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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第29話 幼女、切り刻む

 オルドソード傭兵団団長デュナン・オルドソードはかつては騎士の身でありながら政敵によって貶められ、騎士を剥奪された男であった。

 それから戦地で知り合った者たちとの伝手で傭兵となったデュナンは鉄機兵マキーニ『ザッハナイン』と共に戦場を渡り歩き、傭兵団を作りあげた。


 そして、ちょうど先月のことだ。コージン将軍からこのジリアード山脈の領土戦への参加を要請されたのだ。デュナンにはコージン将軍に大恩があったし、将軍がいるのであれば負けはないと考え、それには快く応じた。


 どうやら、現在パロマの中枢では様々な問題が発生しているようだった。コージン将軍は王都を追われてこの地に飛ばされたようだが、その実力はデュナンも良く知っている。そして、再びコージン将軍と己が返り咲くためにもこの戦は勝たねばならないとデュナンは決意していた。


 そしてデュナンはこの戦場を戦い続けた。山脈のルーイン側の麓の砦も奪還し、鉱山街をも奪い返した。さらには間諜より届いた報告により、敵がどうやら増援を募ってこちらに打って出ることになるという情報を掴んだのだ。

 それを聞いたコージン将軍は増援に成りすまして襲撃を行う計画を練り、その役割をデュナンたちに与えた。危険な任務ではあるが、デュナンの実力はコージン将軍も知っていた。故に十分に勝算ありと考えて送り出し、実際にデュナン達も驚くほどに見事に奇襲に成功していたのである。


 デュナンが狙ったのは主に貴族連中の陣地であった。


 大層な騎士型鉄機兵マキーニが立ち並んでいたが、乗り手が弱々しい者が多い点はパロマと同様だった。所詮は飾りなのだ。デュナンたちは鉄機兵マキーニに乗り込まれる前に乗り手を優先的に叩き、また動き出しても彼らの主への攻撃を優先し、その行動を制限した。


 それはもはや戦いではなく、ただの狩りと言っても間違いではなかった。


 大いに暴れ、大いに殺し、そして今まさにパロマの砦からも兵たちは向かっている。それらが合流すればこの前線基地の全滅は免れまい。同時にルーインは鉱山の奪還をする体力もなくなるはずだった。


 もっとも、その計画が正しく動いていたのは、その存在がこの戦場に来るまでのことだった。


『ヒャッヒャ』


 今、デュナンの鉄機兵マキーニ『ザッハナイン』の目の前には赤い鉄機兵マキーニが立っていた。


『こりゃいいねえ』


 ウォーハンマーを握り、異形の剣を拾い上げた若い鉄機兵マキーニがゆっくりとデュナンを見た。そしてデュナンの背筋を冷たいものが走ったのだ。


(なんだ、あれは?)


 その鉄機兵マキーニの中からの視線をデュナンは感じとった。

 目の前から発せられる視線は、自分を敵と認識していなかった。では、相手がいったい自分をどう見ているのかと考えたときにデュナンが真っ先に思い浮かんだのは、かつて己が練習台に使っていた甲冑人形だったのだ。

 すでに修復不可能な甲冑を着せた木人形を、まだ貴族の一員であった頃の幼いデュナンは練習台として使用していた。現役であった父親の指導の元、斬り、突き続けていたあの人形が、ボロボロの甲冑人形がなぜだか自分と被った。


 それの意味するところはひとつだけだろう。


『俺で遊ぶつもりかッ、キサマァ!』


 デュナンはその認識を全身で否定しようと駆け出した。

 認めるわけにはいかない。目の前の相手が自分を敵どころか、体の良い練習台としか思っていないということなど。戦士としての矜持が、鉄機兵マキーニ乗りとしての誇りが汚された。そう感じたのだ。


 故にその思い上がりをデュナンは己が剣で否定しなければならなかった。


『ヒャヒャヒャッ』


 猛るデュナンに対し、赤い鉄機兵マキーニからは奇妙な笑い声が漏れた。まるで子供の声のようだとデュナンは考えた。そして、デュナンの中で男だか女だかも分からない甲高い声を発する道化師のような人物が夢想された。


『道化が。一撃で仕留めてやろう』


 デュナンはその幻影を切り裂こうと己の武器であるクレイモアを一気に突きつける。


『チェストォォオッ!』

『ヒャアッ!』


 火花が散った。


(馬鹿なっ!?)


 正面からの『ザッハナイン』のクレイモアの突きを赤い鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』のウォーハンマーが叩き上げたのだ。


『クッ』


 その衝撃にデュナンが歯を食いしばる。そして今の状況を考える。

 受け止めるでもなく、飛んできた刃にぶつけてきた。それはその戦いを目撃していたバルが目を見張るほどの恐るべき精密さだった。


(技量は高い。だが、その鉄機兵マキーニではなッ!)


