第270話 少女、笑う
『ヒャッハァ。いいねえ、こいつはぁ!!』
目の前の獣機兵の胸部を仕込み杭打機で貫きながらベラが笑う。
これで七機目。銀霧蒸気を噴き上げる『アイアンディーナ』を操作してベラはズシャリと崩れ落ちた機体を飛び越え次の獲物を狙う。
ベラたちが到着した戻った翌日に獣機兵軍団は再び要塞アルガンナへと攻めてきた。それは予想よりも早くはあったが想定外というわけではなく、エルシャ王国軍はすぐさま対応し出陣していた。そしてベラたちヘイロー混成軍もその列に加わり、こうしていの一番に敵と戦闘状態に入っていたのである。
『ええい。ヘイローの兵を近付けさせるな。あの赤い魔女を孤立させるんだ。そしてデカいガタイを生かして魔力を薄めて動きを封じろ。囲い込みを突破されるなよ。合流されてみろ。殺される。殺されるぞ俺たちは!?』
ベラが戦っている一方で、対峙しているオーガタイプの上位機らしき獣機兵は半狂乱になりながら周囲に指示を飛ばしていた。
現状でベラは後方より接近してきている竜撃隊との間に獣機兵を挟まれて合流ができていない。単独でも危険であるのに、仲間と連携を取れば手に負えなくなると考えた彼らは必死であった。
もっとも彼の指示はベラをただ孤立させるためだけのものではない。鉄機兵も獣機兵も基本的には空を流れる魔力の川より魔力を得て動いているため、周辺に複数の機体が存在していると魔力濃度が落ちて操作が困難になる。
故に燃費を喰うオーガタイプの獣機兵複数が纏わりつけば必然的に周囲の魔力濃度も薄まり『アイアンディーナ』といえど動きは鈍っていくはずであった。
(魔力メーターの針が下がってきている。まあ、こんだけいりゃあ当然かい。それにデイドンハートは今こっちにはないから自家発電ってわけにもいかないしねえ。まあ、とはいえ魂力を吸収しているし、何より今のディーナは燃費がいい)
ベラが己の状況を把握しながらも笑う。
実のところ、相手の想定とは違って魔力濃度が薄まっている現状でも『アイアンディーナ』の動きはほとんど鈍ってはいなかった。それは倒した相手の魂力を吸収して純魔力に変換しているうえに、現在の『アイアンディーナ』は機誕卵の中で自身を最適化していたためにエネルギーロスが以前に比べてかなり抑えられている。
その結果として囲んでいるオーガタイプ獣機兵の動きは目に見えて鈍っているにもかかわらず『アイアンディーナ』の動きにはほとんど変化がなかった。
それでも多少の変化はあるのだから対鉄機兵兵装を当てやすくはなっているのだが、獣機兵の多くは兵装を扱う歩兵を編成せず獣機兵のみで戦う運用を行っている。だから魔力濃度を薄める作戦は結局のところ『アイアンディーナ』に利する結果となり、その事実に気付いたオーガタイプの上位機が舌打ちしながら『駄目か。離れろ』と叫んだ。
『おいおい、寂しいじゃないか。全部は逃がさないよ』
一斉に退いた獣機兵の一角を狙い、ベラがフットペダルを強く踏んで前へと進んでいく。
その突進を動きの鈍ったオーガタイプでは振り切れない。そしてベラが『ヒャッ』と笑いながらウォーハンマーを投げてぶつけると、オーガタイプ獣機兵はよろめき、そこに『アイアンディーナ』が飛びかかってショートソードを突き刺した。
『クソォ。鉄機兵の動きじゃねえぞ。猿か、テメェ!?』
『口よりも手を出せ。同時に突け。いくら化け物でも二方向からの攻撃なら……ぐ、なんだその尻尾は!?』
半獣人兵の悲鳴のような声が漏れる。二機の獣機兵が『アイアンディーナ』に向かってそれぞれの槍で突いたのだが、片方は左の盾で弾かれ、もう片方は『アイアンディーナ』の臀部より伸びた竜尾が弾いて巻きついた。
『遅いんだよ。んで、今の魔力量なら……ッヒャァアア!』
直後にベラが腰につけた回転歯剣を取り出して振り抜き、無防備であった二機のオーガタイプ獣機兵の胴が同時に切断される。
