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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第309話 少女、老婆の知己に出会う

 交易都市ゼクパル。

 それはモーリアン王国南方に位置し、南の玄関とも呼ばれるモーリアンでも四番目に大きな都市であった。

 内乱の主戦場である北西部から距離があるために直接的な戦争の被害もないこの都市内は現在でも活気に溢れ、そこには雇いの傭兵たちも多く駐留している。

 そんな大都市の南門前では今ふたつの軍隊が正面から睨み合っていた。

 片方は赤き魔女の異名を持つベラ・ヘイローが指揮するヘイロー軍。

 もう片方は大戦帰りにして銀光の名を冠する将軍ゼック・ヴァモロと彼が指揮するモーリアン王国軍銀光戦士団。

 彼らは共に反ローウェン帝国を掲げ合う者たちであり、またヘイロー軍はモーリアン王国に雇われた身であり、当然互いに味方であるはずだった。

 けれども、この場の彼らの間にあるのは静かな殺気だ。どちらかが何かしらの動きを見せれば即座に剣を抜こうという空気がそこにある。

 何故こうなったのか……ということに関してはそもそもヘイロー軍が交易都市ゼクパルに到着する以前より起きていた。本来歓迎されてしかるべきヘイロー軍に対して、モーリアンは怒気とも殺気ともつかぬ気配を纏う軍勢で出迎えたのだ。

 故にどちらに非があるのかと言えば、モーリアンの側にあるのは明白だ。或いはヘイローの側が血気盛んであれば即座に殺し合いになっただろうが、ベラはひと笑いするだけで特に何も指示は出さなかった。

 己の言葉を無視して戦端を開こうという間抜けが自分の側にいるとは思っていなかったし、逆に仕掛けられたのであれば迎え撃てば良いとも考えていた。刃を向けられたのであれば、向け返すのが戦場での礼儀だと子供でも知っていること。とはいえベラもモーリアンに敵対する意思はないが、相手がそうした態度に出る理由も見当は付いている。


(いやはや、もうちょっと隠そうとするもんだと思ってたんだけどねえ。抑えが利かないから最初っからガス抜きに来たってわけかい)


 ただ、あまりにもあからさまな態度にはさすがのベラも呆れてはいた。

 このモーリアン王国でもかつての鷲獅子大戦の際には多くの兵たちが死に、現在のモーリアン王国軍の世代はごっそりと入れ替わっている。そして戦後教育を受けた彼らは例外なくクィーン・ベラドンナの信奉者であった。

 それを理解していれば、彼らが何に憤っているのかは想像するに難くない。つまりベラ・ヘイローがクィーン・ベラドンナの生まれ変わりという主張が容認されている現状が彼らにとっては許せないのだ。

 ジェネラル・ベラドンナという偽りの英雄が台頭したことへのカウンターとしてモーリアン王国内でもそれは容認されつつはあるが、あくまで国の上層部だけの認識だ。下の兵たちがそのことに対して納得がいっているかといえば全く別であり、特に銀光戦士団の面々の中には反発する者も多かったためにこのような状況が生まれたのである。


『銀光戦士団を率いているゼック・ヴァモロだ。そちらはベラ・ヘイロー総団長殿でよろしいのかね?』

『ああ、そうさ。あたしがヘイロー軍の総団長ベラ・ヘイローだ。しかし、たいそうな歓迎じゃあないか。あたしらに対する期待の表れと考えていいのかねえ』


 続けての『ヒャッヒャ』という笑いに、銀色の鉄機兵マキーニ『ミステリア』の操者の座コクピット内にいるゼックの肩がわずかに震えた。そのからかうような声に銀光戦士団から発せられている怒りの気配がさらに湧き上がったが、ゼックに関してはそうではなかった。

 発せられたのは未だ少女とも少年ともつかぬ子供の声。その声にゼックは覚えがない。けれども既視感は感じた。その笑い声に魂が震えた。一瞬でも己を見失ってしまうほどに。


『あ、ああ……』

『うん、なんだい? あんた、足が震えてるよ?』


 ベラの指摘にゼックが我に返る。それから頬を伝う涙にも絶句した。


『ゼック将軍はかつてのクィーン・ベラドンナの戦列にいたお方。生まれ変わりと言われたあなたに再会できたのであれば、感涙し言葉も出ぬのは当然のことでは?』


 ゼックに変わって、配下のひとりがそう声をあげる。もっとも彼らにしてみればゼックの反応は怒りを通り越した呆れであろうと考えていたし、だから出て来た言葉は皮肉の類だ。実のところ、それこそがゼック本人の心情をおおよそ的確に表現していたとは本人以外、誰ひとりとして気付けてはいない。もちろん、それはヘイロー軍にしてもベラにしても同じことだ。


『ああ、そうかいそうかい。つまりそいつはあたしとの再会に感動して足が震えちまったのかい。ヒャッヒャ、可愛いじゃあないか』


 ベラがそう言葉を返すと『アイアンディーナ』が肩をすくめるような動作を行う。鉄機兵マキーニ操者の座コクピットにはアームグリップとフットペダルという補助器はあるが、基本は乗り手の意思こそが機体を操作する手段だ。であれば、ベラの心情がどうしたものであるかは一目瞭然。無論ベラほどの乗り手が無意識に行うわけもなく、それは意趣返しとしての挑発だろう。


『けど、悪いね。生まれ変わりって言っても全部を覚えているわけじゃあないのさ』

『ならば……』


 ああ、ならば……とゼックは思う。自然と彼の鉄機兵マキーニが一歩前に出た。挑発に乗ったわけではない。ただゼックの涙は止めどなく溢れ、失ったはずのものを、止まってしまったはずの時間を取り戻したような感覚があって、だからこそその心はかつての頃に戻ったかのようであり、自然と口が開いただけだった。


『ならば、久方ぶりに……手合わせを……手合わせを願いたい』


 その言葉はゼックにしてみれば懇願に近かった。

 けれども銀光戦士団は思っただろう。ゼックは実力を相手に知らしめるつもりなのだろうと。

 実際のところベラ・ヘイローという御輿をジェネラルというニセモノに対する手段として使うこと自体は必要だと彼らも理解はしていた。けれども他国の人間にこの地を好き勝手させるための口実に使わせるつもりはなかった。すべてはモーリアンのため、クィーンの栄誉を護るための止む無き手段なのだと。

 だからこそ彼らはベラに己の立場を教えるためにここに来た。

 故にゼックの言葉は銀光戦士団にとっておかしいものではない。どちらが上でどちらが下なのかを躾けるための行動だと考えていた。

 もっともそんな配下の心中とは相反し、今のゼックに彼らのことを考えているだけの余裕など存在してはいなかった。彼の瞳に映っているのは赤い機体、その中にいるであろう存在だけ。

 対してベラの答えはシンプルなものだった。


『いいねえ。話が早い相手は好きだよ』


 その言葉にゼックは笑みを浮かべる。少女の声に重なるように、かつて失われたはずの老婆の声が彼の耳には届いていたのだ。不敵に笑う老婆の姿がその目には見えていたのだ。そして、それはまごうこと無くゼックが真に忠誠を誓ったただひとりの……

次回予告:『第310話 少女、老婆の知己を下す』


 誰も気付いていませんが、ゼックおじさんはすでにご褒美タイムに入っています。みんなに幸せに与えられるベラちゃんって本当に天使のような女の子ですね。

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