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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第28話 幼女、ヒャッハーする

『ヒャッヒャッヒャ、おお、いいねえ。たぎるねえ』


 赤い鉄機兵マキーニが戦場に立っていた。


 他の戦場とは違い、敵の主力が集中していたのだろう。周囲にはルーインの騎士型鉄機兵マキーニの残骸が転がり、味方の兵も潰され、斬られ、無惨な死骸がそこらじゅうで転がっていた。それはもはや戦場とは呼べない。屠殺場とでも呼ぶべき場所だった。

 そして、その場にいるのはパロマの傭兵型鉄機兵マキーニのみで、殺気立った視線がたった今仲間を倒した、赤い鉄機兵マキーニに集中していた。


 対して赤い鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』の側にいるのは後方に控えている騎士型鉄機兵マキーニ『ムサシ』のみ。傭兵型鉄機兵マキーニ『ローゼン』と救出された騎士型鉄機兵マキーニは既に後ろへと下がりつつある。故にこの場にいるのは『アイアンディーナ』と『ムサシ』だけだった。


 多勢に無勢。


 少なくともパロマ側の傭兵型鉄機兵マキーニはその場に8機存在していた。もっともそのうち一機は今はベラの足元で転がっている。そして、さらに近づいてくる鉄機兵マキーニが一機。


『テメエ、よくもザギルを殺ってくれたなあ』

『ああ、礼には及ばないよ』


 迫り来る傭兵型鉄機兵マキーニが斧を振るい、『アイアンディーナ』へとその刃を振り下ろす。その攻撃をベラはフットペダルを一気に踏んで突き進み、まるで糸を縫うようにその攻撃を最小の動きで避ける。


『俺の懐にッ!?』

『ほうら、お食べ』


 そのままベラは腰に差した小剣を抜いて、その胸部に突き刺した。

 それはまるで流れるような一瞬の早業。そして、胸部の隙間から血が流れてくる。ダクダクと操者の座コクピットの中にあった肉袋からは赤い血液が流れてくる。命宿らぬ身にその生命の液体はふさわしくないと、大地へと帰っていくように胸部から血がこぼれ落ちる。


 その事態を理解するのに、パロマの鉄機兵マキーニたちは僅かばかりの時間を必要とした。あまりにも自然に、静かに味方が殺されて、彼らは目の前の状況を察するのが遅れたのだ。


『こ、殺せ。ルーインの傭兵だ!』


 そして一機の鉄機兵マキーニから発せられた怒号に、パロマの鉄機兵マキーニたちが一斉に赤い鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』へ向かって走り出した。


『ヒャッヒャッヒャ、バル。どうだい、楽しい光景じゃないか。ああ?』

『ああ、そうだな主様よ。これは喰いきれん』


 ベラの言葉にバルが頷く。


『まあ、あんたは今回は慣らしだ。あんまハシャぐんじゃないよ。今日はッ』


 そして『アイアンディーナ』も背中のパイプから銀霧蒸気を噴き上がらせて走り出した。


『あたしのショーだよ』


 そう言って群がる鉄機兵マキーニたちへと特攻する。普通に見れば、無謀としか思えない。だが、ベラにとってはそれは無謀とはほど遠い。


『ヒャッハァアアアア!!』


 初手は、急激に腰を下げ、低い位置から放たれたベラのウォーハンマーであった。柄をギリギリの先で握りながら遠心力でもって力任せに目の前の鉄機兵マキーニの腰へとブチ当てた。


『グアッ』

『こいつがぁっ』


 そして迫る槍使いの鉄機兵マキーニの攻撃を、ベラはライトシールドで受け流すと、そのまま腰のフレームが粉砕された鉄機兵マキーニを蹴り倒して、後方へと飛び下がる。


『なんだ?』

『足を止めろ。ダニロの機体が下に』

『うわぁああああ』


 叫び声とともに、ガシャガシャと鉄機兵マキーニの倒れる音がした。

 鉄機兵マキーニの視界は悪い。至近距離で急激な動きがあると対処できなくなるほどに良くないのだ。例えば相当な技量がなければ突然地面に転がった障害物に対応できないほどにである。

