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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第335話 少女、思考する

『ようやく動き出したかい』


 ベラがそう口にしながら己の軍勢を率いて『アイアンディーナ』を前に進ませていく。

 防衛都市ナタル。その前でベラドンナ自治領軍とモーリアン王国軍は対峙し、鉄機兵マキーニ『アルハンドラ』に乗る千鬼将軍ゾーン・ドゥモローと、鉄機兵マキーニ『ジオー』に乗る金剛将軍ニオー・ウルバルがそれぞれに口上を述べたことは両軍が動き出し、たった今開戦の運びととなっていた。


(……相手はどう来るかねえ)


 ベラドンナ自治領軍は防衛都市ナタルを背にして定石の土盾の陣で防御を固めたのに対し、モーリアン王国軍の陣形はそれをこじ開けるための鬼角牛の陣を敷いている。

 二本の角に見立てた陣形で敵陣を砕き、リンローのいるオルガン兵団を門前にまでたどり着けさせれば、ベラたちの作戦目的の大部分は達成される。そのためオルガン兵団はベラたちとは別に牛頭の位置に配置されて多くに守られながら進軍しており、一方でベラが直接率いているヘイロー軍は右角側に配置されている。もっともベラたちがいるのは最前列ではなく中列、そのために戦いに至るまでにはまだ時間があった。


『それでケフィン、どうだい?』

『門前にローウェン帝国軍がいるそうだ』


 ベラの後方で鉄機獣ガルム『ハチコー』に乗って移動しているケフィンがそう返す。ケフィン隊は魔獣使いテイマーを擁するためにマドル鳥を用いて上空から敵の監視を行なっていた。すでに敵軍の配置は完了しているのだから、ケフィンたちが情報収集に動いているのは当然のことであった。


『ジェネラル・ベラドンナからシャガ・ジャイロに帝国軍の指揮権が移ってからはあまり良い関係性ではないと聞いていたけど……』

『私が抜けたこともありましょうが、今のモーリアンとヘイローを相手に体裁を気にしては勝てぬと考えたのでしょう』


 通信を聞いていたアーネストがそう返し、ベラが『なるほどねぇ』と口にした。


『それと妙な獣機兵ビーストが八機将の後方に控えている』

獣機兵ビースト?』


 続いての報告にベラが眉をひそめた。

 シャガの率いる死砕軍団は鉄機兵マキーニ中心の軍だ。獣機兵ビースト軍団の生き残りが戦奴隷よろしく肉壁になっているとは聞いているが、わざわざ八機将が守るような獣機兵ビーストがいるとは思えない。けれどもベラはとある可能性に思い当たって口を開いた。


『まさか、そいつら『デカい何か』を持ってやしないだろうね?』

『正解だ総団長。連中は妙な大筒を持っている』


 ケフィンの返事にベラが眉をひそめ、その意味に気づいたガイガンが『まさか巨獣兵装ビグスウェポン?』と疑問を口にする。


『まあ、うちが使えるんだ。あっちだって使えるようになるのは当然さね。となればそいつがドラゴン対策の可能性はある』

『となれば竜様たちをその近くまでは飛ばしたくはありません』


 それはハチコーの上部に設置された台座に乗っている竜の巫女リリエからの言葉であった。ロックギーガと共にやってきた彼女は現在、ドラゴンたちの指揮を任されている。


『もちろん無駄にうちの連中を落とさせるつもりはないが……ひと当てして様子は見たいんだけどね。さて、どうするか?』


 ベラが正面を睨みつける。

 今回は城門破壊を担当するのはリンローで、ロックギーガたちは牽制役として動かすことを想定していた。もっともローウェン帝国軍がいることも踏まえてドラゴン対策が用意されている可能性も考慮はしていた。問題はソレがどのようなものか……ということだ。


(空を飛ぶドラゴンを一撃で殺すような兵器がそうそうあるとは思えないが、空から落とすだけならば……攻撃が届けばそこまで難しいというもんじゃないしね)


 ドラゴンの飛行には魔法の一種だが起点は翼であり、多少の攻撃を喰らうだけでもバランスを崩して落下する恐れはある。またドラゴンも地上に落ちたところで戦えぬわけでは当然ないが、それでも攻撃が届けば討ち取られる可能性は十分にあった。

