第343話 少女、受ける
今年のロリババアロボの更新は今日で最後です。
来週は正月休みで次の更新は1月13日(月)頃の予定となります。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。良いお年を。
『まったく、覇気のない連中だ』
愛機『ダーティズム』の操者の座の中でガイガンがそう呟いた。ベラがシャガと一騎討ちを開始した頃、その後方ではガイガン率いるヘイロー軍が迫る半獣人たちと戦っていた。もっともガイガンにしてみればそれは戦いというよりは駆逐に近かった。
魔力濃度が落ちたこの戦場では増槽持ちであるガイガンの『ダーティズム』、そして竜の心臓を持つマリアの『ヘッズ』とドラゴンたち以外は己の身ひとつで戦わなければならない。その場を離れれば降りた鉄機兵を破壊される恐れがあり、ヘイロー軍も動かぬ鉄機兵よりも前に出て半獣人たちを相手取っていた。
対して獣機兵に乗っていた半獣人たちも条件は同じはずなのだが、彼らの士気は非常に低く、戦闘も嫌々といった風で、逃げ出す者も少なくはなかった。裏切られた騙されたなどとも口にしており、彼らにしても魔力喰いの巨獣機兵の出現は想定外のものだったようである。そんな相手であるから鉄機兵を降りてなお精強な戦士であるラーサ族との落差はあまりにも大きく、戦いは一方的なものとなっていた。
『まあ、捨て石にされたことに同情はするがな』
エルシャ王国でやり合った頃とは見る影もなく、戦士として糞だまりにぶち込まれたかの如き半獣人たちの今の在りようにガイガンとて思うところはある。それが刃を鈍らせる理由にはなりはしないが。
そもそも彼らの役割など足止め程度だろう。本命は今も徐々に防衛都市ナタルより距離を詰めつつあるローウェン帝国軍の金剛軍団だ。この魔力濃度の薄い場所にあの数で……とガイガンも最初は思ったが、金剛軍団の機体には増槽が積まれているのだ。観察した限りでは、驚くべきことに敵は増槽のギミックウェポンを部隊分用意しているようだった。
(となれば、それを狙うべきか)
増槽のギミックウェポンはアタッチメントに接続するだけですぐさま使用ができ、操作らしい操作もさして必要がない。敵から奪うことで自軍の鉄機兵を再度動かすことが可能となり、また奪うだけで敵も動かなくなるのだからそれを狙うことは一石二鳥になると言えるだろう。
『リリム殿、マリア。金剛軍団と接敵した際には増槽の回収を優先して欲しい。アレをこちらの鉄機兵に取り付ければ、すぐさまその機体は復帰できる』
『なるほど、承知いたしました』
『了解ですガイガン隊長。連中は存外に『動きが鈍い』。とっとと蹴散らして奪い取ってきますよ』
「おいおいマリア。あんま鼻息荒くすんなよ。お前は総団長とは違う。数に押されれば負けっぞ」
『ヘッズ』の上に乗っているジャダンの指摘にマリアが舌打ちするが、それは事実に即した言葉であった。
魔力濃度が薄い今は多少動きが鈍くなっているが、それでもマリアの乗る『ヘッズ』は並みの鉄機兵を超えた出力を持ち、アクロバティックな動きで敵を翻弄することができる機体だ。
けれどもその行動は魔獣や巨獣の類に近く、取り囲まれて動きを封じられれば容易に反撃を受けてしまう脆さもあった。特に対鉄機兵兵装を使われて動きが鈍らされれば簡単にやられてしまうだろうというほどに。
それは言動や荒々しい戦い方とは裏腹に常に周囲を観察して全体を見据え、経験則を踏まえた熟練の動きを用いて堅実に戦うベラとは真逆であった。
だからこそ目端の利くジャダンが警戒と牽制を行うためにパートナーとしているのだが、そのジャダンの火精機も今は使えないのだからマリアの戦力は相応に低下している。半獣人相手ならばいざ知らず、八機将率いる金剛軍団に対してフォローなしで戦わせるのには不安があった。
『ジャダンは私の母上ですか? ハァ、分かりましたよ。まずは半獣人を減らし、あとはドラゴンと連携を取ってブチブチ潰していきます』
