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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第328話 少女、椅子を撫でる

「おい、テメェ。なんでそいつがここにいる?」

「アダン将軍。発言には気を付けてもらおうか。ベラ総団長はアンタと同じ客将だ。この場でそれをないがしろにするなら、モーリアンとしても考えなきゃならねえ」


 噛み付くように立ち上がったアダンに対し、そう声をあげたのはゼックであった。 


「おいおい、ゼック将軍よぉ。この短期間でこんなガキにもう飼い慣らされたのか」

「どうとでも」

「どちらとも控えてもらおうか」


 ガンッと剣の鞘を地面に叩きつけながらニオーの重い声が響き渡る。

 その様子にゼックは笑みを浮かべたまま、アダンは舌打ちしながら席に座り直した。


「騒がしくして申し訳ないベラ総団長。みな、戦の後ゆえ気が立っているのだ」

「なぁに。元気なのはいいことさ。うちも最近はいい子ちゃんばかりで物足りなくてね」

「そりゃあねえですよ、総団長」

「その筆頭がアンタなんだよリンロー。あちらの御仁を見な。野獣みたいな気を放ってる。獣上がりが牙をなくしてるからアンタはいつも一歩遅れるんだよ」


 その言葉に後ろに控えていたリンローが苦い顔をする。

 巨獣兵装ビグスウェポンを装備した混合魔獣キマイラ『レオルフ』を駆るリンローは戦場においてベラをも凌ぐ戦果を生み出す戦士ではあるが、ここぞという時の弱さが目立っている。ジェネラル・ベラドンナの手勢との戦いにおいてもオルガンを助けることはできずとも、バルをリンローが押さえていればベラもジェネラルを倒せていた可能性はあったのだ。


「それでベラ総団長。あなたが座っている椅子についてお聴きしたいのだが?」

「前回の戦いでの戦利品だよ。こいつの首はもらうって伝えておいたはずなんだがね」

「死んだわけではなかったのか?」

「見ての通りさ。なあアーネスト?」


 ベラが座っていた背にツーっと指を走らせると口輪をはめられ羞恥に顔を赤くしたアーネストがわずかに身悶えながらも頷いた。


「エゲつねえことしやがるな」


 アーネストほどの武将が少女の尻に敷かれている様にアダンがなんとも言えない顔をする。戦士としての、否、人としての尊厳を奪われたかのようなその扱いに、アダンはこれまで何度となく戦った相手であるにもかかわらず哀れみを感じてしまう。


「しかし、討ち取ったと聞いていたのだがな」

「おや。どうも連絡が上手く伝わっていなかったようだね」


 悪びれずにベラがそう返した。それからアーネストの頭を撫でながらヒャヒャッと笑う。


「すでに通告した通りにアーネストはあたしがもらった。首をはねるよりゃいい使い道だと思うけどね。それにこれはアンタらにとっても悪い話じゃあないんだろ?」

「ふむ。アーネスト・ビヨングはかつてのクィーン・ベラドンナの側近。かつジェネラル・ベラドンナとも面識がある。そんな相手がクィーン・ベラドンナの生まれ変わりを名乗るベラ総団長の元に下ったとなれば……ということかね?」


 ニオーの指摘にベラが笑う。それにはモーリアン王国軍の幹部たちも唸った。そうなれば当然のように目の前の少女をクィーン・ベラドンナとして担がなくてはいけなくなるだろう。ベラと出会う前の銀光戦士団と同様に彼らはその状況に対して苦い思いをしていた。


「まあねえ。偽物のババアから可愛い部下を取り戻した……と。お涙頂戴のなかなか良い話さ? ほら、アンタらを引き抜くわけにもいかないからね」

「ゼックはそちらに付きたそうにしているようだがね」

「おやおや、ニオー将軍。よろしいので?」

「よろしいわけがあるか、馬鹿が」


 睨みつけるニオーにゼックが肩をすくめ、それからこの場の全員を見渡した。


「まあ、そこらへんは置いておくとしてだ」


 冗談だとは返さず、ゼックが口を開く。


「信じられないかもしれないが、ひとつ前の戦いでベラ総団長はあのジェネラル・ベラドンナをも退けている」


 そのゼックの言葉に事情知らぬ者たちがキョトンという顔になった。それから意味を把握すると続けて怪訝な表情に変わっていく。


「さすがにそこまで虚偽を重ねるのは賢明ではないのでは?」


 マザルガ聖王国の第二聖騎士団長ロールカが挙手をしながら、そう進言した。


「それがどうやら事実のようなのだ」


 それに対して口を挟んだのはニオーであった。


「あん? どういうこった。聞いてねえぞそんなの」


 アダンが訝しげな顔をしてそう口にする。他の面々も知らぬという様子だ。ニオーだけは事前にゼックより知らされていたが得心いっているわけではないという顔で話を続けていく。


