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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第337話 少女、度量の高さを見せる

 ビヨング騎士団。

 それはアーネスト・ビヨングを団長とし、十二隊まであるベラドンナ自治領軍の中でも第二位の規模の騎士団であった。ザラック中原での戦いにおいてアーネストが囚われ、第一隊、第二隊が半壊したことで、その勢力は第三位にまで落ちたが、現在は第三隊の隊長であったアーネストの息子マイケル・ビヨングが団長代行となって動いていた。

 この戦いが勝利で終われば、ビヨング騎士団はマイケル・ビヨングのもとで再編成されることとなるだろう。けれどもマイケルは知っている。己が父の如き技量を持ってもいなければ、指揮能力も高いとはいえず、また戦況を見る目も政治的な手腕も無いと。今の自分がビヨング騎士団を率いるに相応しいと彼はまったく考えていなかった。

 であれば、どうするべきかは簡単な話だ。マイケルにとってもっとも優先すべきは父アーネスト・ビヨングであり、ビヨング騎士団の団長の救出こそが必要であった。

 無論、戦争は必ずしも彼の思い通りに動くものでは無い。兵の配置次第ではそもそもヘイロー軍と接触することすらできないだろうと危ぶんではいたのだが、幸いなことにアーネストがいるヘイロー軍は彼らの刃が届くところにあった。

 さらにマイケルにとって幸運だったのは敵の動きが変わり、ヘイロー軍が前に出たことだ。功名心にはやった……とのちに自軍より揶揄される可能性もあったが、そんなことはマイケルにとっては瑣末なことである。

 取り返すべきものと奪うべきものがあるのが見えていてなお動かぬことこそが愚かであるとマイケルは判断し、ビヨング騎士団を率いてヘイロー軍の横腹に仕掛けようと進軍していた。


『マイケル団長代行。ヘイロー軍がこちらを取り囲むように動いています』

『無駄なことを。兵力の差を考えれば連中の壁の一枚や二枚を崩すのは容易い。それよりもベラ・ヘイローだ。ヤツを確保し、父を取り戻す。そうなればその後はどうとでもなるさ!』


 マイケルがそう言って、愛機『イグナイト』を走らせる。

 炎を象った装飾ファイアパターンが特徴的なその機体は脚部から炎を噴き出しながら、滑るように大地を駆っていた。それは機体を加速させるギミックウェポンであり、また彼の配下の機体も同様のものを装備して『イグナイト』に並走している。

 元々マイケルの率いていた第三隊は高機動を生かした戦法を得意するビヨング騎士団の鬼札だ。そして彼らがザラック中原ではなくこの防衛都市ナタルに待機していたのは、ローウェン帝国に対しての牽制の意味が大きく、集団戦における戦闘能力はビヨング騎士団の中でももっとも高かった。


『見えた。赤い機体……あれが赤い魔女か。それに……父上』


 土煙舞う戦場の中で、マイケルはようやくヘイロー軍の中心にいるベラとアーネストの機体を視界に捉えた。その姿を見ただけでマイケルの視界が怒りで赤く染まる。そして喉の奥から咆哮のような声が放たれた。


『ベラ・ヘイロー。ヘイロー軍総団長。貴様が父を奪った女か!』


 鉄機兵マキーニによって増幅された叫びが戦場に響き渡る。周囲のざわめきが一瞬消えて接近してきたマイケルの機体へと目が向けられると、続けて兵たちの視線は赤い機体へと移った。


『ヒャッヒャ、元気がいい坊やだね。何かいいことでもあったのかい?』

『ふざけたことを抜かすなよ。ラーサの蛮族が!』


 激昂するマイケルに対して竜撃隊全体から殺気が飛ぶが、ベラは笑みを隠さぬままそばにいたアーネストの機体『ラハトゥ』へと視線を向けた。


『ねえアーネスト。あの坊や、随分とお怒りのようだが、ありゃああんたのガキであってるかい?』

『ハッ、我が愚息にございます』


 その言葉にマイケルの心は冷水を全身に浴びせられたが如く、フッと怒りの熱が引いた。

 アーネストの口から出るのは『よくぞ来てくれた息子よ』、或いは『貴様の問いに返す言葉などない』などといったものであろうとマイケルは一瞬夢想したのだが、返されたのは主人に忠実な犬の言葉であった。

 一体いかなることがあれば、己の父があのような状況になるのだろうかとマイケルは混乱せざるを得ない。もっとも、そんな彼の内心など知ったことではないベラは絶句していたマイケルに対しても口を開く。


