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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第315話 少女、胸騒ぎを感じる

『なんだろうね……この感じは』

『どうかしましたかベラ総団長』


 ロイマス山脈を移動中、わずかに漏れたベラの声に反応した銀光戦士団の副官マノーの問いにベラは『いや、なんでもないさ』と返した。探索を開始して未だ成果はない中でベラの心は妙なざわめきに支配されていた。言い様のない焦りがあった。


『知らない土地だからかねえ。妙にピリピリと来ているのさ』

『そうには思えぬほどに勝手知ったるという動きをしていますがね』


 マノーの言葉は決して世辞ではなかった。事実としてヘイロー軍のどの鉄機兵マキーニよりも『アイアンディーナ』は安定してこの山中を移動しているし、銀光戦士団の案内もなしに土地を把握した動きも見せていた。それはこの地に生きている者でなければ……とも思わせるもので、銀光戦士団の中でもより一層生まれ変わり説が強固なものとなっていく。


『一時期、あたしゃ山に篭ってたんでね。それで慣れているだけさね。パラ、ケフィンからの応答はまだないのかい?』

『はい。いや、来たようです。繋ぎます』


 広域通信型リエゾン風精機シルフィに乗っているパラがそう返事をすると、『アイアンディーナ』内にある通信機から『発見した』という声が聞こえてきた。

 それは先行して探索に当たっているケフィンからのものだ。

 現在のケフィンは鉄機獣ガルム『ハチコー』に乗って移動している。『ハチコー』は機械竜の頭部が移植された鉄機獣ガルムであり、乗ったままでも魔獣や巨獣を指示することができる魔獣使い テイマー専用の機体であった。

 ドラゴンの知性は高く、憑依するよりも各自に戦闘を任せた方が良いという判断もあり、現在ではケフィンは憑依せずこの機体で槍尾竜ガラティエと槍角竜リギスと連携しての戦闘をメインに行なっていた。とはいえ、生身のドラゴンでは近寄るだけで巨獣が逃げ出す恐れもあるため、現在二体の竜は陣地に待機してはいたが。


『北東に豪鬼獣三十体の群れがいる』

『三十……まあ、この数なら余裕かね』


 今回のモーリアン遠征でヘイロー軍は兵を七千以上、鉄機兵マキーニ獣機兵ビーストの数も総数三百以上を連れてきている。

 その上に同行している銀光戦士団の兵力もゼクパルで分かれたとはいえ、ヘイロー軍の半数程度はいて、ベラのいる方の隊だけでも百機以上の鉄機兵マキーニが動いていた。

 本来巨獣一体に対して鉄機兵マキーニは五機から十機程度は必要とされているが、ラーサ族の戦士たちであれば巨獣を相手にも三対一、或いは二対一でも対処が可能だ。


『様子がおかしい』


 ただ、続くケフィンの言葉は予想外だったようでベラが首を傾げた。


『おかしいってのは、どういうことだい?』

『連中、負傷をしている。何かに負けて逃げてきた……ように見える』

『逃げてきた? 将軍の隊とは距離があり過ぎますし、巨獣同士で争ったのでしょうか?』


 巨獣同士が争うということは珍しくはない。巨獣の生息できる環境は魔力の川ナーガラインの濃い地域に限定されるのだから、当然縄張り争いも激しい。そもそも巨獣が人間と相対することは珍しく、本来の彼らの相手は魔獣や同じ巨獣だ。特に数が増えて間引きしなくてはならない状況ならなおさらだった。


『接近してないから分からないが、どうにも戦った相手は巨獣ではなさそうだ』

『……そうかい。すぐに向かう。ケフィンたちはそこで監視しておいておくれ』

『承知した』


 ケフィンがそう言って通信を切ると、ベラが隊に指示を出して移動を開始する。相手に動きを悟らせぬよう散開しつつ、囲むように動いていく。


『それにしても、なんという柔らかい動きをする鉄機兵マキーニか』


 移動中、『アイアンディーナ』の後ろを歩くマノーがそう呟く。『アイアンディーナ』はベラが重点的に腰部や脚部を強化したことで機動力が高く、また山道であっても重心が揺らがぬ安定性を持っている。それは己の意思通りに動かせれば負けはない……というベラの戦闘思想を反映させた結果であり、目に見える形で動きに現れていた。

 そんなマノーの関心をよそに、ベラたちはケフィンに指定された場所まで辿り着くと豪鬼獣の群れを視野に捉えた。

 オーガ種の巨獣である豪鬼獣は、オーガを上から潰して巨大化させたような姿をしていた。どちらかと言えばトロルに近いが、その表情の悪鬼羅刹ぶりはやはりオーガのソレであろう。もっともその強面も現状では精彩を欠いている。


(なるほどね。あの傷は斬り傷かい。巨獣同士の争いでは確かになさそうだ)


