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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第325話 少女、嘘をつく

 モーリアン王国軍と対峙するリガル宰相率いるベラドンナ自治領軍によるザラック中原で展開されている戦いはもはや恒例のような光景であった。

 ジェネラル・ベラドンナとバル・マスカーがモーリアンの内乱より引いてからは、モーリアン王国軍がわずかに押してはいるのだがあいも変わらず膠着状態は続いていた。

 現在ジェネラルの代わりにローウェン帝国軍より八機将シャガ・ジャイロが増援としてきているが、シャガは個の武勇にこそ優れているものの、戦巧者揃いのモーリアン王国軍はそれを受け流して戦いの損失を留める方向で動いていた。何しろ昨今では近隣の事情も変わってきている。エルシャ王国がローウェン帝国より解放され、北のマザルガ聖王国、ザラ王国との戦争も帝国が継続している今、モーリアン王国は戦力を温存して状況が好転する道を模索していたのである。

 無論、それを面白くないともっとも感じているのは八機将のシャガだ。

 八機将の中でもジェネラルの存在を良しとしておらぬシャガはこれを機に己がジェネラル以上の武人であることを示そうと意気込んでいた。けれども結果は現状維持が精々。かといって決して無能でもないシャガは無理に動いて被害を広げることがなかったため、より一進一退の状況が維持され続けていた。

 もっとも、今はその膠着した戦場の中で若干変化が起きていた。


『押されている……か。情勢はあまりよろしくはないようだな』


 愛機の中で戦況を見守っていたベラドンナ自治領軍の将軍アーネストがそう呟いた。

 古くからこの地を守り続け、近年ではクィーン・ベラドンナというトップにより精鋭化し、鷲獅子大戦をも切り抜けたモーリアンの兵は極めて精強だ。そこにローウェン帝国や周辺国の増援があって両者は今もこうして戦い続けている。けれども昨今、戦力バランスが徐々に崩れつつあった。


『ルーイン王国軍のガルド・モーディアスだったか。ヤツは今日もいるのか?』

『ハッ、最前線にて我が軍と戦闘に入っているようです。我が軍も勇猛果敢に挑んではおりますが……』


 通信機から言い淀んだ配下の声が聞こえた。

 ガルド・モーディアス。その戦歴から『解放者』の二つ名でも呼ばれている。

 ローウェン帝国の介入によって滅びた祖国を取り戻し、のみならずエルシャ王国奪還のためにも剣を振るい、現在はこのモーリアンの地でローウェン帝国と組んでいるベラドンナ自治領軍に刃を向ける古参の戦士。

 ガルドの駆る6メートルの鉄機兵マキーニ獣機兵ビースト竜機兵ドラグーン相手でも性能では負けず、そこにガルド当人の技量がプラスされることでローウェン帝国軍を圧倒していた。彼の率いる兵たちも、ローウェン帝国憎しと挑み、死をも厭わぬ強兵揃い。まともにぶつかり合えば八機将のシャガとて勝利できるかは分からない相手であった。


『エルシャ奪還で満足しておけば良いものを。自国の再興を果たしたとはいえ、国が安定したわけではないだろうに』

『同盟国であるヘイローとの協力により、今のルーインは兵力という点ではある程度の融通がきくそうですからね』


 配下の指摘にアーネストが苦い顔をする。

 ルーイン王国の隣国であり同盟国の傭兵国家ヘイロー。その主な国民であるラーサ族は戦士の部族だ。個としても鉄機兵マキーニ乗りとしても強力な武力を持ち、またローウェン帝国にばら撒かれた獣血剤によって各地で暴れていた獣機兵ビーストをも戦力として取り込むことで余剰戦力を作り、他国の戦いにまで介入している。その有り様はかつて傭兵国家を名乗っていたモーリアンのようであり、またヘイローの実質的な支配者ベラ・ヘイローの名は今や近隣の国々で知らぬ者はいないほどであった。


 曰く、赤い魔女。

 曰く、竜殺し。

 曰く、竜使い。

 曰く、帝国の天敵。


 さまざまな二つ名で呼ばれているが、中でもアーネストたちが神経を尖らせているのが『クィーンの生まれ変わり』という名であった。


『あの偽物と手を組むかガルドめ。ヤツもかつてはクィーンと共に戦った者だろうに』


 忌々しげにアーネストがそう口にする。

 アーネストは知っている。ジェネラル・ベラドンナがまごうことなくクィーン本人であるということを。ジェネラルと出会ったアーネストは、彼女の有り様が確かにクィーンその人であると確信していたし、実際両者の間でしか知り得ないようなこともジェネラル・ベラドンナは知っていた。故にジェネラルはモーリアンや隣国の言うようなローウェン帝国の用意した偽物ではないことは明らかであった。

 もっともジェネラルが本物であろうとなかろうとガルドにすれば祖国を奪った敵であることに違いはなく、本人が聞けばアーネストの言葉は失笑ものでしかなかっただろうが。

 とはいえ、たかだか騎士団ひとつによって戦況が大きく傾くことはない。被害は自治領軍の方が大きいだろうが、最終的にはいつも通りに決着つかずの終わりとなるだろうと予測できる状況だった。この時点までは。


