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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第318話 少女、まだ届かない

 ローウェン帝国軍がヘイロー・モーリアン混成軍の陣地に攻め込もうと進軍し、さらには帝国軍主力より分かれた隊が混成軍の真横に攻めようと動いていた。そして、別部隊の先頭には刀神というふたつ名を得た新しき八機将バル・マスカーの乗っている黒い鉄機兵マキーニ『ムサシ』の姿もあったのである。

 かつてベラドンナ傭兵団でベラの奴隷としてあった男の存在。それはとある男の心の炎を燃え上がらせていた。


『バル・マスカーァアアア!』


 鉄機兵マキーニの集団の先頭にいる『ムサシ』に灼熱を纏った四足歩行の機体が飛びかかる。それはヘイロー軍総団長副官リンローの駆る混機兵キメラ『レオルフ』の機竜形態だ。ブレスを全身に纏った一撃は、けれども『ムサシ』には瞬時に避けられ、『レオルフ』は勢いのままに後方にいた帝国の鉄機兵マキーニたちを数体弾き飛ばしつつUターンしながら再度『ムサシ』へと向かい合った。


『避けやがったか。まあ……そりゃあ簡単にはいかねえよな』

『その機体は『レオルフ』か。獣機兵ビーストからドラゴンの因子を受けて混機兵キメラに至ったリンロー・レオブラントの機体……だったか』

『ご紹介どうも。その通りよ。俺が今のベラ総団長の右腕さ、元ベラドンナ傭兵団のバル・マスカーさんよぉ。そして野郎ども、勢いは止まった。一気に押し出せ!』


 リンローが叫び、後方より接近していたヘイロー軍が咆哮しながらバルの指揮するローウェン帝国軍に向かって突撃していく。同時に『レオルフ』は機竜形態から機人形態へと変形すると尾を棘鉄球メイスへと変えてバルの『ムサシ』へと振り下ろした。


『ぉおおりゃぁあああ!』

『ふん。鉄機兵マキーニを超えたパワー、その巨体……かといって速度も鈍いわけではない。獣機兵ビーストに毛が生えた程度と想定していたが、想像以上に強力な機体のようだ』


 バルが棘鉄球メイスをカタナでそらしながらそう口にする。


『余裕だな。だが、こいつはどうだ?』

『振り戻しも速いな』


 4メートル半ある『ムサシ』に対して機人形態の『レオルフ』の全長は6メートル。見た目は大人と子供ほどの差があるが、しかし一方的な戦いにはなっていない。出力で上回る『レオルフ』が常に攻撃を仕掛けているようで、実際には『ムサシ』にそのすべてを受け流され、反撃が来ぬように手数で動きを止めるのが精一杯という状況であった。


『ラーサ族の練度も想定を上回る。なるほど、『主様』は良い兵を育てたようだ』


 そんなことを嘯くバルの声には焦りも動揺もない。完全に受けきっているとはいえ、一撃でも当たれば戦況は一気に変わるだろうというのにバルの心は平常そのものだった。


『クソがぁあ!』


 リンローがバルの様子に苛立ちを露わにしながら胸部にある竜頭から炎のブレスを吐き出させた。それは武器と武器との打ち合いの中に飛び込んできた奇襲。けれどもバルは


『こいつ、なんだと!?』


 リンローの目が見開かれる。右の一振りで炎のブレスを斬り裂いた。そして驚愕するリンローに対して続けて左のカタナで突きを放つ。


『ざっけんなよ』


 リンローがとっさに『レオルフ』を右に避けさせ、切っ先は胸部にある竜頭のタテガミをわずかに斬り裂く程度に留まった。けれどもリンローの顔に安堵はない。竜頭周囲のタテガミは本来装甲として存在している。けれども『ムサシ』の剣は鉄機兵マキーニの装甲の二倍はあるであろうソレを容易に斬り裂いていた。


『装甲も厚いか。重量もあるだろうにその速度を維持している。竜の心臓ありきだからこそできる出力の高さなのだろうが……惜しいな』

『何をブツブツと……遊んでるのかテメェ!?』


 戦いというよりはまるで観察でもしているかのようなバルの動きにリンローが激昂しながら攻撃を仕掛けるが、バルはやはり変わらぬ様子で攻撃をさばいていく。だが次の瞬間に今度はバルの目が見開かれた。


『これは?』


 リンローが後ろに跳んだのと同時に、別のところから何かが『ムサシ』に向かって放たれて、バルがそれに反応する前に爆発が起きた。


『おい、いきなり通信機で話しかけてきやがって。これはなんのつもりだジャダン?』

『ヒヒヒヒ、あんたヌルいんですよぉ、リンローの旦那。マリアさん、っちゃって!』

『ぉぉおおお、死ねぇぇぇええええ!』


 上空から爆煙の中へと降下した亜種竜機兵ドラグーン『ヘッズ』がショートソード並みの大きさがある計十本の爪が振り下ろすと、それを『ムサシ』がとっさに二刀で受け止める。


