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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第26話 幼女、叱る

「ガッ、アァアッ!」


 宿にある鉄機兵マキーニのガレージでボルドの叫び声が響き渡っていた。両手を地面について四つん這いになり、その背にすさまじい数のミミズ腫れが出来ているボルドは、痛みのあまり意識を失い、そのままグッタリと地面に倒れた。


「主様、これで100回です」


 そしてボルドの横にいるバルが懲罰用の鞭を握りしめながらベラに指示を仰いだ。さすがのバルも百度の鞭打ちを行えば、それなりに疲れも出るのだろう。額から流れる汗が垂れて、顎に溜まって雫となって地面に落ちていく。

 そしてベラは、そのバルの言葉に頷きながら横に立っている男に視線を向けると男もその視線に頷いた。


「刑罰の確認完了いたしました。ご苦労様でした」

「デイドン様によろしく言っておいておくれよ」


 ベラの言葉に男は頭を下げる。そして、その場から離れてそのままガレージから出ていった。そしてしばらくして、入れ違いにドラゴニュートのジャダンが中に入ってきていた。


「デイドン卿の見届け人は、馬車に乗って出て行きましたぜ。ヒヒヒ」


 その言葉を聞いてベラはやれやれという顔をする。


「ようやく終わったかい。クソッ、余計な手間が増えたね」

「すみません」


 横にいるコーザが頭を下げる。元はと言えばコーザがベラを案内したのが原因のひとつではある。しかし、ベラは首を横に振る。


「アンタの謝るこっちゃないさ。奴隷のしつけが行き届いていなかったあたしの不手際だよ。まったく」


 そう言って髪をかき上げながらベラはジャダンを見て指示を出す。


「ジャダン、ボルドに水ぶっかけてやりな」

「ヒヒヒ、水ですか。分かりましたよっと。よいしょっ」


 ジャダンが置いてあるツボを持ってボルドの頭に一気に水をぶちまけるとボルドが「ゴホッ、ブフォッ」と鼻と口に入ったそれを吐き出しながら意識を取り戻した。


「目ぇ、覚めたかい。こんのバカ」


 面倒くさそうに言うベラに、ボルドは歯ぎしりしながら悪態づいた。


「クソッタレッ」

「『ギムル』ッ」


 ベラが再度拘束呪文を唱えるとボルドは叫んで転がり回った。


「クソッタレはこっちの方だよ。よくもまあ、無様を晒してくれたもんだね。もう少しでこっちの身まで危ないところだったんだよ」

「クソッ、あいつは、マーナを殺したんだぞ」


「マーナ?」


 コーザがボルドの言葉にいぶかしげな視線を送る。それにはベラが口を開いて答えた。


「ほれ、前に盗賊団から解放した連中だよ。村も壊滅してたようだしね。そのまま奴隷にしちまったんだが、どうやら、あの領主様に流れたのがいたらしいんだよね」


 そして、殺されて首を置かれたのだ。何かしらの失敗をしての懲罰対象であったのかもしれないが、あの領主が奴隷を殺したのは間違いなかった。


「ああ……なるほど。コロサスまで連れてく途中で情が移ってたってワケですか」


 得心いったとばかりにコーザが頷いた。コーザにしてもボルドの過剰反応は気にかかっていたことではあったのだ。


「だからって、貴族様に食ってかかろうとするなんざアホのやることさ。あんたが返品されるのも分かるってぇもんだわな」

「知るかよ」

 ペッと口の中の血を吐き出して、ボルドはベラをにらみつける。


 今は貴族でこの地域の領主であるデイドンとの対面から2時間は経過していた。


 出会い頭に、生首の列に叫び声をあげたボルドを拘束呪文で抑えた後は物理的に拘束して外に縛りだし、ベラはそのままデイドンとの対談に入っていたのだ。

 とはいえ、特別話すようなことがあるわけでもない。元々ベラは呼ばれて領主に会いに行っただけで、特に約束も何もなかったのだ。

 だからふたりのやりとりといえば、定型的な挨拶に、ベラの鉄機兵マキーニの力量、ここまでの戦果、戦地での現在の状況、また戦場でのある程度の融通を約束してもらえるといった口約束程度であった。

 そして、その話が終わったからといってボルドの行動がチャラになったわけでもない。ボルドの行動は貴族への反逆行為に近い。出頭にベラが止めてなければあの場で処刑になっていたのは間違いなく、鞭打ち百回の刑で済んだのは軽い処分ではあった。


「あんたがあの場で、あの領主様にどうこう言ったところで何も変わらないよ。数が足りないからって手持ちの奴隷の首を並べるような相手だ。青き血以外の命なんてなんとも思ってやしないのさ。あたしもあんたも等しくね」


 その言葉に、ボルドの顔が歪む。それが分かっているからこそ、届けようと吠えたくもなるのだ。しかし、ボルドの声が届いたことはない。そのボルドを見下ろしながらベラは続けて言う。