 そして迫ってきた鉄機兵マキーニの内、二機が転がった鉄機兵マキーニに引っかかって転び、ベラに攻撃してきた槍使いはその場で避けて下がり、転げなかった方から迫る斧使いと剣使いの鉄機兵マキーニ二機に対してベラは焦点を定めた。


『そんじゃこっちから喰うかね』


 ベラはそう言いながら、ウォーハンマーを斧使いの鉄機兵マキーニに投げつける。


『舐めるなよっ』


 しかしだ。さすがにそれで倒せるほど相手も甘くはない。騎士型鉄機兵マキーニのいる陣地に襲撃するほどの連中なのだから、その技量が低いはずもない。激突する前にその手に持つ斧を構えて、斧使いは飛んできたウォーハンマーを弾き返した。しかし、その動作に足は止まる。対して、もう片方の剣使いの鉄機兵マキーニは止まらず、一歩先へと進んだ。


 その場の状況が一対一に固定される。

 しかし赤い鉄機兵マキーニは武器を手放した。小剣も味方の鉄機兵マキーニに突き刺さったまま回収されていない。そう鉄機兵マキーニ乗りは考え一気に仕留めようと考える。


 そして、迫る鉄機兵マキーニはその剣を振り上げた。


『死ねぇええ!』

『ヒャッヒャ』


 振り下ろされた剣をベラの『アイアンディーナ』はライトシールドで受け流しながら、フットペダルを踏んで鉄機兵マキーニの懐に入り込む。


『この間抜けがッ』


 剣使いが叫ぶ。敵に自分を殺せる得物はない。そうほくそ笑む。たとえ組みつかれても回りは味方だらけだ。であれば、


(死ぬのはお前だけだッ)


 男がそう考えた直後だった。目の前に赤い何かが現れて、そして自らの意識がその入れ物とともに物理的に蒸発したのは。


 ガコンッと音がした。


 ベラの左腕の仕込み杭打機スティンガーが相手の鉄機兵マキーニの胸部を貫き、操者の座コクピットまで突き刺さっていたのだ。そして仕込み杭打機スティンガーを胸部から抜いたベラは敵の剣を奪うと遅れて特攻してくる斧使いへと走り出した。


『うぉぉおっ』


 相手は斧を振り上げて『アイアンディーナ』に挑む。目の前で味方が、共に戦ってきた相棒が殺されたのだ。怒りが斧使いをたぎらせていた。しかし、ベラは怒れる斧使いに対してたった今奪った剣を投げつけた。


『なっにぃ!?』


 そして、斧使い鉄機兵マキーニの左腕の付け根へと剣は突き刺さり、


『チィッ、このままでは』

『ブッつぶれろォォオッ!!』


 地面に落ちていたウォーハンマーを蹴り上げた『アイアンディーナ』が、そのまま宙に浮かんだウォーハンマーの柄を握って、相手の頭部へと振り下ろした。


『プギャッフ』


 そして奇妙な叫び声とともに鉄機兵マキーニの頭部が胸部内へと陥没する。鉄機兵マキーニの胴体部は操者の座コクピットが大部分である。つまりは空洞部分が多く、上からの衝撃に弱い。そして中の乗り手は自分が何をされたかも分からぬままに全身を圧縮されて絶命したはずだった。


『ミゲルたちをよくもぉ』


 そのベラの背に、さきほどの転ばなかった傭兵型鉄機兵マキーニの槍が襲う。声がくぐもっていたのは泣いているのだろうか。


『仲間想いの男だねえ。ヒャッヒャ』


 しかしそれはベラには届かない。


 ガンッと音がしたかと思えば、『アイアンディーナ』はステップを踏んで、槍をすり抜けてライトシールドを槍使いの胸部に殴打させていた。

 鉄機兵マキーニはその首が動かせない関係上、背面部にも水晶眼が存在しているが前面に比べてその表示は見難い。とても背後の攻撃に合わせられるようなものではないのだが、それをベラは合わせてきていた。そして未だに突き出ていた仕込み杭打機スティンガー鉄機兵マキーニの胸部ハッチの開脚可動部の隙間に突き入れて、テコの要領で破壊する。


