第296話 少女、そろそろ生き返ってほしい
『『『ウギャアァァアアア』』』
みっつの重なった咆哮が響き渡り、またそれよりも巨大な爆発もその場に轟く。槍尾竜ガラティエの凝縮したブレスの塊の直撃を『サーヴェラス』は避けることはできた。けれども一種の魔力のフィールドによって留められていたブレスは地面への着弾と同時に周囲へと拡散し、そばにいた『サーヴェラス』の機体を灼いていく。
『っしゃぁ。どうだ、犬ッコロ。いくらテメェでもこの炎を防ぐ手段はねえだろ』
同じく炎にまみれている『レオルフ』の中でリンローが笑う。
リンローとてまったく熱くないではないが『レオルフ』は己が発生させたブレスを纏って攻撃を仕掛けるためにベラの『アイアンディーナ』よりも耐火性能は高くなっている。もっともそれも『レオルフ』が『サーヴェラス』より爆心地から離れているために見せられる余裕ではあったが。
『ギィゥエエエエ』『僕ちゃんガァ』『消えていくゥゥウ!?』
そして『サーヴェラス』の変化は歴然であった。半身が焼かれたために右側の頭部が爆散して地面に落ち、また他の部分にも炎が残っていた。
『ギ、ギギィ』『きしゃマァ』
『んだぁ? 急に馬鹿っぽくなって……いや、元々か?』
リンローが訝しげな顔をして『サーヴェラス』を観察する。
炎にまみれて悶えながらもソレはなぜか先ほどよりも危険な気配を発しているようにリンローには感じられた。またそれは目に見える形で視界にも入ってきていた。
(なんだ、ありゃ? 周囲の炎がサーヴェラスを中心に竜巻のように回転してやがる。なんか不味いぞアレは)
リンローの顔が険しくなる。追い詰めたはずなのに追い詰められたような感覚。戦士としての本能が警鐘を鳴らしていた。『サーヴェラス』の中の何かが変質していっているという確信がリンローにはあった。
『炎の形をしていようがよぉ』『所詮は魔力の塊だろぉ』
そしてドルガが吠えると同時に『サーヴェラス』の機体が周囲に集まった炎を吸収しながら膨張していく。リンローは直接は見ていなかったが、それはさきほど要塞アルガンナ内でベラが相対した『ザッハナイン』の変異に酷似していた。
『『だったら僕ちゃんに喰えねえわけがねえだろぉぉおおおおお!』』
『こいつ、暴走してんのか?』
『暴走だぁ』『違うね。僕ちゃんは制御できる!』
破損した頭部のひとつが外れて落ち、二首となった『サーヴェラス』が四つん這いになった。それはもはや魔獣そのもののようでもあり、その形状をさらに人型から獣のものへと変えていく。
『どこが制御できてるだ。もうテメェは魔獣じゃねえか』
『うっせぇ!』『サーヴェラスは元より機獣形態があったんだよ』
その言葉にリンローが眉をひそめる。リンローの『レオルフ』が機竜形態と機人形態に変じられるように、獣機兵の中にも可変形態を取れる機体は存在している。だから『サーヴェラス』が機獣形態になれるのは嘘ではないのだろうが、今の『サーヴェラス』の姿はもはやそうした域を越えていた。装甲内部が血管のようなものが脈打つ有機的なものに変わりつつあったのだ。
『だとしても今のテメェはバケモンだよ。ケフィン、ガラティエ行くぞ』
「グガァアアア!」
リンローの『レオルフ』が動き出し、ケフィンが憑依しているガラティエも同時に『サーヴェラス』へと突撃していく。けれども巨体の二体に挟撃の形で攻撃を仕掛けているにもかかわらずドルガに焦りはなかった。脅威ではないものに対して恐れる必要などなかったのだ。
『『おっせぇえんだよ!』』
どちらもが一瞬で『サーヴェラス』に弾き飛ばされた。
『パワーがダンチか』
『はっは、所詮は半端者』『完成体たる僕ちゃんが負けるわけねえだろ』
『完成体だぁ?』
その意味を測りかねてリンローが顔をしかめる。
『獣機兵乗りは半獣人。でも僕ちゃんは三人分』『まあ今はふたりでも半と半、合わせりゃ100パーセントってことだろうが』
『つまりそれって獣人ってことだよな?』
『『ざっけんな。あんな獣風情と一緒にすんじゃねえ!』』
『どう言えってんだよテメェは!?』
まるでふざけているような言い合いを続けながらも三体の獣の戦いは続いていく。けれども双方の激突はリンローたちが明らかに劣勢であった。
(動きが魔獣に近いのに、フェイントにも引っかからねえ。さっきと段違いじゃねえか)
リンローが冷たい汗を頰に伝わせながら苦い顔をする。
人の思考を持った獣がこれほどに厄介だとはリンローも思わなかったし、強化されたドルガの性能にも驚愕していた。
(総団長とは違うタイプの厄介さだ。あの人のは歴戦の戦士のソレだからな)
ベラ・ヘイローという人間の力は天才肌とは違う『経験に裏打ちされた、鍛え上げられた実力』だとリンローは考えている。年齢や外見の齟齬についてはもはや考える気もないが、己の戦士としての感覚がそれこそが真実だと訴えていた。
けれどもリンローが今戦っているドルガは違う。おそらく半獣人になる前のドルガは大した戦士ではなかっただろう。先ほどまでも、そして今もドルガという人間には脅威を感じない。けれども、魔獣の力で己の能力を増幅して底上げしている。リンローにはソレが獣機兵という存在の象徴のように感じられていた。
『クソッ、気に入らねえなぁ。テメェは』
『うっせえぇ。テメェの方こそ気に入らねえ』『死んじまえよ』
次の瞬間に火花が散り、ガラティエが弾き飛ばされる。
「グガァアアアッ」
転げたガラティエに追い打ちをかけようと獣機兵軍団が動き、対して竜撃隊がガラティエを保護する形で防戦に入っていく。またホワイトゴリディアタイプの巨獣機兵と戦っているガイガンたちも動けない状況だ。
(また機体が鈍くなってやがる。クソッ)
さらにはガラティエが離れたことでドルガの『サーヴェラス』と再び一騎打ちになった。それは即ち『サーヴェラス』を留めるものがいないということであり、離れることができないということは魔力喰いの影響範囲から逃れられずに戦い続けなければならないということでもあった。
『助けてくれる仲間もいねえぞ!』『終わりだ獅子モドキ!』
『仲間ねえ。ま、いなくはないけどな』
リンローが苦く笑ってそう言うと、直後にォォオオオオオオオンという咆哮のような機械音がその場に響き渡った。
『『なんだぁ!?』』
ドルガが音の方に視線を向けるとそれはホワイトゴリディアタイプから発せられたものであり、その原因はホワイトゴリディアの上に落下して攻撃を加えているドラゴンの頭部のような機体のようであった。そして……
『いやぁ、やってるねえ。あたしも混ぜてくれないかい?』
上空から機械竜『デイドン』に掴まれてベラ・ヘイローの『アイアンディーナ・フルフロンタル』が降下してきたのである。
次回予告:『第297話 少女、復活する』
実は私知ってたんです。ベラちゃんが生きてるって。ごめんなさい。ここまで私はずっと黙っていたんです。でも死んだはずのベラちゃんが実は生きていた!? ってみんながびっくりすると思ったらいてもたってもいられなかったんです。ふふ、本当にベラちゃんは罪づくりな女の子ですね。




