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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第三部 十歳児の気ままな国造り

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第288話 少女、自慢をする

「さあて、じゃあ行くかね。あんたらはうちのモンの安全を確保。こんなところで死なせんじゃないよ。いいね」

「はい。承知いたしました」


 炎に包まれた建造物よりわずかに離れた建物の屋上。そこではベラの指示を受けたケフィン配下の魔獣使いテイマーと魔獣ローアダンウルフがその場から去っていく姿があった。

 彼らはベラがあらかじめ暗殺者対策としてケフィンから護衛として選抜された者たちだ。魔獣使いテイマーの扱うローアダンウルフは気配察知に秀でており、ケフィン直下の彼らは特に優れた技量を持っていた。

 そしてベラは彼らと共に自分の部屋を監視できる建物の屋上で見張っていたのだ。もっとも夜も遅かったためにこの状況になるまでベラ本人はローアダンウルフを枕がわりにして眠っていたのだが。


(しかし要塞内部だからねえ。エルシャの中に裏切り者がいるのかとでも思ったが、混機兵キメラがこういう手段で侵入してくるとは今後の警備体制を考えると頭が痛い。ま、今はそれどころじゃあないけどさ)


 そう考えるベラの前で機械竜『デイドン』が下降しながら炎のブレスを吐いて混機兵キメラたちを牽制し、また『アイアンディーナ』もガレージの方から出てベラのもとへと駆けてきている。一方でそんな状況に直面しているアルキスとオーグは混乱の極みにあった。


『馬鹿な。ベラ・ヘイローはすでに鉄機兵マキーニに乗っていたのか?』


 混機兵キメラ『ザッハナイン』の中からアルキスが叫ぶ。もちろんそれは勘違いでベラは離れた場所でその様子を見ているのだが、鉄機兵マキーニは乗り手以外には操作できないという常識を持っている彼らは気付けない。


(残念。今のディーナは肉抜きだよ。ま、今から肉詰めになるんだけどね)


 そう心の中で呟きながらベラは迷いなく屋上から飛び降り、その小さな身体は迫り来る『アイアンディーナ』の鋼鉄の尾によって受け止められた。その一瞬をオーグは目撃して目を見開く。


『クソッ、なんだと。ベラだ。あのクソガキが屋上から飛び降りたのを見たぞ』

『は? それじゃあ、あの機体は今無人だとでも? 馬鹿な!?』


 アルキスとオーグが驚きの声をあげるが『アイアンディーナ』はベラの指示に従って自身の意思で動くことも今では可能となっていた。それは知性においてはドラゴンのソレに近いレベルにまで『アイアンディーナ』が覚醒しつつあることを示してもいたが、彼らがその事実に気付けるわけもない。

 そしてベラを巻きつけた『アイアンディーナ』の尾がシュルリと動いて前面へと動き、胸部ハッチが開いてその中へとベラが入っていく。


『総団長、聞こえますか。ガレージに突撃してきた敵は制圧。残りは総団長の方に向かった二機だけです。今からそちらにも応援を寄越しますので』


 ベラが操者の座コクピットに入ると通信機からガイガンの報告が響いてきた。だが、ベラは即座に『いらないねえ』と返す。


『ちょいと寝起きの運動がしたいのさ。こっちはあたしが自分で片付けるから邪魔すんじゃないよ。それよりここの近くの訓練場を使う。持ち主に許可を取っておいておくれ』

『分かりました。エルシャに連絡を通しておきます』

『任せた……よっと』


 すでに起動済みではあったが自らの意思で動いている『アイアンディーナ』に対してベラは胸に下げた竜心石に魔力を込めて機体に接続し、さらにアームグリップを握って機体の全制御を己のものとしていく。


『ベラ・ヘイロー。ようやく戦えるなぁ。貴様がデュナン団長を誑かしてさえいなければこんなことには!』

『ハッ、女々しいねえ。デイドン、来なぁ!』


 憤るオーグに対しベラは笑いながら『アイアンディーナ』に降下してきた機械竜『デイドン』を纏わせ『アイアンディーナ・ドラグーンコート』へと変わっていく。


『じゃあ、ちょっくら遊び場まで移動しようかねえ!』


 機械竜と合体し6メートルを超える巨体となった『アイアンディーナ・ドラグーンコート』が突撃し、武器を構えたオーグの『バス』とアルキスの『ザッハナイン』を力任せに押し込んで後方へと吹き飛ばした。


