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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第三部 十歳児の気ままな国造り

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第234話 少女、手土産を用意する

 ムハルド王国が滅亡してから二ヶ月あまり。

 傭兵国家ヘイローはヴォルディアナ地方の統一を宣言し、コーザ・ベンマーク議長を中心として国の安定のために奔走し続けていた。

 一方で周辺の情勢もいくつかの変化が起きていた。

 まずヘイローの東にある、かつてのルーイン王国領を支配している新生パロマ王国だが、パロマ王国と傭兵国家ヘイロー、それにビアーマ共和国の支援を受けたルーイン王国軍によって王都奪還を目前とされており、ルーイン王国の復興も時間の問題となっていた。

 一方でヘイローの北にあり国土の三分の二をローウェン帝国に奪われているエルシャ王国だが、ここまでは傭兵国家モーリアンの救援を受けてなおジリジリと追い詰められている状況だった。そこにモーリアンの内乱が悪化し他国への救助をしている余裕がなくなったことでエルシャ王国はさらに危機的な事態になっていたのである。

 反ローウェンを明言している傭兵国家ヘイローにとって隣接しているエルシャ王国がローウェン帝国に奪われることは避けたい事態だ。だがヘイローは現状国内の安定のために兵力を割いている上にルーイン王国軍への救援も行なっている。

 さらに多くの戦力を外に出すことは難しく、結果として量よりも質を優先としたベラ率いる竜撃隊がエルシャ王国へと派遣された……というのが現在ベラがエルシャ王国南部のマルカスの街にいる表向きの理由であった。


「ローウェンの獣機兵ビースト部隊か。なるほど、連中は受け入れたタイプってわけだね。人喰いのロクデナシ。さて、連中は狂わない方法を知っているのかね?」


 街を掌握して町長の家を拠点としたベラは、従者のパラが持ってきた報告に対してそう口にした。

 そしてベラの周囲にはリンローとガイガン、それにケフィンが立っている。ガイガンとケフィンは元より竜撃隊のメンバーではあったが、リンローの現在の立ち位置はベラの副官となっていた。リンローはすでに半獣人から離れた竜人であり、霊的にはベラの眷属である。そうした性質の変化から、彼は獣機兵ビースト兵団の団長という地位をオルガンに譲ってこの場にいた。


「ローウェンの獣機兵ビースト乗りは当初より狂いに関しての話を聞きません。知っているのでしょうね。そのうえで人食いを続けている。町で喰われた者はそう多くありませんが子供は全滅です。戦勝祝いと称して全員拐われたそうで、残念ながらそのまま……」


 パラが悲痛そうな顔で首を横に振り、それにはリンローが「チッ」と小さく舌打ちをした。リンローにとってそれは決してなかったことにはできない過去の己の所業を思い出させるものであったのだ。それにパラはあえて反応せず話を続けていく。


「それと、どうやら連中はヘイローに進軍するためにこの町を中継基地代わりにしようとしていたようです。それを防げたのですから、ギリギリ先手を打てたということでしょうか」

「まあねえ。ここから北には遷都したエルシャの王都があるし、南はヘイローへの国境に近い。ここを占拠されていればあまり面白くはないことになっていただろうね」


 状況によってはエルシャ王国の支援どころかヘイローの防衛に時間を費やなければならない可能性もあった。偶然とはいえ水際でローウェン帝国の目論見を崩せたことはベラにとっても運が良かったと言えるだろう。


「この件はコーザにも共有だ。少なくともこのラインまでエルシャが守りきれないのならばヘイローの軍を寄越すしかないしね」


 その言葉にパラが「承知いたしました」と頭を下げるとベラも頷き、それから話を続けていく。


「それにしてもガキをねぇ。そういう連中ならジャダンの玩具にさせるのにも心は痛まないね。捕らえた兵は適当に殺しても構わないから情報だけはちゃんと絞り出させるように言っておくんだよ。特に後続の部隊についてはね。まさか捕まえた副長を殺しちまってはいないだろうね?」


 ベラの問いにパラが少しだけ苦い笑いをしながらも頷いた。


「ええ。そちらはしっかりと言い含めてはいますから。ただ彼らが正気を保ち続けられるかというとちょっと……」


 その言葉にベラが眉をひそめて溜息をついた。

 ローウェン帝国の獣機兵ビースト部隊の生き残りはジャダンを中心として現在、町の牢獄を使って拷問が行われている。パラはそこより引き出された情報をベラのもとに持ってきていたのではあるが、問題はジャダンがやり過ぎていないかということであった。


「そこも含めて上手くやらせな。好きにやれるのも実益があってこそだ。役立たずに用はないと伝えておくんだね」


 ベラの言葉にパラが「はっ」と声をあげて頭を下げた。

 久方ぶりのご馳走にジャダンが酔っていないかが心配になるところだが、その件についてはパラに任せるつもりであった。それからベラが少し考え込んでから口を開く。


「それで後続部隊が近づいているなら、そちらも潰して手土産にエルシャ王国に売り込む……と。まあ、そういう展開に持っていけるのならそれがベストだね。そうだ、ケフィン。新しいハチコーの試運転はどうだい?」


 ベラが獣人のケフィンに尋ねた。

 現在のケフィンが搭乗している鉄機獣ガルム『ハチコー』は、マギノが竜血を用いて機械竜の竜頭ドラゴンヘッドを移植し、さらなる改造が加えられていたものだ。

 元より獣人はドラゴンの咆哮を模倣して魔獣を操っており、それを乗っている状態でも可能にしたのが新生鉄機獣ガルム『ハチコー』である。


「問題ない。竜頭ドラゴンヘッドも申し分なく動いている。ガラティエへの指示も通っているのは確認している」


 そしてケフィンが返した言葉の中にあったガラティエとは、ロックギーガの血を受けて機械竜から変異したドラゴンの一体のことだ。槍鱗竜ロックギーガは竜の巫女リリエと共に竜の墓所へと戻っており、今回の竜撃隊の遠征にはロックギーガの眷属であるガラティエが同行していた。

 新しい『ハチコー』は鉄機兵マキーニに乗れない種族である獣人が乗れるうえに魔獣使いテイマーとしての能力も扱え、ドラゴンをも従えることができるという画期的な機体ではあるが……


「ただ、やはり器用貧乏な感は否めない。実際に生身で指示するよりも対応が難しいということもある」


 あまりケフィンの評判はよろしくはなかった。鉄機獣ガルムの操作と同時に魔獣やドラゴンにも指示を飛ばさなければならないのだから当然といえば当然な話ではあるのだが、その言葉にベラが目を細めて笑う。


「ま、慣れりゃあガラティエとの連携もできるかもしれないからね。搭乗はそのまま続けておくれ」

「分かった」


 ベラの言葉にケフィンが無愛想に頷く。

 実際扱いづらいというだけで、メリットがないわけではない。


「それじゃあ解散だ。ひとまずローウェンの旗は偽装として残しておくとして、準備は進めておきな。上手くいきゃあ後続部隊を騙くらかして奇襲ができるからね」


 ベラの言葉に各人が声をあげて頷き、部屋より出ていった。

 そしてベラたちが町を占拠しローウェンの後続部隊の到着を待つこと三日後。巡回していた獣人部隊の斥候より、東の離れた場所で戦闘が開始されているとの報が飛び込んできたのである。

次回予告:『第235話 少女、来客を受ける』


 せっかくベラちゃんが手土産を用意していたのですが、どうやら何かしらトラブルがあったようですね。果たしてベラちゃんは突然の来客に無事おもてなしができるのでしょうか。

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