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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第311話 少女、老婆の知己と話す

「確か……歳は十二だとうかがっていたん……だが」


 交易都市ゼクパルの南門前で鉄機兵マキーニから降りたゼックがそう漏らした。

 両軍の大将による手合わせを終えた後、ベラとザックはそれぞれ鉄機兵マキーニから降りてお互い生身での初対面とする運びとなったのだ。そして、姿を現したベラの姿にいつものように注目が集まったのである。

 現在のベラの歳はすでに十二。かつての頃とは違い、戦場に立つこともそこまで珍しくはない年齢だ。傭兵としてでもそうだが、場合によっては騎士団の次期当主の子息が箔付けとして指揮を任されるということがなくもない。無論ただの戦士から成り上がり、一軍の大将にまで上り詰めた……などというのは夢物語のようではあるのだが、それでも戦場にいるという点では常識に収まった歳になったというのは間違いない……はずだった。けれども彼らの目の前に降りて来た少女の姿は未だ二桁に届かぬような見た目であったのだ。


「ハァ。レディの歳を気にするたぁ、モーリアンはジェントリの心をどこに置いてきたんだい」

「んなもん、うちらには元よりありませんがね。ベラ総団長」


 ベラが口を開いたことで、先ほどの鉄機兵マキーニに乗っていた人物と同一人物であろうと辛うじて認識できたゼックがそう軽口を返す。

 彼の前に立っていたのは金色の髪をたなびかせた、黄金の瞳を持つ褐色肌の少女だ。場合によってはまだ幼女という言葉が通じるであろう年頃に見え、ゼックも己の娘よりも幼さのあるベラに対して驚きを隠せてはいなかった。特にゼックはつい今しがたまで赤い機体の中にいるのはクィーン・ベラドンナだと無意識に考えていたのだからなおさらだった。

 また銀光戦士団の面々も目を丸くしていた。絶句している者も少なくはない。彼らにしてみても子供が自分たちの大将を打ち倒したことが信じられなかった。その実力もついいま見せられただけになおさら理解の外にある光景だった。

 ベラと一緒に鉄機兵マキーニを降りたリンローがその様子に苦笑しながら声をかける。


「あー、ゼック将軍。総団長は以前に竜の血を浴びて成長が鈍化してるんだとよ。俺があった時からほとんど変わってねえし」

「失礼だねリンロー。変わっちゃいるさ。背も伸びてるし、若干は膨らんできたんだよ。未だにミルアの門が赤に染まらないのは困ったもんなんだけどねえ」

「総団長、デキちまったら戦場に立てませんぜ?」

「そんなヘマァするつもりはないさ。早くしないとボルドのガーメが萎びたヘチマみたいになっちまうんだよ。生もんだから水をかけたからって戻るわけじゃあないんだしね」


 そう言ってベラがヒャッヒャッと笑い、リンローが頭を抱え、ゼックは意味が理解できず首を傾げた。なお、魔導輸送車マナキャリアの中では整備の準備をしていたボルドが悪寒に体を震わせていたが、それに気付いた者は当然いなかった。

 それから気を取り直したゼックがヘイロー軍を見渡しながら口を開く。


「それにしてもヘイロー軍はバラエティ豊かだな。獣機兵ビーストを軍に組み込むのはこっちでもやってるが、ドラゴン二頭に、機械竜に竜機兵ドラグーン? ……も二機。魔獣もいるな。正規の軍とは思えねぇ」

「強そうだろう? ウチは騎士様方みたいに行儀よろしくするつもりもないから強いのだけで編成してるのさ。それにとっておきのドラゴンも場合によっては呼ぶつもりだしね」


 その言葉にゼックが訝しげな視線を向けたが、ベラ曰くとっておきである槍鱗竜ロックギーガは今もヘイローに残っている。実のところヘイロー軍が国外に出ても問題がないのは、ロックギーガ率いるドラゴンの群れが国内の非常時にはすぐさま飛んで鎮圧に向かえるためであった。

 相手が正規軍ならばともかく、内乱程度ならばドラゴンは十分な戦力となる。とはいえ、ヘイロー国内もすでに安定し、ロックギーガ以外のドラゴンたちも十分に戦力となっている。そのためロックギーガをヘイローの外へと出すことが難しくはない状況になりつつあった。


「それに後ろのふたりも同類さ」


 その言葉にベラの背後に控えている竜と獅子の特徴を持つ半獣人リンローが苦い顔をして、マリアが三日月のような笑みを浮かべる。


「俺をこいつと一緒にしないでもらえますかい? こっちゃあまだ人間の範疇のつもりなんですがねえ」


 リンローが嫌そうにそう返した。

 そのリンローの横にいるマリアはベラと同じく黄金の瞳をして、まるで肉食獣の如き狂相を浮かべて笑っている。もはやエルシャが誇る四王剣のひと振りであった女はそこにはいなかった。


「マリア・カロンド。お父上とは何度か顔を合わせたことはあっただが」

「それはそれは。こうして巡り合ったのも何かの縁でしょう。今後ともよろしくお願いいたしますね」


 以前と変わらぬ口調であるのだが、その表情にはかつてのような自虐の色はなく己に自信のある者の気配を滲ませている。その様子にゼックが苦笑しつつも頷き、それから『それでは改めて』と口にした。


「ようこそモーリアンへ。出会い頭としてはあまり印象の良くない形ではあったかもしれないが、我々はヘイロー軍を歓迎する」

「ああ、歓迎されるよゼック将軍。さっきのも余興としてはまずまずであったし、うちの連中もあの程度なら楽しめる度量はあるつもりさ。ま、二度三度と繰り返すほど芸がないなら考えるがね」


ベラが目を細めて笑う。他でも繰り返させるなよ……という警告にゼックが少しばかりヒヤリとした顔で頷いた。頭よりも身体がかつての頃の教訓を思い出していたのだ。その反応にベラも満足したのか薄く笑い、それから口を開いてゼックに尋ねた。


「それで、精強で知られる銀光戦士団がツラを揃えて前線から遠いこの街にいるってのはどういうことだい? まさか、わざわざあたしらに会いに来たってわけでもあるまいね」

「いや、それもあるん……だけどなぁ」


 そこまで言ってからゼックは自軍とヘイロー軍の双方を見てから首を横に振った。


「その話はあとでしますよベラ総団長。それよりも、ここまでの遠征で疲れもあるだろう。まずはこのゼクパルに入ろう。メシも酒も用意してある。今日は英気を養ってくれ」


 ゼックがそう言って兵をまとめ始めると、ベラも後ろで護衛を務めていたガイガンに指示をして都市に入るための準備を始めさせた。それからその日の夜は街の中と、また陣を構えた街の外で歓迎の宴が開かれ、それは翌朝まで続いたのである。

次回予告:『第312話 少女、話を聞く』


 みんなご飯を囲んで楽しくお食事。よかったねベラちゃん、お友達が増えましたよ。

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