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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第333話 少女、移動する

「それでは、本国よりの増援は見込めぬ……ということか」

「ああ。それに必要はなかろうよ」


 ベラドンナ自治領の中央よりわずかに南に存在する自治領内の交易の大動脈たる防衛都市ナタル。そこには今、ベラドンナ自治領軍の総司令である千鬼将軍ゾーン・ドゥモローと、ローウェン帝国八機将の『圧殺』シャガ・ジャイロが向かい合い、話し合いを行っていた。その内容は言うまでもなく、この自治領軍に攻め込んできたモーリアン王国軍と同盟国軍をどうするか……というものだった。より正確に言えば、ザラック中原での戦いから参戦してきたヘイロー軍への対処を彼らは話し合っていったのである。


「自治領軍は尻をまくって逃げ、アーネスト将軍は奴隷落ち。ここに至るまでの砦は一日と保たずに陥落し続けている。我を戦場より離し、敵国と戦力の温存をはかり続けた結果がこのザマよな」

「返す言葉もないな」


 シャガの指摘にはゾーンも苦笑いしか出ない。

 これまでザラック中原で繰り返されていた両軍の戦いは決して深追いすることのない、周辺国家の戦況を見極めるための時間稼ぎであったわけで、シャガは何かしらの理由を突きつけられて中原の戦いの参加を渋られ続けていた。

 そこに今の状況である。自分を戦わせずに呆気なく敗北し、彼を遠ざけていたアーネストも今では敵に囚われているのだからそれ見たことかとシャガが憤るのも当然のことではあった。

 とはいえ、ゾーンとしても苦言を呈されて終わりというわけにはいかない。ザラック中原での戦いだけではなく、すでに三つの砦が増援を送る間も無く落とされている。その主な原因はドラゴンというヘイロー軍の『航空戦力』によるものだ。


「……が、だからこそだ。あのドラゴンたちを止める手立てがなければ戦にならん」


 ゾーンがそう返す。

 空より攻められては、旧来のように壁の中に立て籠もって籠城するということができない。また対処しようにも空にいる敵を倒す手段がない。だからローウェン帝国の支援をシャガに求めたのだ。竜機兵ドラグーンや機械竜、或いはドラゴンそのものが必要だとゾーンは訴えたのだが、それをシャガは突っぱねた。


「ここには我がいる。それで不足とでも?」

「貴殿の実力は理解している。しかし、あえて尋ねよう。話の通りであればベラ・ヘイローはあのジェネラルをも退けたと聞く。勝てるのか?」


 ジェネラル・ベラドンナがモーリアン王国に戻り、そしてまたローウェン帝国に引き返したことはすでにゾーンの耳にも入っている。同時にモーリアン王国軍からジェネラルがベラに負けて逃げ帰ったという与太話まで流れてきており、それはシャガも知っていた。


「あの老婆を退けた相手というのは面白い。ベラ・ヘイロー、八機将殺しのアレを仕留めるのは我よ」


 そう返すシャガの表情には自信こそ溢れていたが侮りの色はない。彼の愛機である『ディザイン』は鉄機兵マキーニではあるが、徹底した改良が施され、獣機兵ビースト竜機兵ドラグーンにも負けぬ性能を有するに至っている。またシャガ当人も八機将に選ばれただけの実力があることはゾーンも理解していた。けれども……とゾーンは思う。


「であれば、ベラ・ヘイローはあなたに任せようシャガ将軍。しかし問題はドラゴンだ。遠距離の攻撃を主とするギミックウェポンを揃えさせてはいるが、正直空を自由に飛ぶ相手では心許ない。現状においてアレに抗する手段がない点はどう考える?」

「それも問題はない。このような事態に備えて我々が何も用意していなかったと思っているのか?」

「それはつまり、あるのか。ドラゴンに対する対抗手段が?」


 目を細めたゾーンの問いに対してシャガが笑みを浮かべて頷いた。


「勿論ある。ヘイロー軍の使っている兵器は所詮我らローウェン帝国の二番煎じということだ。ドラゴンの使役にこそ遅れをとったが、帝国は自らの兵器を知り尽くしている。良しも悪しも。ヤツらはそのことを次の戦場で知ることになるだろう」




