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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第330話 少女、椅子をリストラする

「ああ、クソッ。さすがにここまで無理をさせ過ぎたか。まったく盛りのついた暴食熊の如き勢いで暴れやがって」


 ザラック中原のヘイロー軍に割り当てられた陣地に設置された簡易ガレージ内では整備兵たちが殺気立った様子で走り回り、ベラの奴隷で竜撃隊の整備長でもあるボルドはその中でひとり頭を抱えていた。

 ボルドの頭痛の種は目の前に並ぶ鉄機兵マキーニたちであり、頭痛の原因は並び立つ機体の状態が軒並みよろしくないためである。

 何しろ、モーリアン王国までの遠征から巨獣討伐と予期せぬローウェン帝国軍との戦闘に加え、このザラック中原まで休みをほとんど取らずに北上してそのまま戦闘に入っているのだ。そうした無茶を押し通しただけの成果は出ているが、そのツケは今整備の彼らに押し付けられる形で回ってきていた。


「ボルドのおやっさん、何にせよフレームのガタつきと神造筋肉マッスルクレイの痩せ方が酷いのが多過ぎます。在庫が足りませんが、どうします?」

「おう。神造筋肉マッスルクレイは今、上に掛け合ってモーリアンから融通してもらえるよう交渉してる。全バラシが必要なのもあるが、状況が今後どう動くか分からねえからな。ひとまずは最低限稼働できる状況に持ってくしかないな」

「またすぐ戦いになりますかね?」


 その言葉にボルドが眉をひそめながら苦笑いをする。そうした話はまだ出ていないが、ないとも言えないのがベラ・ヘイローだ。あの小さき少女の勝利に対する嗅覚は異常なまでに鋭いが、その分無理をする傾向があった。


「さすがにそんなこたぁねえ……と言ってやりてえところだがどうかな。うちらにとって今が重要な時なのは間違いねえ。外に対しても内に対しても弱音ってもんを見せず、ベラ・ヘイロー率いるヘイロー軍はイシュタリア大陸最強なんだってことを俺らは示し続けなきゃなんねえんだよ。辛いところだがな」

「ははは、そいつはここにいる全員、当然理解してますよ」

「だったら良い。どんな状況だろうと俺らは完璧な仕事をして連中を送り出せ。それが整備をする人間の矜持だ」

「はいっ」


 整備兵の返事が響き渡る。そこにはボルドに対しての信頼と尊敬が込められていた。この場においてボルドは整備の神様の如き存在だ。あのベラ・ヘイローから『アイアンディーナ』を任せられている唯一の人物。その男が言うのであれば、それは確かなのだろうと彼らは信じられた。


「とはいえだ。いきなり全部をって言われても首が回らねえ状況だ。先ずは竜撃隊を優先して仕上げていけ。魂力プラーナを使っても構わねえから、片っ端から修理していくんだ」


 そのボルドの指示に整備兵が再び快活な返事を返し、それから各整備兵にその指示は伝播されて全体が動き出していく。その様子を見ながらボルドが後ろを振り向く。


「そんじゃあオリャ、こっちをやるかい。まったくじゃじゃ馬どもめ。今回もずいぶんと暴れたみてえだな」


 ボルドの背後に並ぶのはベラの愛機『アイアンディーナ』とマリアの機体『ヘッズ』の二機だ。その二機だけは他とは違い、ボルド自身が手掛けている。両機体ともヘイロー軍の要のような機体であると同時にどちらも自立して動くことができ、ベラの奴隷であるボルドが対応しなければ暴れる可能性もあるような……言ってみればそれは鋼鉄の獣を飼っているに等しかった。

 もっとも、どちらも修理に関しては他の鉄機兵マキーニに比べれば容易ではあった。通常の鉄機兵マキーニとは違い竜の因子を強く持つ両機は魂力プラーナを用いた自己修復機能を備えており、ちょっとした破損であれば勝手に修理されてしまう。

 けれども調整については別だ。特に乗り手との感応率に関してはコンマゼロイチ秒の単位でボルドが調整を行なっている。これはベラの機体コンセプトが『ベラの思ったままに動く』であるためだ。

 その要求を完璧に仕上げるため、他の機体に比べてはるかに時間をかけて調整されているし、そこにベラが口を出していない以上それは完璧に仕上げられているということでもあった。


