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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第25話 幼女、出会う

「……嘘だろう」


 未だ昼を過ぎた辺りの酒場でゴリアスがそう口にして、肩を落とした。

 そして、目の前で注がれている杯の酒を一気に飲み干した。


 朝方に雇い主との会合と模擬戦を終えて街に戻ってきたローゼン傭兵団とジャカン傭兵団の面々だが、その顔は悪夢を見たようなものに変わっていた。


 マイアーが、ガウロが、ゴリアスがたった一機の鉄機兵マキーニに負けた。


 それはそれで衝撃的ではあったし、団員には信じがたい光景ではあった。特にゴリアスは鉄機兵マキーニ戦ではほとんど負けなしの男で、ギミックウェポン『モーニングスター』の不意打ち等を除いても、その実力は確かなものだった。


 それが負けた。


 いや、それはまだ良い。実力的なことを言えば上には上がいる。騎士団でも団長クラス相手ではゴリアスも勝てる気がしないし、大規模傭兵団のトップたちには当然勝てないだろうとも考えていた。

 なので、負けたことはいいのだ。問題なのは模擬戦終了後に、ベラドンナ傭兵団の団長が、鉄機兵マキーニから出てきたときに判明した事実だった。


 声からして女だというのは分かっていた。いや、女というには若すぎる声だとは感じていた。まるで少女にすらなる前の、まだ性の変わりきっていない声だとゴリアスも多少は思わなかったわけではない。しかし、まさか相手が六歳児であるなど誰が思おうか。


 思わず、鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』の操者の座コクピットをのぞき込み、他の誰かが入ってはいないかと確認してしまったが、そんな人物はいなかった。

 マイアーが苦笑して、その六歳児……ベラ・ヘイローを紹介し、ガウロも渋々認めたことで、ゴリアスはその事実を認めざるを得なかったのだ。


「俺はガキに負けたのか」


 あまりにも重い事実である。もっとも、ローゼン傭兵団で酒を瓶で飲み続けているガウロに比べればマシではあるのだろう。聞けば、ガウロは、あの幼女に組み伏せられ失禁までしたらしい。話す本人からの苦い顔を見れば到底笑い話として聞き流すことは出来なかった。


 それに、あの幼女の実力に関してはゴリアス自身が骨身に染みている。


 最初にあの姿を見ていたら模擬戦以前に断っていたとゴリアスは思う。

 そういった意味では最初に鉄機兵マキーニで対面して叩きのめされたのは正しい筋道だったのだろう。そして、続けてのバル・マスカーの『ムサシ』と『アイアンディーナ』の模擬戦を見て、ゴリアスは己がこの3つの傭兵団の中では2番手ですらないことを知ってしまう。

 バル・マスカーはコロサスの闘技場では無敗を誇る男だとは部下から聞いたが、どうやら本業は鉄機兵マキーニ乗りだったらしい。

 それでいて、まだ新しい鉄機兵マキーニを乗りこなせていないというのだから、ベラドンナ傭兵団の実力の高さは証明されていた。雇い主としては申し分なかった。


「団長。ありゃ、仕方ありませんて」

「そうっすよ。団長だけじゃなくて、マイアーの姉さんだって、まるで子供みてぇにあしらわれてたじゃねえですか」


 団員たちの言葉はゴリアスにも分かってはいるが、しかし飲まずにはいられない。奴隷兼愛人でもあるエルフのミルカの胸を揉みしだきながら、ゴリアスは酒一気に飲み干した。


 そのゴリアスたちジャカン傭兵団の集まりよりも少し離れた場所にいるのはローゼン傭兵団の面々だ。現在この酒場は昼と言うこともあり、このふたつの傭兵団の貸し切り状態となっていた。


「ガウロ、もっと抑えて飲め」

「分かってますよ。くそったれめ」


 ガウロはその後にベラに一対一で挑んでみたモノのまるで歯が立たなかった。一対五でも勝負にならなかったのだから、当然といえば当然ではあるが、それにしてもという思いがあった。


(瞬発力があるのは強化されていて、機体が若いし軽いから……ということだろうね。それにギミックもある……けど、あの実力は機体性能の問題じゃないねえ)


 荒れるガウロの横でマイアーは先ほどの戦いを思う。


(ありゃ、才能で片づけられるものでもない。明らかに熟練者の腕だ)


 かつての大戦でそのほとんどが死んだが、当時の戦にも参戦していたマイアーには覚えがある動きだった。性能の足りない鉄機兵マキーニに乗った熟練の乗り手が見せる技量をベラは感じていた。


(六歳児というのは、まあ嘘としても、元々はもっと性能の高い鉄機兵マキーニに乗っていたように思える。何者なんだい、あのガキは?)