 今はまだ竜種を勝利の象徴として維持しておきたいヘイロー軍としては、ここでドラゴンの絶対性に泥を塗るつもりはない。


『総団長、そろそろ前線が当たります。こちらの隊列はどうしますか? いつでも踏み込めますが』


 ガイガンの言葉にマリアとジャダンの嬉しそうな笑い声が聞こえ、ベラがわずかに苦笑しながら肩をすくめた。


『突っ込むつもりは無い。巨獣兵装ビグスウェポンを想定し、散開できる状況を維持しながら動くよう指示を出しな』

『よろしいので?』

『ここまであたしらは少々勝ち過ぎてる。少しは出番を譲ってやらないとね。ケフィン、巨獣兵装ビグスウェポン持ちは警戒だ。ゼック経由で報告を入れておきな』

『分かった』


 ケフィンがボソリと返すと、通信が途絶える。広域通信型リエゾン風精機シルフィを通し、モーリアン王国軍に連絡を入れたのだろうと理解したベラがすぐさまここから先の状況を思考する。


(あれが巨獣兵装ビグスウェポンなら近づくだけで危険だね。手の内は早めに知りたいが、相手は八機将。このままモーリアンが相手どれるか?)


 ベラは決してモーリアン王国軍の戦力を軽んじてはいない。

 ここまでの道中の手合わせで彼らが一対一でもヘイロー軍に匹敵する武力を持っていることは把握している。ラーサ族や獣機兵ビーストを相手にそれが可能な時点で彼らが高い練度を持っているのは間違いなかった。けれども、そうであってもローウェン帝国軍の八機将は別格であろうと考えている。ゼックと言えども勝てるか否か。無論、状況が一対一でなければやりようもあるだろうが。

 また同行している同盟国軍の面々に関してはさらに論外であった。

 さすがにそれぞれ国の将はそれなりの腕を持っているとベラは見ていたが、率いている軍に関して言えば精鋭とは言い難い。傭兵よりは使いではあろうが、当てにするには脆弱であった。


(勢いで仕留めきれなければこちらは終わりだからねぇ。電撃的な強襲が成功し続けたからこそ今があることを考えれば……)


『総団長、やっぱり仕掛けます?』

『黙っときなマリア。こっちの気持ちを察するんじゃないよ』


 横からの問いにベラが眉間にしわを寄せる。

 竜の血に連なる眷属であるマリアは彼女の長であるベラの意志をなんとなしに感じ取れる。もっともあくまで感情の動きが分かる程度で、詳細までを理解できるわけではないのだが、ベラから湧き上がったとっとと進めたいという気持ちがマリアにも伝染したようだった。


『確かに巨獣兵装ビグスウェポンは引きずり出したいがね。飛んでいる状態のあたしやあんたでも捉えてくる類かもしれない。迂闊に上を横切るのも危ういのさ。盾がある(友軍がいる)以上は下手に自軍の損害を大きくするつもりもないよ。できれば前に出てる連中がアレを使わせるところまで圧してくれりゃあいいんだが……』


 それからベラはわずかに目を細めて戦況を睨む。自軍の動きが変わったのだ。


『動きがおかしいね。モーリアンの軍がローウェンに対して動き始めている?』

『総団長。ゼック将軍から報告だ。敵の巨獣兵装ビグスウェポンを押さえると』


 ケフィンからの再度の通信が入った。どうやらケフィンの報告を受けて巨獣兵装ビグスウェポンの脅威を取り除こうとゼックたちが動き出したようだった。


『そうかい。であればガイガン、手前はこちらで引き受けるよ。前に行く連中のケツを押してやりな!』

『ハッ、承知しました』


 そして、ベラの指示を受けたガイガンが後方の竜撃隊を中心にヘイロー軍を動かしていく。


(連中がさっさと手の内を晒してくれるといいんだけどね)


 勢いに乗っているとはいえ、戦力に差がないとはいえ、モーリアン王国軍には後がない。自前の分と略奪だけでは兵站を維持し続けられない。

 できればこの戦いで決着をつけたいものだとベラは考えながら、両軍の動きを観察していく。不確定要素はやはりローウェン帝国軍。手の内を知っている相手では今までのようには当然行かない。しかし、場合によっては……ベラはそう考えながらアームグリップを強く握りしめた。

次回予告:『第336話 少女、攻める』


 キラーンとメガネが光るかのようなベラちゃんの冴え渡る頭脳にサプライズを用意したシャガおじさんの運命は風前の灯でしょうか。次回も目が離せませんね。

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