第226話 少女、怪物を見る
「いったいなんだろうねえ、ありゃあ。機械竜っていうには馬鹿げた姿をしていないかい?」
戦場近くまで来たベラが目の前の光景を見てそう口にすると、機竜形態の『アイアンディーナ』がォォオンと鳴いて反応した。
「なんだい。アレはあんたもお気に召さないのかいディーナ?」
鳴き声にどこか苛立ちを感じたベラが、眉をひそめながらもこちらに向かって迫ってくる怪物を改めて見る。15メートルはあろう巨体に九つの首が付いている機械の獣。機械竜に近いようにも見えるが、その巨体は巨獣機兵に近いようにも思えた。
「ともあれ、まったく好き勝手に暴れてくれる。さて、どう攻めるかだが……」
恐るべきは正面を完全に火の海に変える九つの首からなる炎のブレスと周囲を蹂躙する九つの尾。それをどう攻略するべきか……とベラが考えていると『ベラ様』と通信機からパラの声が響いてきた。
「ああ、パラかい。首尾はどうだい?」
『はい。竜撃隊の準備も整いました。カール兵団とドーマ兵団も鬼角牛の陣にて左右に展開し、このまま敵を引き入れて全周囲から攻撃を仕掛けるよう動いています』
パラが通信でそう返答する。
「そうかい。囲んだところで止められなきゃあどうしようもないけどね。で、リリエ。新しいドラゴンの方は仕上がりはどうだい? いけそうか?」
『いえ、あの子を戦闘に出すのはまだ無理ですわよベラ様』
通信機から返ってきた竜の巫女リリエの言葉にベラは「ま、そりゃあそうかい」と返して頷いた。さすがに昨日の今日では……とベラも思ってはいたのでそれ以上は問わなかった。
「で、ロックギーガの方は問題ないね。あいつがいるかどうかで正直決まるからね」
『はい。それはもう。けれども恐るべき相手です。あれは一機の機械竜ではありません。竜の心臓の反応が九つある機械竜の集合体です』
そのリリエの報告にベラが眉をひそめた。
「はぁ、九つだって? それならあのブレスも頷けるが……けど、どっからそんなものを……」
そう口にしながらもベラが昨日の機械竜が竜機兵から変化したとの報告を思い出し「ああ、そういうことかい」と呟く。
「竜機兵を機械竜にさせて纏めたっていうことか」
『そんなことが可能なのですか?』
「さてね。マギノがいれば答えてくれたかもしれないが、まあどちらにせよあの場にいるんだから、そういうことなんだろうよ。あん、なんだぁ?」
『ベラ・ヘィィイロォォオオオオ!!』
ベラが話している間に、怪物より咆哮のような声が響いてきた。
「なんだい? 今のはあたしの名前を呼んだよね?」
『総団長、今の声。あれはダール将軍のものですな』
声に反応して通信に入ってきたガイガンの言葉にベラが眉をひそめる。
「あのダールが機械竜になったと? いや、もしかするとあの大きさからするとダール自体は巨獣機兵なのかね。けど、何がどうして将軍があんなんなるんだい?」
『ワシにも正直見当付きませんが、けれども実際にアレが先導し敵が勢いづいておりますし、残念ながら我が軍は一方的にやられております』
現状として怪物を包囲しつつあるのは確かだが、実際に相対したヘイロー軍が火に向かう羽虫のごとく突撃してはやられていく。怪物と対抗する手段がないのでは、包囲したとしてもどうしようもない。
「ふん。どうやら空は飛べないようだけど、竜の心臓がそれぞれ独立して存在している。つまりブレスもそれぞれの首が独立して吐けるってことだね」
『そうなると、ブレスの息継ぎを狙うのも難しいでしょうな』
「だねえ。まともに突っ込んでも炎に焼かれて殺される。ドラゴンのブレスは鉄機兵も直撃でなければなんとか保つんだけどねえ。あそこまで炙られちゃあどうにもならない」
その言葉にガイガンは唸りつつも『しかし』と言葉を返す。
『犠牲を払ってでもアレは止めねばなりますまい。あのまま蹂躙させて終われば、ムハルドの勝利となります』