 そうマイアーは考えるが、尋ねるべき相手はこの酒場にはいない。

 彼女らの雇い主となったベラは今、その傭兵団の集まりをさらに雇う側の相手に挨拶に行っていた。それはつまり、この地域の領主デイドン・ロブナールへの面会であった。



  **********



「はぁ、貴族様に会うってのは気乗りしないねえ」

「まあまあ、お近づきになれると色々と有益な面もありますよ。顔が知られてれば戦功をあげた後も色々と融通してもらえますし」


 渋い顔のベラに、苦笑いのコーザがそう答える。

 現在、ベラたちは街に戻った後にコーザに呼び出され、そしてモルソンの街の中央の館の中へと案内されていた。


 領主デイドン・ロブナール。


 現在行われているモロ地方の領土奪還戦のルーイン王国側のトップである。それがコーザの話を聞いて、ベラたちに興味を持ったらしいのだ。

 そしてコーザも慌ててベラたちを呼びに行って、やむなくそのまま足を運ぶこととなったのだ。さすがに領主の誘いは断れない。ベラとしては、何の実績もない内からイロモノ扱いで貴族と接触することには抵抗があるようだった。


「有益ねえ。悪いけど、あたしのミルアの門にブチ込ませろってんならお断りだよ。この年じゃあ、ブッ壊されちまうからね」

「いや、そういう趣味のお方ではありませんから、そういう点では大丈夫でしょう。まあ多少、独特な方ではありますが」


 そう言い合いながらも、コーザは館の中の廊下を進み、一室の扉の前で止まった。それはここまで通った中でもっとも豪奢な扉であった。


(主様……)


 そして一緒に止まったベラの後ろにいたバルが声をかける。


(分かってるよ。まあ、大丈夫だろうよ)


 そのバルにベラは小声でそう返した。部屋の中から漂う臭いはベラにも分かるが、殺気は感じなかった。意図は分からないが危険はないとベラは判断する。


「デイドン様、コーザ・ベンマークです。ベラ・ヘイローを連れて参りました」


 その言葉に「よし、入れ」と声が返ってくる。

 そしてコーザが、扉を開けて、中に入ろうとして眉をしかめた。しかし、その歩みを止めずに入ったのは、商人にしては胆力のある行動だったと言えるだろう。ジャダンとバルはその顔色を変えることはなかったが、ボルドは中を見て絶句していた。


「ようこそ、ベラドンナ傭兵団、団長ベラ・ヘイロー。なるほど、素敵なレディーのようですね」

「お招き感謝するよ。なるほど、領主様は変わった趣向をお持ちのようだね」


 中に入って一瞬眉をひそめたベラだったが、すでに表情は元に戻っている。しかし、普段の軽薄な笑いはその口からは出なかった。


「コーザから、これが好きなのだと聞いたのだがお気に召さなかったかな?」

「誤解があるみたいだが、あたしは金と交換できる首が好きなんだよ。なんでもいいわけじゃあないんだけどね」


 そのベラの言葉に「なるほど」と言いながら、デイドンはギョロッとした目を細めながら、頷いて笑う。

 その領主の前には首が並んでいた。併せて50はあるだろう人間の生首がテーブルに並べられて置かれていた。


 その理由は、今の領主デイドンの言葉の通りであるならば、生首が好きなベラに対しての歓迎のための演出だということだった。

 そして、ベラのその態度にデイドンは満足そうに頷きながら、コーザを見る。


「なるほど、動揺すらない。子供の皮を被った何か……か。コーザ、面白いモノを見つけたな」

「はいっ」


 その言葉にコーザが頭を下げる。さすがにこの状況はコーザにも想定外だったが、ソレを飲み込んで、彼もいつもの平静さを取り戻していた。


(まさか、こういう趣向で来るとは……)


 しかしコーザの内心は、焦りがあった。

 ベラを売り込もうとその興味を惹くのには成功した。

 しかし、ソレでこの対応とは……一歩間違えれば目の前の幼女が暴れ出しかねないとコーザは考えていた。確かに子供と言うには理性的すぎるベラだが、その性格は剛胆で不遜的な面がある。気に入らなければ、領主相手でも暴れる可能性もあるのではとコーザは恐れていた。

 もっとも、実際にはベラは特に怒れるわけでもなく平静を保ってはいるようだった。笑いこそ出ないのだから何か思うところはあるのかも知れないが、褐色幼女はここまでに余計なことは何も言わずに極めて平静を務めていた。

 そして、この中で冷静でいられなかったのはベラではなかった。その後ろにいたドワーフのボルドこそが問題であったのだ。


(なんて、悪趣味な……)


 その目の前の様子に対してボルドの中では心底嫌悪していた。見る限り、生首はその多くがパロマ兵のようだった。捕虜の首でも切り落として並べたのかも知れない。血臭がキツく、切り取られたばかりであるのも分かる。くだらない演出のためだけに、こうして兵たちを殺して首を並べたのだろう。


 そして、それらを眺めてボルドは気付いた。並んでいる首の中に知っていた顔があったのを。

 最初、ボルドには分からなかった。年端もいかぬ少女の首が並んでいるのだ。それがボルドには理解できなかった。パロマの兵ではあり得ない。ただの少女の首の存在に、その意味が理解できなかった。


「……マーナ?」


 別れてから、そう時間が経ったわけではないだろう。だからボルドの記憶には残っていた。あの盗賊団から解放し、そして奴隷の道を余儀なく歩まされた女たちの中にいたひとりだ。道中に世話をしていたボルドは覚えていた。夜中に泣いている少女を慰めたこともあった。だから、必然的にボルドにも、それがどういうことなのかが分かった。


「テメェ、奴隷の首を落としやがったのかッ!」


 ボルドがそう激昂する。そして飛び出そうとして、その首裏の奴隷印から拘束魔術が発動した。

次回更新は3月24日(月)0:00。


次回予告:『第26話 幼女、叱る』

現実の厳しさをお爺ちゃんはまだ理解していませんでした。

貴族にとっては庶民など人にあらず。ましてや奴隷など路傍の石ころと変わらないのです。

それを理解していないお爺ちゃんはやはりこの世界で生きるのは難しいのかも知れません。

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