「うわぁっ」

『ヒャッヒャ、ご対面だよぉ』


 そのまま、おびえる相手に鉄機兵マキーニの人差し指を突き出して、押しつぶす。その人差し指が鮮血に染まった。


 そして、赤い鉄機兵マキーニは止まった。


 それらは一分にも満たない時間に起こった戦闘だ。僅かな間に、鉄機兵マキーニが合計5機大破。また腰を破壊された鉄機兵マキーニも戦闘は不可能だろうと思われた。


 そして転げていた2機の鉄機兵マキーニが悲鳴を上げながら退いていく。しかし、それはバルが横から襲って仕留めた。他にも2機いたのだが、それもバルが仕留めたようだった。


『余計だったかな主様』

『別に構いやしないさ』


 バルの声にベラが愉快そうに答える。腰の引けた相手を背中から斬っても面白くもないのだ。それを奪われたからといってどうということはなかった。


『クッソ、テメエ等、デュナン団長がいればお前等なんてッ』

『興が冷める。黙ってな』


 そう言って、ベラは腰が砕けた鉄機兵マキーニの胸部をウォーハンマーで叩きつける。そして声は消えた。


『まったく、ツマらん連中だねえ。他人に頼るなんざ、鉄機兵マキーニ乗りの風上にも置けない。デッケエの操ってるんだ。もう少し、骨のある相手とかさ』


 ベラはそう言いながら、殺気のする方を向いた。


『いないかねえ?』


 そこにいたのは、騎士型を改造した鉄機兵マキーニだった。白と黒のラインの混ざった重装の機体。明らかにそこらの鉄機兵マキーニとは違う気配が漂っている。

 それが、恐らくは先ほどの鉄機兵マキーニ乗りの言っていたデュナン団長という人物の乗る鉄機兵マキーニなのだろうと、ベラは考えた。


『主様……』

『あたしの獲物だよ』


 バルは少しうなるが、ベラの殺気を感じて一歩退いた。戦士の本能が逆らうのは危険だと告げていた。


『部下が苦戦していると聞いて来てみれば、こんな小さな鉄機兵マキーニとはな』


 そして相手の鉄機兵マキーニから響いてきたのは驚きの声だった。それは嘲りなどはない純粋な驚きだ。

 まだ3メートルを越えたばかりの鉄機兵マキーニで、その多くは素体のまま。それが自分の部下の鉄機兵マキーニを立て続けに仕留めたなどデュナンにとっては悪い夢にしか思えなかった。しかし、周囲の状況を見れば、それが事実であることは理解できる。


(おっ、面白いモンがあるねえ)


 対してベラは、そんな相手の視線など気にせずに、落ちている武器を拾って手に取った。それは目の前の敵よりも興味深いものであった。


 回転歯剣チェーンソー。その重厚な厚みのある剣の歯の部分に異様に小さな剣先が並んだ異形の武装。その凶悪なデザインにベラは思わず舌なめずりをした。


(こりゃあ、面白そうだね)


 そして、仕込み杭打機スティンガー持ちの左手からならば、魔力供給が可能なようだと鉄機兵マキーニからは反応があった。つまりは仕込み杭打機スティンガー用の魔力回路をギミックウェポン回転歯剣チェーンソーへと接続し、扱うことが出来るようである。


『ヒャッヒャ、こりゃいいねえ』


 それはとても素敵なことだろうとベラは思い、仕込み杭打機スティンガーを収納し、回転歯剣チェーンソーを左手で握りながらデュナンの鉄機兵マキーニを見た。


 ベラにとって、それはもうただの練習台にしか見えなかった。

次回更新は4月02日(水)0:00。


次回予告:『第29話 幼女、切り刻む』

デュナンさんがひどい目にあいます。


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[良い点] 幼女がヒャッハーする作品は初めて読みました!何か新たな扉が開きそうな予感
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