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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第三部 十歳児の気ままな国造り

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第298話 少女、鎖で繋がれる

『いやぁ、やってるねえ。あたしも混ぜてくれないかい?』


 少女の言葉が戦場に木霊する。激しくぶつかり合う戦いの場で彼らは確かに感じていた。その声が耳に入った者は誰も彼もが思わずにはいられなかった。その声の主こそが戦いの中心なんだと。そう意識せざるを得ないような空気を空より飛来した赤い機体は纏っていて、周囲を圧倒していたのである。


『ベラだ。ベラ・ヘイローが来たぞ!』

『殺せ。ヤツを仕留めれば俺たちが八機将にだってなれる!』


 そして、その場で真っ先に己を取り戻し動き始めたのはすぐそばにいた獣機兵ビーストたちであった。ドルガの親衛隊である彼らとてベラ・ヘイローという大物を前にすれば動かざるを得ない。八機将を討ち取った者を殺せば或いは己が……という功名心を持つのは戦場に立っている者ならば当然のこと。戦士であればもはや伝説になりつつある存在に戦いを挑もうと思うのも当然のこと。ただ、その代価として支払うのが己の命であったことを知るのはいつだって彼らが終わった後のことであった。


『俺がベラ・ヘイローをっ……ぷぎゃ!?』

『オロン?』


 通信機からの奇怪な声に『アイアンディーナ』に向かった獣機兵ビーストに乗っている半獣人の表情が驚きで歪む。おそらくはたった今やられたのであろう。オロンと呼ばれた男の機体の胸部に深く槍が突き刺さっていたのが見えた。


『よそ見すんじゃないよ』

『チッ……ァアあガァアア!?』


 さらには一瞬の隙を突いて踏み込んだベラのウォーハンマーが無傷だった獣機兵ビーストの頭部を潰し、そのまま中の人間を圧死させた。


『ヒャッヒャ、よくやったよデイドン』


 ベラのお褒めの言葉にデイドンがォォオオオオンという咆哮を返す。オロンを倒したのはデイドンが放った捻れ角の槍ドリルランスであったのだ。

 二本の捻れ角の槍ドリルランスは現在デイドンに装着され、魂力プラーナを用いて生み出された錨投擲機アンカーショットにも似た射出装置も装備している。

 鉄機兵マキーニ獣機兵ビーストは正面と左右、または下方の攻撃こそ注意を払うものだが、上空からの攻撃についてはこれまで想定した戦い方がなかった。オロンがベラを相手取ろうとして視野狭窄に陥ったということがあるにせよ、これまでにない上空からの攻撃はそれだけでも彼らには十分に脅威であったのだ。


『デイドンとかよ』『かつての八機将と同じ名を付けてんのかい』

『まあねぇ』


 ベラが八機将デイドンを討ち取ったことは、実のところほとんど広まっていない。それはデイドンが八機将だったのが短期間であったためにそもそもデイドンの名が知られていなかったことと、デイドンの八機将入りがルーイン王国への当て付けの意味もあったためだ。そのうえに亡骸も回収できなかったのだからベラが倒したのではなく逃亡扱いにもなっていて、現在では歴代の八機将の列から抹消されてもいた。

 そしてベラも長期に渡って姿を見せなかったためにデイドンが倒されていたことは近年になって確定しており、デイドンというネームヴァリューの無さとその後のベラ自身が挙げた功績の方が大きいことからベラとデイドンの戦いについてはほとんど知られていなかったというわけである。

 けれどもドルガはデイドンを知っている。どのような経緯があろうと八機将に選ばれるのは強き者であるはずなのだ。だからこそ己が八機将なのだという矜持をドルガは持っていた。


