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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第204話 少女、くまさんに会う

『覚悟ぉぉおッ』

『甘いねえ。いやいや、勢い任せは若さの特権ではあるけどね』


 ベラが鼻歌交じりにアームグリップを握りしめ、鉄機兵マキーニの攻撃を避けながら自らのウォーハンマーを振り下ろす。相手の勢いも乗せたカウンターに威力は倍増され、鉄機兵マキーニの頭部が瞬く間に操者の座コクピットまでめり込んでいくのが水晶眼を通してベラには見えていた。


『アーガンッ!』


 その光景を見た別のムハルドの鉄機兵マキーニ乗りが叫んだが、すでに遅い。乗り手は圧殺されて胸部ハッチから鮮血が飛び散り、アーガンと呼ばれた鉄機兵マキーニ乗りは今や塊ですらない潰れた肉と化していた。


『ヒャッヒャ、とはいえだ。若さに任せて突っ込み過ぎりゃあ赤水瓜トマントになるしかないんだよ。ま、いい経験だったんじゃないかね』

『クソッタレ。あの鬼子にこれ以上ふざけた言葉をさえずらせるな。押さえつけろ』

『分かってる。盾で押し潰せば身動きも取れまい。コンビネーションで行くぞ!』


 そして、続けて迫るのは大盾持ちと槍使いの鉄機兵マキーニだ。

 対してベラは二機へと振り向いたのと同時に一気にフットペダルを踏み込み、槍使いの鉄機兵マキーニへと狙いを定めて突撃していった。


『こいつ、腰が低い!?』

『あたしゃ謙虚、堅実をモットーに生きているからねぇ。シッ!』


 ベラは『アイアンディーナ』の姿勢をギリギリまで落としながら接近し、途中でウォーハンマーを離して鞘から小剣ショートソードを抜いて斬り上げた。一瞬の切り替えに相手も驚きの声を上げるが、


『クッ。だが、これなら』


 槍使いの技量も決して低いものではなかった。とっさにベラの一撃を槍の柄をぶつけて火花を散らしながら受け止めると、鉄機兵マキーニに一歩を踏み出させて『アイアンディーナ』へと押し込んでいく。


『舐めるなよ。その程度の剣さばきで俺がやれるか!』

『ヒャッヒャ。そりゃ、どうかね』


 己が押さえつけている間に大盾持ちに攻撃を仕掛けさせる。そう考えた槍使いだったが、『アイアンディーナ』には彼の知らぬ第三の腕が存在しているのだ。そして、それはすでに動いていた。


『な!?』


 気が付けば『アイアンディーナ』の臀部より伸びた尾が槍使いの鉄機兵マキーニの足を絡め取っていた。


『こいつの尾は飾りではないだと!?』

『実用性重視だからねえ。で、そっちのアンタはどうなんだい』


 そう言いながらベラが槍使いを転ばすと、突撃してくる大盾持ちへと右腕を突き出しながら、竜の心臓デイドンハートを起動させる。

 このコンビがこの戦場で相対した敵の中でもっとも技量が高いことはベラもすでに理解している。であれば、切り札のひとつを使うことも躊躇はしない。


『受け止めなディーナ!』

『嘘だろ!?』


 そして『アイアンディーナ』が大盾持ちの突撃チャージを右の竜腕ドラゴンアームで受け止めると、そのまま力任せに大盾を引き剥がした。


『なんだ、このパワーは?』


 大盾持ちが悲鳴のような声を上げる。

 今の突撃チャージは、ギミックによる加速も上乗せされた一撃だった。本来であれば己の鉄機兵マキーニよりも小さい相手が受け止められるはずはなく、ましてや持っていた盾が剥がされるなどあり得ぬはずだった。