自軍がまったくなすすべもなくやられているのだ。ガイガンは今、焦れていた。
「そりゃあ分かっているがね。兵もいたずらに減らす気はない。だからロックギーガを前に出すのさ。ブレス同士は魔力が干渉して出力の低い方が押し出される。竜撃隊はロックギーガを盾に攻撃を仕掛けさせるしかあるまいね」
『はい。承知しております』
「そういうわけで頼んだよ。で、あたしは空から行く。運良ければ初手で首のひとつやふたつは落とせるだろうよ」
『ベラ様。それは危険ではありませんか?』
不安げなパラの声にベラが笑う。
「そりゃあ危険だろうが、ご指名みたいだしねえ。まあ、ちょいと突ついてかき回してやるさ」
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『というわけで総団長も出るそうだ。空をビュンビュンと飛んでな』
ベラとの通信終了後、ガイガンがすでにそろっている竜撃隊の面々にそう口にすると隊のメンバーにどよめきが走った。
『本気ですか。さすがに総団長でもアレを相手にするのは無茶じゃないですか?』
この場にいる自分たちもすでに決死隊のような気分でいるのだ。ベラが如何に強靱な戦士であるのを知ってはいても、目の前の怪物はあまりにも強大だ。これでは旗頭をむざむざ死なせることになるのでは……と懸念する部下の言葉に『いつものことだ』とガイガンは苦笑して返す。
『とはいえ炎のブレスを防御できるのは実質的にロックギーガと『アイアンディーナ』だけだからな。それに空から攻めればアレの注意も逸れるし、正直に言えば総団長が動くのが一番勝率が高い。それとケフィン、分かっているだろうが魔獣部隊は待機だ』
『承知はしているが……』
ガイガンの言葉に副官のひとりである獣人のケフィンがそう返す。
竜撃隊はロックギーガを中心に、ガイガン率いる鉄機兵と歩兵の混成部隊、それにケフィンを中心とした巨獣と魔獣を率いる魔獣使いの部隊で構成されている。だがドラゴン相手では魔獣は使い物にならない。そもそも魔獣使いが魔獣を操るのは上位種である竜種の声を模しているからであり、ドラゴンの咆哮はソレを阻害する。つまりは魔獣使い部隊はドラゴンに属する相手には対抗できない。だがケフィンは獣人族の竜の御子であるリリエの護衛も兼ねて隊にいるため、己の役割故に戦闘を放棄することもできなかった。
『リリエ様を置いてはいけない。隊は待機させるが俺はコレでいかせてもらう』
その言葉にガイガンは『仕方ない』と返して頷く。
コレとは傭兵国家ヘイローの形式上のトップとなったコーザ議長より軍に払い下げられた鉄機獣『ハチコー』であり、現在ケフィンが乗っている機体だ。
鉄機兵乗りの適正がない獣人用にと獣機兵を解析したマギノが改造した実験機だが、『ハチコー』に乗るとケフィンは魔獣を操れぬようになるため、今まで戦闘での使用はしていなかった。
戦闘に馴れていないという点でガイガンに不安はあったが、ケフィンの決意が固いことと超振動の大盾をタテガミとする防御前提の機体であるために今回は同行を許可している。
ともあれ、包囲網は完成しつつあり、竜撃隊もそれに合わせてもう動き出さねばならない。
『では怪獣退治といこうか。総団長の手を煩わせるよりも前に片付けたいものだがな』
そしてガイガンが声を上げ、竜撃隊が炎渦巻く戦場に向かっていく。同時に陣地中央から翼を広げた『アイアンディーナ』もまた空からの出撃を開始した。
次回予告:『第227話 少女、怪物と出会う』
暴れているケダモノさんを止めるためにベラちゃんたちはみんなで協力して挑むことを決めました。勇気と友情。仲間たちとの絆があれば、どんな相手にだって勝利できる。それをきっとベラちゃんが証明してくれるはずです。頑張れベラちゃん!




