輝いていた。それこそは竜眼。竜の血を浴びて変質した魔力を視る眼だ。その眼によってベラは『ディザイン』の魔力の流れを正確に捉えていたのだ。
通常であれば、そこまで視えるものではない。機体の動きを読むだけなら『眼』に頼るよりも動きを見て先読みした方が早いのだが、現在の『ディザイン』だけは別であった。
『双竜玉から無駄に垂れ流されてる魔力がアンタの次の動きを全部視せてくれてるんだよマヌケが』
『小賢しい。ならば力で押し通せば良いだけのこと!』
そして再度『ディザイン』が超重鉈を振るうと『アイアンディーナ』の左腕の仕込み杭打機が飛び出て刃を弾き、
『チィッ!?』
『ヒャッハァアア!』
次の瞬間には姿勢を崩した『ディザイン』の横腹に『アイアンディーナ』が炎の蛇腹小剣を突き刺していた。
次回予告:『第345話 少女、刺す』
お願い、死なないでシャガおじさん。
あなたが今ここで倒れたら、副官ライアスや金剛軍団はどうなっちゃうの? 魔力はまだ残ってる。ここを耐えれば、ベラちゃんに勝てるんだから! ※勝てません。




