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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第三部 十歳児の気ままな国造り

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第279話 少女、助言を求める

「ハァ……なんであんたがここにいるんだい?」


 ベラが突然部屋に入ってきた闖入者に対してそう尋ねた。

 ガイガンを伴って部屋へと入ってきたマーマンという種族の男の名はマギノ。彼は鉄機兵マキーニ魔術式研究者を名乗る、傭兵国家ヘイローに雇われている研究者であった。獣機兵ビーストや半獣人の治療、機械竜に巨獣機兵ビグスビースト巨獣兵装ビグスウェポンの研究を手がける鉄機兵マキーニという存在に対するエキスパートではあるが、国や特定の人間に仕えることはなく、知識欲に忠実な探求者であった。マギノは自分の知的欲求のためならばどこへでもふらりと赴くことを公言しており、そして彼の興味の琴線に触れたものが今この要塞アルガンナにはあった。


「やだなぁベラちゃん。鉄機兵マキーニを機誕卵に戻して再構成するなんて面白いことをやらかしておいて僕が黙っていられるわけないだろう?」

「……やっぱりそこかい」


 ベラが頭をかきながら苦笑いをする。『アイアンディーナ』が機誕卵になったことは当然専属整備士のボルドにとっても想定外のことであり、彼はすぐさま本国のマギノへと助言を求めるためにレポートを送っていた。そしてマギノは送られたレポートだけでは満足できずにこうして現場まで訪れたということのようであった。


「で、この短期間で来れたのはドラゴンを使ったからだね?」


 ベラの言葉にマギノが頷き、その場にいるダイズやマリア、それにパラもが驚いた顔をする。

 実のところベラはダイズたちが部屋に入ってくる前に窓の外でドラゴンらしき影を目撃していた。そしてベラの瞳は金色の竜眼だ。かつての頃でも魔力を鋭敏に見分けられたが、現時点では人の身あらざるほどの精度で『魔力を視る』ことができる。

 そのために最近魔力を感じぬ火薬を用いた罠に気付けなかったという失態も犯してはいたが、ともあれ彼女の目は現れたドラゴンが『身内』であることを把握していたし、ダイズたちが部屋に入って以降も騒動にはなっていなかったことから事実確認は後回しにと考えていたのである。もっともベラであってもドラゴンに乗っていた人物がマギノであるとは気付けていなかったが。


「すいません総団長。話の後に報告を……と思ったのですが」


 申し訳なさそうな顔をしているガイガンにベラは少しだけ乾いた笑いを浮かべたものの止むなしと頷いた。


「ベラ総団長。そちらの方はいったい?」


 もっともこの場にいるダイズとマリアは突如現れた闖入者が何者なのかを理解できていない。そしてダイズの問いにベラが肩をすくめながら「ああ、すまないね」と返した。


「そっちの魚臭いのはマギノっていう男さ。巨獣兵装ビグスウェポンの開発者……とでも思ってくれりゃあいい。まあ、ウチの重要人物ではある。頭の痛いことだけどね」


 ベラの言葉にマギノがさもおかしいという顔で笑うが、どこに笑いどころがあったのかは本人以外には不明である。もっとも巨獣兵装ビグスウェポンの開発者と言われてはダイズとマリアの目の色も変わらざるを得なかった。


「それはまた……随分と大人物をよこしていただいたようですね」


 先の戦闘でもリンローの混機兵キメラ『レオルフ』が扱う巨獣兵装ビグスウェポンフレイムボールの活躍はダイズの耳にも入ってきているし、それが巨獣機兵ビグスビーストから手に入れたものを加工して取り付けていることも説明を受けている。

 そのあまりにも高威力の装備が自軍にあれば……と、そう思わずにはいられなかった。だからそんなものを生み出した人物が目の前にいるとなれば彼らの様子に変化があるのも当然のことだった。


「マギノ殿、私はエルシャのダキリ王の子、第二王子のダイズ・ライアント・エルシャダイだ。隣にいるのはマリア・カロンゾ将軍」

「ほぉ、王子様や将軍様とお話とはねえ。ベラちゃんも出世したもんだ。いや、僕は鉄機兵マキーニ魔術式研究者のマギノといいます王子様。今はベラちゃんの雇われ研究者をしていますな」

「雇われ……」

「ま、雇用を解除するつもりはないけどね」

「僕も今は離れる気はないよベラちゃん」


 そのやり取りにダイズも少しだけ苦笑するも気を落とすことはない。引き抜きなど無理だろうというのは分かっていたことだ。ただその一端のおこぼれに与れるだけでも状況は変わると彼は考えていた。


「それでは巨獣兵装ビグスウェポンの作成を依頼することなどは可能ですか?」


 ダイズの問いにマギノがうーんと唸る。


「僕は作ったというかアレは巨獣機兵ビグスビーストから回収したものを再利用しただけだからねえ。何しろ僕は鉄機兵マキーニ魔術式研究者で、機体同士の術式の流れの解析を専門にしているから可能ではあったんだけど」

巨獣機兵ビグスビーストならば一機回収してありますが」


 それはリンローが仕留めたヘッジホッグボアである。なお、ベラの破壊したビッグサラマンダーは大破していて再利用は不可能で、ベラが仕留めたヘッジホッグベアは敵側に回収されていた。


「状態を見ないと分からないけど、再利用は多分できるんじゃないかな。けれどさ。繋げられるのは今のところ同種である獣機兵ビーストで相性が良いタイプの、それも出力が高くないと駄目なんだよ。加工にも時間がかかるし」


