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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第312話 少女、朝のお話を聞く

 交易都市ゼクパルはここしばらく非常に騒がしい状況になっていた。

 それはここ何年もの内乱の影響により戦力が前線に集中した結果、国境周辺の警備が薄くなったことが原因だ。

 モーリアンを幾重にも取り巻く山脈と魔力の川ナーガラインの流れの重なり。それらは巨獣の生息域として非常に適しており、兵力不足による間引きが減った結果、巨獣の総数が膨らんでしまったのだ。もちろんこれまでにも対策は行なっていた。傭兵を呼び、巨獣を狩り続けてはきたが巨獣たちはついには下山し、魔力の薄い地域にまで足を伸ばしてきていた。

 一週間前にはその対処のためにモーリアンが誇る銀光戦士団がこのゼクパルに来訪し、さらには昨日に南方で名を馳せたヘイロー軍がやってきた。

 そんな連中が昨日は夜を明かして騒いだのだから街の人間は戦々恐々としていたのだが問題はほとんど起こらなかった。

 実のところ、ヘイロー軍を纏めているベラ・ヘイローについてのモーリアン王国軍の評判はあまり……いや、まったくよろしくはなかったのだ。

 原因がかねてより噂にあったクィーンの生まれ変わりという流言と、それをエルシャ王国のダイズ王が公的に表明して各国が同調したことにあったのは言うまでもなく、実際にその件で苛立ったモーリアンの兵が滞在中に問題を起こすことも少なくはなかった。だから最悪都市内で軍のぶつかり合いがあるのでは……とも彼らは考えていたが、蓋を開けてみれば平和そのもの。両軍の兵たちは肩を並べて酒を酌み交わしていたのである。

 もちろんまったく喧嘩などの騒ぎがなかったわけではないが、酒を飲んだ戦士に行儀よくしていろということ自体が無理難題であり、むしろ死者が出なかったことは奇跡であった。

 そして、そんな中で酒も飲めぬし夜も遅くまでは起きてはいられぬ年頃の少女は規則正しく朝を迎え、従者のパラの報告を受けていた。


「つまり、あたしらが最初に掃除するのはローウェンのゴミどもではなく、巨獣を……ということになるってわけかい?」

「はい。調査をさせた結果、どうやら我々は銀光戦士団と共闘して巨獣の間引きを行うよう話を持ちかけられるのでは……という報告が上がってきています」


 パラがそう返しながら頷いた。

 昨日はひとまず歓待の宴となったためにヘイロー軍と銀光戦士団の今後の動きについてはまだうかがっていないのだが、今後の方針自体は別段秘密にしてはいなかった様で、パラも情報収集に手間取ることはなかった。

 もっとも『ヘイロー軍を追い立てて巨獣の餌にする』だの『盾代わりには使えるだろう』などと兵たちが昨日までのたまわっていたという報告は省いている。

 どうやら彼らの態度も『不幸な行き違い』によるところが大きかったし、すでにそんな空気も払拭されている。改めて問題にする意味はないとパラは考えていた。


「なるほど……確かモーリアンは魔力の川ナーガラインが濃いからねえ。まあ、いいんじゃないかい。剣をいっしょに構えて戦ってりゃぁ、お互い大体のことは分かるってもんさ」


 モーリアン王国は山脈が連なる天然の要塞のような国だ。それと同時に天にある魔力の川ナーガラインの流れが重なっているために魔力が濃い地域が多い。それは様々な面で恩恵があり、小国であるモーリアン王国がローウェン帝国と張り合って生き残っていたのはそうした地勢的な理由も大きく、だからこそローウェン帝国が欲してもいた。


「元々隠すつもりはなかったのでしょう。歓待の前に仕事の話を持ち出したくなかっただけのようです。あの将軍にはずいぶんと気に入られたようですしね?」

「ああ、ゼックかい。確かに初めて会った気がしないくらいに気安く話せるけどね」


 クィーンの生まれ変わりと言われてはいるものの、ベラにクィーンの記憶などはない。けれどもゼックという男の対応に妙な居心地の良さをベラは感じていた。


「なんというか……下っ端根性が染み込んでような男だからそう感じるのかねぇ」

「相手、将軍ですよベラ様。とはいえ、昨晩も方々より話を聞いているのですが、ベラ様はよほどあのクィーンと気性が似ていらっしゃるようです。恐らく彼らはベラ様のような方を相手にするのに慣れているのでしょう」

「ハッ、ババアと一緒にされるのは癪だよ」


 ベラが苦笑する。

 実のところベラはクィーンの記憶などないことをさりげなく伝えはしたのだが、ゼックをはじめ古参の兵たちにとっては記憶など関係ないと公言してはばからなかった。彼らはヘイロー軍以上にベラがクィーンの生まれ変わりであることを確信していた。


「こっちは名前を利用したいだけだってのに、なんだかうちらが騙されてるんじゃないかって気分になるよ。ありゃ、なんなんだろうねえ?」


 そう言ってベラが首を傾げる。そうした状況を望んではいたはずだったが、それがあまりにも上手く噛み合い過ぎていて落ち着かないのだ。ベラが化かされているような気分になるのも仕方のないことだろう。


「パラ。案外、あんたの工作が利いていたのかもしれないね」

「よしてください。正直に言って、今となっては私のは意味があったのかすら分かりませんし」


 パラが肩をすくめた。かつてパラはベラの指示でモーリアンに向かい、ベラこそがクィーンの再来であるとの噂を広めるべく活動していた時期があった。

 だが、それは個人で行なったが故に本当に実を結んでいたのかすらもパラには分からない。その後にヘイローで生まれ変わりという噂を意図的に流し、エルシャ王国の後ろ盾まで得た現在では、パラは自身の行動に意味があったのかも懐疑的であった。

 実のところパラの草の根の活動は、ジェネラル・ベラドンナのカウンターとして密やかに市井側から脚光を浴びる形となって浸透してはいたのだが、そんな事実をパラが知るすべはない。

 それにパラは確信していた。ゼックたちはそんな裏工作などなくとも、ベラと出会えば同じように動いていただろうと。場合によっては、元より虚構と認識している者が広めるよりもそれは効果があったかもしれないとも。

 何しろベラの言動や挙動……そのすべてが彼らの中にあるクィーンと重なって映っているようなのだ。ダイズ王の宣言などなくとも、ただ会えば彼らはそうであることを確信していたはずだとパラは考えていた。それほどまでにベラは『クィーン』であり過ぎているのだ。


「それとベラ様。朝食の後は、ゼック将軍が今後の話を行いたいとの打診が届いておりますが」

「ああ、問題ない。あんな馬鹿騒ぎをした後だ。問題があるとすれば酔い潰れた連中の方が……だろうね」


 そう言ってからベラはパラを見た。


「大体だねパラ。あたしにも多少は飲ませてくれてもいいんじゃないかい? 何しろあたしゃ総団長だ」

「幼い頃からの飲酒は身体の成長を阻害するそうですよ。ただでさえ背が伸びていないのに、お酒など飲んでは伸びるものも伸びなくなると思いますが」


 そのパラの忠告にベラが眉間にしわを寄せたが反論はなかった。

 肉体の成長が見られないことはベラの中では珍しくコンプレックスになっていた。だから成長を阻害する要素が酒にあるかもしれないというのであれば反論はできず、ベラはパラの言葉を素直に聞くしかなかったのである。

次回予告:『第313話 少女、話を聞く』


 みんなで仲良く共同作業。同じ目標に向かって頑張ることでみんながさらに仲良しさんになれるんですよ。凄い。

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