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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第三部 十歳児の気ままな国造り

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第248話 少女、都市を制する

 山岳都市バルグレイズの奪還を終えて翌々日。

 奪還した翌日からエルシャ・ヘイロー混成軍によるローウェン帝国兵狩りが行われ、その過程で捜索中の現支配者ロッガが無残な亡骸で発見されてもいた。ローウェン帝国軍の主だった面々もすでに奪還時の戦闘でほとんど残っておらず、現時点における街の最高責任者は、ローウェン帝国に属していない街の貴族のひとりであった。


「…………」


 その者の名はマガリ・アンダーシア。この山岳都市バルグレイズをローウェン帝国軍が落とした際にジェネラル・ベラドンナから街の取りまとめ役を任命された人物である。

 マガリは元より下流の貴族に過ぎぬ男で、人の良さと日和見主義的な人格から間を取り持つことに長けていたことをジェネラル・ベラドンナに見抜かれて起用されており、それはエルシャ王国侵略が獣神アルマと獣魔ドルガの獣機兵ビースト軍団に引き継がれた際にもそのまま残り続けていた。

 その彼は今、山岳都市バルグレイズの中にある領主の館に呼ばれて領主の間に立たされていた。


「何だい?」

「い、いえ……あなた様がご高名なベラ・ヘイロー閣下にあらせられますか?」

 

 そしてマガリの前にいる人物は彼の言う通り、新興国家であるヘイローの軍を統括する総団長ベラ・ヘイローだ。対してまるで猿に化かされているような顔をしていたマガリだが、それは言うまでもなくベラの容姿に仰天しているためであろう。

 ご高名などとマガリは口にしたが、彼が知っているベラはムハルド王国を滅ぼした簒奪者であることと、赤い魔女、殺戮者、ベラドンナの生まれ変わりなどという異名を持っていることぐらいである。若いとは聞いていたが、本当に子供の姿であろうなどとは夢にも思っていなかった。


「どうにも、ジェネラル・ベラドンナと雰囲気が似ていると……」

「へぇ。似ているねえ。あたしがアレに似ているってこたぁ、偽者はあたしってことになるのかねえ?」


 ベラの問いにボタボタと汗を垂らしながらマガリが首を横に振る。


「いえ、そのようなことは。ベラ様にジェネラル・ベラドンナが似ていただけにございます。ええ、はい。まったく」


 マガリも最初から迂闊なことを言うつもりはなかった。ただ、あまりにも予想外の姿の中に何か共通点を持つ存在を思い出したためについ口にしてしまっただけのこと。

 とはいえ、エルシャ王国に限らず、かつてのドーバー連盟の所属国を主とした反ローウェン帝国の国々にとってジェネラル・ベラドンナの話題はミルアの門潜ろうとも上のガーメは不動たれと言われるくらいに禁句に近いものがある。故に今のはエルシャ王国内では即刻、首を刎ねられかねない失言だったのだが、ベラはただ笑うだけであった。


「そうかい。アレがあたしに似てるねぇ。まあ、いい。今朝までの作業、ご苦労だったね。お疲れだろうが、引き継ぎをしとかないと街も落ち着かないだろうし、少々我慢しておくれ」

「は、ははぁ」

「しかし、最初から面倒な話をするが、参ったことになったね。まさかローウェンの指揮官を住民が殺しちまうってのは」


 ベラのため息を吐きながらの言葉にマガリが息を飲む。


「ローウェンの支配者が自軍を囮にしたうえに、街に火を放って時間稼ぎをしながら逃げようとしたところを殺された。状況からして街の住人の仕業に違いない。生かして捕らえておきたかったんだが」


 それらはすべて状況証拠でしかない。

 放火されたのがエルシャ・ヘイロー混成軍が到着する前であったことも、ローウェン帝国の指揮官であるロッガの亡骸に拷問の跡があったこともマガリは知らないし、彼に与えられている情報は元々ほとんどない。