 その返答にダイズが落胆の顔を見せる。エルシャ王国軍に獣機兵ビーストは一機もないし、現状の獣機兵ビースト軍団を見れば今後も獣機兵ビーストの部隊を入れるようなことはないだろう。

 それからマギノはギョロッとした目でダイズとマリアを交互に見てから「何かあったのかいベラちゃん」とベラに尋ねた。自分の素性を明かしたにせよ、ベラの前での性急過ぎる反応にさすがのマギノも訝しげな顔をしていた。


「ま、今は猫の手も借りたい状況ってぇことだね」


 それからベラが肩をすくめながら事情を説明した。

 エルシャ王国の将軍のひとりが死に王国軍の状況が悪化していること、マリアが竜血剤という手段でエルシャの戦力を増強しようとしていること。

 そもそもがマリアの竜血剤の件はベラにとってほとんど益のない話なのだ。マリアが死亡した場合にエルシャから恨みを買うかもしれず、それを盾に譲歩を迫る可能性も否定できない。


「なるほど。うーん、できなくはないねえ」

「可能だってのかい?」


 ベラとしては専門家の意見としてマリアの望みを拒絶してほしかったのだが、残念ながら目の前の変人はそうしなかった。


「そりゃあね。普通にやったらさ。まあ死ぬでしょ彼女」

「!?」


 あっけらかんとしたマギノの言葉にマリアの肩が震える。

 

「体が耐え切れるとも思えないし、安易に人に頼っている精神性からして肉体の変異に心もついていけないんじゃないかなぁ」

「安易になど……いや、なんでもありません」


 マリアが言いかけて止める。自分の命を免罪符に、他者の手を借りての安易な道に逃れようとしている自覚はあった。


「直接血を浴びて二年以上かかってるベラちゃんはまあ置いておくとして、リンローくんのときだって時間はそれなりにかかったしねえ。戦争に間に合うかなぁ。それに彼女の鉄機兵マキーニの損傷具合を聞く限りでは機体が耐え切るのも難しいと思うよ」

「では、先ほどのできなくはない……というのは?」


 ダイズの問いにマギノが少し首を傾げながら口を開いた。


「まあ、彼女の望みってさ。竜人……というよりはようするに竜機兵ドラグーンの力を欲しいんだよね。到着はもうちょい後にはなるけど、実はこっちに竜機兵ドラグーンを一機運んできているんだよ」

「運んでいる?」


 それはベラも知らない話だ。


「ちょっと普通じゃない機体でね。どこに話が漏れても困るし、こっそりと持ってきちゃった」


 その言葉にベラが眉をひそめた。その言い様からして本国にすら通達していないに違いなく、ベラも「なんでそんなものを?」と尋ねる。


「もちろんベラちゃんのための予備機体だよ。アイアンディーナが壊れて機誕卵になったって聞いていたし、そうなると何がどうなるか分からないじゃないか?」

「ふん。あたしゃ、浮気をするつもりはないよ」

「ディーナちゃんと仲睦まじくやっているようなら野暮は言わないよ。けど、万が一を考えるとね。だって戦えない君の価値って少ないじゃない?」

「ふん、相変わらずズケズケとものを言う」


 マギノの言葉にベラは苦笑するしかない。

 現時点でのベラの価値はただの一介の鉄機兵マキーニ乗りの域を大きく超えているのだが、ベラ本人にとって己の価値は戦いにしかないと感じている。いまだ子供の身では鉄機兵マキーニなしでは大したことはできず、政治の場でも彼女では適切に対応することはできないだろう。自身が特別であるのは鉄機兵マキーニで戦えるからなのだと彼女は冷静に己を分析していた。


「それを私が操作することができる……と?」


 マリアの問いにマギノが難しい顔をして「そうなんだけどねぇ」と返した。


「実はね。ベラちゃん専用に相当尖った機体になっていてね。もらったベラちゃんの血を使って馴染ませてるしこのままだとベラちゃん以外には操作できない。あ、ベラちゃん。あとでお代わりもらえるかい?」

「あんたねぇ。いや、まあいい。それであたし用なのにマリア将軍にも可能ってのはどういうことだい?」


 結論を口にしないマギノに焦れたベラが尋ねる。


「簡単に言えば、その機体は今ベラちゃんの眷属に近い状態なんだよね。で、だ。ベラちゃんの血を使った竜血剤をそっちのマリアちゃんに投与する。もちろん少量でね」

「それで乗れるようになるのかい?」

「それだけじゃあ無理さ。死なない程度に、肉体もほとんど変異しない程度に抑えた竜血剤は眷属に見せるためのフレーバーでしかない。だからマリアちゃんに馴染ませた後、実際に眷属にしてベラちゃんとパスを作るのさ」

「あたしと眷属に。眷属にする方法が見つかったってのかい?」

「見つかったっていうかさぁ。君は実際にもやったことがあるんだけどね。要するに」


 そう言ってマギノが自分の首裏をトントンと叩いた。マギノのそこには何もないが、ある人間をベラは知っている。それはこの要塞内においてはボルドとジャダンだ。つまり……


「奴隷印を授けるんだよ」


 マギノがそう口にした。

次回予告:『第280話 少女、血を渡す』


 備えあれば憂いなし……マギノお爺ちゃんは準備をあらかじめ整えておける人のようですね。素晴らしい。

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