『ヒャッヒャッヒャ、あたしの動きがほとんど誤差なしで伝わっているねぇ。見た目は鉄機兵だが、内面は以前よりも竜機兵化が進んでいるってことかい? それともディーナ、あんただからってことかね?』
そんなことを口にしながらベラは回転歯剣を再び腰に戻すと、フットペダルを器用に踏み抜いて地面に落ちているウォーハンマーを蹴り上げて掴んだ。それから敵から奪った槍と共に構えて、次に来る敵に備える。
『まったく絶好調だねえ』
見渡す限りすべてが敵の状況の中でベラは己が愛機の進化を実感していた。今の『アイアンディーナ』はまるでベラの肉体の延長線上にあるように感じられるほどだった。それはまさしく人機一体とでもいうべき極致であろう。
『この魔女がぁああ!!』
『ハッ、多少は頭を使って仕掛けてきなよ木偶の坊!』
続いて叫び声をあげて突進してくるオーガタイプ獣機兵のメイスの攻撃をベラは槍で弾いてそらしながら、獣機兵の頭部にウォーハンマーを振り下ろす。
そして、わずかな悲鳴と共に獣機兵の頭部が陥没し、次の瞬間に胸部ハッチから圧殺された乗り手の赤い血が噴き出した。それを見た獣機兵たちがザワリとどよめき、その合間にガイガンの鉄機兵『ダーティズム』がついにベラのもとへと合流した。
『総団長、追いつきましたよ』
『遅かったねガイガン。どうやら、一戦目は終わっちまったみたいだよ?』
そう口にしたベラの視界には背を向けて逃げ出すオーガタイプ獣機兵たちの姿があった。
『半獣人はそういうところが駄目だねえ。思い切りが良いっていやぁ、聞こえはいいけどね。感情に流されすぎる』
ヘイロー軍の獣機兵はそうした点を見直し、欠点を直すための訓練を積ませてもいるが、ローウェン帝国軍は放任主義的な部分があるようだった。
『普通の傭兵もあんなものではありますがね。しかし、先行されすぎた時はちょっと肝が冷えましたよ。無茶をしますな』
『せっかくのディーナの再デビューだ。お披露目したいじゃあないか?』
ベラがそう口にしながらアームグリップを握って『アイアンディーナ』の腕をグルリと振り回す。背部のパイプからわずかに銀霧蒸気が噴き上がり、『アイアンディーナ』の調子の良さを物語っていた。
『反応はいいようですが、どうです?』
『本当に斬り裂けそうなくらいにキレがいいね。ベースは鉄機兵だからね。後でボルドに解析させてあんたらにもお裾分けできるかもしれない』
『それは楽しみ……ですが、今は目の前のことを。二陣が動きましたな』
ガイガンの言う通り、オーガタイプ獣機兵の隊が離れたことで、その後ろにいたべへモスタイプの隊長に率いられた混成部隊が近付いてくるのが見えた。
『べへモスタイプかい。オーガよりは手間取りそうだ。ガイガン、しばらくはここを維持する。ケフィンたちの情報は逐次報告。状況次第じゃ一気に動くよ。デイドンは控えさせてるね?』
『ハッ。後方にて隊に守らせています』
ガイガンの言葉にベラが頷く。
現状の戦力差はヘイロー混成軍が加わってなおエルシャ王国軍の不利であろうとベラは見ていた。無論、それを覆すだけの自信がベラにはあったが問題なのは獣機兵軍団が所有している五機の巨獣機兵だ。アレが広範囲に攻撃を仕掛ければ、相応の実力者でも防ぐのは難しい。対して巨獣機兵相当となるベラの機械竜『デイドン』、リンローの混機兵『レオルフ』、ケフィンの槍尾竜『ガラティエ』という戦力もベラたちは有しており、それらをいかに攻略するかが戦局を左右するだろうと思われた。
『ここか、リンローたちか、あるいはガルド将軍かダイズ王子か。奴らがどの餌に食いつくのか。しっかりと見て動かないとね』
空を見上げればケフィンの配下が操る魔鳥が戦場を飛んでいる。戦いは未だ開始して間も無く、けれどもベラの目は戦場全体に広がっていて、そしてその手を血で染めながら彼女は次の一手を打つ刻を待っていた。
次回予告:『第271話 少女、舞う』
みんなが遊んでくれるのでベラちゃんも楽しそうです。
普段は大人びて見えるベラちゃんですが、こういうところを見るとこの子もまだまだ子供なんだって思えますよね。