「ヘイロー軍にはゼック将軍の銀光戦士団と共に巨獣討伐を依頼していた。戦争に入る前に一度軍を合わせての連携を取るためにな。そこで偶然遭遇したらしい」


 事実としてはクィーンの生まれ変わりとして御輿になるヘイロー軍の能力の確認と主導権を握る為の行動ではあったが、様々な意味で藪をつついた結果となった。


「箔付のための与太……ではなく?」


 シンラ武国四天王のひとりであるミロクがそう尋ねた。

 ここまで反応を示さなかったミロクもさすがに……という思いはあったのだろう。けれどもゼックが笑みを浮かべながら首を横に振る。


「うちの兵も証人だ。その場はちょうど自治領との境でな。豪鬼獣討伐のためにあっちも出向いていたみたいで、そんでカチあったってわけだ。まあウチも結構な被害を出したがね」


 ゼックの側近もジェネラル・ベラドンナの手にかかって命を落としている。

 それを虚構と見なすことを当然ゼックは良しとするつもりはなかった。


「そしてベラ総団長はその場でジェネラル・ベラドンナと一騎討ちになった」

「それでそのガキが退けたってのか?」

「ああ、そうだ。八機将バル・マスカーが救援に入らなければジェネラル・ベラドンナはベラ総団長によって討ち倒されていただろうさ。ま、そのバル・マスカーすらも二対一の優位であるにも拘らず後退したんだがね」


 その説明を聞いた者のほとんどが半信半疑といった表情を見せる。

 また、それは嘘とは言えぬが、正しく事実であるとも言えないものだ。ベラ自身はあのまま続けば勝てると考えているが、戦いは半ばで止められており、バルに対して二対一で勝てるかと言えば否であった。もっともそれをベラはおくびにも出しはしないが。


「実力に関しては今回見た通りだ。わずかな部下とともに敵陣に飛び込み、敵将をこうして捕らえた。ただの御輿にできることか?」

「で、では……ゼック団長は、その女をクィーンの生まれ変わりとお認めになるのですか?」


 そう口にしたのはニオーとともに並ぶモーリアン王国の将のひとりだ。対してゼックは首を傾げながら口を開く。


「おいローラン。じゃあ聞くがよ。そうではないと言える根拠はなんだ?」

「根拠ですと?」


 それを示すことなど誰にもできない。人種や歳などに意味はなく、記憶との一致が見られぬとて、忘れていたで返せば良いだけのこと。しょせん誰かの生まれ変わりなど言ったもの勝ちなのだ。もちろん『本人が存命』ならば話は違うが。


「それともお前はジェネラルの方が本物だとでも言うつもりかい?」

「そ、そういうわけではありませんが、しかし」


 その様子にニオーがため息をつきながら、右手を挙げて会話を制止する。


「彼女を生まれ変わりと信じるか御輿とするかはさておきだ。今のベラ総団長は我々のクィーンとして掲げるには十分な実績がある……というのは事実なのだ。故にジェネラルを掲げる帝国に対し、我々はベラ・ヘイローをクィーンとして掲げる。少なくともその判断を下すべく赴いたゼックがそう判断したのなら我らは従おう」


 その言葉にゼックがニタリと笑みを浮かんで頷いた。

 実績、そう実績だ。お膳立てせずともベラ・ヘイローは彼らの望む通りに動いた。それはつまり彼らの用意したレールに乗らずに彼らの望む、かつての主人と同じ道を歩んでいたに他ならない。

 しかし、その意味するところをニオーは正しく理解できているのだろうか……とゼックは思う。生まれ変わりか否かはもはや問題ではない。どうであるにせよ、それが本物と同じか、それ以上であるならば、その者こそが我らの『新しき主』なのだと。

 それはクィーンを掲げてきた者に対して叛意とも取られかねぬから口にこそ出さないが、自分や銀光戦士団の面々のように、いずれは他の者も理解するはずだとこの場でゼックは確信していた。

次回予告:『第329話 少女、王都に向かう』


 これが撫でポ……ベラちゃんの男殺しにも磨きがかかっていますね。

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