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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第321話 少女、降下する

『慣らし相手としては悪くなかったねぇ』


 ウォーハンマーを肩に担がせた『ゴールデンディアナ』の中でベラドンナがそんなことをうそぶく。今、目の前で崩れ落ちた獣機兵ビースト鋼機兵ハイマキーニとなった『ゴールデンディアナ』の慣らしとしては十分な相手であった。模擬戦でも巨獣相手でもどうにも馴染まなかったが、ここに来てようやくベラドンナは己と『ゴールデンディアナ』のズレが埋まったように感じていた。

 とはいえ、そんなベラドンナの内面の感謝の気持ちが死んだオルガンに対しての慰めになるはずはなく、何よりも彼の配下であった獣機兵ビーストたちにとってもベラドンナは憎むべき対象としてその瞳に映っていた。


『オルガン団長をよくもッ』

『許せねえ。ここから帰れると思うなよ』


 魔獣の因子を植え付けられて半獣人となった彼らにとって軍隊とは群れであり、家族にも近しい繋がりであった。その頂点たるオルガンを殺されたことへの怒りは、たった今オルガンを葬った相手への畏怖を超えていた。許せぬと、撃滅せよと、殺し尽くせという衝動が彼らの内を駆け巡り、刺すような無数の殺意の視線に当てられたベラドンナの瞳が怪しく輝いた。


『ハッ、熱い連中は嫌いじゃあないよ。潰し甲斐があるってもんだ。いいさ、かかってこいケダモノども!』


 ベラドンナが咆哮する。

 すでにローウェン帝国軍は銀光戦士団を抜け、オルガン兵団と交戦に入っている。そこにジェネラル・ベラドンナが加われば戦況はオルガン兵団の不利へと一気に傾くはずだろう。しかし今の怒りに支配された彼らにとってはそのようなことは二の次。破滅の道を歩もうともベラドンナへの怒りを回避することなどできようはずもなく


『ああ、そうかい。だが潰れるのはアンタひとりで十分だろう?』


 直後、風切り音や少女の声とともに赤い何かが獣機兵ビーストの頭上を飛び越えて黄金の機体へと激突した。


『ッなんだい!?』


 それにはさしものベラドンナも驚きを露わにする。

 とはいえ、何が起きたのかは理解できていた。オルガン兵団の側から機械竜に運ばれた鉄機兵マキーニが低空飛行で接近し、視覚に入ったところで勢いのままに降下して持っているウォーハンマーを『ゴールデンディアナ』に叩きつけてきたのだ。


『チッ、仕留められなかったかい』


  ゴロゴロと地面を転げていく『ゴールデンディアナ』を尻目に、着地した赤い機体はウォーハンマーのピックに刺さった黄金の装甲をはがして投げ捨てる。それは『ゴールデンディアナ』の胸部装甲の一部であったが、少女の言葉の通りにピックの先に血痕はなく、乗り手であるベラドンナを仕留められてはいないようだった。


『しっかし、無茶な飛び込みだったがなんとかなるもんだね』


 少女の声が赤い鉄機兵マキーニから響き渡り、それを聞いたオルガン兵団たちの気勢が高まった。なぜならばそこに立っている赤い機体を彼らは知っていたのだ。そこにいるは『アイアンディーナ』、彼らの総団長であるベラ・ヘイローの機体であった。


『総団長だ。この戦い、勝てるぞ』

『しかし、オルガン団長の仇を我らに!』

『馬鹿ども、飲まれ過ぎだ。周りをよく見な!』


 ベラの咆哮にも似た指摘に獣機兵ビーストたちの激情に水がかけられる。


『銀光戦士団が崩れて、帝国軍がこっちに集中してきてるんだ。この押されてる状況でアンタらは怒りに任せて突っ込む気かい。あんな婆ァの萎びたミルアの門に夢中になって大切な団を潰すつもりなのかい?』

『ですが、団長が殺されたんですよベラ総団長!』

『オルガンを自殺の言い訳にするんじゃないよ。アレが望んでいることを考えて動きな』


 ベラがそう指示を飛ばしながら黄金の機体へと近づいていく。


『古種ガーメの陣を組め。散らばった銀光戦士団も集めて固めておくんだ。アレはあたしがやる』

『は、はいッ』


 ベラの防御陣形の命令に獣機兵ビーストたちが一斉に動き出す。怒りの収まりどころはどうあれ、自分たちのボスの指示を違えるほどに彼らも愚連隊ではない。


『はは、下をなだめるのは上手いみたいだね。小娘が』


 すでに立ち上がっている黄金の機体から老婆の声が響く。


『あん? あまり舐めた口叩くんじゃないよ。棺桶から這い出てきたゾンビ婆ァがなんでここにいるのさ?』

『巨獣狩りさ。アンタらもそうなんじゃないのかい?』


 その返しにベラが舌打ちをする。

 これで状況が繋がった。予想はしていたがベラたちが遭遇した豪鬼獣の群れを最初に狩ったのは目の前の老婆たちで、ここにきている目的も被っていたということのようである。


『手痛いねえ』


 ベラが誰にも聞こえぬほどの小さな声でそう呟く。

 この巨獣討伐はそもそもがヘイロー軍とモーリアン王国軍の能力の確認の意味合いが強かった。それがこの状況だ。予期せぬ横槍によってオルガンを、己の配下を奪われた。自身に手落ちがあったとは思わない。けれども巡り合った運が悪過ぎた。


『それで、ガーメのように丸くなれって命令してどうすんだい?』

『歳をとるとボケちまうんだね。しなびた脳ミソじゃあ頭が回らないのかい? それとも戻ってくるのがあたしだけだと思っているのかい?』

『チッ、意地悪言うんじゃないよ。豪鬼獣を相手取るための戦力が戻ってきている途中ってことなんだろう。だとすれば長引けばこっちに勝ち目はないってこった』


 帝国軍は現在、銀光戦士団を蹴散らして優位な状況にはある。またベラドンナが仕掛けたのはここにいる混成軍が自分たちと戦力がほぼ同数であったためだ。

 けれども敵には増援の目処があり、対してベラドンナたちにはない。置いてきたベラドンナ自治領のゾールダン騎士団がやってくるとはベラドンナには思えなかったし、この場にいる誰もが知らぬことだがゾールダン騎士団はすでにゼックとガイガンたちに降伏していた。

 ここでヘイロー・モーリアン混成軍が持ち堪えると討伐に向かった戦力がこの場に合流してくるし、そうなればベラドンナたちの勝ちの目はなくなる。


『退くしかないねぇ』

『ああ、そうさ。あたしらは守り続ければ負けはない。ただ、ここで血を流しても大して金はもらえないし傭兵としちゃぁ旨味はないからね。あまり歓迎もできないんだが、まあ……』


 ベラが凶暴な笑みを浮かべながら『アイアンディーナ』を一歩前に進ませる。


『舐められっぱなしじゃあ、傭兵国家としては名折れだ。アンタの首くらいは残しておいてもらいたいんだがね?』

『ふん。欲張りさんは長生きできないよ。まあ……』


 対してジェネラル・ベラドンナも『ゴールデンディアナ』にウォーハンマーを構えさせて前へと進む。


『こちらもアンタとはってみたかったベラ・ヘイロー。その力をあたしに見せておくれよ!』


次回予告:『第322話 少女、激突する』


 巨獣狩りと巨峰狩りって似ていますよね。

 どちらも大きいものを狩るのには違いありませんし、こういう季節のイベントって日々の中では結構刺激になりますね。

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