『これがドラゴンの力ってヤツさぁ。なあ、こいつも勉強になったろう?』


 そう返しながらベラは、一瞬の戸惑いを見せた大盾持ちの胸部へとすかさず左腕の仕込み杭打機スティンガーを射出して突き刺した。


『ヒィア!?』


 灼熱ヒート化した鉄芯の直撃が、わずかな悲鳴を残して一瞬で乗り手の命を刈り取っていく。


『冥土の土産だ。死んだ仲間に教えてやりな』

『貴様、よくも!』

『お前もだよ槍使い』


 そして、槍使いが起き上がろうとしたところを『アイアンディーナ』は踵を落として、それを止める。


『ガハッ』

『いい声だ。でだ。アンタにはこれをくれてやろう』


 それから『アイアンディーナ』が槍使いの鉄機兵マキーニへと右腕を突き出した。

 肩部装甲にある竜の心臓デイドンハートは未だ輝き続け、右腕の先に付いた竜頭のあぎとは大きく開いている。


『まさか、お前』


 尾の動きこそ読めなかった槍使いだが、先ほどから『アイアンディーナ』の様子を窺っていたのだから次に何が出るのかは理解していたし、己の末路が想像できた。


『止めッッ』

『あたしのディーナは尻尾もあるし、火も吐くのさ。あっちに行ったら、よーく教えておくんだよ』


 そして右腕より炎のブレスが吐き出されると、槍使いの鉄機兵マキーニが炎に包まれ、胸部ハッチ内部にまで及んだ熱によって炎が到達する前に乗り手が絶命した。


『万が一、次があったら、そんときゃあ少しはいい勝負になるかもしれないからね』


 そう言いながら、ベラが戦場を見渡す。

 周囲には竜撃隊が陣形を取って、迫る敵との応戦に入っている。

 今戦った槍使いと大盾持ちは思いの外動きが良く、或いは他の兵と連携されていればベラとて苦戦したかもしれない相手であった。だからこそ、竜撃隊の力は彼女にとっても頼もしく感じられる。


『ふん。あたしゃ教え上手だね。案外教師なんかになったほうがいいかもしれないねえ。ねえ、ガイガン?』

『ワシにはよく分かりませんな。教え子がひとりも残っておらんようですし』


 そのガイガンの返しにベラがヒャッヒャッヒャと笑う。


『そりゃあ確かに。にしても、ラーサの戦士はやっぱり違うねえ』


 上機嫌でベラがそううそぶく。ルーイン王国で戦場を渡り歩いてきたベラには、並の兵とラーサ族の兵の練度の違いがよく理解できていた。少なくとも同数での戦闘ならば、彼らはルーインやパロマの兵に負けることなどないだろうという感触があった。


『それに敵は気負い過ぎだ。まあ、煽ってるやつがいるんだろうが……うん?』


 その次の瞬間、ベラは何かが迫る気配を察知した。敵陣地からの強力な敵意が近付いてきているのを感じたのだ。


『なんだい、ありゃあ? ガイガン、敵陣から何か来るよ。兵を退かせな』

『ハッ、貴様ら、後退だ。何かが……むう、でかいのが来るぞ!』


 指示を飛ばしている途中で、ガイガンもソレに気付いた。

 ムハルドの兵たちから悲鳴が上がり、何か大きなものが近付いてくるのが見えたのだ。それは巨大な鎧を着た魔獣のような姿をしていた。

 そして、その状況は前線にいるベラたち以外にも察知できた者がいた。


『ベラ様。ケフィンより報告です。巨獣です。フェルノグリズリーが迫っていると』


 パラからの緊急の連絡が届いた。

 魔鳥を通じて戦場を監視し続けていたケフィンは巨獣の気配もすぐに把握できる能力があった。だからこそ、彼はいち早く気付けた。もっともその解答は正解ではない。


『ハッ、さすがに鳥の目を通したんじゃあ分かり辛かったかねえ。ありゃあ、別のもんだってケフィンに伝えておきな』

『なんですって?』


 パラの疑問の声にベラが叫ぶ。


獣機兵ビーストさ。しかもアレは巨獣の獣機兵ビーストじゃないのかい?』

『いかん。総団長も下がってください。あんなものと激突したら』

『あたしゃ逃げんのが嫌いでね』


 ベラはその場に落ちていた槍を蹴り上げて『アイアンディーナ』に握らせると構えた。


『だから、退くのはあっちの方さ!』


 そして、竜気が尽きかけている竜の心臓デイドンハートの出力を最大にまで引き上げ、その場で一気に槍を投げつけた。


『速いッ』


 ガイガンが声を上げる。それほどまでに凄まじい速度で投擲された槍ではあったが、しかし正面より迫る熊のような姿をした巨大な獣機兵ビーストに対して突き刺さりこそしたものの、突撃を止めることも勢いを抑えることもできていない。


『チィッ』


 その姿にベラが舌打ちしながら左腕の盾を前に突き出し、巨大獣機兵ビーストの突撃を盾で受けながら弾き飛ばされていく。


『ベラ総団長!?』


 その状況にガイガンが叫ぶが、空中で二回転ほどした『アイアンディーナ』は宙を舞いながら体勢を立て直して地面に着地していった。地面に付いた際にわずかによろけるも、そこは竜尾ドラゴンテイルの支えで踏ん張りながら堪えていた。


『ふぅ。まったくディーナにゃあ無茶をさせたが……まあ、問題はないね』


 操者の座コクピット内で眉間にしわを寄せながらもベラがそう口にする。弾かれた衝撃は鉄機兵マキーニよりもベラの子供の身体にこそ響いたが、戦えぬというわけではないし、目の前に立っている巨獣の如き体躯の熊の獣機兵ビーストは明らかにベラに対しての殺意に満ちて溢れている。そんな相手を前に、背を向けて退くという選択肢はあり得ぬ話であった。


次回予告:『第205話 少女、くまさんを殺る』


 くまさんと出会いました。

 蜂蜜上げたら食べてくれるのかな?

 ……なんて、ベラちゃん思っていそうですよね。

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