『クォォオオオオッ』


 デュナンはグリップを握り、歯を食いしばりながら、上に振り上げられた剣を握る手を抑え込み、フットペダルを踏み込んで鉄機兵マキーニの姿勢を制御して耐える。


『くたばれぇえっ!!』


 そして前へと踏み出して、そのままクレイモアを振り下ろした。


『そうこなくっちゃねえ』


 それを赤い鉄機兵マキーニの乗り手であるベラは笑いながら、今度は回転歯剣チェーンソーで受け止める。自分から踏み込んで、クレイモアを降ろしきる前に回転歯剣チェーンソーをぶつけたのだ。


(踏み込みが足りない……か)


 無理な態勢からの攻撃だ。威力が足りず、小型の鉄機兵マキーニ相手だというのに完全に受け止めきられてしまった。しかし、未だに体勢はデュナンの『ザッハナイン』がベラの『アイアンディーナ』を押している形ではある。


『だが、パワーはこちらの方が上だッ!』


 デュナンはそう断言する。どれだけ技量があろうと力勝負に入ったならば、そこにあるのは鉄機兵マキーニの出力差だ。『ザッハナイン』が『アイアンディーナ』に負ける要素はない筈だった。しかし、相手からは笑いが漏れてきたのだ。


『ヒャッヒャ、ここで使うかねえ』


 ベラがウォーハンマーを右手から離すと、左手側からギャリッと音がした。さらにドルドルドルと音がしたかと思えば、唐突にクレイモアが折られたのだ。そして奇怪な音が響き渡る。


『なんだとッ!?』


 デュナンが叫ぶのも無理はない。『アイアンディーナ』の持つ回転歯剣チェーンソーの並んでいた小さな刃が灼熱に染まって高速で回転していたのだ。それがクレイモアの刀身を完全に砕いていた。


『馬鹿だねえ。ギミックウェポンとまともに斬り合おうなんて間抜けもッ』


 そして巨獣のように雄叫びをあげるその剣が、デュナンの『ザッハナイン』の左肩に突き刺さる。凄まじい火花が散り、その切り口を広げて、そのまま左腕が切り裂かれた。


『いいところだよッ!』

『ぐぁあっ!?』


 肩部が切り裂かれて、操者の座コクピット内部にも火花が散った。それを浴びてその熱さにデュナンが叫ぶ。


(チィッ、不味いな)


 形勢の不利を悟ったデュナンは、フットペダルを踏んで、そのまま後方へと下がろうとするが、対してベラは笑って突進する。


『ああ、良いね。これ。凄く良い』


 ひどく満足そうな声が赤い鉄機兵マキーニから漏れた。そして、回転歯剣チェーンソーの柄を両手で握り、ベラの『アイアンディーナ』が『ザッハナイン』に対して突き進む。


『クソがッ』


 それを折れたクレイモアで応戦するデュナンだが、ベラは回転歯剣チェーンソーを当ててさらに刀身を砕いた。そのまま胸部をも薄く切り裂き、そのハッチを破壊する。デュナンの目の前から急激に光が射した。


(クッ、前が開いたか。まあ良い。見やすくなっただけだ)


 焦りながらもデュナンはまだ考える頭があった。そのまま柄だけとなったクレイモアを手放して、残された右手で腰のダガーを抜いた。そして後ろに向かって声をかける。


『撤退する。手を貸してくれ』

『ヒャッヒャッヒャ』


 その声を聞きながらベラが笑う。


『誰に貸せというのだ?』


 そして返ってきたのは、デュナンの知らない、いや先ほど聞いた声だった。そして背後を見れば、共にこの戦場に駆けつけてきていた仲間の鉄機兵マキーニ2機を切り捨てた黒い騎士型鉄機兵マキーニが立っていた。どうやら激しく斬りつけられたらしく、左肩が落ちかけているようだったが、デュナンの仲間はもう動いてはいなかった。


『なんだい。やられたのかい。だらしない』

『申し訳ない』


 ベラの声にバルの若干弱いトーンの声が響いた。実のところ、ベラの戦いに意識が集中してしまったが故の失態ではあったが、それを口にするのは恥の上塗りとバルも口をつぐんだ。そして、その会話を聞いてデュナンの顔が青ざめる。他の鉄機兵マキーニの隊は、離れた場所で、今も戦っている。つまりはデュナンを助けられる者はいないのだ。


『まあ、いい。じゃあ、再開しようじゃないか』


 完全に詰んだようだと、デュナンは気付いた。


『待て。降ふッ』


 ギャリッと音がしたと思えば、時間をおいて何かが落ちる音がした。デュナンの鉄機兵マキーニの頭部が回転歯剣チェーンソーに斬り飛ばされたのだ。


「降伏する……と」


 その声が、音声拡大器から出ない。響かない。操者の座コクピットの中でむなしく響く声は自分の耳にしか届かない。頭部がなければ通信も通じない。デュナンは降伏することすら出来ない。


『聞こえないよ。さあ、ろうか』


 ただ、相手の声だけが聞こえて、そして、デュナンは己の選択がひとつしか残されていないことを悟る。


 殺し合えと、その視線に言われるがままに、デュナンは走り出す。最初に望まれたままに、練習台を全う出来なければそこで殺されるとデュナンは理解できていた。だから、デュナンは戦うしかなかった。


 それをベラは笑顔で出迎える。回転歯剣チェーンソーの切れ味をまだ試し切れていない。

 どの程度で斬り裂けるのか? どの程度で切断できるのか? 角度はどのくらいが良いのか? 継続時間は? それらすべてのチェックを行うために哀れな男を使ってベラは遊び始めた。


 止まれば追い立て、動かなければ殺すと、ベラは笑いながら切り裂き続けていた。悪魔に促されるままにデュナンは踊り続けるしかなかった。そして、デュナンの心が砕けるまで悪魔とのワルツは続けられたのだった。

次回更新は4月07日(月)0:00。


次回予告:『第30話 幼女、挨拶する』

人と人とのコミュニケーションは第一印象が大事です。

ベラちゃんは大きなお友達の前で、失敗せずに挨拶が出来るのでしょうか。

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