「それにアンタの反応次第じゃ、次に会ったときには、盗賊どもから解放した女たちの首がまとめて並んでるかもしれないね」

「なっ!?」


 呆気にとられるボルドにベラが畳みかける。


「だってさ。アンタはあれでも折れる気はないんだろう? ああいう手合いはそう言うのを一番嫌うし、屈服させたがるんだよ。そのための手段なんていくらでもあるわけだ。金があれば女奴隷をかき集めるのもわけないしね。あたしならそうする。金があって力があるんだ。相手を屈服させる気ならそれぐらいはやる相手だよ」

「ふざけんなっ!」


 そう叫ぶボルドをベラは言葉で返す。


「ふざけてるのはアンタだよ、ボルドッ!」


 その言葉にボルドが、怒りに顔を歪ませる。


「それを止める手段がないんなら、吠えるんじゃないよ。力がない正義なんて害悪以外の何者でもない。よく考えるんだね。アンタの言葉が、あたしもそこのふたりもコーザも、女たちも殺しかけたんだって事をね」


 ベラの言葉にボルドが睨み、しかし、返す言葉もなく悔しそうに下を向いた。


「まあ、暇な相手でもないだろうから、敵対してもいない相手に対してそこまでやる可能性は少ない。けど、ないとはいえない。これからは、自分の行動がどういう影響を及ぼすのかよく考えてから動くんだね」


「……チクショウッ」


 ボルドはそう一言漏らして、そのまま倒れ込んだ。鞭の痛みもある。すでに限界だったのだろう。ボルドはその場で気絶したようだった。


「主様……」


 バルがベラを見る。その視線にベラは頷いて返し、バルに「看病しておきな」と言ってジャガンを引き連れて、コーザと共にガレージを出ていった。



  **********



 その後、コーザとも宿の外で別れて、ベラはジャダンを連れて街を歩いていた。そして、道すがらジャダンが口を開く。


「しかし、ご主人様もよく我慢しましたねえ」


 その言葉に、ベラはジャダンに振り向かずに「おや」と声を出した。


「我慢しているように見えたかい?」

「ええ、まあ」


 ジャダンはチロチロと舌を出しながらそう返す。


「あたしが奴隷になった相手に同情して憤っているとでも?」

「それに憤っているかといえば、いいえ、まったく」

「傷つくねえ」

「ヒヒヒ。いえ、同情くらいはしてるんじゃないですかね。気の毒にーくらいは思ってるんじゃないですか?」


 ジャダンの言葉にベラも「あたしも人間だからね」とうそぶく。

 実際、ベラも哀れだと思ってはいた。しかし同時に仕方ないことだとも考えている。

 貴族にとっては庶民も奴隷も同じ人間ではなく家畜に近しい存在だ。すべての貴族がそうであるわけではないが、少なくともベラの出会ったあのデイドンという男はその類であった。そして、さきほど死んでいたマーナの価値は価格にして50万から100万ゴルディンほどだろう。それが命の値段だ。貴族にとっては遊びで出せる額である。そこらに歩いている人間の首を勝手に切ったりせず、自前の奴隷で済ました分、まだ無法ではないとすら言えた。


(ま、あたしらにとっちゃあ、組みやすい相手でもあるけどね)


 そうベラは思う。ベラが話した限りでは、デイドンは己に価値を生み出す相手であれば認める柔軟性がある。お堅い貴族の中では頭が回る人物なのだろう。それはベラやコーザのような庶民でありながら光るものを持つ人間にとってはありがたい相手ではあった。


「けど、ああいうタイプってお嫌いでしょう?」


 ジャダンの言葉にベラが「ヒャッヒャ」と笑う。全くもってその通りだったのだから笑うしかなかったのだ。


「いつか目にもの食らわせてやりたいモンだねえ」


 そう口にするベラの瞳には獰猛な輝きがあった。


 デイドン・ロブナールは確かにベラにとっては組みやすい相手だ。しかし、個人的な感情では許容できる相手でもなかった。ひとことで言って気に入らない。


 そして、ベラはボルドのように直情的に出来ないことをするつもりはなかった。しかし、れるべき時を見誤るような甘さもない。いつしかアレの胸に刃を突き立てることを考えて、幼女は街を進んでいく。


 行き先は、ローゼン傭兵団達のたむろする酒場だ。デイドンから戦場の用意はされている。明日からは忙しくなるとベラは舌なめずりをして、その先を進んでいった。

次回更新は二日後の3月26日(水)0:00となります。


次回予告:『第27話 幼女、戦場に出る』

抹殺予定リストに一名追加です。理由は気に入らないからです。

そんな子供らしいところもあるベラちゃんですが、いよいよ戦場に赴きます。

果たしてベラちゃんは無事に帰ってこれるのでしょうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奴隷とは言え、何の咎もない時は殺してはいけないとの設定が多いが、この物語では、奴隷には全く人権が認められないということなのでしょうね。嫌な世界やな。
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