第238話 少女、もてなす
「さて、今回はご苦労だったねフォルダム団長」
ローウェン帝国の獣機兵部隊との戦闘も終了し、部下たちに後始末を任せたベラはエルシャ王国のフォルダムとパーリアンを連れて町長の家へと戻っていた。
そしてベラに問いかけられたフォルダムは何故か破壊されている壁を訝しげに見てからベラへと視線を移した。
「今回は助かりました。あなたがベラ・ヘイロー総団長……ということでよろしいのですかな?」
なんとも言い難いという顔をしたフォルダムの問いにベラがヒャッヒャッと笑う。それはもう何度となく繰り返されたやり取りで、ベラとしてもさすがにもう諦めていることでもあった。
「よく言われるよ。けど、ヘイローが正式にベラ・ヘイローを寄越したという書状をあんたは受け取っている。であれば、実際に本物か偽物を疑うことに意味はあるのかね?」
そのベラの言葉にフォルダムがますます唸った。
フォルダムには目の前の少女が本当に話に聞く赤い魔女、ムハルドを滅ぼして自らの国を作った英雄であるかどうかの判断はつかない。
とはいえ、彼らはドラゴンにも変形する赤い鉄機兵からベラが出てくるのを目撃しているし、少なくとも少女がこの町に駐留しているヘイローの軍を率いていることを理解している。
それに傭兵国家ヘイローがベラ・ヘイローを送ったのは先ほどフォルダムが受け取ったヘイローの代表者であるコーザ議長の署名が入った書状からも明らかであり、だからこそフォルダムは結局自分の娘よりも小さな少女に対し「申し訳ありません」と頭を下げた。
「ずいぶんとお若いので……正直、我らの常識からすると不思議に映り、信じられないという気持ちがありまして。それに国取りの英雄が直接我らに対して助けに来てくれるとも思いませんでした」
その言葉にベラが「まあ、仕方ないね」と言って笑う。
「とはいえ、所詮あたしはただの戦士だ。戦がないとどうにも暇で……いや国内でもイザコザがないとは言えないんだが、チマチマとした仲裁も好きじゃない。なんで、こうやって同じような暇人を集めて出稼ぎに来たってわけさ。手前勝手な事情を話すのはちと恥ずかしいんだけどね」
その言葉に後ろに控えていたリンローが笑い、パラも苦笑する。
それにフォルダムとパーリアンは困惑しながらも頷いた。どうであるにせよ傭兵国家ヘイローの助けは喉から手が出るほどありがたいことで、彼らも自分たちの興味本位で相手を不快にさせようとは思えなかったのである。
「いえ。どうであるにせよ、我々にとってあなたはまさしく救いの女神だ。あのまま戦っていれば我が部隊は全滅していた可能性は高いし、この町も連中の拠点とされていたでしょう。それにこちらの失態も諌めていただいたようで」
フォルダムの言葉に控えていたパーリアンが頭を下げた。
もっとも周辺を警護していた竜撃隊にフォルダム騎士団の町奪還部隊が攻撃を仕掛けたことに対してはベラも反省する面がある。
「あの件はあんたらへの手土産にと思って……連中を釣るために旗をローウェンにしたままだったのが失敗だったわけだしねぇ。ありゃぁお互いにとっても不幸な事故だ。双方に被害が出てないのなら気にする必要はないさ」
そのベラの返しにパーリアンが「ありがとうございます」と口にして、さらに頭を下げた。ベラにしてもエルシャ王国の町を断りなく占拠していたという負い目もあったために、深く追及するつもりもなかった。
「ま、あたしらがここに来た目的はエルシャの支援で、あんたらとあたしらで仲良く手を取り合ってローウェン帝国をぶっ殺した。そう理解してくれりゃあそれでいい。とはいえ、確かにあたしらはあんたらを助けにきた。けれども、うちも人に支援できるほどの手が多いわけじゃない。国内の情勢はまだ不安定で、支援しているルーイン王国の戦況も我が国にとっては重要でね」
「分かっております。だが、我が国の状況も……」
「ああ、承知しているさ。エルシャも重要な隣国だ。ま、ルーインと国内の情勢次第じゃあ、こっちにも手は回せるようにもなる。それまでにあたしらがローウェンをやっちまうかもしれないけどね」
そう言って笑うベラにフォルダムが「よろしく頼みます」と言って頷いた。
現状のエルシャ王国からすれば、ベラたち竜撃隊が傭兵として参戦することも非常にありがたく、その申し出を断る理由はなかった。
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「で、こいつがべへモスタイプかい?」
そしてフォルダムたちと話を終えたベラが次に立ち寄ったのは町で一番大きな鉄機兵のガレージであった。
そこには『アイアンディーナ』や竜撃隊の鉄機兵が並び、またベラの前に置かれているのはリンローが運んできたべへモスタイプの獣機兵の残骸だ。
「そうだ。ヤツラの部隊のボスだったらしいな。リンローの野郎が盛大に燃やしちまったせいで、内部についてはちょっと分からねえ部分も多いが……見る限りは生体部品に変異しているパーツも多いし、通常の獣機兵との違いはない。いや、ただデカイというだけで十分に違いはあるんだが」
そしてベラと話をしているのはドワーフのボルドであった。
ローウェン帝国の新型獣機兵であるべへモスタイプに対してはベラ自身もまだ戦闘経験はなく、リンローの説明だけでは判断しづらかったためにボルドを引き連れ、自ら確認をしに来ていたのである。
「で、ご主人様が気にしてたブーストだが、中身を確認した限りは別の動力はねえみたいだ」
「となると周囲の魔力を取り込んで使うもんかい。ギミックウェポンに近いってことだね」
ベラの言葉にボルドが頷く。
「そういうことだな。魔力の川からの魔力を一気に吸収してるんだろう。そうなると魔力不足で周囲の機体が動かなくなるかもしれねえから、ご主人様の竜の心臓持ちの『アイアンディーナ』や竜機兵じゃねえと近付くのも危険かもな」
その言葉を聞いてベラが「リンローの『レオルフ』もそうだね」と返した。
「うん? まあな。『レオルフ』の内部で竜の心臓が生成されたのには驚いたからなぁ。マギノが言うには獣混じりの竜心石の拒絶反応との竜の心臓持ちである『アイアンディーナ』の機構情報がフィードバックされたのが原因かもしれないって話だが」
「難しいことはあたしにゃ分かんないよ」
ベラの返しにボルドが肩をすくめる。その点に関してはボルドもよくは分かっておらず、マギノの領分であった。
「ともかく、そういう特殊な機体でもなければ乱戦になると危険だってぇことだね」
「そうだ。けどな。リンローの話じゃあこのべへモスクラスの乗り手はこいつを次世代の最新型だなんて言っていたらしいが、6メートル級で相当の魔力喰いとなれば数が揃って移動するだけで周囲の魔力は薄くなって動作が鈍るし、最悪止まるぞ」
「となると、こいつだけで軍隊が構成されるわけじゃあなさそうだね」
ベラの言葉にはボルドも「そうだな」と返した。
「恐らくは部隊に一機、今回みたいに指揮官機クラスでの扱いとなるんじゃないか。けれど、どっちかっていうと俺が気になるのは……」
そこまで言ってからボルドがべへモスクラスの残骸へと視線を向けて、目を細めた。
「べへモスなんていう上位魔獣の血でどうやって獣機兵にできたのかってことだ。ま、こいつはマギノの解析待ちだがな」
次回予告:『第239話 少女、王都に向かう』
ベラちゃんのみんなお友達計画がまた一歩実現しました。
さらにお友達を増やすべく、ベラちゃんはこれからも頑張ります。




