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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第317話 少女、全力で戻っている

 嫌な予感がする。

 ヘイロー軍オルガン軍団を率いるオルガンがそう口にしたのは一時間も前のことだった。それは戦士の本能か、半獣人の勘か……ただ、それはオルガンだけではなくヘイロー軍からも銀光戦士団からも同様の声がいくつも上がっていた。何かが迫ってきているような気がする……と。

 それらの報告を受けたリンローも言われてみればどこか落ち着かないと感じてはいたし、だから根拠こそなかったが彼らは自然と戦いの準備を進めていた。


「うーん、総団長がブチ切れてお帰りになるってことじゃねぇのかね?」

「それはそれで問題が起きていそうだが」


 そろそろ日も落ちようかという頃合いの中、互いの愛機の前でリンローとオルガンがそう言葉を交わし合っていた。誰もが落ち着かない空気を感じている中、彼らは万が一への準備を整え終わり、手持ち無沙汰となっていた。


「そうだな。総団長がブチ切れるなんざ想像もつかないな。案外、あの人はクレバーだからな」

「確かに……まあ、総団長がトンボ帰りしてくるようなトラブルが起きているなら相当な難事だろうが」


 豪鬼獣の討伐にベラたちが向かってまだ半日。三日ほどは山の中を探索する予定で動いていたため、戻ってくるとすれば何かしらトラブルがあったということになる。


「何もないならそれが一番さ」

「そう思いたいが……な」


 オルガンが山の方へと視線を向けた。未だに予感は止まない。


「半獣人はそういう勘が働きやすいってのはあるらしいが。警戒はし過ぎて悪いわけじゃあねえんだ。それに……ん、ちょっと待て」


 何か思い出したという顔のリンローが懐から懐中時計を取り出した。それはイシュタリアの遺産のひとつで、時間を計るための道具だ。


「少し……おかしいな」

「どうした?」

「巡回の魔獣使い テイマーの定期報告が届いていない」


 リンローがそう返しながら、すぐさま通信機を手に取った。


「おい、ロッド。聞こえてるな。報告が来てないようだが、どうした?」


 リンローが連絡を取った相手はケフィンの配下の獣人だ。


『すまない、まだだ。連絡が取れていないんだ。今、確認に部下を向かわせているが』

「状況分かってんだろうな。そういうのは先に言え。クソッ、もう遅えみたいだな」


 リンローの言葉の途中でカンカンカンと襲撃を知らせる鐘が鳴り響き始めたのだ。それとほぼ同時にロイマス山脈の森よりバサバサと鳥たちが飛び立つ姿が見えたことで、リンローとオルガンの警戒レベルが一気に上がる。


「ちょっと待てよ、ここまでの接近に誰も気付かなかったのか?」

「これは……不自然だな」


 オルガンが眉をひそめる。森から出てきたのは軍隊だ。一機や二機の接近ではないし、まだ日も出ている時間だ。魔獣使い テイマーの報告を抜きにしても気づかないということは普通あり得ない。


「おかしいが、答え合わせは連中から聞きゃぁ分かるか。こっちも戦闘準備はできている。ヤツらが近付く前に迎え撃てるしな」

「そうだな。しかし、アレはローウェンか?」


 獅子の紋様が見えた。それはベラドンナ自治領軍ではなく、ローウェン帝国軍の旗印だ。それがなぜここに出没したのか。或いはモーリアン王国軍にはめられたのか……という思いがわずかに浮かんだが、すぐそばで銀光戦士団の副団長ホルンが慌てて指示を飛ばしているのを見て、その考えをオルガンは捨てる。

 それからふたりはすぐさま己の機体に乗り込むとホルンから通信が入ってきた。


『不味いぞ、リンロー副官殿』

『ああ、ホルン副団長殿。状況は見えている。だが数を見れば、こちらと同数程度だ。だったら』

『そういう問題じゃあない。あの旗印を見ろ。クソッ、ヤツがなぜここにいる!?』

『旗だと? ローウェン帝国の獅子と、それに一緒に混じっているのは黄金の鷲……の旗印?』


 リンローの表情が固まった。リンローもエルシャ王国で戦った獣機兵ビースト軍団が掲げていたローウェン帝国の旗印を見たことはあったが、一方でもうひとつ掲げている旗印については資料でしか目にしたことはなかった。

 その旗印を掲げる相手はこのモーリアンの内乱において最大の脅威にして最大の障害となる一団のはずだった。少なくともこんな辺境では本来出会うことはない相手だ。

 

『あれは……黄金の鷲団? それに先頭にいるのはまさかジェネラル・ベラドンナ……か?』


 オルガンが迫る敵の軍隊に目を丸くしていた。迫る軍の最前面に、黄金に輝く鉄機兵マキーニが存在していることに気付いたのだ。


『あの黄金の機体がそうか。それも鉄機獣ガルムに乗っているみたいだが?』

『ありゃ、鉄機馬バイコンという鉄機兵マキーニの亜種ですよ。鉄機獣ガルムと似たようなものですが、あっちは鉄機兵マキーニを乗せるのに特化している。悪いがアレは我々がもらう』


 ホルンがそう言って自身の機体を前へと進めながら迫る黄金の機体へと剣の先を向けた。


『銀光の戦士たちよ。偽りの英雄が現れたぞ。我らがクィーンの機体を取り戻すのだ!』

『おぉぉおおおおおおっ!!』


 そして銀光戦士団が一斉に駆け出していく。その様子にオルガンがリンローへと視線を向けた。


『どうするリンロー?』

『あの大将首をればローウェンの士気を一気に挫くことができるんだろう。オルガン、お前の団は銀光戦士団をフォローしろ。あの金ピカはひとり突出してやってきているが、そんなことが許されるのはうちの大将みたいなホンモノだけだ。タイミングが合うならお前の巨獣兵装ビグスウェポンやガラティエやリギスも使って面で潰せ』

『承知した。それでお前はどうするリンロー?』

『俺はあの脇腹狙ってきてるヤツらを討つ』


 リンローがローウェン帝国軍の中で右側に分かれて移動している隊へと視線を向けた。その先頭にいるのは黒い鉄機兵マキーニだ。そして、その機体をリンローは知っている。


『刀神バル・マスカー。八機将のひとりにして、総団長のかつての右腕。だとすれば今の右腕である俺が相手にするのが正しい選択ってヤツだろう?』


 リンローがどう猛な笑みを浮かべてそう口にすると『レオルフ』を操作して動き始めた。

次回予告:『第318話 少女、まだ届かない』


 人生は時に大きな壁が立ちはだかる時があります。

 けれどもその壁は誰しもが必ず乗り越えられるとは限りません。

 そして、壁を越えられぬ者の向かう先は……

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