 ただ現時点においてベラの口にした言葉は確定された事実とされており、それが覆されることはないし、覆せる根拠をマガリや街の住人が持っていないのも確かだった。

 故に住む家を燃やされた人々はローウェン帝国への怒りをさらに募らせるし、対して手厚く対応してくれた『ヘイローの兵たち』には感謝することになるだろう。


「とはいえだ。過ぎたことは仕方がない。あたしは話の分からない馬鹿ではないし、どちらかというと寛大な方でね。特に咎めることをするつもりもない」


 その言葉にマガリがホッと安堵の息を漏らした。


「とりあえずこれからは手の足りないエルシャ王国に代わって、我が傭兵国家ヘイローがこの街を治めさせてもらう予定さ。仲良くやっていこうじゃあないか?」

「は、是非ともよろしくお願いいたします」


 マガリが大きく頭を下げながら、そう返した。




  **********




「で、ジャダンの方はどうだい?」


 マルカスの町より連れてきたヘイロー軍の対応やその他の事項の確認などをおこなったのちにマガリを返したベラは、そばで護衛についているガイガンにそう尋ねた。

 なお、その場にいるのは従者のパラと護衛としてガイガンを含む竜撃隊の面々が五名のみ。リンローは外で兵の指揮を取り、ケフィンは獣人部隊と共に範囲を外にも広げながらローウェン兵狩りを継続して行っている。

 また、この場にはエルシャの騎士たちはひとりもいなかった。

 ベラはこの街でのことについてエルシャの兵たちに手を出させるつもりはなかった。エルシャの騎士団からは抗議の声も上がったが、アルガンナ要塞に続いて再びローウェン帝国軍から勝利をもたらしたベラに彼らが強く言えるはずもない。


「懲罰室で罰を与えているところですが、堪えていませんね。あれは」


 そして、ベラの問いにガイガンがため息をつきながらそう答える。

 ジャダンの性癖を考えればそれは予想できていたことであり、残念ながらたとえ殺しても彼の態度を改めることはできないだろうと思われた。

 今回ジャダンは良い働きをしたとも言えたがやり過ぎてもいた。労いは後で行うとして、信賞必罰を常とするベラとしては少し考えてから口を開く。


「だったら、ケフィンの竜憑依に付き合わせてやりな。空からの爆弾投下は有用だ。慣れさせてもおきたい」

「ほぉ、それはいい。珍しくあの男が明確に拒絶しているものですしな」


 ガイガンが満足そうな顔でそう返し、ベラも頷いた。

 それからベラが先ほどのマガリの言葉を思い出し、目を細めて少しだけ考え込む。


「しかし、ジェネラル・ベラドンナねえ。ガイガン、どう思う?」

「ジェネラル・ベラドンナですか」


 マガリはジェナラル・ベラドンナと実際に対面したことのある人物だ。またジェネラル・ベラドンナとベラの雰囲気が似ているという認識は彼だけのものではなかった。実際にジェネラル・ベラドンナと遭遇した元ベラドンナ傭兵団の面々、ボルドにパラ、コーザなども同じような印象を持っていたのである。


「ワシは鷲獅子大戦には参加しておりませんのでなんとも言えませんがアイゼンの言葉を借りるならば、アレは大人し過ぎる……ということを口にしておりましたな」


 ラーサ族は鷲獅子大戦が起きた頃、別大陸からの侵略軍との戦争状態に入っていたため大戦には参加していなかったのだが、ドーマ兵団の団長であるアイゼンは個人で鷲獅子大戦に参戦していた。


「武功だけで見れば当人としか思えぬが首輪をつけられた犬の如く、鎖を引かれて便利に扱われているようにしか見えぬと。実際、それはやはり彼女を知る者にとっては共通する認識のようですな」

「一方でクィーンとジェネラルの双方を知っている者にとっては本人にしか見えなかったとも聞いております」


 そばにいるパラがそう口を挟む。

 ローウェン帝国から解放されたパラは一時期モーリアンにいて、その際にジェネラル・ベラドンナのことを調べてもいた。故に双方の言葉からベラとしてもジェネラル・ベラドンナに対する評価が定まらないままであったが、けれどもどうであるにせよ武人としての評価の高さだけは本物であるようだ。


「さて、一応生まれ変わりと言われている身としちゃあ、そいつに対抗するためには武功をあげ続けなきゃあいけないんだがねぇ。ま、地道にやっていくしかないかい」


 そう言ってベラがヒャッヒャと笑った。

 まったく見ず知らずの、それも毛嫌いしている老婆の威を借るなどベラとしても好みではないが、しかし勝ちの目を得るためならば厭わないのもまたベラである。

 それは『ベラドンナ』傭兵団という名をつけた頃から変わらぬ信条であり、ひとまず山岳都市の解放によってジェネラルの築いた戦果をひとつ潰したベラは、クィーンの後継としての道の一歩を踏み出していたのであった。


次回予告:『第249話 少女、犬たちの目にとまる』


 負け犬のお婆ちゃんに似ていると言われても今を生きる十代の少女からしてみればファッキューとしか思えないでしょうけど、ベラちゃんは笑って流せる女の子なのですね。ベラちゃんってば大人。

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