『それで坊ちゃん。勢い込んで来たのはいいがね。あんたはお父ちゃんを取り戻しに来たってことでいいのかい?』

『そうだ。お前を拘束し、父上を返してもらう』


 マイケルがそう返す。兵力の総数で言えば、オルガン兵団を欠いたヘイロー軍よりもビヨング騎士団が上回っている。けれども奴隷印を刻まれたアーネストを救出するには主人であるベラ・ヘイローを殺すのではなく、生け捕りにせねばならぬのだ。そのためにもマイケルは第三隊の精鋭を中心としたビヨング騎士団全軍でヘイロー軍へ挑もうと動いていた。


『なるほどね。お父ちゃん思いの良い息子じゃあないか。ねえアーネスト?』

『ハッ』


 アーネストが淀みなく、ベラに昰と返した。


『それでアーネスト、あんたはどうしたい?』

『我が判断は必要ないでしょう。ご主人様の思うがままに』

『父上!?』


 その態度は己の主人に対して当然のものではあったが、アーネストは長年躾けられた奴隷でも無いのだ。まるで心変わりでもしたかのようなアーネストの態度にマイケルが目を丸くする。


『アーネスト。あたしゃ、生き別れの息子と話をすることを許さないほど狭量じゃないつもりだよ。言いたいことがあるなら言っておきな』


 その言葉にもマイケルは眉間にしわを寄せて苦い顔をする。

 マイケルは伝え聞いたベラの実年齢を信じてはいなかったが、幼さ残る子供のような声をした者が尊敬する父をかしずかせているという状況を前にすれば当然面白くはない。けれども、アーネストはその息子の怒りを気にすることもなく口を開いた。


『感謝いたしますご主人様。マイケルよ』

『父上、感謝などその女にする必要はありません。奴隷の身である故とは理解していますが……いや、分かっています。強制されて、まともに会話もできぬ状態なのでしょう。であれば、今すぐお助けいたします』

『不要だ』

『父上!?』


 マイケルが父の拒絶の言葉に驚きの声をあげた。


『マイケル、すでに私は勝者の情けによって生かされているだけの死に体に過ぎん。お前の父はもうすでに死んだものと考えよ』

『しかし……』

『その上で言おう。お前ではこのお方には勝てん』


 投げかけられた言葉にマイケルが目を見開かせながら、アーネストの機体『ラハトゥ』へと視線を向ける。


『何を仰いますか父上。戦う前からそのような言葉を。敗北によって心折られてしまわれたか?』

『そうとってもらっても構わん……が、今の私はご主人様の従僕のひとりに過ぎん。故にお前を殺せと言われればそうするし、ここでお前が死を迎えたとしても我が心は動かぬだろう』


 投げかけられた父の非情な言葉に絶句するマイケルをベラが笑う。


『ヒャッヒャ、安心しなアーネスト。あんたをけしかけることも、そこの坊ちゃんを殺すこともしやしないよ』

『ご主人様のお心のままに』


 アーネストが頭を下げてそう返す。もっともベラの言葉がただの温情から出たものではないことをアーネストは知っている。マイケル・ビヨングは現時点においてビヨング騎士団を束ねる人物であり、それが使い物にならないようになるのはこの戦いの『その後』を考えれば都合が悪いというだけに過ぎない。


『そこまで……そこまで飼いならされましたか父上!?』


 マイケルの殺気立った視線は『アイアンディーナ』から『ラハトゥ』の、その中にいるアーネストへと向けられた。助けに来た息子に対しての理不尽極まりない言葉に、さすがの親孝行者もキレたのだ。


『おやおや、お父ちゃんを助けに来たんじゃないのかい? 坊ちゃんの殺気の方向があたしの性奴隷に向いてるみたいなんだが』


 その言葉にわずかばかりアーネストの眉が動いたが戯れの言葉と考え口は挟まなかった。結果として自分がボルドと同じ扱いで契約されている事実をアーネストが知るのはしばらく後のこととなる。


『黙れ。黙れ。ベラ・ヘイロー、貴様のふざけた言葉はもうウンザリだ。父をどのようにしてそのようなザマにしたかは分からぬが、すべては貴様を捕らえてヘイローを潰せば良いだけのこと。全軍、かかれ。偽りの女王の化けの皮を剥がしてやるのだ!』

『ハッ、啖呵だけは様になってる坊やだね。いいさ。やれるもんならやってみなマイケル・ビヨング!』


 マイケルが剣を、ベラがウォーハンマーを振り上げて前へと進むとすぐさま両軍が刃をぶつけ合い、そしてベラとマイケルの両者の機体もまた激突したのであった。

次回予告:『第338話 少女、捕らえる』


 親子でひとりの少女を奪いあう。

 ベラちゃんの魔性の魅力は男たちを狂わせます。

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[一言] 信じて送り出した父上がっ!!
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