  **********




「ドラゴンの貸し出しねえ」


 ゾーンとシャガが防衛都市ナタルで話し合っている頃、ナタルに向かう途中のモーリアン王国軍と同盟軍の中央にいる魔導輸送車マナキャリアの内部では、ベラとニオーが対峙していた。彼女らの話し合いもまた次に行われるだろう防衛都市ナタル戦についてのものであったが、今回ニオーがベラに持ちかけた提案はドラゴンを各軍に使わせてくれないか……というものだった。


「無碍に扱うつもりもないし、指揮についても最大限の融通はきかせるつもりだが、どうだろうか?」

「子供じゃあないんだ。あたしらが使ってるのを見て羨ましくでもなったかねえ」


 その言葉にニオーが苦笑する。ベラの言葉はおおよその真実を言い当てていた。それだけドラゴンの力は凄まじい。たとえ一体だけだとしても前線でただ空よりブレスを吐かせるだけで敵を退けることができるのだから、分散させて運用しようというのは間違ってはいないのだが……


「それにだ、アーネスト。『圧殺』のシャガ・ジャイロとかいうのは、ナタルにいる可能性が高いんだったよね?」

「はい主人様」


 ベラの問いにアーネストが快活に言葉を返す。

 その様子を訝しげな視線で見ながらニオーが口を開いた。


「シャガか。ベラ総団長。知ってはいるだろうが、アーネストは自治領軍内でも反ローウェン派閥の筆頭だった」

「聞いてるよ。もっともジェネラルを除いて……と言い加えるべきではあるけどね」


 実のところ、現時点においてモーリアン自治領軍とローウェン帝国軍の連携は上手くいっているとは言えない。その理由は至極明確で現在自治領にいるローウェン帝国軍を指揮しているのがジェネラル・ベラドンナではなくシャガ・ジャイロであるためだった。

 ジェネラル・ベラドンナがクィーンその人であることは出会った者であればすぐに分かる。ジェネラルがかつては敵対していたローウェンの将だとしても受け入れぬ者などほとんどいない。しかしそれはジェネラルがクィーンであるからだ。であればジェネラルと交代になって自治領に来たシャガへの対応が相当に冷ややかなものとなったとしても仕方のないことではあった。勿論特に落ち度もなく疎まれたシャガにしてみれば理不尽な話ではあっただろうが、敵の内情など上手くいっていない方が良いのだからベラにしてみれば愉快と笑うだけである。


「で、そのアーネストがあたしのものになった以上はシャガも大手を振るって前に出れるわけだ。そこにロックギーガたちを無策で当てるのはちょいと怖いんだよね」


 そう口にしたベラの目は金色に輝いている。

 それが竜眼と呼ばれるもので、魔力の流れを『視る』ことすらも可能な目であることまではニオーは知らないが、それが竜に由来するものであろうことぐらいは察していた。


「帝国が策を用意していると?」

「可能性はある。未だドラゴンの数は揃わず、操るすべも持っていないとは聞いているが対策をとることぐらいはできるはずだからね。それをシャガが用意しているかどうかってことだが……あると思っていた方がいいだろうね」


 そう言ってからベラが「まあ」と口にした。


「ロックギーガたちについてはこちらで良い様に動かすさ。で、都市の門をこじ開けるのもこちらで請け負おう。そういう話だしね」

「頼む。根本的な部分をすべて任せているようで気が引けるが、せめて道中の露払いは予定通りに成し遂げよう」


 そう言い合ってふたりが頷く。すでに道中の砦は三つ落とし、防衛都市ナタルまではもう間も無く。次の戦いはすぐそこまで迫ってきていた。

次回予告:『第334話 少女、攻める』


 シャガおじさんは職場でいじめを受けています。

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