マリアが若干拗ねたような声でそう返すと、すぐさま敵を蹴散らしに動き出し、ガイガンがその様子に苦笑しながらも戦いを続けていく。
なお、ガイガンの鉄機兵に装着されている増槽はひとつ。通常よりも動きが制限されているが、老練の戦闘巧者であるガイガンはその程度の悪条件ならば戦いには支障なかった。
(半獣人は問題はない。あとはあの魔力喰いの巨獣機兵、ローウェンの金剛軍団、それに鉄芯を無数に降らせる巨獣兵装だが)
現状、四機が確認されている魔力喰いの巨獣機兵については例え増槽や竜の心臓があっても近づけば稼働不可能になりそうな恐れがあったためにガイガンたちは近寄れず、かといって歩兵の攻撃程度では倒す手段はない。結論として現在は手を出さずに避けるという消極的な方法で乗り切るしかなかった。そして金剛軍団の背後に控えている巨獣兵装に関しては……
『総団長。助けになれぬ我が身が情けない限りだが、頼みますぞ』
自ら破壊しにいったベラが向かった先に視線を向けながら、ガイガンが祈るようにそう口にした。
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『ヒヤッハァアアアア』
ギィッィイイイイン……という金属の響く音がその場に轟いた。
『っと。止めやがったかい!?』
重装甲の騎士型鉄機兵である『ディザイン』に『アイアンディーナ』が真っ向から飛びかかったのだが、それは超重鉈によって受け止められる。
『返すぞ、ベラ・ヘイロー!』
『チッ』
次の瞬間に超重鉈から強烈な波動が放たれてウォーハンマーが吹き飛び宙を舞い、そのまま回転しながら落ちて地面に突き刺さると『アイアンディーナ』が後方へと跳び下がった。
(攻撃を跳ね返された? 手放さなきゃ手首がイカれていたね)
鉄機兵の手は繊細だ。武器を持っている状態の時には手首から先にロック機構が働いて衝撃耐性もあるがそれにも限度がある。手首が耐えきれぬと判断したベラはロックを解除してウォーハンマーを手放すことで衝撃の負荷を回避していた。
『なかなかに良い武器じゃないか』
『良いのは武器だけだと思うか?』
ベラの言葉にシャガがニヤリと笑ってそう返した。
『ハッ、仕掛けは視えてるよ。増槽を付けている様子もないし両肩部から竜臭い魔力が漏れてる。ディーナのパクリってこった』
黄金の瞳を輝かせて魔力を視ているベラの洞察力にシャガが感心した顔をしながら左右の肩部装甲を開かせる。すると、その中より出てきたのは赤い宝玉であった。それはベラもよく知っているものだ。竜の心臓と呼ばれるドラゴンのコア。魔力を生成する器官であり、シャガの『ディザイン』はそれをふたつ内蔵していたのである。
『竜の血を馴染ませることで竜機兵のパーツを鉄機兵にも装備できる。お前たちが発見した技術だったな』
『そうだけど、アイディア料でもくれるのかい?』
『考えておこうか。しかし有用ではあるが、いかんせん竜機兵と鉄機兵の相性はそう良いものではないからな。ましてや翼で空を飛び、尾を自在に操るなど曲芸の域だ』
『慣れりゃあ使えるもんだけどね』
実際に使用しているベラはそう言えたがシャガは首を横に振る。それに慣れるということが普通でないことは、先んじてその技法を確立したヘイロー軍がごく一部でしか導入していない事実からも明らかで、シャガの反応からローウェン帝国軍でもそれは同様のようだった。
『それが可能なお前には敬意を抱こう。けれども自分にできるからといって誰しもができるものだとは思わないことだ。少なくとも我にはできぬ。だがな』
シャガがそう口にすると、肩部のふたつの竜の心臓が輝きを増し始めた。
『魔力の供給装置として使うだけならば我にも十分に扱えるというわけだベラ・ヘイロー。竜の心臓、その数だけで勝敗が決まるとは言わぬが、覚悟するといい。お前の与えてくれた力で我はお前に勝利しよう!』
次回予告:『第344話 少女、払う』
パクったアイディアで勝つとか言っているシャガおじさんはとてもかっこ悪いと思います。あ、ベラちゃんは可愛い女の子なので大丈夫です。可愛いって正義ですよね。