『なんというパワーだ、実際に喰らうとここまでのものか』

『チッ、鉄機兵マキーニの出力じゃあないぞ。だがッ』


 弾かれて訓練場にまで押し出されたアルキスとオーグは、驚愕に顔を歪ませながらも弾かれた機体の体勢を整え直す。そして、続いて訓練場へと足を踏み入れた『アイアンディーナ・ドラグーンコート』を睨みつけた。


『デュナン団長を奪った者が』

『我らはあの方の生きた証を貴様に刻むのだ』

『まったく、うっさいねえ。大の男がデュナン、デュナンと、衆道かい? いんや、まあ別にあたしゃそういうのは悪いとは言わないけどねえ。個人の問題だしさ』

『戯言を、ベラ・ヘイロー』


 オーグがフットペダルを踏み、己の機体を駆け出させる。

 オーグの混機兵キメラ『バス』が発現した能力はマッシブカメレオンだけではなく、バロウタイガーという魔獣の力をも得ていた。そして背部のパイプから大量の銀霧蒸気が噴き出し、両足の形状が可変しより獣に近い形へと変わる。


『死ぃぃねぇええ!』


 対して『アイアンディーナ・ドラグーンコート』は腰を落とし、強化ウォーハンマーを構える。


『けどねえ。言っちゃあなんだが、こいつは単純な話なんだ』

『おぉぉおおおおおおおおおっ、あっ、グァッ!?』


 次の瞬間、ベラが放った一振りが飛びかかった『バス』の腹部に直撃し、上半身と下半身が千切れ飛び、オーグの肉体は爆散して肉片が飛び散った。

 両者のパワーが違いすぎたうえに、スピードにおいても『アイアンディーナ・ドラグーンコート』は『バス』を上回っていたのだ。乗り手の技量も言わずもがな。であれば負ける道理はなく、それは不用意に飛び込んだオーグの失態であった。


『オーグ!?』

『デュナンはあたしを選んで、あんたらは選ばれなかった。それだけなんだよ』


 ベラがそう言い切って『ザッハナイン』の前に立つ。


『……ベラ・ヘイロー』

『ハッ、アルキスだったかい。どうだい、女冥利に尽きるってもんだろ。デュナンは命張るぐらいにあたしを愛していたってことさ。不思議だったんだがね。なんであんたらはそれを汲めなかったのかねえ』


 そう口にするベラの乗った『アイアンディーナ・ドラグーンコート』 に対して『ザッハナイン』は仁王立ちで構えた。言葉は不要といえば聞こえはいいが、アルキスは明確にベラの言葉から逃げていた。何が正しいかを理解しているが故に彼が取り得る手段はひとつだけだったのだ。


『ここで決着をつけてやる!』


 アルキスが叫び『ザッハナイン』の四肢が唸りをあげながら肥大化していく。


 力には力を。言葉には力を。


 負け犬であることは自覚していた。己が駄々っ子のようだというのも分かっていた。であるのに、何故こうなったのか。ピースが欠けているのが分かっているのに、欠けたものが何かが分からない。

 混機兵キメラとして力を得た『ザッハナイン』は変異したギミックウェポンの力を解放し、さらに変異していく。リミットはもういらない。ここで終わりにするのだと彼は最初からこうなることを選択していた。

 そして『アイアンディーナ・ドラグーンコート』の前に一体の異形が姿を現わす。そこにいるのはもはや混機兵キメラと呼べる存在ではなく、肉質を得て誕生した新たなる魔獣。それはキマイラと呼ばれる合成魔獣だった。

次回予告:『第289話 少女、腕を組む』


 誰よりも自分だけを見ていて欲しい。

 そんな少女の願いに準じたお兄さんが昔いました。

 だからそのお兄さんは今も少女にとって誇りのひとつなのです。

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