 ベラは目を細めてそれらを観察する。無論、斬り裂く攻撃を持つ巨獣がいないわけではないが、見る限りは鉄機兵マキーニなどによる傷であるようにベラには感じられた。またその傷も未だ癒えておらず、それほど時間が経っていないようだった。


『ふぅむ。傭兵が手をつけた可能性もあるが……どうだろうねえ。おっと気付かれたか』

「グォォオオオオオオオオオ!」


 豪鬼獣たちがベラたちの姿を認めると咆哮しながら駆け出してくる。対してベラも戦闘開始を指示しながら自らも先陣を切って走り出し、そして最初に豪鬼獣とぶつかり合ったのは『アイアンディーナ』であった。


『ひゃっひゃ、力は強いねあんた』


 ベラが笑いながら丸太の棍棒を避け、そのまま『アイアンディーナ』を操作して頭部へとウォーハンマーを叩きつけた。


『硬いか』


 骨が砕ける感触はあったが、それで豪鬼獣が仕留められたわけではない。


『けど、やはり疲労が溜まっているみたいだねぇ』


 ベラがそう言いながら竜尾ドラゴンテイルで足をひっかけて転ばせると、そのままウォーハンマーのピックを振り下ろして頭部を破壊した。


「グロォオッ」

『デイドンッ!』


 さらに接近してきた豪鬼獣に対しては空から降下してきた機械竜デイドンが喉元に食らいついて炎を吐き出すと気道を通してその肺を焼いて仕留める。そして、その頃にはもう他の鉄機兵マキーニたちも追いついて豪鬼獣との戦闘に入っていく。


『ベラ総団長。こいつらの傷、明らかに鉄機兵マキーニのものですな』


 マノーの指摘にベラも『だろうね』と返す。戦士であれば、傷の深さや傷の場所を見れば相手が何なのかはおおよそ見当はつく。だから目の前の豪鬼獣が戦った相手が鉄機兵マキーニであることはもはや疑いようもなかった。となれば、ソレを行ったのはどこの誰か……という問題が出てくる。


『マノー副官。ここ数日で傭兵に間引きをさせた可能性はあるかい?』

『対処できないから我々が来たわけですし、少なくとも我々の側から派遣された傭兵団はないはずです。が、となると……』

『となると?』

『ベラドンナ自治領側から派遣された可能性は否定できません』


 その言葉にベラが目を細める。


『あの数の巨獣が逃げたってこたぁ、相手は技量も数も圧倒していたってことだよねぇ』


 そう言いながらベラは迫ってきた豪鬼獣の足を炎の蛇腹小剣スネークフランベルジュを鞭状にして巻きつけてから一気に引いて斬り裂き、膝をついたところに仕込み杭打機スティンガーで眉間を貫いた。


『そんな規模だとすれば恐らくは傭兵団じゃあない。ベラドンナ自治領の正規軍。それもまとまった数の……となるとこいつはよろしくない』


 ベラドンナ自治領とはリガル宰相が率いるもうひとつのモーリアンのことだ。

 彼らはモーリアンが王政に戻る際に賛同しなかった者たちであり、モーリアン王国に属してはいない。現王べリスが母の意を汲み自らの力で認めさせるのだとベラドンナ自治領を一旦は黙認したこと、さらには自治領がローウェン帝国の協力を取り付けたことが現状を複雑にさせていた。

 ともあれ、ベラたちのいるロイマス山脈はそのベラドンナ自治領との境にあるのだ。そしてモーリアン王国が巨獣に手を焼いているのであれば、当然ベラドンナ自治領も同様であるはずだった。


『となると、場合によっては鉢合わせるか』


 そう呟きながらベラが回転歯剣チェーンソーで豪鬼獣の股間から腹まで斬り上げる。


『チッ、変なもんが付いちまった』


 ベラはへばりついた肉片を回転歯剣チェーンソーで切り刻んで捨てるとすでに終息しつつある戦場へと視線を向けた。

 豪鬼獣は確かに精強ではあったが、もとより負傷している上にヘイロー・モーリアン混成軍の数の暴力の前ではなすすべもない。けれども、この場に来た目的を達成しようという中でもベラの表情は冴えない。胸騒ぎが治らない。

 そして、戦いを終えたベラはすぐさま指示を出して兵たちを動かしていく。何も起きていないかもしれないが、そうであれば取り越し苦労で済む話だ。けれども彼女は大きな影が自分たちに迫って来ていると感じていた。ただ、さしものベラもそれがなんなのかまではこの時点では理解できていなかった。


 黄金の暴風がすぐそこまで近付いていることにはまだ……

次回予告:『第316話 少女、遭遇する』


 あらあら。ベラちゃん、それ干して煎じると良いお値段で売れるお薬になるそうですよ。

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