「おやボルド。真面目にやってるみたいだね」

「ん、ご主人様かい。まあな。暴れん坊が多過ぎて目が回りそうだ」


 ボルドがまるで自然にガレージの中に入ってきた少女の言葉に返事をした。

 そして、その様子に気づいた整備兵たちがざわつく。そこにいたのは彼らの頂点である総団長ベラ・ヘイローであった。

 元々彼女がガレージに立ち寄ることは多いのだが、それでも彼らが慣れるということはない。未だ幼き姿をしながら、あらゆる戦場において自身は無敗を誇り、ムハルド王国を滅ぼして自らの国を興し、さらにはローウェン帝国に今牙を剥いている、さながら生きた伝説がその場にいるのだから緊張するなという方が無理であろう。


「ああ、アンタらは気にせず仕事してな。次もそこそこに早いかもしれないからね」


 対してベラの方はそう口にしながらボルドの元に向かっていくが、その言葉を聞けば彼らは先ほどまで以上に急がざるを得なかった。何しろベラが『そこそこに早い』と口にした以上、間違いなく戦いは近いはずなのだから。もちろん、それはボルドも理解していて、眉をひそめて自分の主人を見る。


「ご主人様。竜撃隊は一週間で仕上げる。他は厳しい。それでなんとかなるか?」

「竜撃隊はいけるかい。なら問題はないさ。次はチョイと『抑えめに』する。何せ今回、手柄を立て過ぎたからね。『つつしみ』ってヤツもたまには必要だろうさ」


 その言葉にボルドがついつい「はっ」と笑ってしまったが、次の瞬間にはベラに睨まれて視線を逸らした。


「そ、それで総団長自らやってきたってのは『アイアンディーナ』の調せ……いや、後ろの方の紹介か?」

「まあね。ほら、アーネスト。前に出な」


 ベラとともに来たのは護衛の兵とガイガン、それにその後ろにいる威圧感のある人物であった。そして、その人物をボルドは知っていた。実際、ガレージに運ばれた四肢のない機体から彼を救出したのはボルドだ。最も現在のアーネストはボルドが助けた時とは違い、身綺麗で落ち着いた様子をしていた。


「ベラドンナ自治領軍のアーネスト将軍だったか」

「元……ね。今はあたしの奴隷で、あんたの後輩だ」

「そうなりますなご主人様。ボルド殿、よろしく頼む」

「ああ、俺はボルドです……だ?。ご主人様の機体の担当をしている」

「普通で良い。あんたが先輩なんだ。示しがつかないだろうに」


 ベラが睨み、ボルドが「マジかよ」と呟きつつもアーネストを見た。


「分かった。俺がボルドだ。ご主人様との付き合いは一番長いから、まあなんかあったら聞いてくれ」

「ああ。そうさせてもらおう」


 アーネストが戸惑いつつも頷く。


「けど、良かったぜ。まともな格好で」

「というと?」

「将軍様を椅子にするとか訳の分からん話が聞こえてきたからな。どんなジョークかと思ってたんだが」

「ジョークなんかであるものかい。そいつはモーリアンから泣いて止められたんだよ。椅子は勘弁しろってさ。ま、あまり座り心地が良くなかったから別にいいんだけどね」


 やれやれという顔でベラが肩をすくめたが、その様子にアーネストは悲痛そうな顔をし、ボルドの方はといえば口元を引きつらせざるを得なかった。


「それでボルド、こいつの機体の方はどうだい? それほどぶっ壊しちゃいないはずだけど」

「ああ、あれな。手足が綺麗に千切られてたし、ウチのくたびれた機体よりも早く仕上げられるけどよ。奴隷ってことは、ロッグ隊に入れるのか?」


 ロッグとはエルシャ王国を取り戻した際に手に入れたローウェン帝国軍獣機兵ビースト軍団の将のひとりだった猫頭の男だ。現在は奴隷部隊の隊長を務めていて、アーネストはそこに所属するのかとボルドは思ったのだが、ベラは首を横に振る。


「いや、こいつにはあたしの護衛をさせる。リンローをオルガンの後釜にしちまったからね。その穴埋めさ」

「なるほど。となると優先順位も上げて対応するか。先ほどの口ぶりからしてどうせ急ぐんだろ?」


 その問いにベラがニタリと笑って頷く。その反応からどうやら次の戦いもそう遠くないうちに始まるらしいと理解したボルドは話もそこそこに切り上げて、すぐさま『アイアンディーナ』の整備を開始する。終わったら酒を樽で用意すると言ってベラは出ていったが、果たしてそれが飲めるのはいつになるか……少なくともこの一週間は難しいだろうとボルドはため息をつくのであった。

次回予告:『第331話 少女、進撃をする』


 あら、ベラちゃん座り心地良くなかったんですか。

 少々くたびれていたようですし、仕方ないかのもしれませんね。

次はもっといい椅子を買いましょうね。

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