『爆炎球……ジャダン。お前か?』

『ヒヒヒ、バルの旦那。お久しぶりで』


 ジャダンはそう言って爪を受け止めた事で両腕が塞がった『ムサシ』に対し『ヘッズ』の上に乗っている火精機ザラマス『エクスプレシフ』の砲身を向けた。


『そんで昔の馴染みってことであっしの手柄になってくれませんかねぇ?』

『チィッ』


 バルがここに来て初めて焦りの混じった声を出すと『ムサシ』の両腕が光って『ヘッズ』の爪を弾き、さらには『エクスプレシフ』の放った砲弾をも斬り裂いて、両機体の間で爆発が起きた。


怪力乱神マシラオのパワーで強引に抜けましたか。マリアさん、下がって』

『簡単には斬らせてくれないか。やはり、お前は危険だなジャダン』

『あっしの評価高ぇんじゃねえっすかバルの旦那。マリアさん、ブレスっす!』

『しかし、我が刃は炎とて斬り裂く!』


 そう叫んで左のカタナで再びブレスを斬ったバルだが、直後に『ムサシ』の足元で爆発が起きたことでさらに踏み込んでジャダンへと飛びかかることができなかった。


『今のは……爆炎球をあらかじめ、落としておいたのか』

『すんませんねえ。機動力は削がせてもらいますよバルの旦那ぁ』

『小賢しい。お前が戦場に出ているとはな』

『ええ、ご主人様の命令でね。それに懐かしいメンツはまだおりますよ。ねえザッハナイン!』


 そう言ってジャダンが『エクスプレシフ』の左手を上げると後方より巨大な影が飛び出してきた。それにバルが再び驚きの顔を見せる。


『その魔獣は……まさか、そいつがザッハナインだとでもいうのか!?』


 かつて並んで戦った鉄機兵マキーニの成れの果ての異形が『ムサシ』へと飛びかかる。両腕から鞭のように伸びた蛇腹爪が激しく動き、バルも『ムサシ』を操作してそれらを弾きながら後方に下がりつつ凌いでいく。


『ジャダン、テメエ。いきなり通信で避けろとだけ伝えやがって。人の勝負に何を水さしてんだ?』

『ヒヒヒヒ、熱くなってますねえリンローの旦那。けど、一対一で本当に勝てました?』


 ジャダンの言葉にリンローがギリギリと歯ぎしりをする。実力の差は肌で感じていた。だからこそリンローには返せる言葉がない。


『相手は死ぬまでカタナを振るい続ける為だけに生きようとしているアホですよ。右腕とかいうのに拘るのやめましょうよ。あんなの、まともに相手するだけ無駄です。だから、ちゃんと殺しましょうよ。ほらブレスを撃って』

『クソッタレ。だがヤツはブレスを斬るぞ』

『構いませんて。マリアさん、ザッハナイン。一斉にいきますよ』


 そう言いながらジャダンが爆炎球を撃ち、それがバルに当たる前に爆破して怯ませると、『ヘッズ』と『レオルフ』が同時に炎のブレスを吐いて、さらにはそこに『ザッハナイン』が可燃ガスを放ったことで戦場に巨大な火柱が上がった。


鉄機兵マキーニ相手に使う威力じゃあねえぞ』

『いやいや、殺せるときに殺す。あの人も怖いですからねえ。何せ、あーほら』


 ジャダンが肩をすくめながら引きつった顔で笑う。


『ああいう感じで死なねえんすよ』


 火柱の中で両腕のカタナを回転させて炎をかき消す『ムサシの姿』が見えた。それにはリンローもマリアも驚きの表情を露わにする。


『なんて野郎だ』

『ジャダン、忘れていたようだな。このカタナに使われている黒鬼鋼クロキハガネは炎を吸収する性質を持っているのだということを』

『忘れていませんが、普通に考えて限度ってもんがあるでしょ!?』


 カタナが真っ赤に燃えている。それはベラドンナ傭兵団の頃からバルが振るっていた黒鬼鋼クロキハガネ製のカタナ『オニキリ』と『ヒゲキリ』だ。ブレスを吸収した刃は炎を纏わせて激しく鳴動していた。


『クソッタレ。あれで殺せねえってなんなんだよ。しかし……あん?』


 リンローがバルへと視線を向けながらも、通信が入ったことに眉をひそめた。


『どうした?』

『リンロー副官。すまねえ。オルガン団長が……』


 その言葉にリンローの表情が固まった。


『オルガン団長が殺された!』

次回予告:『第319話 少女、キレる』


 今日は楽しい同窓会。ジャダンお兄ちゃんもマリアちゃんというお友達を得て、ようやく表舞台に出ることができました。ベラちゃんも早く合流できるといいですね。

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