『アーネスト将軍、伝令です。南より敵の増援あり。繰り返します。南より敵の増援あり』

『何、増援だと?』


 そして予期せぬ状況が舞い込んだのはこの時であった。

 今ここにきて増援である。アーネストはそれが近づいているという情報も得ていなかったし、増援となるような戦力についても心当たりはない。


『はい。獣機兵ビーストの軍が攻めてきており、また空より機械竜……或いは本物のドラゴンの『群れ』が近付いて来ております』

『群れ? ちょっと待て。何の群れが近づいてきていると言った?』


 アーネストが報告の意味を理解できず問い返したのも無理はない。

 だが配下からの返答をもらう前にアーネストはその光景を目撃してしまった。


『何だ……アレは?』


 確かに南から空を飛ぶ鳥のような何かが迫ってきているのが見えたのだ。よく見ればそれは巨大なドラゴンとソレに従う五体のドラゴンたちの姿であった。そして、それらが上空から一斉に降下し、低空飛行でブレスを吐いて自治領軍の兵たちを襲い始めた。その光景はさながら炎の壁が迫ってきているようであり、鉄機兵マキーニでも直撃すれば乗り手は焼け死ぬし、歩兵には為すすべもないだろうと予測できた。


『クソッ、ドラゴンをローウェン以外で扱っていて、獣機兵ビーストも……となれば援軍とはひとつしかないか』

『ハッ、連中はヘイロー軍の旗印を掲げております。将軍、如何いたしますか?』


 如何と言われてもアーネストにはすぐに出せる答えなど持ち合わせていない。ローウェン帝国軍ならいざ知らず、そもそも空から敵に攻められたことなどないベラドンナ自治領軍では当然としてその対処法など存在してはいないのだ。精々が矢を放つ程度でしか対抗はできない。しかし座していてもただやられるだけの状況で何もせぬという選択肢もなく、であればとアーネストはすぐさま戦略的撤退を考えたのだが……


『将軍、南西からも飛行物体が来ています!』

『なんだと? またドラゴンか?』

『はい……いいえ。あの……ドラゴンの首と機械竜? それに赤い鉄機兵マキーニが……う、うわぁあああ!?』


 通信機から悲鳴が聞こえたと同時に南西で爆発音が聞こえてきた。それも一度ではない。アーネストが南西の方角に視線を向けると次々と兵たちの間で爆破が起きていて、その上空を飛来する何かがアーネストのいる陣地へと近づいてきているのが見えた。


『確かにドラゴンの首? いやローウェンの機械竜か。それに……機械竜と赤い鉄機兵マキーニ? まさかアレは!?』


 爆発は低空を飛ぶ機械竜の首が落とした何かによって発生していた。そして驚くアーネストの前で機械竜の首から離れた機械竜と赤い鉄機兵マキーニが降下し、そのままアーネストの愛機『ラハトゥ』のそばへと降り立つと土煙の中から声が響いてきた。


『ヒャッヒャ、その機体はラハトゥか。となればあんたがアーネストだねぇ』

『貴様、まさかベラ・ヘイローか。単機で乗り込んでくるだと? ふざけているのか!?』


 アーネストが叫ぶ。

 いきなりのことに面食らいはしたが将軍であるアーネストとその側近たちはそれなり以上の実力者だ。すぐさまベラの乗る『アイアンディーナ・フルフロンタル』を取り囲んでいったが、ベラはその様子に薄ら笑うだけだ。


『ご主人様、あっしらは降りなくていいんですよね?』

『ああ、適当に散らしときな。そうすりゃ適当に潰しておくさ。マリアにデイドンもね』


 そして『アイアンディーナ』の頭上には、彼女の配下である亜種竜機兵ドラグーン『ヘッズ』とソレに乗る爆破型ボマー火精機ザラマス『エクスプレシフ』、またベラを地上に運んだのちに上昇した機械竜『デイドン』が旋回していた。


『なるほど、我が軍が空からの攻撃に慣れておらぬことを利用して私を討ち取ろうということかベラ・ヘイロー? クィーンの生まれ変わりを詐称する傭兵上がりのラーサの女が!』

『おいおいアーネスト、誰にそんな口を聞いているんだい? 昔は共に戦った仲じゃあないか? 抱いてやった数でも教えようかい?』


 その言葉にアーネストの心がわずかに揺らぐ。声こそ少女のものだが、その言い様は彼がよく知るクィーンのものに酷似していた。けれどもアーネストはジェネラル・ベラドンナを知っているのだ。だからその迷いはすぐに断ち切れた。


『声色を似せようと我らにはジェネラルがいる。まがい物め』

『かぁー、まがい物とは失礼なやつだねアーネスト。大体だ、そのジェネラルとかいうババアならちょいと虐めてやったら泣いて逃げ出したよ』

『何を戯言を……む?』


 アーネストの目の前で赤い機体『アイアンディーナ』が右手を持ち上げて黄金の塗装がされた装甲の一部を掲げたのだ。


『それはまさか!?』


 アーネストがギョッとした顔をする。『アイアンディーナ』が掲げたのは彼のよく知る黄金の機体の肩アーマーの一部だとすぐに気づいたのだ。


『ほら、アーネスト。あんた、こいつに覚えはないのかい? ちょいと前にたまたま出会った礼儀知らずのクソババアが偉そうに説教くれたもんで、ついついぶん殴っちまってね。そんときの落としもんだよ。最後は男の影に隠れて泣き喚いて逃げていった間抜けだったが……おや、もしかしてアンタの知り合いかい?』


 そう言ってベラがフットペダルを踏んで『アイアンディーナ』を一歩前に進め、ウォーハンマーを構えた。そして笑いながらこう告げた。


『さてアーネスト・ビヨング。あんたはどちらがクィーンだと思うかね? ああ、口には出さなくていいさ。その体に聞いてやるからさ』

次回予告:『第326話 少女、いたぶる』


 人はときに優しい嘘をつくときがあります。真実を告げることだけが正解ではありません。相手のためを思って告げる偽りの言葉は真実の言葉よりも尊きものです。

 そして優しい女の子は優しい嘘しかつきません。つまりベラちゃんがついたのは優しい嘘ということです。

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