『それよりもだ。死んでいたはずじゃあ……とかそういう反応はないのかい?』


 ベラが少しだけ訝しげな表情でそう尋ねた。それは戦場で尋ねるには間の抜けた質問ではあったし、ドルガも『『ああん?』』と首を傾げた。


『そんな話も聞こえてきた気がするが』『真に受ける馬鹿がどこにいるってんだよぉ?』


 どうやら己の策は通じてはいなかったようだと理解し、ベラは渋い顔をする。


『ハァ。やっぱり頭使うのは苦手だね。ま、別にいいけどさ』

『知ったことか』『アルキスがしくじったってこったろう。ザマあねえや』


 ドルガの『サーヴェラス』が前傾姿勢になって唸り、ベラの『アイアンディーナ・フルフロンタル』がウォーハンマーを構えて一歩前に出る。


『総団長』

『交代だよリンロー。ここから先はあたしがやる。余計なモンを近付かせるんじゃあないよ』

『あ、ああ。すまねえ』


 リンローが力無い言葉でそう返す。ここぞというときに負け続けている状況にはリンローも忸怩たるものがあるようだった。そしてその様子にベラが『ハッ』と笑う。


『そう思うんなら強くなるんだね』


 ベラの言葉にリンローが返事もせずに踵を返し、周囲の獣機兵ビーストに向かっていく。返すのは言葉ではなく結果であることはリンローも分かっていた。

 またガイガンたちが戦っていたホワイトゴリディアタイプの巨獣機兵ビグスビーストには現在亜種竜機兵ドラグーン『ヘッズ』が攻撃を仕掛け、状況は優勢に傾きつつあった。

 そして、戦場の中心で互いの大将同士が向かい合う。


『話には聞いてるよ。あんた、魔力を喰ってこっちの動きを遅くするんだってぇ?』


 魔力喰い。その能力については、戦う前の報告とリンローの戦闘情報からベラはすでに把握していた。


『本来は僕ちゃんの力を引き上げるためだけの能力のはずだったんだけどねえ』『ま、結果的に他人が動けなくなっちまうけど卑怯とは言うんじゃねえよ』

『別に言いやしないさ。戦いに策を弄するのは真っ当な戦争なら当然のことさね』

『さすが話が分かる』『だったら味わいなよ』


 そして最初に動き出したのは『サーヴェラス』だった。

 それを見てベラはフットペダルを小刻みに踏みながら右へとわずかに動き、その突撃をスルリと避けた。とはいえ、ベラも余裕というわけではない。それは魔力メーターの針が徐々に左側に寄りつつあることからも明らかだった。


(へぇ。確かにこりゃあ大食いだね)


 ベラが眉をひそめる。すでに周囲に漂う魔力は薄く、機体の動きも鈍くなりつつある。このまま内在魔力だけで戦い続ければ残り数十秒で『アイアンディーナ』は動かなくなってしまうだろうと。


『はっはっはっは、さすがに避けるか。けどなぁ。段々と動きが止まっていくぜ』『 竜機兵ドラグーンモドキにならなくていいのかよ?』


 ドルガが笑いながら挑発する。

 ドルガの言う竜機兵ドラグーンモドキ、デイドンと合体した『アイアンディーナ・ドラグーンコート』は確かに竜の心臓デイドンハートの魔力自己生成により魔力喰いの影響下でも継続して機動することは可能となる。けれども機体を十全に動かすには足りない。さらに鈍重になった巨体でも自分ならば勝つことは不可能ではないという自負はベラにあるが、わざわざ面倒な方法で挑む意味もなかった。


『ま、デカいのでもそれなりにやり応えはあるんだけどね。今回は楽な方でいくさ』


 そう言ってベラが錨投擲機アンカーショットを上に向ける。


『『あん?』』


 その様子にドルガが警戒の表情を浮かべたが、それはドルガを狙ったものではない。そしてベラがアームグリップのトリガーを引いて錨投擲機アンカーショットを『上空に』撃つとそれをデイドンが尾で受け止めて絡みつけた。


『『は、なんだぁ?』』


 ドルガは眉をひそめたが、その間も『アイアンディーナ・フルフロンタル』の操者の座コクピット内の魔力メーターの針は右側に振れ始め、通常の戦闘機動が可能なまでの魔力供給が行われていることを指し示していた。


増槽タンクを持ってくるって手段もあったがあれはあれで重いからねえ』


 ベラがそう嘯く。竜の心臓による自己供給では量が足りず、魔力を詰めた増槽タンクもそれだけに頼って戦うとなると複数を積む必要があるが重量を増せば動きを阻害してしまう。

 けれどもドルガの魔力喰い対策をベラはもうひとつ持っていた。それが影響範囲外からの魔力供給である。すなわち魔力喰いの効果の及ばぬ上空から錨投擲機アンカーショットの鎖を通して魔力の川ナーガラインと竜の心臓からの魔力を有線供給するというものだった。


『鎖で繋げてどうなるってんだよぉ』『ペットの散歩かテメェ』


 もはや魔獣、いや巨獣に近い『サーヴェラス』がベラに再び飛びかかるが、それに合わせてベラもウォーハンマーを振るい、


『『ギャウンッ』』


 己の勢いをそのままカウンターに使われた『サーヴェラス』が呆気なく吹き飛んで転がっていく。

 もっともドルガもすぐさま体勢を立て直し『サーヴェラス』を立ち上がらせると、距離を取りながら『アイアンディーナ・フルフロンタル』を睨みつけた。


『速ぇぞ?』『なんだそりゃ?』


 ドルガがそう呟くのも無理からぬこと。体感的にではあったが『アイアンディーナ・フルフロンタル』の動きは遅くなったどころか、速度を増していた。


『なるほど。デイドンハートからの供給も合わせるから供給過多になってるんだねえ』


 魔力メーターは右に振り切り、『アイアンディーナ・フルフロンタル』からはわずかに魔力の光が漏れていた。それは魂力プラーナの過剰供給による発光現象に似ている。つまりは供給量が必要量を上回って漏れているのだ。かつての頃『アイアンディーナ』がデイドンハート起動時に得ていた高出力に近い状態となっていた。


『テンメェ』『そんな手段があったのかよ』

『いきり立つんじゃないよ野良犬。それでも魔力を吸収してあんたもパワーは上がってんだろ。有利なのはまだそっちじゃないのかい?』


 ベラの言葉にドルガが唸る。その言葉は事実ではあるが、自身のアドバンテージが損なわれたのも確かだ。そして睨みつける『サーヴェラス』を前に『アイアンディーナ・フルフロンタル』は再びウォーハンマーを構えて、前へと踏み出す。


『さあて、巨獣狩りは久方ぶりだが楽しませてもらおうかねぇ。楽しませてくれるほどの力があれば……の話だけどね』


次回予告:『第299話 少女、調教を開始する』


 ペットとお散歩なんて微笑ましいですね。

 ワンちゃんも羨ましそうに見ていますよ。

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